第22話 束の間の休息
何かが見ている。
そんな感覚が在った。
それは私が恰好が変な人とも称した存在であり、
白い外套を羽織り見覚えのある白い竜と黒い竜を連れた何かそのものだった。
ぎょろぎょろと動く七つの目を持つ白い仔羊の面をした白い外套を羽織る存在その者であった。
それこそが私の第二特性、情報の「収集」と「集積」に引っ掛かった確かな違和感だったのだ。
けれど私はこの情報について鈴に瞬時に共有する。
『こいつを如何するか?』と
そして返ってくる答えを注文した飲み物同様に待っていればこんな答えが帰って来た。
『隙を見て殺す。』
とそんな物騒な鈴の言葉と共に私の元に注文した飲み物であるミルクティーが運ばれてきた。
まるでこれからする話が関係あると言わんばかりに鈴も注文していたコーヒーを受け取り、その湯気を立てる黒い水を啜った。
そうして、鈴は話し始めた「魔王」の痕跡そのものである首絞めの魔女という存在について
□
首絞めの魔女というのは予言書に存在する魔女の名前である。
初夜に七度、夫の首を絞め殺したサラという名前の彼女は魔女に憑かれていたと噂されていた。
悪魔と同様に聖十字教の教えを知る現実世界の人々に魔女憑きとして恐れられていたのである。
故に彼女は老いず、その生来の美しさと人格、気立ての良さを守って来た。
だからこそ、色欲の魔女という悪魔に等しい存在に憑りつかれながらも彼女は誰の目から見ても魅力的だった。
そう、神から見ても
神という存在から想起される言葉が一つ在った。
「魔女」である。
「魔女」というのは一つの異界を作り出した存在である。
世界を作りだす能力を持ち全ての魔女の祖であるこの存在は鏡の世界を創造した存在であり、御座から全てを見下ろし見通す全知全能の魔女の一人であった。
魔女とは全知全能の存在の一つ、世界を創り、滅ぼせる現代唯一の概念である
ところで魔女の血とは「魔女」の血である。
一滴飲むだけで本能で肉体を治し魔法を操る不老不死の魔女とも成る事が出来る。
不思議かつ不可思議な血であるというのが賢人会の公式な発表である。
そんな不思議な者を生み出す「魔女」と似て非なる存在。
主たる主、王たる王とも言われる嫉妬深い母なる女神さえ目に掛けたとさえ言われるサラにはけれどある問題を一つ抱えていた。
夫の首を絞めてしまうという、当たり前の問題が。
七度初夜に起きたその致命的な問題はしかし次第にサラの心を蝕んでいった。
殺人鬼の汚名を着せられ
殺し疲れ、自身をも責め果てたサラはしかし、ある者の言葉から救いを得るために女神へと祈りを捧げた。
それを哀れに思った女神はある二人の男を使わせた。
トビアとアザリアという名前の二人の男を
アザリアはトビアに「サラと結婚しろ」と説得しいやいやながら結婚を承諾させたのだ。
一悶着はあった物の数日を経て結婚初夜。
アザリアに言われた通りに「牛の心臓を焼いて」香炉を焚けば、取り憑いていた色欲の魔女が飛び出したのだ。
それを見た、アザリアは一人扉を壊し、アスモデウスという悪魔の名を持つ色欲の魔女を追いかける。
アザリア自身が旅装束に手を掛け引き落とせばけれどそこに居たのは熾天使ラファエルであった。
そうして、大天使と相対する事になったアスモデウスという悪魔の名を持つ色欲の魔女はサラがそこに居た為か首尾よくラファエルに捕らえられ、エジプトの奥地に幽閉されたと言われている。
そうしてサラは女神の定めた夫と結婚し、夫を締め殺すこともなく初夜を迎えた
アスモデウスはサラ自身には手を出さなかったと言われている。
「それの何が何かや首締めの魔女と関係があるって言うんだ?
最初サラって女の子は出てきたし首締めの魔女って単語もその前に出てきたから二人は関係があるのかなって思ったけど結局出ない仕舞いじゃ無いか。」
「・・・・相変わらず、デリカシーの無い女だな。魔女歴という存在すら知らない筈のお前が何を語れるというのか。」
「はぁ?」と私はその鈴の言葉に静かに呆れながらもカップに手を掛け唇に添えた。
「死は何も生まないぞ」はもう浮かばない、歩いていれば落ち着いたのだ。
そう、今私は喫茶店に居た。
鈴に手を引かれこのネオン街の外れにある寂れた街へと連れてこられたのだ。
して、目に入った喫茶店それこそがここ、サラの館である。
ホテルをも備えつけたこの喫茶店はしかし、遠目からあのネオン街を見る事が出来た。
まるで1980年代のかつての栄光を鏡写しにしたような街並み、2015年という時代に生きる私にとっては度し難い程に知らない物だった。
何かについては知らない、私に分かる筈もない。
魔女暦については知っている。
確か今日は魔女暦2998年、8月10日である。
ここ鏡の世界に来る前に道すがらクリミナに教えられた。
それに加えて、サラの館。
この言葉に対する違和感は当然ある。
だって先程聞いた、何かに関係するであろうサラと首締めの魔女の伝承と同じ名前なのだから違和感を感じない筈がない。
けれど努めて私はそれを忘れようとした。
それに触れるのはまだ早いのだと判断したのだ。
まるで七十二字騎士団の持つ十字の瞳に、19号と葵が関係していると気付きかけた時のように
だからこそ、私はその思考を一瞬で脳の隅に追いやった。
ぐいっとカップを傾け無粋にもぐびぐびと中のミルクティーを飲み干すように飲み下す。
ガンとカーテシーの上にカップを叩きつけるように置けばけれど私は鈴の吸い込まれるように黒い瞳を見つめた。
それに少しだけ目を見張ればけれど私はゴホンと一つ咳払いをし顎で指して話の続きをと鈴に対して促す。
それを察したように両手で持った白い煙を放つカップをゆらゆらと傾ければ鈴はこう言う。
まるで昔を思い出すように退屈ながら冗長にこう言う。
「不満であるのなら、俺が話そうか魔女暦2998年8月10日現在、鏡の世界で語られる、この話の続きを。」
そう、「死は何も生まないぞ」という言葉を思い浮かばせるような吸い込まれるような目をこちらに向けて鈴はそう言った。
◻︎
「お前が知っている話であればこの話には続きは無くサラは女神の決した結婚相手と結婚して終わる。しかしこれは現実世界での話だ。鏡の世界では違う、この話には続きがあるのだ
「結婚し初夜を過ごしたサラはいずれ熟年の女となり老人となった。
して死んだ目をして過ごした空虚でけれども満たされた結婚生活のあとある場所に辿り着いた。
魔女と「契約」し魔女の血を得た。
「この時の「契約」は単純心臓を差し出す代わりに魔女が魔女の血を与えると言う物、差し出したその心臓は魔女によって生かされて永遠に隷属を強いられるという鏡の世界の魔女を縛る隷属契約に似通った悪趣味な魔女らしい「契約」であったのだ。」
「けれど、サラは従った。まだ見ぬ人々の幸福の為に、「契約」を交わし魔女の血を魔女から得たのだ。」
「そうして、サラは老いも生も捨て去って不老不死の存在、魔女となった。
鏡の国に辿り着き、一人の魔女と成ったのだ。
して、生まれ変わったサラは魔女達と研究と探究の日々を過ごし、自身の生を慰め人々の幸福の為に尽力したという。
そうして彼女が鏡の世界に馴染み人々を多く救っていた頃。
人を助けていた真っ最中に色欲の魔女が現れただ一言こう言ったという。
「「楽しかったか?」と
その言葉と赤子の笑い声と共にどろりとした気配に包まれながら現れた慈悲深い笑みを浮かべる色欲の魔女に対して「エジプトの奥地に幽閉されていたのでは」と思いかけけれどサラははっきりと色欲の魔女の目を見て察した。
「自身が否と答えれば色欲の魔女が鏡の国を滅ぼし、鏡の世界をも滅ぼしてこの世界を征服し、全知全能の女神へと挑んでいずれその命を散らせてしまう事を。
サラの為に自身の何もかもを捧げてしまう事を。
どうしてか分からないその大きすぎる好意に決して自身が答えられない事を
「だからこそ、サラはこう答えた。
「楽しかったです。ですのでどうか鏡の世界に居る魔女を殺さないで女神様に挑まないで、私だけを連れ去って行って下さい。」と
そうして色欲の魔女に連れて行かれたサラは色欲の魔女に言われた通り人を殺した、
魔女を殺した、
なり損ないを殺した、
魔法使いを殺した、
その首を絞め殺したのだ。
まるで色欲の魔女の手下、「幹部」の一人のように
そうしてサラは魔女達にこう呼ばれるようになった。
「首締めの魔女と」
◾️
「これがこの話の真実だ。」
「・・・・・ああ、そうか。中々重たい話だね。冗談一つも言えないくらい、首締めの魔女であるサラをどうしてか悪く言えないよ」
そんな冗長で場違いな言葉が静かに口の端から漏れ出たのを私は理解した。
「死は何も生まないぞ」なんて言う鈴の言葉を思い出しながらも、空っぽになったミルクティーの入っていたカップを煽りながらけれど私は考える。
第一に、私には記憶の実感は無い。
第二に、私には感情が無い。
だからこそ、先の言葉について私がどうこう思う事は無いと私自身が何と無しに理解していた。
目の前で、白い煙の吐くカップをゆらゆらと傾けながらけれど鈴の吸い込まれるような目がこちらをただじっと見つめているのを理解しながらも私は知る。
これにて私達の目的が決定した事を
それ即ち何かと共に首締めの魔女を「魔王」の痕跡として搜索する事である。
何かについて私は知らない、
その場所と未知数の強さと不可思議な存在感以外私には分かることもない。
けれど何かの正体の可能性について私は考える。
首締めの魔女はサラである。
これは先の鈴から聞いた話からしても間違いはない。
何かと関係しているかは分からないがそもそも何故現実世界の聖書の話を本物の「魔王」であり最強の魔女でもある暴食の魔女の代理たる鈴が知っているのか私は知る余地を与えられなかった。
聞いた話から理解できた事は三つ。
一つ目、
サラが魔女となり鏡の世界を裏切った魔女としてまだ生きている事、
二つ目、
サラが禍根鳥によって首締めの魔女に変えられてしまった事、
三つ目、
サラが禍根鳥の手下、いわゆる「幹部」として彼女の元にいるであろう事。
一つ目は話から、
二つ目は話を聞いて推量した結果として、
三つ目は実際に鈴の話した言葉から私は知った。
サラがどうして強大な力を持つ魔女と「契約」を交わし、心臓の譲渡とそれによる隷属を引き換えにしてまで魔女の血を得たのか、
どうして、
根底では人々の幸福が為に行動していたサラが禍根鳥の命令に従い首締めの魔女に変わってしまったのか。
どうして、
「幹部」という禍根鳥から貰った新しい記憶達にも無いその何かにも等しい、不可思議な存在へと成り果てたのか。
私には理解できない、だからこそ私は問うた。
「まずは「幹部」っていう奴について教えて」
と間にあるカップから立ち上る白い煙、
その源であるカップを見つめる鈴の吸い込まれるような目を見ながら私がそう言えばけれど鈴はこう言った。
「それは、チェックインを済ませた後だ。」
「死は何も生まないぞ」という事も無く、
と白い煙を吐くコーヒーカップをコトンと置いて、
まるで何かの視線を気にするように外を一回眺めてからそう言った。
外套にある胸元のポケットに手を入れて、
そうして取り出した奇妙な色をしたカードキーを親指と人差し指の先で支えながらそう鈴は言った。
そうして、私達はまるで何かの目から一時的に逃れた。
◾️
「幹部」という存在については情報が余りにも少なかった。
名前や姿すら知れない彼らはただ三つしか知られている事が無いのだと鈴は言った。
「魔女の代理に匹敵する」
「「魔王」の首を狙っている。」
「「死」の魔力を与えられている。」
以上の三点が「幹部」には共通しているというのが賢人会の判断であるからだ。
してこれは鏡の国での常識であると鈴は言った。
そしてこうも付け加える。
『「幹部」というのは「死」の魔力を与えられているからこそ生きている存在である』と
その通常の生命の道理に反した言葉こそが重要であると、鈴は私に対していった。
奇妙な色のカードキーを指で弄びながら
人々の往来を第二特性を用いて感じながら
遠いネオン街その光を窓越しに見つめながら
狭い宿に備え付けられたダブルベッドの一つ、その寝具の上に腰を下ろす。
奇妙な色をしたカードキーを弄ぶのを止め
スカートをスッと手で整えて、髪を掻き上げればけれどふと思い出す。
蘇るのに一体何を代償とするのかについて
私は少しだけ思考していなかった。
考えていなかったのだ、自身が何を代償に蘇ったのかを
一度目の死から蘇るには記憶の実感を失った。
二度目の死から蘇るには感情を失った。
であれば三度目の死から蘇るには何を代価とすれば良いのか私にはそれが分からなかった。
けれど私に不安は無かった。
予感が在るのだ、三度目の死から蘇る代償それはきっと記憶の実感の喪失や感情の死なんか当てにもならない。
もっと大きな物を代償とするのだろうと
「であればカードキーを指で弄ぶのも次に死ぬのも余り勧める所では無いな。口だけでは無くな。
何せ次の代償は記憶の実感や感情だけでは無く、更に大きな物の筈なのだから。」
「そうだね。あと今は何かの視線も無いし、カードキーを指で弄んで無いよからヘーキだよ、ダブルベッドの間にある机に置いてるしね」
「・・・何だ、その様子何かの目が怖くないのか。
それとも壊れてしまったのか、下ネタに逃げてもいいぞ、掟破り。口だけでは無くな。」
「・・・・私は逃げるのが嫌いなんだよ、鈴。口だけでは無くね・・なんちゃって。」
そう「死は何も生まないぞ」という言葉を思い浮かべる事もなく、体を前後に揺らしながら言葉で誤魔化して三度目に蘇る代償について考えていた間本当にダブルベッドの間にある机に置いた奇妙な色のカードキーを見ながらけれど鈴の目を見ずにそう言った。
何かの目については考える必要はない
なにせ鈴の認識妨害結界越しとは言え彼はずっとこちらを見ているのだ、気にするだけ野暮である。
認識妨害結界とは文字通りの意味で認識を妨害する結界だ、魔女の代理にしか許されない「御業」であるそれは本当の「魔王」にしか使えない魔法であった。
そんな力を以てしても何かの目からは半分程度しか逃れられない。「魔王」の力にここまで対抗するとは中々妙な存在である。
して、ついでに言うなら別にカードキーを見て変な事を考えている訳では無い。
いくら何かの目が在ろうとも下ネタを言える自信が在るからって頭が常にピンクな変態という訳ではないのだ。
奇妙な色のカードキーの奇妙な色がまるで如何わしいホテルのカードキー、その色合いそのものにしか見えなくともである。
だからこそ、シャワーを浴びながらも曇ったガラス越しにシャワーの音と共にくぐもった声で話しかけてくる鈴の事を少しだけ見る。
当然だが、ここは如何わしい店では無い。
だからこそ、このシャワールームは鍵を掛ければ濁って曇る遮光ガラスで全面を覆った、倫理的に何んとも言い難いある意味最新性のシャワールームであった。
けれど私の第二特性、情報の「収集」と「集積」はそれを斟酌しない。
何かの目のように本物の「魔王」の情報をこれでもかと「収集」し「集積」するのだ。
彼女の体は綺麗だった。
顔立ちは言うまでも無く整っており、
けれどシャワーの温かい雫滴る胸だって外套の向こうにある白いシャツ越しに分かるよりも育っていて見応えがあったし。
何より、彼女の体を伝う温もりのある水滴を加味しても光の反射度合いからその肌は病的なまでに白く滑らかであった。
吸い込まれるような髪と瞳は人を寄せ付けないような何とも言い難い良い意味の近づき辛さを持っていたし
身長だって、私よりは少し小さい程だ、170前後は在るんじゃなかろうか。
コンビニバイトなんか辞めてモデルに成ってみたらと良く言われる私からして見ても少しだけ羨んでしまうような彫像のような理想体型、
かつ同性であっても見惚れるような顔に
異性であれば法を犯しても手に入れたいと思う程の魅力的な肢体と
誰もが聞き惚れるような鈴の音の鳴るような声を彼女は持っていた。
だからこそ、私は直接的にこう言う。
「鈴の体ってエロいよね。声も素敵で顔も良いしおまけにスタイル抜群、いやホントエッチ。ヤバイ。私が男だったら法律を侵して貴方を手籠めにしたいと考えてたかも、何かの目に半分しか晒されてなくて良かったかも」
「・・・・そうか。滅茶苦茶に気持ち悪いな、お前」
「え、ごめん。なにその反応正直ヤバイ私n「喜んでくれたなら何よりだよ、だからこれ以上言うなよ、変態。」
「死は何も生まないぞ」という言葉でもない(いい加減しつこいから忘れてみたい)、
曇ったガラス張りの壁越しにシャワーの音と共に聞こえてくるそんな少しだけくぐもったけれど明瞭な声に私は「つまんない。」だなんて宣いながらも臍を曲げ窓を再び眺める。
聞えるのはシャワーの水音と
濡れた布が体を拭う音、
そして他ならない鈴が少しだけ漏らした気持ち良さげな鈴の音の鳴るような声に、
窓の外の人々の喧騒とネオンのジジジという衣擦れのような年を喰った証そのものである。
何かの目からはどう半分程度に映るのか知らないがネオンの光は見えた、
けばけばしいまでのその光は当然のように気に障る。
かつての若者達の青春とまだ見ぬ栄華そのものであったそれら全てが今の若者には分かり得ない、
かつての日本という国の栄光の残滓そのものであるとも知っていたがどうにも分かり合えそうにも無いものだからだ。
だからこそ、私は少しだけ憂鬱に成る。
気が滅入ったのではない
当然だがこの程度で滅入って入ればここまで命の危機に晒されても二度も蘇って生きていないし、
なり損ないのように振舞うという人に取っては生き恥のような演技を晒そうとも息を吸えていないし、
何かの目を気にしながら、その正体の可能性すらある首絞めの魔女探していない筈であるし
かつて自身を殺そうとして実際に二度首を絶たれて殺された、「魔王」を僭称する魔女を「死は何も生まないぞ」という鈴の言葉を何度も思い出しながら追いかけてはいない筈である。
だからこそ、これは何かに対する感情では無いのだと私は判断したのだ。
まるで無意味なその回顧に対して私の心の声を遮る物が在った。
それは当然のようにこう言った。
「所で掟破り、お前の力は基本能力では無く他の能力の可能性もある。」
と興味深い言葉をシャワーの音と共に曇った全面ガラス張りシャワー室の中から、くぐもりながらも鈴の音の鳴るような声で堂々と私に対して鈴はそう言った。
その言葉を聞いてどうしてか「死は何も生まないぞ」という言葉すら思い浮かべずに私は、聖女のような笑みを浮かべた。
何かの目に半分程度映る事すら気にせず
■
「確かに呼吸ぐらい沁みついているけどあくまで基本能力じゃないかな・・とは思わないし、思えない。
どちらかと言えばこれは新しい記憶達曰く、基礎能力っていう奴なんじゃないかな。」
静かに言えばけれど「死は何も生まないぞ」言葉を脳の隅に追いやりつつ(この言葉、しつこ過ぎるいい加減にして欲しい)自らの言葉を振り返る私である。
基礎能力、
それは魔女、なり損ない、そして魔法使いにそれぞれに備わった、それぞれを生かす為の力である。
魔素の収集や、魔力の合成などの魔力を失えば、命をも失う彼ら故の呼吸の仕方から始まり、魔力の収縮や拡散などの応用業へと続いていく。
なり損ない、その「模倣」の力は例外ではあるものの基本的には呼吸や鼓動のように生存にはなくてはならない力なのだ。
「であれば、納得できるな。予言の魔女としての特異性にも説明がつく。
お前は文字通りなり損ないとして例外であるようだ。
まるで主人公の用だぞ、掟破り。」
「・・・・そうだね、露骨過ぎて引いたら悲しいから引かないでね、
所で露骨に話を戻すけどクリミナや乃瑠夏は何処にいるの?」
「「病塔」だよ、露骨な話題転換で正直引いたよ、掟破り。
こちらも露骨に話を戻すが「病塔」とは「研究塔」と同じ外見ながらもしかし内装の異なる場所であり、患者を抱える病棟そのものだ。
「一つ目の地獄」の亡骸、第一地区23番地にある白い摩天楼とも呼ぶべき場所の一つだ。
その一つたるここには当然あの悪名名高い「自治区」にいた者もいる。」
「・・・・ありがとうとは言えないね。信頼出来ないし。それに本当に良いの?謎が多い私にそんな事聞いて、裏切られるかも知んないよ?」
そう「死は何も生まないぞ」という鈴の言葉を思い浮かべるでもなく(なんか慣れてきた)鈴に対して曇ったガラス張りの壁越しにくぐもりながらも鈴の音の鳴るような声で確かに知識を披露してくれた鈴に対して私は裏切り者のような気分で言った、感情無いけど
所で私には多く謎が在った。
ある手段によってなり損ないと化した私が力を使い切ってもその状態を継続出来た「謎」。
して何かの目を常に向けられているという「謎」
して魔女の血をどうやって得たのかという「謎」
して一日中戦った魔女のように魔力が枯渇したままである「謎」
して魔女や鏡の世界を裏切った振りをして契約を一度破っても生きていられる「謎」。
・・・と考えているだけでも六つの謎が出る程自身については多く謎があるそう判断するわつぃである。
そして七つ目、今、考えられる最後の一つがあるのだ。
それは33人もの人を殺し、一つの街に存在する魔力を一夜にして奪いつくした力を持ちながらも、常に魔力が枯渇しておりかつ生きている「謎」である。
なり損ないとしての力も予言の魔女の力も今の私は残滓程度しか持たない。
これこそが現状を表す言葉であり、私自身、暗躍中禍根鳥に聞かされて理解している事であると私は知っていた。
それを聞いたデバイスはスカートのポケットにある金色の十字の瞳の形や、
鏡の国での携帯代わりの端末であるモノリスの形、
そしてパーソナルな私の私物足る携帯の形を取っていたりと多くの形が在った。
この説明には脚注が多くあるのだと理解していた私である、けれど・・・
「鏡の国での携帯代わりの端末であるモノリスの形を取っていたりとする端末同様本当に謎が多いんだね、禍根鳥には・・・話は逸れるけど、いつまで入ってるの?何かの目もあるけれど、第二特性である情報の「収集」と「集積」が感知したんだ、連絡副代理っていう子からモノリスに来てるよ。」
「賢人会の諜報部である彼ら、「SILENCE」と呼ばれる魔女からだ。副代理からではない。」
「知ってるよ、副代理っていう存在については、代行会という存在についてもね。
代行会とは魔女の代理が私設した公共の私兵団である。
魔女の三割強という膨大な団員を抱えるこの組織は、”人類の平和の為に”という目的の為に戦っていた。
代理人とはその一員を指し示す言葉・・・でしょ、ナレーション風に言っちゃった!」
そう「死は何も生まないぞ」という少しだけ浮かんだ鈴の言葉を気にもせずに(そう言えば私感情無いから何も感じ無い筈だった)冗談めかしにメタ的な言葉を話して冗長にも心の中で新しい記憶達を整理し回顧する私である。
まずは副代理について、
副代理、彼らは代行会のNO.2である。
実力も折り紙付きの彼らはしかしここサラの館の一室に二人以外勢ぞろいしていると第二特性、情報の「収集」と「集積」を用いた結果として知っていた。
憤怒の副代理、赤神泣
嫉妬の副代理、井伊波海
暴食の副代理、蝕指音
怠惰の副代理、怠編殖眠
色欲の副代理、禍根鳥屍花
とビックネームと言われる者達が五人も勢ぞろいである。
色欲の副代理は穴埋めではある者の殆どが欠けが無いのだ。ところで傲慢の副代理は居ない、彼女は今、病塔に居るのだと理解していた。
だが、魔女の代理とて負けていない。
「傲慢の魔女の代理」、
黄金の髪と瞳、十字の瞳孔にサイドから垂れる髪を三つ編みにした和服の青年、明星葵。
「憤怒の魔女の代理」、
赤い髪に赤い瞳、髪を逆立たせた少年、弩怒蛇明楽
「強欲の魔女の代理」
茶色に黄色がかった琥珀の瞳、ポニーテールそして片側に目を覆うような大きな火傷を負った少女、、富田神女
「怠惰の魔女の代理」、
緑髪を長く伸ばし節々で粗雑さを感じさせるように結んだくすんだ金の瞳を持つ壮年の男、怠編殖埜呂懸
「嫉妬の魔女の代理」、
冷たい赤い瞳を持つ短い黒髪の少年、井伊波乃瑠夏
「暴食の魔女の代理」、
吸い込まれるような髪をバッサリと切った黒髪黒目、片耳から鈴を垂らした女、鈴
「色欲の魔女の代理」、
そして目の前に立つ、白髪二つ結びの左右非対称な黒布の目隠しをした野太い声の少女、禍根鳥憂喜
と多種多様な人間が魔女の代理を務めていたのだ。
副代理もそれぞれが個性のある連中であり、名前だけであればむしろ強そうなのは彼らの方なのだがしかし彼ら魔女の代理にはあったのだ。
圧倒的なカリスマと
圧倒的な地位、
して圧倒的な実力が
しかしどこに居て何をしているかを知らない事こそが今の問題であった。
けれど、気になる事が在るのだと私は理解していた。
だからこそ、言葉にする
「けれど、禍根鳥の言葉の目的は彼ら、魔女の代理と私に関係している、そうでしょ、鈴。」
「あぁ、俺達、魔女の代理は「悪魔」の「名」を継いでいる以上ある物をお前同様に宿しているからな。」
「死は何も生まないぞ」という言葉に少しだけ愛着すら覚えながら(何か変な気分に成って変な言葉言ってしまった)
ある物をお前同様に、その鈴の言葉に対して思い出す事が私には在った。
マスターピ―スである。
あらゆる事実の鍵、
次なる事象の種、
更なる世界の欠片の結晶。
十二ある世界の欠片そのものの一人であると私と自分自身、そして魔女の代理に対して鈴は言うのだ。
『十二ある「世界の欠片」、全てを集めた者ただ一人が全ての魔女を超え「魔女」と成れる』
とも新しい記憶達に宿っている程重要な存在であった。
「魔女」がその腕から滴る血を注いだ者達、
「悪魔」の名を継ぎなり損ないを超える力を持ち、肉体の悪魔化を成した可能性すらある彼ら魔女の代理こそが魔女の一人の力の欠片の結晶、
それこそが他ならない魔女の代理と禍根鳥即ち七人の「世界の欠片であるとも
恐らく、これこそがあの方が定めた「計画」であり残りの五人のマスターピースを見つける事こそが禍根鳥の目的であると新しい記憶達を読みこむ事で私は知っていた。
けれどその心を読んだように魔女の代理であり、マスターピースである暴食の魔女の代理、かつ本物の「魔王」である鈴は鈴の音の鳴るような声でこう言う。
「であれば、終わらせよう。
『十二ある「世界の欠片」、全てを集めた者ただ一人が魔女を超え「魔女」と成れる』という「計画」に記された予言を果たすために、
そして鏡の国に住む人々の平和の為に、
首絞めの魔女を探し「魔王」を僭称する魔女を殺す為に、
十二人のマスターピース全てを手に入れ俺達の手によって”人類の平和の為”という言葉を叶える為に、」
「・・・・・うん、そうだね、必ず成し遂げよう。鏡の国に住む人々の平和の為に、あと服着て鈴」
そう「死は何も生まないぞ」という鈴の言葉を思い浮かべる事も無く、何かの目の中で誰もが見惚れる貌をした18歳の少女、暴食の魔女の代理であり本当の「魔王」、鈴はさも当然と言わんばかりの声でただそう言った。
「死は何も生まないぞ」という言葉を思い出す私を気にせずに、
まるで何かの目に半分程度以上自身の裸体を見せつけるように、
同性である私の目に何かの目、同様全てを晒すように
無防備にもタオルを頭からファサと外して、舞う吸い込まれるような黒髪を、その真っ黒な瞳を何かの目では無く私にじっと定めながら。
宣言するように涼やかな顔でタオルを手に持って全裸で凛然とそう言った。
そして何かを気にせず私は静かに言葉を返す。
何かの視線を気にすることなく彼女の言葉を少しだけ認めてけれど当たり前のように素早く服を着るようにツッコんで、
何かの目越しに彼を挑発するように聖女のような笑みを私が浮かべればけれど鈴と私は笑い合った。
お互いがお互いに忘れてまるで年相応の高校生のように笑い合った。
七つの目を持つ白い仔羊の面をした何かが
自身の白い外套を靡かせて、
城にある旗の頂点から見ているとも知らずに
それがあの方の「計画」通りであるとも知らずに
・・・そうして、一日は過ぎ去り、
魔女暦2998年、8月11日
私の第二特性がこの「色欲の街」を全て読み取るまで、残り二日と成った。
見ている者についても語る気は無い
・・というのは本質には近しい
私は語る者では無く、ただ在る者であるからだ
〜人助けの魔女〜




