第23話 一方的な理解
所で一つ、振り返らなけらば行けない情報が在った。
予言書と預言書についてである
予言書とは聖書と由来を同じにする書物である。
女神ではなく「魔女」が記したその本はけれど魔女にある物を齎した。
魔女の掟と教義である。
例えば死人は救わなくていいという教えのように、
例えば人は助けるべきという教えのように、
例えば隣人を愛すべきという教えのように、
生活に密接に結びついているそれらはしかし彼女ら魔女達に法治国家としての原型を齎したという。
預言書という存在については私はあまり知らない。
ただ知る事と言えば予言書がかつての預言書のディレクターズカット版のようである事、
賢人会がカットされた重要な何かを所持した上であの方の「計画」を遂行し「予言」を叶えようとしている事である。
意味不明なこれらについて考えながらも再び私は思いだす。
ところで新しい記憶達には魔女の基本装備について三つの記録が在った。
禍根鳥という「魔王」を僭称する魔女から与えれたその装備についての記憶をけれど私は振り返る。
外套
起源不明、来歴不明の物体、その加工品
現実の状況を再現したり模倣したりする装置にしてソフトウェアそのものである。
統一性と全体性を象徴したものと言われており、
それ故に物理的存在を超越し得ると言えるが詳細は不明な奇妙な物体。
衣裳
元は祭儀に用いる祭服であったが
魔術的防護を付与することにより、大抵の物理攻撃と魔術を通さないある種の機器と化した。
保護者、擁護者、後援者、保護するもの、保護装置、プロテクター、そうも呼ばれている。
杖
魔女の血から創られたそれは
魔女にとって魔力を生成する機関であり機構。
魔女の血を飲めば与えられる魔女の武器である。
かつては支えや支柱、そして安らぎを与える為の神聖な神器であった。
それは解消、撤回、破棄の三つに分かれており。
この中での最も弱いものを解消杖、
次の物を撤回杖、
そして最強の物を破棄の杖、あるいは拒絶の杖と呼んでいる
白いシャツに袖を通しながらも外套を羽織る鈴をけれど私は背中で感じながら回顧する。先の三つの内、その二つを彼女は装備していた。
外套と衣裳ではない。
外套と杖である、彼女の白いシャツからは何の魔術的な防護も無かった、だからこそ私はこの二つであると判断出来た。
杖については知っている、確か彼女が初対面の時に私の視線を遮るようにして構えていた特異な装飾の杖の事である。
その気配が彼女からしていたのだ、おそらく体の何処かにでも仕込んでいるのだろう。
そう無理くり納得しながらも彼女、鈴の体を見る。
第二特性である情報の「収集」と「集積」を用いて彼女自身を再び俯瞰する。
本当に綺麗だった、おそらく私の中で彼女程の美人は数を数える程しか居ないだろうと言える程の18歳の美少女。
それこそが彼女暴食の魔女の代理、鈴であった。
手慰みに髪を弄ぶ仕草は何処か色っぽいという感想を覚えていれば彼女から「おい。」と声が掛けられた。
それに振り返れば外套を羽織り、シャツを着込んだ彼女はこう言った。
「では、始めよう掟破り。ここサラの館に居る副代理の元に行くのだ、口だけでは無くな。」
そんな風に「死は何も生まないぞ」という鈴自身の言葉を鈴は思い浮かべることもなく(いい加減にしつこ過ぎるので忘れたい)、静かに決定事項を述べるように鈴の音の鳴るような声でそう言った。
何かの視線が一際強くなったその瞬間にけれど鈴はそう言った。
まるで「計画」の通りと言わんばかりに
□
「死は何も生まないぞ」という鈴の言葉について私はもう既に何も思えなくなってきた。
正直自治区であの言葉が思い浮かんだ時からまたしょーもない言葉を覚えてしまったと考えたものだ。
それは今も変わらない、
この意味もなく湧き上がってくる言葉に愛着も無ければ憎悪もありはしないのだ。
だけれどと私は思う。
だけれどもし鈴が彼女と同様の末路を辿れば私は正気を保てるのだろうかと。
鈴が死ねば、彼女が死んだ時と同様以上に苦しんでしまうのではと考えているのだ。
実際問題、私には記憶の実感がない、感情も無い。
だからこそ苦しむ事は無いと考えていたのだがけれど私は思う。
「死は何も生まないぞ」
なんていう言葉に対して鬱陶しいと思いかけたこの心が果たして本当に心を失くしているのか心配になってしまったのだ。
どう考えても心を失くしていない事がけれど私の中で危機感を生み募ってゆく。
感情が死んだ筈なのに募る恋心が化け物を破滅させてしまうように、
私自身も鈴に与えられた重なった言葉によってこの身が破滅してしまうのではないかと恐れを抱いたのだ。
『恐れ・・・・ああ、確かに感情を抱いているではないか。お前よ』
そんな私に似た声をした言葉が私の心の内から聞こえた。
その言葉に一瞬驚きかけけれど冷静に理解する。
「蛇」、彼の言葉であると理解出来たのだ私は、だからこそ私は問う。
瞬時、鈴の居るエレベーターの中、音が止まった。
私は今、副代理の居るラウンジに向かう為エレベーターに乗っていた。
その最中に「蛇」から干渉を受けているのだ。
そして私は直感する。
時間が止まったように静止して、
透き通るように色褪せていく事を意識しながらも私はそう理解した。
透明な世界の中でけれど私は自身を意識する。
体は動かせない、目すら駄目だ。
心は問題はない、何を思っても問題ないだろう。
魂は決して死なない、きっともう私には感情なんてものはないのだから。
「蛇」の「空白」の姿それをエレベーターの中に見る、けれど問題はない私にはそれしか干渉できないのだろうと理解しているから、
だからこそ、私は「蛇」に問う。
「「蛇」、何故、今になって干渉してきたのです。
蘇生の代償を要求したのは貴方では無いのですか。
ならば代償だけ食んで離さなければ良い物を。
何故今になって話しかけてきたのですか、貴方の出る幕などありはしませんよ」
『強い語気と言葉だな。お前よ
そして珍しい程格調張った言葉遣いだ。
しかし答えよう。お前に蘇生の代償を要求したのは私では無くお前自身だとな』
「ならば話は簡単です、もう一度聞きましょう。何故今になって干渉してきたのです。」
蘇生の代償を要求したのが私である事、それについては何んとなしに理解していた。
私に似た声の持ち主に言われずともこの代償の要求にはどこか身に覚えが在ったのだ。
そう、まるで自分が自分の体に対して鞭を撃つように私の体が魂の呼びかけに答えた結果であろうと。
その結果、記憶の実感を失おうと
その結果、感情を失おうと、
私には関係が無かった。
むしろ問題は別にあると考える私である。
ここに来る前私は私の行動を保証する者の内の一人と合った。
鏡月愛伽と名乗った彼女は確かにこう言ったのだ。
「「これも『推測』っていうの?」」なんて言う言葉の出かかる程に知り過ぎ、
かつ無理くりな言い分で私を肯定的に決めつけた。
その読み上げられたかしこい(私が彼女に言った言葉と地味に違う)とも思ってしまう程の綺麗な字で書かれた説諭書を受け取った私はその訓戒を守り、
「契約」を交わすという制約を立ててここに居た。
「契約」それを破った者の「死」を意味する。
鈴の「拘束」と同様に魔女は人を縛るのが好きだな~と考えていればけれど愛伽からの言葉を思い出す。
「お互いかしこく生きましょう。」という励ましにも似た言葉を思い出したのだ。
それはきっと死刑囚である私に対する彼女なりの訓戒であり、そして三島の言葉をも背負い込んだ激励の言葉であっただろう。
そう思わせるまでの物が、
私への心配と将来への期待が説諭書には記されていた。
それに思いを馳せながらけれどこう再び確信する私である。
感じないのだ、目の前の「蛇」からは全くもって何も、感情どころか魂という物を感じない
「成程、分かったよ貴方の正体が。貴方は何も感じていないし、感じることすら出来ないんだ。
その「空白」同様に私の声だけを借りて宿主を真似、
「魂」が無いからこそ人の不安を煽ってその汁を啜る事でしか生きていく術が無いんでしょ。
だからこそ、私の心の傷が暴かれかければ私に干渉し出す。
だって初めから自分の事以外に興味が無いから、私の心の傷を抉りその魂をすら侵そうと欲する。
それが全知全能の「魔女」の敵対者「蛇」だって鈴は言っていた。」
『いつの間に聞いたのだ、あの「魔王」からそんな事を』
「読んだのさ、鈴の心を貴方の目が無い内にね。
きっとさっきまで見てた何かだって貴方に関係があるんだろうと考えて対策を打っておいたのさ。
だとすればこの通り実に見事に。
かつ無様に引っ掛かってくれたよね」
この私と似た声を持つ「蛇」に対する言葉について私はけれど勝算が在った。
五度の暴走、
その二度目と三度目、そして五度目の暴走の後、
夢の中で聞いた「蛇」の声が私という宿主の物であると理解した時から考えていた罠が在ったのだ。
この透明な世界に連れてこられるその前からしっかりと準備をしていたのだ。
それは単純明快、私が鈴から与えられた「死は何も生まないぞ」という言葉に対して苦しむ演技をするという物である。
理解可能にして容易に想像できる作戦は、苦しむ振りから考える必要があった。
「死は何も生まないぞ」という重なった言葉を利用するという心理防壁の中で考えたそれについては私なりに自信があるのだ。
なにせあの彼女すら騙せた演技の分野だ、何も問題など見つかりはしない筈であった。
実際計画は成功した、こうして「蛇」を釣れたのだ、態々「自治区」で苦しむ振りをしておいて良かったという物である
当然だが、鈴には許可は貰っていないが気付かれている。
本物の「魔王」と自分で言うだけあって心理防壁も意味もなく筒抜けであったのだ。
情報の収集ではギリギリ優位を獲れている物のけれど次、心を除く時も一回目と同様に彼女の意思を窺うしか無いというのが現状である。
私は弱い、少なくとも暴走しなければ魔女の代理の誰一人に届かない程には
だけれど私には他人にも負けない知識と知恵と勇気が在った。
彼女に「とんだ根性の持ち主」と言わしめる程のガッツが心に在ったのだ。
だからこそ、勇気を振り絞って本物の「魔王」である鈴の心理防壁に触れ、彼女と交渉し何んとか殺されずに情報をゲットしたというのが現状である。
通常であれば決して誰にも許されない事を成したのだ、
嬉しくない筈も無かったが、けれどその前に私には感情という物が欠落していた。
だからこそ、こう言葉を続ける
「「死は何も生まないぞ」この言葉を私にすり込んだのは私だよね。」
とモノクロの世界の中で鈴の居るエレベーターの中で「蛇」に対して私はそう言った。
□
「「死は何も生まないぞ」この言葉を私にすり込んだのは私だよね。」
そう私と似た声を持つ「蛇」に対して言ったのは私である。
透明な世界の中、
殆ど全てが静止した世界の中でけれど私は悠然としたようにそう言った。
その時と同時にけれど私の体をある物が支配した。
恐怖、純粋な恐怖である。
それは首に刃物を突き付けられたような物であり人間であれば決して避けられない物であった。
そして今の私が決して感じない筈の物である。
肋骨を全て折られ、内臓を潰されたような、血反吐を吐きそうな程のその恐怖に怖気付きながらも考える。
純粋に疑問なのだ。
どうして私が鈴の重なった言葉を頭の中で何回も繰り返すようになっているのかでは無い、
そしてどうして私が、他ならない私がそれを自分自身にすり込んだのかでは無い、
それらについて私が答えを知っているのに「蛇」が答えを知らない事が疑問だったのだ、だからこそ発せられた言葉を聞いた「蛇」に対して私はこう畳みかける。
「二回目だよ「死は何も生まないぞ」この言葉を私にすり込んだのは私だよね。」
と目の前の私より少し大きい輪郭を持った「空白」の「蛇」に対して透明な世界でエレベーターの中、私はただその私に似た声を聞くこともなくそう言った。
だけれども「蛇」はこう答えた、
先程までの血反吐を吐き出しそうな気配を放ちながらまるで当然だと言わんばかりに
『ああ、お前だ。すり込んだのは確かにお前だった、無意識とは言えな。
だがしかし何故その事実から目を背けない。
どうして現実を見続ける、逃げた方がまだましだと知っている筈ではないのか。お前よ』
それはきっと、憤怒に満ちていて憎悪の中の言葉で欺瞞の無い真っ直ぐな言葉だった。
まるで、自分自身に問いかけるようなその愚かな問いはしかし私にこんな感想を齎した。
「この子可愛いな。」と純粋にそう思ったのだ。
血反吐を吐くようなその気配の中で、
肋骨がぎしぎしと軋み、
内臓が圧迫されるような痛みを感じながらも
けれどだからこそ私はこう答えた。
「ずるいだけだよ、本当にね。」
そう言って聖女のように笑えばけれど沈黙の後『それが永遠に続く事を心の底から祈っている。』なんて言う言葉と共に透明が色づいていく。
色彩とも言うべき色々に色づいていけばけれど目を瞬かせた間に「蛇」は私と似た声を発することも、先程までの凄まじい気配も発する事なくその場から居なくなった。
まるで欺瞞なんて無いと言わんばかりの言葉を言って透明な世界が色づいていく中、
その姿を色彩に浸して消えて行く。
まるでインクの色を浸された水のように黒く染まって消えていった
それから、
少しだけ私は自分の中に居る「蛇」の事を好きに成った。
何かの視線はすでに無い、
「蛇」と話していればいつの間にか消えていた。
何だったんだろうと思わないでも無いが私は再びこう判断する。それに触れるのはまだ早いのだと判断した。
そんな回想をした後、
数瞬チーンという音と共にけれど目的地の階に着いたことを私は察した。
副代理が居るであろうその場所に着いたことを
見えない事こそが理解に繋がる
・・というのは詭弁に等しい
けれどやって見るだけの価値はある
〜人助けの魔女〜




