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Adonai's Failure  作者: 白河田沼
第二章 なり損ないと「魔王」の敵対

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第27話 三度目の復活

「死」というのはまるで水のようである。

死と生で流れるさまは水のようで、蒸発した様子は暖かい生であり、ある種の死。

そして氷は冷たい死と多岐に渡るその状態は少しの生という余白の中で生き続ける。



何故か。

それは私達が死んでいないから。

生きているからこそではなく、死んでいないからこそ、そう見れるのだ。

ならばこそきっとこれは「夢」である。


「夢」であり生であり死なのだ。

生きながらに死んでいると言えるこの状態に名前はきっと付いている。

それは単純、「気絶」なのだ。



だからこそ起きた、これから少ない者を助け、多くの者を救うために。

言ってしまえば人を助ける為に。

両刃の剣そのものにも思えた片方の手。

貫き手、あるいは自身の左手にして愛刀。

そして相棒であったそれが木っ端微塵に砕けたその時、目覚めた。





目覚めたのはクリミナ、ただのクリミナである。

姓を名乗る気はない、名も全て名乗れない。

ただあの時愛刀を使ったのは失態だと思った。


正直あの絵面はどこかで見た事がある。

どこかで見たのかはともかくけれどそれを気付かずに目覚めればしかし、そこは音に塗れていた。


息の音、飯を食う音、用を足す音、

随分と聞こえる騒がしい程に、煩わしい程に。

少し考えて欲しい、耳の傍ではなく中で生活音が体育祭のトランペットのように喚いているのだ

うるさくない訳が無い。


だがこの状態について思い当たる伏が無い。

精々いうなら誰か、見知ったようで見知らない誰かに胸を貫かれて心臓を奪われた程度である。

あれは痛かった、全く以て。


「並の者」では泣き叫ぶどころか痛む暇すらなく意識を失っていたことだろう。しかし、こうして生きているのだから輪廻転生も捨てたものではない


「しかし貴方は「並の者」のようだが!」

けれどもどうしても気になることが在るのだ。

それは他ならない貫き手。

他ならない愛刀について、心の中で砕けていた相棒についてだ。

なんだかそう言うのも不愉快に感じるのもおかしい、おかしいのだ。


伸びたように長くなった前髪を気にすることなく目を見開き手すりに指を近づけ、そして触れる。

冷たい感触、これは間違いなく「聖銀」であるこれがあるという事はつまり・・


「魔素の収束はおろか、魔力の生成すら出来まない筈だ!傲慢の副代理!!」


「・・・お主、一体何者じゃ。」

その煩わしいほど大きな言葉にクリミナは目を向けながら言葉にする。静かな問いかけを口にしながらの視線の移動は騒がしい程大きい声の主である少女は沈黙したあと、

燦然と輝きを放つ()を手指に乗せ払い、胸を張りながら言った。


「拙者か?拙者だな?!名を蒼炎晴香!!最高裁判所長長官の一人である!!!」

そう無礼にも大した地位を引っ提げて少女の声をクリミナは聞いた。

ジロジロと不躾に少女をクリミナは見つめる。

そこには団子にした水色がかった髪、紅の瞳に金色の三重三角イヤリング。

して金のモノクルを掛けたどこか不思議に輝く熱血美少女がいた。

けれど首から患者同様、不思議な形の縦向き専用フォルダーを掛けながら・・

彼女はそう言った。





熱血そのものがヒトの形をしている。

そんな者と今、共に歩いていた。

金色の三重三角イヤリングに団子にした水色がかった髪、紅の瞳して金のモノクルを掛けた少女。

どこか不思議に輝く熱血美少女。

同じ女でも美人と言えるその者はこう告げたのだ。


「拙者にはある事が申し付けられている!その申し付けを伝えることが私の役目だ!!」

大きな声でしかししっかりと晴香は告げた。

なんなら今、二度目を告げてくれた。

見た目が「ソレ」なのに一体どういうことなのか、本当に熱血侍なのかは解らない程である。

まったく理解に苦しむ。


髪のお団子といい、まるで情報源の森だ。

多すぎて話にならないのだ、本当に多すぎるから。


「拙者は知っているぞ!殿方はこういうのが好きなのだと!!」


「殿方なんて今更流行ってないじゃろ、つまらん。わしが言えたことでもないがな。」

その失礼な言葉に目を見ながらクリミナに対して晴香は沈黙で返す。

首から患者同様、縦向きの専用の不思議フォルダーを掛けながら

ん?縦向きの専用フォルダー?


「一体どういう事じゃ。鏡の世界(クルシア)はファッションショーの場所じゃない筈じゃが。」


「下らない事を聞かないで欲しいものだ!全く持って嘆かわしい!ここまで忘れるとはな!!」


「要領を得ない言葉を吐くなよ煩わしい。しかしどういうことじゃ、まるでわしに「理由」があるように言っていたが?記憶喪失でもしたか、わし。」

おちゃらけた風にそんな事を言いながらクリミナは言いながらも晴香の言葉にしかし気付く。

今の自分に記憶の実感が無いことを。

そう自分は死んだ、いつの間にか葵に心臓を素手で貫かれて、血印(ペインター)ごと肉体を黄金の霊子に変えられ。


殆ど素手で戦っている自分がそんな末路を辿るとは全くもって嘆かわしい。

誰かの言葉が写った・・おそらくは目の前で胸を揺らす熱血女の。

少々、否かなりのモノを持っているとは言えここまでの物が「在る」とどうなるのかよく分からない。

そう心理防壁をかけつつ考えていればしかし晴香はこちらに貌を向けこう言う。


「していないさ・・・ただ!」


「ただ?なんじゃ「!」など付けおって、縦向きの専用フォルダー?とはどんな厨二趣味じゃという質問の答えを聞いていない筈じゃが。」


「言ってないな!そんな事!!しかしこれの答えと言えば単純だろう。」

怒号のように思えた言葉にクリミナはしかし晴香はじっと見つめた。

脚を止めキッとこちらに振り向けば膝を折り曲げ目線を合わせる、

キリリンと鳴った金色の三重三角リングの色形と他ならない音に目を見張っていれば、足先に指を当てるような仕草をした後、晴香は語る。


「当然、カッコイ「違うじゃろ!」

意味不明かつ道義もない晴香の言葉をクリミナは遮り、

ぺしと目の前に在った少女の頭を水平に、

自分はチョップした。





チョップしたあと無理くり立たせたり揉み合いになったり少々苦戦して尚、晴香から聞いた言葉はこうである。

縦向きの専用首掛けフォルダー、またの名を「整理者証明書」。

それはこの場所だけのものではなくある基本能力を用いた者、

輪廻転生を使用し「死」から蘇った者に渡されるものだ。

所謂、棺桶という()()()()()をしたそれはだが少なくともここの病院にいる者の少数しかもってはいない。


この場所は「病塔」。

「研究塔」と同じ外見ながらもしかし内装の異なる場所であった。

白を基調としたその部屋は少なくない患者を抱える病棟そのものである。


「塔」と「棟」、漢字が違うのは単純にそれそのものが「塔」であるかららしい。

不思議な事であると考えないわけでもないのはしかし「死」から蘇った少なくないようで多い筈のこの場所では何故かではなく、多くの者が死に瀕していた。


禍根鳥憂喜、彼女の指示と「力」の被害者の巣窟。

ここはその一つであった。

「一つ目の地獄」の亡骸、

その一つたるここには当然あの悪名名高い「自治区」にいた者もいる。

倫理感の欠如した彼ら「紛れ人」の面汚しを生かしているのは他ならない「賢人会」の判断らしいとはだれかの噂である。


「のう、晴香一体どういう事じゃ。自治区の者らなど生かしておく価値などない筈じゃが。奴らは何せ・・」


「「花」を奪い、魔女(ウィッチ)の肉体を喰らって力を得ようと彼らは「人」だ!「人類の平和の為に」という我々の教義がある内は・・生かしておかなければ「魔女」様の祟りがあるぞ!!」

そうただただ厳しくも重要な物事を告げるように言う晴香は表向きは前向きながらけれどどこか後ろ向きに思える。

何故そう思うのかはいつもの直感なのだが理解出来ている。

しかしよく分からないのだ、どうしてそうなっているか?

どうしてこんな語調になるのか?

或いはどうしてこんなに・・・・・


「何を考えているかは理解しかねるが、果たしてどうしよう!君がここに来た時にもう誰かが!!」


「来ているぞ、口だけではなくな。」

涼やかな声にしかし反射的に振り向くしっかりとクリミナとしてその者の目を見るように、

そう居た。

暴食の魔女の代理、最強の魔女(ウィッチ)である彼女が・・・そう、



「久方ぶりでもないな・・・「魔王」。」

静かにけれど淡々と言葉をクリミナは告げた。

そう吸い込まれるような髪をバッサリと切ったような黒髪黒目、

片耳から不気味な鈴を垂らした女、鈴が。はっきりと目の前に


「・・・何故、ここに居る、クリミナル」

そうけれど疑問と疑念を持った鈴の言葉と共に

自身の声の残響を無視しながらもただ確かに不思議に思った。





鈴、彼女は最強の魔女(ウィッチ)である。

現在猛威を振るう処刑対象の元色欲の魔女の代理、禍根鳥憂喜に唯一対抗出来る者の一人・・である。

この世界において彼女を殺すどころか対抗することでさえごく少数の者しかできないだろう。

彼女の前で死体など増やせば・・・全く想像したくもない。


今の所、死体を利用された事に関する情報は何も聞いていない者の「国際議連」かあるいは「賢人会」が裏で動いている可能性もある。今、出まわってる噂なんかの情報は信頼出来ない。

当然、自身の身体の進退について、あるいは・・・


「「計画」についてもじゃな。」


「どうした。心まで暇だと貌に書いてあるぞクリミナ。口だけでは無くな。」


「うるさいぞ、また変な口癖など発揮しおって、わしの前以外ちゃんと使っておるのか?」


「使っているさ、口だけでは無くな。さてお前の前には美人がいるのだ何か言う事は?」

膝を折り目線を合わせて語りかけてくるこの性悪女に対して、鈴に対してクリミナはこう告げた。

言ってやったのだ。

しっかりと目を見て貌を近づけて。



「とっとと任務に迎え、”口だけ”」


「それがそうも行かないのだよ、クリミナ。我々にも理由があってな。口だけでは無くな。」

・・・そうして奇妙な口癖を語尾に付けながらも鈴は語りだす。

自身の目的を話す筈だったけれど違ったようだ。

そう予感した時には遅い。



「眠れ、クリミナル。」

はっきり、そしてがっつりとクリミナは聞いた。

その静かな鈴の声、

そして態度、そして吸い込まれるような目に目を奪われていればそこには・・

掌の中、黒い光があった。











眠りとはある種の「死」であるというのは有名な話である。

しかしこの事を知る者は須らくどうなっているのか分からない精神性をしているのだ。

全く以て解らん。

理解に苦しむのだ、

いくら知恵を付けても睡眠と「死」を混同するような頓智気な人は・・そう思っていた。


今、理解したのだ。

この感覚についてでさえ同じなのだ。

ピタリと背中に触れる冷たい「死」の気配、それこそが今の私を構成していた。


つまり、言うならば今、私は死んでいたのだ。

きっと禍根鳥のせいで。

こうなってしまっては仕方ない。

「昔の私」は死に対してああも怯えていたというのに死んでいしまえばこうなのだから不思議なものである。まるで友人のように感じた「死」と対話していれば声が聞こえた。


死にながらも微かな力で目を開けばそこに居たのは・・・



『何してるの19号・・・』

静かにも、怒っているようにも聞こえる私の声を聞くのは、

平坦に言葉を告げ、或いは耳を傾けるようにこちらに機械的な表情を向ける19号、彼女であった。

そう19号がそこに居た。

「死」の気配そのもののが浸かった水。

まるで羊水のようなそれと臍の緒のような管に繋がった呼吸器、

そして数多くの管々に繋がれた私を水槽のような培養器の中を覗き見ながら少し見えずらい目でも解るような場所にプネウマと共にただそこに居た。

「念話」で語りかける「死に浸かった」、私の前に。







『貴方がここに居る理由が分からない。この場所の存在意義同様に。』

そう冷静に、

そして不躾かつ無礼に問うのは黒髪蒼目沈みかけの上弦の月のような瞳の少女、シアである。


なり損ない(フェイラー)でもある彼女は今、

服を着ていない。

なんなら目も少し見えなくなっている。

素肌を晒しながら少なくない臍の尾のような管に繋がれ、

水槽のような培養器を羊水のような水の中、

黒いノイズが奔る様をこの場にいる19号とプネウマはただ意識に入れずに少女、シアの言葉を聞いていた。

この場にいる者を含めても性犯罪の予兆の欠片もないから・・だけではない。

禍根鳥憂喜、元色欲の魔女の代理、処刑対象の魔女の代理たる彼女の命令である。


「「死」に浸からせよ。」というマイマスターのこの言葉に19号はしっかり答えた。

それがこの答えである。

与えられたとは言え、膨大な「死」を抑制し制御した彼女の腕は語るまでも無いだろう。


『貴方は何を考えているの?なり損ない(フェイラー)。だなんてきっと方便でしょう。私の肉体を利用したい理由がある筈。だって精神状態は良好だしね、不思議な程。』


「そうですね、ある種そうであると言えます。ただのなり損ない(フェイラー)ではきっと死んでしまいますので。」

そう平静に答えるのは19号、他ならないなり損ない(フェイラー)の会話相手である。

そこに居た彼女はしかし今代弁者となっている。

他ならない禍根鳥憂喜の・・・である。

”命令とは絶対、命令とは命そのものの価値を持つもの”というポリシーを持つ19号にとっても何故彼女自身が話さないのか、疑問に思わない訳ではないがそこは上手い事折り合いをつける19号であった。


「貴方に欲情するからではないでしょう。それならば貴方に対しての精神的な措置であると解釈すればいいでしょう。」


『・・・どういうこと?』


「今の貴方が精神的に不安定になることをマイマスターを危惧しています。そう「計画」に不確定があってはならないのです。」

微かでありながらも静かな問いかけるなり損ない(フェイラー)に対して19号は平静にそう告げた。

まるで()()()全力で戦っていたようなその力の摩耗はしかしそのままに肉体に「死」が浸かっているそれが今の彼女である。「死」に浸って尚精神を保っていられるのは「禁術」を用いた結果であるそう19号は理解していた。


ならばこそ言うことがある。


「どうか「死」に浸かっていて下さい。貴方自身の為に。」


『何言ってるの、貴方。』

平静に告げたのはなり損ない(フェイラー)である。

少しなり損ない(フェイラー)の人格に問題があるのではと19号は感じた。

プネウマ同様に。


・・「死」に浸かる少女、

眠るその傍にはしかし今誰もいなかった。

シアの周りには誰もいなかったのだ

そう19号もプネウマも誰も。

だけれど一人、そこに居たのだ。

禍根鳥憂喜、処刑対象の元色欲の魔女の代理である。


慈悲深くただただ培養器に触れ慈しみながら・・・禍根鳥は笑った。

「魔王」のように。






・・()()()()()()()()()()()()()()()()

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