第23話 少女は再び目を閉ざした
魔素の操作と言うのは至難のものである。
原子に等しいそれらは紫がかった黒の見た目通り人類に仇なす・・存在ではない。
だが味方をしてもいない、ただそれは「欲望」に従うのだ。
「欲望」
魔素や霊子そして未知なる物質達は従いそうもない、それらはしかし従うのだ。
意思、それもより強い意思を持つ欲望に、正確で精密虚構に。
それは知れば知る程、願えば願う程、事象として突出していく。
正に
「意思、いいや欲望の現実化、ね。だけどここまで空気が違うとは・・禍根鳥さん、この人たちが・・・」
「ああ、そうだ彼らこそが魔女の代理だ。」
魔素と魔力が、そこに反映される欲望が「特異」だからこそのこの空気感なのだ。
冷たい、冷たい、まるで畜生でも見定めるような、冷たい空気。
そこに乗る感情はあまりにも人間的であり非人間的だった。
だからこそ問うた。
「私は畜生でしょうか!!この扱いはしょうが無いんでしょうか?!!けどどうしてだろうか?!!!どうか?代行会議で何しましょうか??」
「・・・・なんでラップ調なんじゃよ、お主。」
クリミナに突っ込まれて終わった。
身振り手振り、エブリも付けたというのに、人生初めてだったというのに!!
あ、これ三回目だ。
ま、いいや。
と感じかけ、思い出した。
19号、赤紐の赤子、バフォメット達のじっととした視線を
魔女の代理達の冷たい、冷たい視線を、「死」の恐怖を
終わった、多分人生も。ああ神様これが不信心な私への罰なようです。
さようなら、現世、こんにちは、天国。
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「お主、そういうキャラじゃないじゃろボケるのはやめろ。」
「あ、ごめん、つい。」
「それに天国には行けんじゃろうて。ていうかなんで代行会議とか知って」という言葉を聞き流して、考える。
私の記憶について・・・
私がどこまで思い出したのか。
・・・魔素の扱い方と従わせ方「代行会議」は新たに思い出した記憶達から引き出されたものであった。
特に「代行会議」とは・・魔女の代理達が都市最高権力者として、そして世界最高戦力として鏡の世界の今後を決める為の、都市国家と世界の今後を決める為の肝要にして重要な何かを、何を徴用し重宝するかという理由を決める為の会議だった。
けれど、鈴のことは・・・思い出せなかった。
プネウマも、
その名前に実感が無いから、言葉ではプネウマと呼びながら、心の中ではバフォメットやバフォメットと言ってしまう。
プネウマとは言っても回数自体は二回にも満たない、なんなら言葉も心の中でもバフォメット呼びもだいたい三回以下であるのだ。
井伊波乃瑠夏など「井伊波さん」と声に出して呼んだり少年や井伊波乃瑠夏と呼んだり、まるで陰キャみたいであった。
申し訳ない、皆に。
「陰キャみたいで申し訳ない!!って顔などせずに顔を上げろ・・・・」
その声に顔を上げる
そこにいたのは「色欲の魔女の代理」禍根鳥憂喜、白髪を二つ結びにした左右非対称に黒布の目隠しをした少女であった。
野太い声の彼女はこう口にする。
「・・・・・目線を上げろ、少女。貴様の願望が目の前にしっかりある筈だ。」
■
ああ、どうしてこうなった、
目を向ける
ただ目を向ける、私の所望する光景が、願い望む光景がある筈だった。けれどそこに在ったのは。
「「傲慢の魔女の代理」
明星葵である、貴様、世の嫁となれ」
「「憤怒の魔女の代理」
弩怒蛇明楽だぜ、おい畜生クソがよ!!」
「「嫉妬の魔女の代理」
井伊波乃瑠夏です・・だって、心の中でなんも言ってないがな。」
「「強欲の魔女の代理」
富田神女ですわ。よろしくお願いしますわ、なり損ない殿。」
「「暴食の魔女の代理」
鈴だ。何を話していた、お前。口先だけではなくとっとと白状しろ」
「「色欲の魔女の代理」
禍根鳥憂喜だ、お前のことは生まれる前からずっと知っていたぞ。少女。」
「そして最後、「怠惰の魔女の代理」
怠編殖埜呂懸だそうだ、貴様とは一度会ったことがあったな。なり損ない。ところで貴様誰」
中途に挟まれたまともな人達とバフォメットによる井伊波乃瑠夏擁護の特異さを尚上回るとんちきな空気と死んだような「個性達の戦争」、そして謎の求婚、と罵詈雑言に加わる存在しない記憶、その上・・・・
「ロックバンドみたいな名前バッカじゃな。バカバカしい。」
不思議な名前と地獄のような空気だった。
ああ、どうしてこうなった、のだろうか。
そうして私は目を閉ざした、
体を針のように細くまっすぐに木のように自然そのものと化して
これから更に悲惨な目にあうと知らずに。
■
「まぁ、落ち着くといい少女。ほら飴だ」
「・・・・うん、ありがと、ん?」
針葉樹林と化していた私に、
さながら御神木と化していた私に、捧げものがあった。
両の手を皿にして受け取り、目を・・・・開いた。
飴である、飴しかも・・・
「なんで七色に光ってるんですか」
「「契約破棄」で造り出した死の魔力だ、食えば・・・」
「食べれば・・・・・」
「食えば死ぬ。」
「・・・・・・」
うん、知ってた。
なんでいきなり殺そうとしてくるかわかんないけど知ってた。
いいや分かるのかも知れない。
何故なら今開いている会議は私の死を決定する為の会議だ。
その前に、お前が傷つく前に、きっとこの「飴」を呑み込んで自害でもしろと
朧気ながら契約を「破棄」したであろう者達の末路は知っている。
・・・・・けれど本当に、本当に
「死ねるの、ここで。死ぬことが出来るの、私?」
「・・・・・・」
そうだ死ぬことが出来るのだろうか、この私がこの諦めの悪い私が
早々に「死」なんて選べるのだろうか、強欲なこの私が
生き汚い、自分という女が
シアという人間が
「問題ない、貴様は選べる。」
「・・・え。」
白髪二つ結び左右非対称の黒布目隠しの少女、その野太い声が鼓膜を震わせる。
力強く、けれど冷淡に
目隠しの黒さと左右の非対称性が目から脳裏に焼き付く
「迷うこともあるだろう、恐れることもあるだろう、中途で躊躇なく「死」を選ぶこともあるだろう。」
「しかし、貴様は、少女は、食える。」
「なんでそう言えるの。」
この時の私は理解できなかった。
記憶を思い出していないからではない、
自信が無いから、でもない。
どちらも欠如している今でもそのどちらも理由にはならないのだ。
なにせ、
「貴方を信じれない、いいや信じたくない。」
・・・のだ、悪い方に、彼女を信じられなくなる方に、それだとまた・・・
「だって私は「遠く」に行く人を見たくないから・・だからどうか、どうか。言葉を選んで「何故なら、貴様は」
「・・・・・・・・」
「何故なら貴様は、「死」と共にあった予言の魔女だから、な。」
そう言われた、
多くの者が見る中、魔女の代理達の畜生でも見定めるような冷たい空気の中、
訳の分からない言葉に困惑する中で私はまた、目を閉ざした。
七色に光る「死」の飴を差し出されながら
「死」を感じながら
両手の皿に「在る」、虹色に光るブロックノイズを見下ろしながら
その「悲惨」な状況に
私は再び・・・
目を閉ざした