第25話 三度目の復活
歩く、歩く、歩く
光を、孔の空いた空を見ながら、
その残酷な程に美しい空模様が見える壊れた教会の下暗闇の中、私は歩く
草木すら生い茂ったその教会は正しく廃墟そのものであり、
抜け殻そのものでもあった。
伽藍洞なその場所の下、光指す草原の中にけれど一本の花が在った。
それは未だ透明な色を持たぬ花、
純真無垢を表すような綺麗な花だった。
一目見て理解した、この花は嘘だ、
こんな存在は存在し得ないと判断したのだ
だって、透明なのだ。こんな花の色見た事も無いし、存在する筈もない・・
けれど気付かず足が光の方へと向いていた
そして、どうしてか手が伸びる。
まるで、幼子が綺麗な物を本能だけで求めるように、
鴉が宝石を巣にしまう為に嘴を開くように、
そしてなり損ないが人を殺そうとするかのように
その綺麗で透明で、けれど嘘っぱちな花がある光指す方に手が伸びた。
暗闇を抜け出せば在ったのは光と草原、そして透明な薔薇だった。
「綺麗だな。」
思わずそんな言葉が出た。
手折ってしまおうか、そう判断しかけてしまう程綺麗で得難い透明な薔薇が一輪、日に照らされながらそこに居た。
その薔薇に手を添えれば片の手の平に収まり切るのを見て思わずそんな声が出たのだ。
所で私は今、何かによって一人「色欲の街」の外れにある教会の廃墟に居た。
あの時、私に声を掛けて来た何かの空間転移魔法のような物によってここに連れてこられたのだ
あの白く長い手指、あれは果たして何なのか気に成らない訳では無い。
あの手指が空間を引き裂いて、私と鈴、そして副代理を散り散りにしたからだ。
どこかで見た事があるそれにけれど思い出した。
私が少しだけ暴走していた時に未だ色欲の魔女の代理で在った裏切りの魔女が用いていた特殊な空間転移魔法である。
細長い手腕を用いていたそれとは色もやり方も違う物のけれど似通った物が在った。
ただ一点細長い手指を使っていた事である
何かの言葉についてもけれど私は耳にしていない。
正確には耳にせずに心に直接流れ込んできたのだ。
「 」というままでこの言葉を聞けたのも、
先の間を置いたような間抜けにも思える何かの言葉が妙に頭に残ったのも、
「こんにちは、皆さん、初めまして」という挨拶の言葉として先程の空白その物のセリフを無意識に理解したという事なのである。
私にはこの事象について一つ分かることが在った。
第二特性、情報の「収集」と「集積」である。
この特性が何かの心の声を私に聞かせたのだ。
普段は心の声は意図して聞くしかなかった物の見れるように成ったのだ。
これは鈴の記憶を覗いた影響なのか、
それとも「蛇」と会話した影響なのか、
それとも何かにどうやったか消された魔女文字の影響なのか
どちらなのだろうかと考えていればけれど私の背後に気配が在った。
「誰?」
「 」
そう回想していれば何かの空白その物の声が聞こえた
「我だ。シア」という理解出来た内容についてけれど私は理解しない。
どうして何かがここに居るのか単純にそれが分からなかったのだ
けれど、どうにも私は記憶の実感や感情は無くとも頭は回る方らしいというのは理解出来た。
魔女文字を用いずとも考えられるのは一つだけなのだ。
何かが私と一人に成りたくて空間転移魔法のような魔術を使って空間を割ったという可能性一つだけ
・・・・だからこそ、私は問う
「貴方は何がしたかったの、この「色欲の街」の外れにある辺鄙な教会の廃墟に危険を冒してまで連れてきて・・何が。」
「 」
「それは汝の方がよく理解出来るだろう。シア、「蛇」に語り掛ければ良いのでは」という言葉を第二特性を用いて聞き取った私はしかし、自身の中に居る「蛇」に対してこう語りかける。
『おい、起きてよ。「蛇」。この状況どうなっているのか教えて。』と自身の中の「蛇」に聞いたのだ。
魔女文字を用いて自身の心の中で念話を用いて「蛇」に対して語り掛けた形である。
通信魔術とも呼ばれるその力はしかし、どうしてか私にこんな答えを返した。
『起きている、ずっと見ていたぞ、お前よ。』
『起きてるなら、普段から話しかけてよ
・・何ていう個人的な話は置いておくとして、「蛇」単刀直入に聞くね。
何かは何をする気、首絞めの魔女か何かは知らないけれど私に何の用があるの。』
この時の私には思い当たる事が三つあった。
一つ目、私と話す事
二つ目、私と戦う事
そして三つ目、私を殺す事だ
一つ目についてはかなり可能性としては在ると思うし、
二つ目については彼の立ち回りからしてかなり考えられる。
そして三つ目についても私からして見ればかなり可能性のある物だと考えていた。
協力関係を結ぼうとする事も考えられたがしかし、私からすれば不要な物であった。
今、私は鏡の国の魔女に借りを少なくとも五つ作っている。
まず一つ目は33人もの人を殺し街の魔力だって奪い尽くしたと聞いているだろうに三島が書いたであろう説諭書、それを愛伽が代行として「契約」を結びに来るというあちらなりの譲歩をしてくれた事、
して二つ目はその訓戒を守っていれば命の保証をしてくれると最高裁判所長官である二人が保証してくれた事、
そして三つ目は鈴が努力の元(鈴の記憶を覗いて知った)私の立場を処刑対象から保留にするという判断を賢人会から勝ち取った事、
そして四つ目は「蛇」という爆弾を抱えた私に裏切りの魔女を効率的に見つける為とは言え首絞めの魔女という「魔王」の痕跡を探す事を許可した事、
そして五つ目は「魔王」を僭称する魔女の側に付いていた事を賢人会に見逃して貰っていた事、
これら五つの借りを早く返す為にも私はしっかりと「蛇」に聞かなければ行けなかった。
だからこそ魔女文字で攻撃せずに問うたのだが、けれどこんな答えが帰って来た。
『第一に奴はおそらく首絞めの魔女では無い。
第二に十中八九、お前を殺しに来たのだろう。
いくら最大最強のマスターピースとは言えど今のままでこれ以上進んでいれば無理があるのでな。
第三にここは偽物の教会の廃墟だ、実際に「色欲の街」にこんな場所があるかは知らないが少なくとも透明な薔薇など生えている廃墟などどこにも無いのだろうでな』
『・・・・そう、分かった。何かは首絞めの魔女でも何でもなくて偽物の廃墟に私を殺す為呼び出した・・って言いたいんだね。』
『それだけでは無い、何かはお前を殺し、その力を「蛇」である私を用いて強化させるつもりらしい。』
『ふ~ん。』なんて言う言葉が私の口から聞こえた。
後ろに居る七つの目を持つ白い仔羊の面をした何かが、
白い外套を風に靡かせるこの存在が、
偽物の廃墟をも作り出せるこの存在が、一体何を考えているのか理解したのだ。
だからこそ、私は魔女文字を意識から完全に消し、
「蛇」との念話を切って何かに問う。
「そんなに私を殺したい、何か。」
「 」
「ああ、今の汝には三度目の死が必要だ。」そんな心の声が第二特性越しに聞こえればけれど私は立ち上がって振り返っていた。
そうして見える七つの目を持つ白い仔羊の面をした何かの顔を見てけれど手を伸ばす。
白くも不気味な仮面に触れ、
慈しむように撫でればけれど私はこう言った。
偽物の廃墟の中けれどこう言った。
「その前に一つだけ、貴方が彼女を殺したの。」
そう静かにそう言った。
◻︎
私にとって友達はありふれた物である。
それは日々のメイクの為のコスメであったり、
テレビで放送されるドラマであったりと変えられる程、当たり前の物ですらあるのだ。
けれど、だからこそ私には必要だった。
そう彼女が必要だったんだ。
「その前に一つだけ、貴方が彼女を殺したの。」
「 」
だからこそ、「ああ、我だ。」という何かの何処か間抜けで呆気なくすらある返事を聞けばけれど私は目を閉じた。
嘘を吐いていたのでは無い。
怒っていたのでも無い。
憎んでいたのでは無い。
ただこう思った、「ああそうなのか」と静かに息を呑んで自分の思いを受け止めた。
握った拳が震えているのを理解している私である。
「君が、彼女の仇か。」
とそんな言葉が人知れず静かに漏れたのを私は理解した。
理解しながらもけれど私は努めて冷静に振る舞う。
「友達」の仇が目の前に居る、それは理解している。
けれどどうしても怒れなかった、
けれどどうしても憎めなかった、
けれどどうしても自分に嘘を吐けなかった。
記憶の実感も、感情も私には無いから。怒る感情の残滓すら無い筈だから
だからこそ、私はこう言った、何かに対してこう言った。
何かを利用する為にただこう言った。
「良いよ、何か。私を殺して、死んで第三特性っていう力、手に入れるから」
記憶の実感の欠けた頭で
けれど感情の無い瞳で、聖女のように笑みながら私はそう言った。
そうして私が笑んで彼を受け止めればけれど私の眼界が回る。
眼界が回る、眼界が回る、眼界が回る。
べちゃりという音と共に頭に衝撃が走ればけれどそこには在った。
血に塗れた十字の剣と、
血を吹き出し力なく何かの前で跪くように足を屈する首の無い私の体が、
血塗れの視界の中で私が死んでいく光景が在った。
そうして、私は偽物の廃墟で死ぬんだなと心の中で何の実感も感情も無く思えばけれど私は目覚めた。
透明な世界の中で
□
この透明な空間に来るのも確か五度目である。
エレベーターでの「蛇」の干渉を経験して私は知っていたのだ、この空間について
自我空間
魔女の血を飲めば到達できる欲求と超自我の狭間であり、
自身の中そのものである。
という場所に来ているのだと新しい記憶達を覗いて私は理解していた。
五回目というここに来た回数故か、
いい加減見飽きて来たこの透き通った世界にけれど私よりも一回り大きい「空白」の輪郭が目の前に在った。
「蛇」であると知っていた、何せ五回も会ってるし。
それにそれなりに好感度の高い人(?)だからしっかりと覚えていたのだ。
さっきエレベーターの中で会ってるし
そしてこの空間の中で「蛇」の前けれど疑問が浮かぶ。
「「蛇」、全知全能である「魔女」の敵対者である貴方はどうやって私に力を授けているの?
特性だ加護だなんだっていい感じに誤魔化してたけど本当に分からないって訳じゃないんでしょ。
答えてよ、知りたいんだ。」
「それをお前に教える気はない。
ただ今回奪うのは魂だ、
お前がここから目覚めればお前自身の意思でとは言え記憶の実感や感情だけでは無く、魂を失う事に成る。第三特性を得る代わりにな、覚悟しておけ」
「・・・・あっそ。私が自分の意思で代償を払ってるのは理解してるって。
それならさ、ちゃちゃと掌翳しちゃって。光らせちゃって、もうすぐ人が来そうな気配が在るんだ」
「・・・・・そうか。あくまでそちらを優先するか」と言葉にした「蛇」はけれど私の目の前に立ち異様な程の気配を立ち上らせながら手の平を翳す。
血反吐を吐くような気配がする、
まるで憤怒という言葉を表すような肋骨を軋ませ内臓を圧迫するそんな気配がしていた。
「怒っているのか」と理解しながらもけれどその光の中でけれど私は振り返る。
魂という代償を払えば第三特性が手に入るというのに確証は無い。
自分自身で払うその代償の結果はけれど二回目の復活の時の経験則でしかないからだ。
一回目の時なんて復活前に「模倣」という第一特性を使えている以上これは賭けにも似た行為である。
しかし、確証が私には在った、
「蛇」がそれを否定していないのだ
何かの言葉が発端とは言えこの賭けは確かめてみる価値のある物であると言えた。
けれど、そうは言っても魂を失う事が怖くない訳じゃない。
魂を失う事が記憶の実感は無くとも精神的な死であり、
そして魂を奪われる事が感情は無くとも恐ろしい事である事は理解が出来るからだ。
例えそれが自らの意思で差し出している代償であっても、
例え自業自得に近しいとは言え血反吐を吐くような気配に己が身が晒されていてもこれは変わらないのである。
これはきっと失った感情の残滓のような物なのだろう。
残滓が叫んでいるのだ
「死ぬのは嫌だ、魂を失いたくない!」と、
けれど、だからこそ私は聖女の笑みを浮かべてこう言った。
「私の魂、貴方に上げるよ「蛇」。だから精々痛くないように、一思いに殺してね。」
そうまるで記憶の実感など無いと言うのに出来るだけ凛然とした声で、
そしてまるで感情も在りはしないと言うのに出来得るだけ誠実その物のような態度で「空白」のような、
けれど透明な輪郭の手の平を両の手指で包んで、聖女のように笑みながら私がそう言えば・・・
血反吐を吐くようなその気配を
肋骨がぎしぎしと軋み、
内臓が圧迫されるような痛みを感じていれば翳された透明な掌が色付き出した。
視界が色づいていく、
視界が色づいていく、
視界が色づいていく、
・・・・けれど再び私は目を覚ました。
本物の「色欲の街」に在る教会の廃墟で、記憶の実感と感情、そして魂をも失って
そして私は第三特性「█」を得た
□
目を覚ましけれど感慨も無く私は体をゆらりと持ち上げる。
して周りを見渡しながらけれど私は把握する。
孔の空いた空、
差し込む光の下の草原、
そして壊れた天井とボロっと落ちてくるその一部であった石塊に首の無い「魔女」の像。
これは間違いなく本物の「色欲の街」に在る教会の廃墟であると言えた。
けれどそれに対する私の感想はただ一つ。
「・・・・・悪く無い・・とも言えないな。どういえば良いのか分からない。」
そんな記憶の実感も感情もそして魂も伺えない無気力な言葉であった。
魂が無いというのは精神的な死を表す。
端的に言ってしまえば感性と感情、感心などあらゆる精神の働きが著しく麻痺してしまうのだ。
そもそも魂が無い状態で生きているっていうのも何だか理解出来ない所はあるのだがけれど私はふと思った。
「これって下ネタとか言っても何も感じないのではないのか。」と少しだけぼんやりとそう思ったのだ。
セックスだとか手マンとかクンニとか何を言っても感情なんて動かず。
ただ何となく楽しいだけではないのかと。
実際言葉にしても、何が楽しいのかすら分からないのだからきっとこの言葉は合っているのだろう。
このままでは人を殺しても何も思えないのでは・・と思えばけれど私は感じた。
人間の話し声が廃墟の奥から聞こえたのだ
周囲に魔女文字を浮かべつつけれど私はそちらを見る。
第二特性の情報の「収集」と「集積」が二日目に入り半分以上街を読み取っているからかは知らないがとても耳ざとく成っていたのだ。
自身の体に出入りする情報に敏感になっているのだ。
けれどだからこそ、私は自身の失った物と手に入れた物を振り返る。
魂は感じない、
私の中から信念は失われ、指針は失われ。
そして感情の残滓すら失われた。
あるのはただぼんやりとした現状への不理解そのものである。
分からないのだ、自分の感情という物が、そしてこの世界そのものが、
何も分からない。
けれど、そんな私だからこそ手に入った物もあった。
第三特性、「█」
光を用いる力であり、
そのどれもが意思の込められた光である。
よく分からないこの特性を私は手に入れたのだ。
使ってみないと分からない物のけれどこれについては私はある程度把握していた。
この力を使えば魔女の代理にも届き得ると
「・・第二特性のおかげで随分と分かりやすいなこの力。
まあそれはともかくさっさと立ち上がって声のする方行くか。
誰が居るのかは見ない事にしよう、そうじゃないとつまらないしね、分からないけど。」
そう魔女文字を周囲に浮かばせながらも言葉にして私は立ち上がる。
足を前に進めながらけれど私は考える。
どうして、何かが居るのか、
どうして、何かの視線が在るのか、
どうして、何かが未だに私から離れないのか、分からないからだ。
「█」を用いて何処かに居る彼を撃ち落とすと言う事も考えたがけれど今の私には興味が無かった。
何れ居なくなるだろうと考えたのではない、
魂の無い私であってもそこまでの短慮は発揮しない。
であれなこそ答えはただ一つ。
魔女文字が何かが現れた瞬間消えた理由を考えるのと同様に面倒くさいから放っておく・・・いいや泳がせておくのだ。
これから調べていけばいずれ彼が何者でどういう存在かも理解出来るだろうと考えての判断である。
禍根鳥憂喜という「魔王」を僭称する魔女と関係があるのかは知らないがけれどそれこそが現状の最善策であると言えた。
裏切りの魔女をも超える不気味さを持つのだ。
怒らせたら街一つ滅びかねない以上放っておくしか方法はない・・ように思えた。
「自治区」の二の前は勘弁である。
魂は無くとも、死ぬのは面倒だと感じていたのだ。
次の代償が何に成るのかも分からないのだ。
我事ながらどうしようも無いというのが現状であった。
・・・気付けば私は廃墟の奥、扉の目の前に居た。
そして魔女文字を周囲に浮かばせつつ扉を開けばそこに居た。
「さっきぶりですねなり損ない。」
「全くさっきぶりだな、掟破り。」
そう二人の言葉が帰って来た。
高く結った一つ結びに赤い髪に赤い瞳をした少女、憤怒の副代理、赤神泣と。
吸い込まれるような髪をバッサリと切った黒髪黒目、片耳から鈴を垂らした女、
暴食の魔女の代理、鈴がそこに居た。
それを理解して魔女文字を浮かばせながらもけれど私はこう言った。
「さっきぶりだね、二人とも。
唐突だけど初めよっか、首絞めの魔女を探す為の会議を
そして「魔王」を僭称する魔女である禍根鳥憂喜を殺す為の会談を」
そう魔女文字を浮かばせながらも、女神のような笑みでけれど当たり前のように二人から主導権を奪うようにそう言った。
こうして私達は何かの目の中で、
首絞めの魔女という痕跡を探す為、
そして色欲の一族の処刑を阻止する為の会議を始めた。
魔女暦2998年8月11日、ただの三人で「色欲の街」を救う為の会議を始めた。
それが「計画」通りであるとも知らずに
記憶の実感、
感情、
魂すら代償とするのであればどれ程の力が手に入るのか。
果たしてそれに価値はあるのか
〜人助けの魔女〜




