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Adonai's Failure  作者: 白河田沼
第二章 なり損ないと「魔王」の敵対

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第21話 再邂逅

香る香る

肉の匂いが、死体の香りが



香る香る

血と肉と骨の焼ける匂いが、人の焼けるむせ返るような香りが



それは煙とともに多くの者を巻き上げ空に橋を架けた、歪な橋を

穴の空いた空に、晴れ渡った空に




「はえ~すごい煙だね。」

それをただ無邪気に少女、シアは見ていた。

そこに人の死体が転がっていると知って、

遠くからのその景色に少女は感嘆の声を上げる。



シアは知っていた。

禍根鳥が手当たり次第に街に侵攻し侵略することを

侵略した街を、「自治区」を滅ぼすことを



だけれど、シアはこう考えた。


「可哀想な人達、私達に歯向かうから。」

予想外の人外のようなシアの言葉、その様子に戸惑う者はいなかった。

なにせ彼女の周りの殆どが操られた魔物や魔女(ウィッチ)の大群であり軍隊であった。

赤紐の赤子をあやしながら、バフォメットと19号を探す。



先の魔術での攻撃によって殆ど火に包まれていると知って尚である。


魔術

それは魔法を使えない者にも扱える、神秘。程度の低い魔法。

それはあらゆる面で魔法の劣りながらもあらゆる面で凌駕していた

例えば燃費、例えば操作のしやすさなど、全体的にそして絶対的に「扱いやすくない」のが魔法であり、

その正反対の性質を持つのが魔術であった。


最も威力も低いのが痛い所ではあるのだが、しかしこれらによって出された「戦果」たるその街も、随分と遠くなってしまった


そんなことを想っていれば声が掛けられる



「何をしている。」

・・・そこに立っていたのは、

処刑対象の元色欲の魔女の代理、禍根鳥憂喜であった。






「この子をあやしてるんだよ、19号から預けられてね。

・・あの子も探してるんだけど、どこにもいなくて。」



「何をしているのかと聞いているのだ、だがこの感じ。」



「また演技か。」

その見抜いたような禍根鳥の言葉にシアは顔を歪ませる(正す)

そこにいたのは女神

唇を黄金比に整え清楚に目を細めた

女神そのものの姿だった。


・・そう彼女は演技をしていた、禍根鳥と19号に「計画」に加わること()()()()()()()()()()()()()()()()



()()()()()()()()()()()()()()、「()()()()()



彼女に声を掛けられた時のことを思い出す。

裁判前、時間が空いたあの時。

19号を後ろに侍らせながら彼女は聞いた。



『私達についてきたまえ、さすれば君の知りたがっている██を教えよう。』


その言葉にシアは頷いた・・・・



・・そうしてシアは「計画」に従う”予言の魔女”となった。

計画の通り、怒り。計画の通り、煽った。計画の通り絶望もした。


故の恐怖、故の狂気だったのだ。

微塵の逡巡も無かった返答、そしてその結果の醜態と痴態そして媚態に

けれど少女はすぐに笑みをしまう。


いつもの笑みに戻ったのだ、戻せたと言ってもいい。

()()()()()()()()()()()()()()()()



「まぁいい。少女、貴様が何をしていたか、今、聞いているのだ」



「・・・・・・・」

その疑念に満ちた声、その主である禍根鳥に猜疑の視線をシアは向ける。

目隠し越しにも分かる禍根鳥が齎したそれに疑問を覚えなかった訳ではない、シアである。

「何故、何も聞いてもこないのか」「何故何事も無かったように話を戻したのか」と疑問に思わない訳がないのだ。

しかし、それに突っ込まない自制心もシアは既に持っていた。

人間いつまでも子供という訳ではないのだ

けれど少女は少し笑みを深めれば、率直に話を合わせる。





「ただ見てたよ、()()()()()()()()()()()()。」

そう言えば赤子を片手でピザ職人よろしく人差し指で回転させながら、スカートのチャックを「あやしていない」片手で開きあるものをシアは取り出した。

十字の瞳孔に金色の瞳の目玉。

それはぎょろぎょろと辺りを見渡し禍根鳥を見つめた




「君ら全員と「七十二字騎士団」に配ったそれだが、果たして効果はあったようだな。」



「・・何の話?ちょっとよく分かんない。」

戯けたような返事をしたシア華麗に無視しつつそして彼女の「あやし」を無視して野太い声の少女、禍根鳥は言葉を紡ぐ

その左右非対称(アシンメトリ―)な黒布の目隠しを整えながら禍根鳥は説明を始めたのだ。




・・この「目」は仲間全ての者に配られているものである。

操られて自我の無い魔女(ウィッチ)魔物(モンスター)にさえ配られたそれはある役割を果たしていたのだ。

その機能は単純明快、視界含めたあらゆる情報の同期にあった。



これによって一部の手練れ達を用いた隠密行動の末多くの魔女や熟練の魔女(ウィッチ)、ひいては魔女の代理の情報を手に入れることが出来た。




「つまりは敵の情報を手に入れることが出来たということだよ、少女。」




「おお、凄いね。よくわかんないけど、情報の同期も収集も同時並行って感じなんだね。」

ただ情報を与えた言葉に頷かずシアは、禍根鳥は続けた。

五感以上の機能があるが故のそれ以上であるのだと、つまりは視覚、聴覚、嗅覚、触角、味覚を超越した第六感の実装という訳だ。

それを収集し続けているが故に、同期し続けているが故に


これがあれば敵の作戦など筒抜けも同然であると、禍根鳥は静かに言った。




「・・・・・・・」

赤子を人差し指の上で回しながら即ち「あやしながら」手の平に収まる金の瞳の目玉を沈黙しながらシアは見つめる

十字に割れた瞳孔に既視感を覚えかけ、けれど思い出した。

これは19号の瞳と傲慢の魔女の代理と()()()()()()()()()()()


しかしそれは心にしまう、

()()()()()()()()()()()()()()


それに触れるのは()()()()()()


だからこそこう言った



「貴方の言いたいことは分かったよ、つまりそれは超すごい機械ってことでしょ。」と

しかし慈悲深くも表情を変えずに禍根鳥は言葉を紡ぐ

その言葉は当然のように否定の言葉・・・



「違うが。」

であった、予想通りのその言葉はしかしこれは機械では無いのだという禍根鳥の言葉から何かの説明が始まるのだとシアはそう理解した。

しかしであればどう定義するのか、迷うシアである


目玉、金の瞳の目玉

十字の瞳孔を持つそれは傲慢の魔女の代理、明星葵と19号と同じ瞳である・・可能性がある。

可能性としては再現しただけの機械、あるいは魔道具という可能性をシアは考慮していた。

しかしこれらはおそらく間違いであることもなんとなしに理解する。



・・これは一体何なのか、けれどその問いを彼女に投げかけるわけにもいかない。

だからこそ、今なのだ。



今、少女は好奇心と敵愾心の狭間で揺れ、しかし・・・



「なら、いいや、貴方が何も言わないなら私は貴方を信用するよ。」

白々しくも思えるシアの言葉に対して静かに禍根鳥は理解する。

どちらも選ばなかった

シアは()()()()()()()()()()()()()()・・と



()()()

女神の笑みを浮かべながら人差し指の上の赤子を空にシアは上げる。




赤子が回転する。

赤い紐を輝かせながら空から降ちる直後に飛ぶ影があった。


地を蹴るような音の後見えたそれは黒い外套だった。




魔導具、

それは魔術によって造り出された道具の総称であり、象徴である。

多種多様の類目はしかし当然のように数えきれずにそしてその力、即ち効力にも赤子も殺せないものから魔女の代理に届き得るものまで多岐に渡るそれは、

金の瞳の目玉から魔導人形(オートマタ)まで多くのものが当てはまっていた。




そして黒い外套でさえ外套(シミュレーター)とも呼ばれる魔導具であったのだ。

魔導具の側面を持ちながら多くの側面を持っているもの、魔術と魔法の代用品。



それを纏った彼女は19号、国家近衛部隊、

通称”旗持ち”の副隊長にして魔女(ウィッチ)である。


・・・19号(ニンゲン)バフォメット(プネウマ)が二人そこに現れた






「久しぶりだね、19号、プネウマ。」

その幼くも思えるシアの言葉に口を噤む19号である。

正確にはその表情、顔に。

振り向いた彼女の貌には、シアの顔には、あまりにも人間離れした笑みが()()()()()()()()()()()()

しかし瞬きの内にそれは消えた。

いつもの少女の、なり損ない(フェイラー)の笑みだ。


この状況で、

人が、街が、瞬時に蒸発し焼き尽くされたあとの煙と香りを嗅いで浮かべる笑みなのかと言えば違うと19号はしかし断言出来た。



()()()()()()()()()()()()()()()()、あの時と違って彼女にも自制心があるのだ。



「貴方達は何してたの。」




「・・・・・・・・」

ただ純粋にも思えるシアの言葉にしかし19号は再び口を噤む

シアの言葉に口を閉じる。

何せ今、彼女は命令を遂行していたのだ。

世界を聞き見て感じるという命令を

命そのものの価値を持つそれを損なうのは「死」に等しいものごとであった。


故に彼女は見ていた、自身の命より遥かに価値のある「命令」を守るために

そして19号はある者の前に、立つ。


「ご苦労だった、19号。」




「ありがとうございます、マイマスター。」



「次の命令だ、シアと共に居なさい。」

その声に頷かずにただ口を開き声を禍根鳥は掛けた、

慈悲深い彼女の口調に19号は頷く。

19号には主が居たのだ、その名前は禍根鳥憂喜、『処刑対象』の元魔女の代理である

『処刑対象』その根拠は三つに分かれる


まず一つ目は魔女(ウィッチ)を裏切った者

二つ目は規則に準じなかった者

三つ目規則を新たに造り出した者

計三つの行為どれか一つに触れれば此れ全て『処刑対象』となるのだ。

その解釈は逮捕する側に任せられるのだが、大まかに判例に乗っ取っている。


判例

裁判所が特定の事件に対する示した判断と解釈そのものである。

これらによると上記の二つに今当てはまるのは19号、プネウマ、シアそして赤紐の赤子である。

この理由としては、規則に準じ裏切り者に剣を向けずあまつさえ行動を共にし仲間として魔女(ウィッチ)を裏切ったが故の処罰である。


赤紐の赤子場合は別の問題であるのだが

しかし禍根鳥の触れた法は、当てはまる罪科は当然これら三つ全てである。


しかし彼女はこれらの事実を気にしない、()()()()()()

故に彼女の目的は一つ・・・・




「しかしゆめ忘れるな、我々の目的はただ一つ魔女(ウィッチ)を殺し尽くす事だと。」


「ええ無論ですとも、」

そう慈悲深い禍根鳥の言葉にただ冷たくけれど決意を滲ませながら19号は言葉を返した

その声にシアは目を見開く、なにせその声は確かな決意に満ちていたからだ。

しかしそこには微かな安心と安堵、そして何かがあった。


その何かが彼女には見逃せなかったのだ。



「彼女ってばあの人のこと好きなの?」


「あ、何の話だお前。」

そう恋愛について話す年頃の少女のようにプネウマにただ問うシアである。

彼女には分からないであろう言葉はしかしシアには疑問の余地を挟むことはない。

いいやむしろ出来ないと考えた方がいい。

なにせ、彼女には全てお見通しであるのだ



読心魔法

それは魔女(ウィッチ)なり損ない(フェイラー)の基本能力である。

心を読むというその魔法は、

魔術の基礎にして魔法の秘奥であるそれには誰もが到達でき、誰もが到達できない。

正しく「魔法」その一端である。


その力を得たシアは知っていた。




()()()()()()()

()()()()()()()()()()


だからこそ分かるのだ。

彼女の心がそれは・・・・



「気のせいだろう。」

その言葉と共にプネウマは答えた。

横にいるシアの顔を

影に掛かったその貌を無視して。





・・・そうして顔を上げるシアである。

どうして今、目つきが変わったのか

どうして今、唇が笑みの形に変わったのか

どうして今、顔を上げたのか

シア自身が一番知っていた、何故ならどうなるか分かっていたのだ。

なにせ・・



「知っていた、貴方がここに来るのは。」




「ねぇ、クリミナ、葵。そして久しぶり・・・・」

そうただただシアは言葉にした。

そこには居た、冷たい赤い瞳を持つ短い黒髪の少年、井伊波乃瑠夏が

私達と自我の無い魔女(ウィッチ)魔物(モンスター)、その大群の前に





「ねぇ、クリミナ、葵。そして久しぶり・・・・





井伊波乃瑠夏。」

その現実離れしたような言葉に反応する者は私にはいなかった。

私達三人と一人の赤子、自我の無い魔女(ウィッチ)魔物(モンスター)、その大群の前に

多くの言葉が予想されるその先は

少なくない言の葉が飛び交うその後は


訪れなかった



けれど

ただ返された答えは一つだけった

それは他でもない


「「拘束」。鈴までいるんだ。」



「お主、少々馴れ馴れしいぞ。「暴食の魔女の代理」相手に。」

「最も()()()であり代行会にも所属しておるゆえ、人のことは言えんのじゃがな。」という言葉を意識しかけ、シアは黙殺する。

自身が「拘束」を受けている、その事を体をぎしぎしと動かして確かめる為・・では無い。

「拘束」中に動けないのはなんとなく察しが付いている。

だからこそある一点に目を向けるのだ


認識阻害魔法、それを()()()()に掛けたのだ。

自我の無い魔女(ウィッチ)魔物(モンスター)、その大群がこの場から消える。

それには多くの者がすぐに気づいたが無視をした。






時ではないと、必要ないと()()して



・・幼女、ソレを見つめる

前と変わらない黒い外套に黒い衣裳、けれど前と異なる落ち着いたけれど殺気に満ちた態度、

それに目を見開く。

「拘束」を受け動けないシアにとっても瞠目するべき事柄が確かにあったのだ。

正確に言うなら先程、燭台の間であった時以上の殺気に目を開いた

単純に以前会った時にもまして殺気立っていたのだ。



そんな様子の19号、そしてクリミナにしかしシアは息を吐き出した。




「・・・クリミナ、正直貴方にはがっかりだよ。」

その言葉にただ目を細めるクリミナである。

一つの舌打ちと共にこちらを侮蔑の目で見る彼女は平静を取り繕いながらも口を開く。



「ここに来る目的はまず一つ、禍根鳥以外のお主らの処刑だったのじゃが。事情が変わっての。

勿体ぶる必要はないから言うのじゃが、お主らには三つの選択肢があるのじゃ、「代行会」の名においてな。つまり・・・・・・」





「死ね。」

そう冷ややかにクリミナはただ怒りを込めてシアに告げた

処刑対象の三つの基準についてこの時、シアは知っていた。



まず一つ目は規則を新たに造り出した者

二つ目は規則に準じなかった者

三つ目裏切り者


計三つの行為どれか一つに触れれば此れ全て『処刑対象』となるのだ。

解釈も無暗矢鱈に許されないそれは

解釈自体は逮捕する側、そして裁く側に任せられるのだが大まかに判例に乗っ取っている。

多くのことが「方法」として許されるその行為にも、しかし違反行為が存在したのだ。


それこそが武器の不使用である。




けれど幼女は、

クリミナは取り出した、杖を取り出したのだ。

死にかけた戦いですら出していなかった、その杖を、殺意のままに。


その杖は刃物の形をしていた。

正しく言うならそれは剣である。

柄はなく、

鍔もない

装飾さえない、ただの剥き身の()()()()()()()()


反りのあるそれはまるで水のようにぬるりと腰から抜かれた。


鞘は無い、けれどそこには躊躇いも無かった。

当たり前のようにマゼンダ色の物質の最小単位(霊子)から作り上げられたそれを見て

しかし少女の心は死んでいくばかりである。



こんなのはつまらないのだ。





「ッ・・・・・・・」


「遅いよ、クリミナ。」

避ける



避ける


避ける

()()()()()()()()()()()()()()()()全ての剣戟を須らくシアは避ける。



それに目を向けど、理解が追いつかないクリミナである。

当然だ、()()()がここまで約に立たないと思わなかったからである。


例の物

それは「拘束」の契約その発動に必要な「力」であった。

正確に言うなら、それは魔力である。

魔女の血を以て課される制約の一種であり誓約の一つの形である「契約」、

それは14の形に分かれているのだが、それはその中の一つであり契約そのものであった。



それは当然ある者からの()()()であるのだが、



幼女はそれが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


()()()()()


・・・けれどその合間に幼女の前に立った。



「ねぇそれどうやって作ったの、黙ってないで教えてよ。」


「お主一体どうやって動いて・・・それに少々うるさいぞ、お主。」

いつものように微笑み問いかける、その何を考えているか分からない不気味な程自然なシアの微笑みそれに一つ舌打ち切り伏せんとクリミナは手の平を振り上げる。



掲げられた鉄の塊に少女は目を奪われていた。その鏡面に、その輝きに




けれど刃紋刻まれた、刀身(手刀)

切っ先に力を込め振るえば、風が吹き荒れる



「はは、危ない。変な気分になっちゃうじゃん。」

しかし取らえられられない、

どころか冗談を返される始末である余裕なのだシアは、そうクリミナは理解した。


「皆は、一体何をしておる。この状況で消えた魔物(モンスター)魔女(ウィッチ)の大群よりもこやつが一番のターゲットじゃぞ。」

少し情けないような言葉を発しながら周りを観ればしかしクリミナは眉を顰める。

そうしてあたりを見れば、止まっていた。

正確には、動いていなかったのだ。自体が、事態が


膠着状態

物事が進まず、あらゆることが進展せずにそのまま止まった有様そのものだったのだ。

話をしている者もそこには居た。

19号と傲慢の魔女の代である。


「ッチ・・・」

それに何の気なしに舌打つクリミナはしかし気付かない。

シアの魔力が異様に少ないことに。

魔力が足りていないという予想はついていた、()()()()()()()()()()()()()()()()()疲労なのだ。

そうそう治る筈はない、一日程度では治りきらないとも思っていたシアであるがそこには


鈴、「魔王」の拘束か、禍根鳥の呪いかと疑ったその時に、隙が出て来た。

しかし、振り向く

本気の一撃に、彼女は振り向いた。




「ようやく焦ったな。」


「・・・・・・・・・・」

沈黙し見上げるシアを見ているのは他ならないクリミナである。

ブン、という音迫る中、風切る音迫る中瞬けば

影が視界を覆っているそのただ中で


二つの(みどり)が光を放っていた

化け物のように、怪物のように

そこに居たのはあの幼女、クリミナだ。



その(みどり)の瞳が今丸く見開かれ、シアを見つめていた。


ある瞬間を見つめる為に。



そう、シアの「死」を

時間が止まったような時間の中で、()()()()()()()()()()()()()()()




「・・・・・」


「・・・・・・へぇ、やるのう。」

しかし、キンという音と共にシアが黙して見つめる中、クリミナが感心する中

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

その剣は止められたプネウマに











指一本で








プネウマには秘密がある



この言葉には当然多くの秘話や裏話がある。

まず、プネウマは一人ではないとか、禍根鳥は一人()()()無いだとか

謎めきの多いその噂の中で、噂話の中で

その意味を、知る者は少ない。

けれどただ一つ彼らの知っている事が合った。



()()()()()()()()()()()()()()()()


()()()()()()()()()()()




前者ではなく、後者なのだ。

周知の事実ではなく、噂話としてのそれらはしかし今、認められた。

認識阻害魔法、それを()()()()に掛けたのだ。

自我の無い魔女(ウィッチ)魔物(モンスター)の大群をあの場から消したのは19号の実力であるが、消し去るならば、この場にいる者の中で禍根鳥をおいてバフォメットにしか出来ない所業であった




()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




「お前、大丈夫かよなり損ない(フェイラー)。」

その言葉にただシアは頷きはまたまたクリミナは視線を逸らして舌打つ

しかし二人がこう反応するのも無理はない。

・・・何せぷかぷかマスコットよろしく空に浮かびながら指一本で刀を受け止めている、そう文字通りの意味で今、


プネウマの状態はこうであった。

信じられない、という言葉が幼女が、クリミナが思い浮かべる。

そうこれは信じられない、合ってはならないという状態であった。




魔女達をまとめ上げる魔女の代理、その総称たる「大罪代行会」

魔女の代理達のみのその会にはしかしある者もまた所属していた。


副代理

魔女の代理を支える者

即ちこの世界最高戦力の彼らの補佐をする大罪代行会の実質的なNO.2達である


()とつくように

その数は大罪の魔女の代行である、魔女の代理一人につき一人であり、()()()()()()()()()()()()()()()()で構成された、訳アリ、厄アリの問題集団なのであった。



そして・・




「・・・・・・・」

目を細め黙して視線を向ける彼女こそがその幼女、クリミナこそが「副代理」である。

担当している「傲慢」と縁のある傲慢の嫡子である彼女はしかし今、見せつけられていたのだ。



現実を、力の壁を



「魔力が足りてない、「拘束」のせいかと思っかったけれどそこにいる禍根鳥さんのせいかも」



「問題は無い筈だ、おそらく、お前の仕業であろう。」



「クリミナ」

淡々とけれど冷たく名を呼ぶバフォメットの言葉にしかしクリミナは沈黙で返した。

魔女の血を以て課される制約の一種であり誓約の一つの形である「契約」。

それは魔女の血に課せられた命題であり、課題そのもの。


そして今クリミナが持つ彼女との、「魔王」との契約の元は魔力であった


それは「拘束」の契約その発動に必要な「力」である。

正確に言うなら、それは魔力であるのだが

魔女の血を以て課される制約の一種であり誓約の一つの形である「契約」、今、それが破られた。



「・・有り得ない。最強の魔女の課した「拘束の契約」じゃぞ。」

そんなかませ犬のような反応をしてしまったのはクリミナである。

しかし無理はないのだ

魔王による力が破られた

・・そう、他ならないプネウマによって

他ならない悪魔(バフォメット)によって

これは予想が難しい事態であった。


「次は、もう少し本気で拘束することだ。そう「魔王」に伝えろ」

そんな不遜にも自信に満ち溢れたバフォメットの言葉の後

体がひび割れる

魔力がひび割れる

そのただ中、自身が割れてゆくただ中クリミナは見た



契約の死を

最強の魔女の代理の力の()()、その敗北を




開け(閉じよ)、門よ。」

その言葉と共にパキリとクリミナが、世界が





割れた。








開け(閉じよ)、門よ。

この言葉は魔術である。

「命令」を用いて使われるそれはしかし一部の者にしか扱えない、魔法の域にある魔術であるのだ。


魔法

魔法とは魔術の到達点にして極北。全ての魔術を超えた魔術ではない何かを指す。

これらは人に依り多くの差異があるものの一つの共通点が示されている。

それは”そのモノが抱きうる最も強い欲望”と直結していることである。


つまり魔法の行使とはある種の自身の魂の表出と言えるだろう。




それ故に多くの者はあまり「魔法」を使わない。

それが魂の表出である以上、自身の魂を見せつけるようなもの

即ち自身の「秘密にしたいこと」を全て語るのと同義なのだ。


故に魔術か魔法どちらでも補えるならば人々は魔法ではなく魔術を用いることだろう。





それを、それ()()()()()()()プネウマは使ったのだ、


他ならない幼女(ウイッチ)の肉体に、世界ごと。



幼女粉々にされゆく中、シアは見た。

幼女(クリミナ)の死にゆく姿を、割れ行く彼女の身を

そしてバラバラにされた、ガラスのように砕けて散った幼女の姿を



けれど彼女は見ることが出来なかった、見れなかったのだ。






「・・・・・・・・」

沈黙してただ見つめていたのはシアあのシアである。

狂人の演技をしていた彼女は黙してただ見つめていた。

マゼンダが集まる、霊子が束になり渦になる。

その渦の中で

砕け散っていた筈の幼女(クリミナ)()()()()()()()()()



「・・・・嘘ですよね。霊子の絶対優位性ってまさかそういう。」

驚きを微かに滲ませる19号の言葉に葵もシアもプネウマ()()意識を冷ましこちらに目を向け、目を細める事をシアは理解した。

横に伸びた瞳孔、黒いそれは山羊のようなその黄色に染まった結膜と合わさり不気味な印象を普段多くの者に与えていた。

しかし・・・感じていたのは




「頼もしいじゃん、プネウマ。」

そう頼もしさだったのだシアが感じていたのは

目の前で浮かぶ悪魔(バフォメット)、剣を、そしてクリミナの体をも砕いた彼女に対する、「それ」。

そのずれた感性。

外れた倫理観のネジをしかし、許さぬものが一人いた。




『少女、あまり調子に乗るな。先程から目も当てられんぞ、』



『・・・・禍根鳥!』

そう白髪を二つ結びの左右非対称(アシンメトリ―)の目隠しをした少女、禍根鳥である

赤子の泣き声響き渡る中、野太いその声はしかし今回は的確に適切な言葉を紡いだ。

その言葉にけれど少女は笑みを浮かべえる。


・・・少女(シア)から()()()()()()()()


『・・・何か企みがあるようだな。お前のやりたいように、やるといい。こちらも「頑張ろう」。』



「わかった、私も頑張るね。」

その含みのある言葉と共に念話は切られた事をシアは理解した。

マゼンダに縫い合わされてゆく幼女がそれを見つめる中

()()()()()()()()()()

認識阻害魔法、が解かれゆく中

赤紐の赤子の泣き声が満たすその中、

自我の無い魔女(ウィッチ)魔物(モンスター)、その大群が姿を現すその中で



少女が再び、



微笑んだ。






予言の魔女

黒い髪に朱く縦に割れた瞳孔白い瞳そして赤く染まった結膜。

止めの手の平を横断して刻まれた奇妙な亀裂、赤い爪。


驚異的な力を持つかの魔女(ウィッチ)は、多くの謎と比類するものは無い実力を持つ。

予言に記されたその姿は異様ながら、その立ち振る舞いや空気感によってある言葉に昇華された。


神聖、

神なる者のみ纏うその空気はあらゆる者を圧し、けれどあらゆる者を愛す

憎悪と憤怒、欺瞞によって生まれそれを司る彼女はしかし語らない。


過去の秘密と未来の正体を


世界の真相を



「・・・・・」


「渦が止まった。」

沈黙したプネウマの存在故か言葉がただ空間に響いた事をシアは理解した。

渦、それが止まる。

中心、マゼンダの中、丸いその渦成りし繭の中心、


何かが破れる音が聞こえる

それは麻布を破るようで絹を破るような

繊細な布地の悲鳴であった。



それが赤紐の赤子同様に一際大きくなったその時




ピシリという音の後スッと腕が顔をだした。

その透き通った手腕それが握り込まれれば、

元であるように、

根源であるように

金が染みるように染まる、染まってゆく。


渦が、マゼンダが、金に染まったその時



それが散る。

手指他ならない手刀によって切られたのだ。

硝子細工のように地に舞い落ちるその様は、その場にいた多くの者の目を引いた。



「・・これは」


「・・・・・・・・・」

・・暫しの沈黙と静寂の中、その場にいる全てのものが見守る中バキリと幼女の目蓋(亀裂)が開いた

金髪金眼、絹のような髪に釣り目がちながらくっきりした瞳の幼女、

()()()()()()()()()()()は、

まるで日本刀のような手刀を左手に携えた彼女は金に染まった渦成りし繭、その欠片とマゼンダ色の霊子(ひかり)、変質したそれ、黄金で出来たその繭を()()()()そこにいたのだ。


黒い衣裳に身を包みながら、羽織った外套を腰に堂々とあてがう。

ぎゅっと袖丈を結んだ彼女が目を開ければ

そこにはいた




19号と明星葵

赤紐の赤子を抱えた禍根鳥と井伊波乃瑠夏

そしてシアとプネウマが、ある者は興味なさげに敵を見遣りつつ、ある者は敵とにらみ合いながらも、見つめていた。



しかし彼女達もまた目撃する。

金髪金眼の幼女、その姿を。

黄金と微かな霊子(マゼンダ)の中、黒い衣裳を着込み黒い外套を腰に結んだ幼女の姿を、

()()()()()()()()()を以て地を踏みしめる魔女(ウィッチ)の姿を、


霊子(マゼンダ)が黄金と成る。

この場にこの姿を識る者は少ない。

決していない訳ではないが彼女の本気を見た者は数が多くないのだ。


そしてそれには・・・




「うわあ、何それ。」


『・・・・・・・・・・』

そうシアもいた、含まれていたのだ。

彼女もただ愉快気に笑いながらも「うわあ、何それ。」と告げながら。


彼女は覚えていなかった。

あの時自身が何を以て暴走したのかを

何を以て心揺さぶられたのかを

彼女の血に染まった体躯と金の瞳を


そのまま全て



『貴様、本当に覚えていないのか・・・』



「・・・なんの話?」

わざとらしい程の調子でおどける彼女はけれど振り返る。

先の禍根鳥の問いかけにではない、ただそれに目を向ける

けれど幼女、クリミナにはシアを見遣る必要はなかった





「・・・・・・・」



「あ、成程、そういう感じね。」

理解したようなシアの言葉にクリミナは反応すら返さない。

何故ならそこには居たのだ。


黒の壁が、

異形の怪物が、黒い怪物が

魔物(モンスター)魔女(ウィッチ)の大群にして軍隊である。

19号が認識阻害魔法を解いたのだ。()()()()()()()()()()()



魔女(ウィッチ)

不老不死であり今生きている生き物の中での最優種

魔女の血によって覚醒する彼女らは大きく三つに分けられる


一つ、生まれながらに魔女(ウィッチ)な者

二つ、魔女の血を飲んで魔女(ウィッチ)と成った者

三つ、「魔女」あるいは魔女(アドナイ)に力を授けられた者


それらの違いについては当然、持った力の理由である。

まず一つ目は神に見初められた者

二つ目は神の試練に打ち勝った者

そして三つ目は神、魔女(アドナイ)に使命を託された者である。


立ち塞がったのは熟練の魔女(ウィッチ)含めた精鋭、その成れの果て、そして・・




「・・成程これは、分かりやすいね、プネウマ。」


「・・・・・魔物(モンスター)か。」

魔物(モンスター)と呼ばれる存在だった事をプネウマとシアは理解していた。



魔物(モンスター)

最優たるものと最強足るモノが行き着く世界の癌。

この世界を飲みこむ脅威、その一つ。

これらは多く三つに分けられる。


まず一つ目魔者から堕ちる者

二つ目魔女(ウィッチ)から堕ちる者

三つ目生まれた時から堕ちた者


であるけれど例外が一つ、それは意図的に堕ちることである。

これは魔女(アドナイ)のみが成した「御業」の一つである





『・・違いますよマスター、この感じ。』


『・・・魔物化(ヴァイオレント)か。』

状況を観察しながらの念話その言葉を無視するような19号と禍根鳥にクリミナは、

腕に抱かれた赤子の泣き声をも届かない彼女に

魔物(モンスター)魔女(ウィッチ)達は跳躍する


虚ろな瞳のまま

幼女目掛けて跳びかかったのだ




大群が。

魔女(ウィッチ)魔物(モンスター)の波が

・・波のように空に浮かぶ中、幼女は一言口にする。




解けろ(縛れ)

ただ一言口にすればその時にクリミナの言葉故に

瞬時大群が、軍隊が止まった

大河のような、荒波のようなそれは一つ大地を踏みしめれば止まった。



黒い霧が

縛っていたのだ


あらゆる部位を腿から目蓋、髪の裏やつむじに至るまであらゆる関節、あらゆる急所を締め上げていたのだ。



御業

魔女の代理にのみ許された魔術と魔法の心髄を指す言葉

元来魔女(アドナイ)の起こす奇跡とその影響により起こる事象を指す言葉だったが転じてその一端である大罪の魔女、そしてその代行でもある魔女の代理の並外れた魔導の力とその結果の意で使われている




「・・・・・」



「・・嘘、凄いね。クリミナ。」

黙りながらクリミナの言葉を聞き流す、今言葉を聞く事がシアには出来ないからだ。

今、縛っているのは正にそれ「御業」と呼ぶに相応しい並外れた魔導、そのものだった。


粉々になる


粉々になる


粉々になる

黒が黒々と細々と

魔物(モンスター)魔女(ウィッチ)、その残骸は降り注ぐ



降り注ぐ


降り注ぐ


降り注ぐ

赤が赤々とボトボトと

血の雨が、腸と骸、人だったものが

黒い霧が(かたち)を失う中で

「御技」が砕け散る中で。

その中、赤と黒入り混じる雨の中幼女(ウィッチ)()()()()()()()



睨んだ。



「・・「御技」が破られた。まだ、みたいだよ



クリミナ。」

ただ一言が告げればそこにはクリミナは在った。

それは瞬きの内に迫り

それは瞬きの後に眼前まで肉薄していた。

眼球、その白いコラーゲン、ゼリー状のそれ、

主成分たる鼻や耳を構成するそれに魔物(モンスター)魔女(ウィッチ)それが迫るその中で。


閃光が奔る

その手に握られていた杖は手刃の形をしていた。

正しく言うならそれは「剣」である。

柄はなく、

鍔もない

装飾さえない、

ただの剥き身の()()()()()()()()

両刃であるそれはまるで水のように・・・ではなくただ抜かれたのだ。



そう正しく「光」のように

その剣は先とは違い黄金の光を放ちながら、それそのものと成りながらも断った。

一閃で






魔物(モンスター)の首を、魔女(ウィッチ)の目玉と脳を






「・・・・・・」


「流石だなよそ者とは言え嫡子は、嫡子。奴を選んどいてよかったんじゃないか、傲慢の魔女の代理(やつら)は。」

十字の目玉が割れ、臓物と脳髄が落ちていく状況に、沈黙したシアにけれど他の者は頷かないと考えるプネウマである。

もうすでに切り替えていたのだ。

意識を目の前の相手に


「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・始めましょう。」

そう長く沈黙しつつも相手を見つめながら葵に対して19号は霊子を集める。

マゼンダから編み上げられるそれを傲慢の魔女の代理はただ見つめながらただ腕を構えた。



「・・・・・・」


「さあ、始めようか。」

冷たい赤い瞳を持つ短い黒髪の少年、乃瑠夏は特異な杖を編み上げ

白髪二つ結びの左右非対称(アシンメトリー)な黒布の目隠しをした少女、禍根鳥は腕の中の赤紐の赤子を別の空間に音もなく転移させブロックノイズ(死の魔力)を剣へと結んだ。



戦いが今、(はじ)まる






幼女は戦っていた

突撃を命じられた彼の者たちと

自我の無い魔女(ウィッチ)魔物(モンスター)、その大群、その骸と血の池の前で


予言の魔女と()()()()()()()()()()



「・・・お主、予言の魔女では無いな。」



「・・・・・何のこと。あと喋れたんだねクリミナ。」

あっさりと見抜いたようなクリミナの言葉にシアは疑問を返しながらけれど少し驚きつつ安心した顔で蹴りをクリミナに入れた。

シアの表情の変化も理解しがたい事だが注目すべき点は一つである。

『彼の者、シアの端脚が降り上がり突き刺さる』その一点。

一、二度振るわれたその蹴りは二度ともシアに心地よい手応えを齎したのだから間違いはないと少しだけ自惚れつつ考えているだろうとシアについて考えているプネウマである。



けれどシア本人はそんなプネウマの益体も無い本心を斟酌しない




手応え

確かに命を刈り取ったと感じるそれに魔力で強化した脚を見てしっかりと感じ取ったのだ

けれどシアは眉根一つ動かさない。

油断していないというだけではない。

侮っているのでもない

・・・ある考えが浮かんだのだ、それについて少し思うところのシアである

何せ煙の中、前回とは違い暴走状態でも空の上でもない戦場を識る者は思わず口を覆ういこう考えることだろう。


あの時とまるで同じだと。



「・・・・・」


「・・・・・これいいね、クリミナ。」

沈黙するクリミナにただシアは語りかける。

しかしそれは無理もない、シアは退屈なのだ。

一撃、一撃が空気を削り

一撃、一撃が大地を抉る

されどその場にはバフォメットと彼女二人しかおらずシアの言葉もクリミナには蹴りの影響で届かない始末だ。


腕、胸、首、頭

それらに切り込まれた日本刀のような手刀はしかし全てが交わされ少女の蹴り、そして掌底によって全て弾かれた。

それそのものが幼女の顔を掠めた。



「・・・・・・」


「当たったね。」

ブチという音と共に避けた頬はしばらくすれば煙を立てる。




「・・・・・・・」


「成程、やっぱりか。」

ただ沈黙するクリミナの顔を見ながら沈黙の中バフォメットは理解し深刻に告げればシアは言葉を出して理解を示した。

何かが盛り上がり繋がる音と共に煙が空に消えれば、そこには白玉のような肌がただあった。

・・しかも体中、蹴りによって得た内出血と裂傷、そして掌底による内臓の損傷さえ消えているのだ。

加えて口から吐き出された血の跡でさえ煙とともに消えているのだ。


バフォメットは、シアは、この再生の仕方に覚えがあった。


予言の魔女

その再生方法である。

あの時のシアは血の跡でさえ残らずに再生していた。


一つも残っていはしなかったのだ。


これが示すことは・・


「・・まさか、貴方も()()()()()()


「可能性としては、在り得るか。霊子の絶対優位性を持つマスターピースでもあるしな」

意味深な思考をしていたプネウマとシアその思考の余白に剣が滑り込む

光と化したその手刀はシアの脳天目掛け振るわれる。



・・遅くなる世界。

これは錯覚ではない。

これは感覚の倍加によって引き延ばされた時間。

それを瞬時に入った走馬灯の間に、引き延ばされた時間の間に「模倣」したのだ。


()()()()()()()





「・・・・ッ」

頭が、頭が痛む。

シアは直感した魔力を使い過ぎたのだと。

先の「模倣」において、


端的に言えば「拘束」を受けたのだ。


拘束、それはどうやら魔素の合成と魔力の出入りにおいても制限をするのだと今悟ったのだ。

おそらく魔女(ウィッチ)やあの白い竜、なり損ない(フェイラー)においても


()()()()()()()()()()だと

黄金の霊子(ひかり)、頭の上、髪の毛先すれすれにあるそれに向かって。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・

キンと音が鳴りビキリと剣に罅が入り、割れた。

魔素であるが故に手指は折れていたのではない物の重体である何せ武器が無いのだ。

このままでは戦いにすらならないとクリミナは理解してきた。



「「拘束」が、何故わしに。」

けれどある種呑気にけれど緊迫感に満ちた声でただ疑問を言葉にしたクリミナである。

金の瞳が色褪せていくなか、黄金の光舞う中

矮躯がピタリと動きを止めた。

まるで何かに止められたように

()()()()()()()()()()()()

その幼女の、クリミナの言葉に、その動揺の言葉に少女(シア)は少し、けれどゆっくりと・・・


笑みを深めた。






副代理

魔女の代理を支える者

即ちこの世界最高戦力の彼らの補佐をする大罪代行会の実質的なNO.2達である


()とつくように

その数は大罪の魔女の代行である、魔女の代理一人につき一人であり、()()()()()()()()()()()()()()()()で構成された、訳アリ、厄アリの問題集団なのであった。


しかしそれを上回る者達はある一つの集団しかない。


魔女の代理

大罪の魔女の系譜であり全ての魔女の頂点に君臨する鏡の世界(クルシア)最大最高の戦力である。

七罪都市という都市国家を各々統べる統治者でもあった。



そう、そうだったのだ。

それが道理であり故に彼女の勝利は、クリミナの勝利は揺らがない筈だったのだ。

そしてその「上回る者達」にも秘密があった。



しかしそれを支えるものがあったのだ。




魔女の血から創られたそれは

魔女(ウィッチ)にとって魔力を生成する機関であり機構。

魔女の血を飲めば与えられる魔女(ウィッチ)の武器である。

かつては支えや支柱、そして安らぎを与える為の神聖な神器である。






それは解消、破棄、撤回の三つに分かれており。

この中での最も弱いものを解消杖、次の物を破棄杖、そして最強の物を撤回の杖と呼ばれている。



「・・ッ」



「・・ハハ。マジかよ」

しかしそれは解かれた

他ならぬ()()()()()()()()()()()()()()()()()、それに呼応した「抗体」と「拘束」によって・・そうクリミナとパフォメットは理解した。



抗体

魔女の血の暴力性、そして危険性を悉く封じる秘跡。

神殺しの槍(ロンギヌス)に残されていた正体不明の力を千年の研究の後解析し応用したもの。

原理そのものは分かっておらず、それを研究した者でさえ今は裏切り者となっている。

その為、原理解明は不可能であるとも言われている、そしえもう一つ。


「・・・・」


「・・・・・・あり得ん、そんな馬鹿な。」

目線を合わせしっかりとこちらを見ながら黙するシアを見てただクリミナは理解する。

魔物化(ヴァイオレント)

魔女の血の暴走そのものであり暴力そのものである。

「抗体」によって抑えられたそれは、普段魔女の血の中に深く沈んだ()()()、その具現化であると伝えらえられていたのだ。


それが解かれた他ならぬシアとクリミナの杖、それに()()()()()()()()()()()()()


鈴の「拘束」ごと


「・・「魔王」の拘束を破るか・・まさに()()()()()じゃな。だが、どうでもいい・・杖よ!何故裏切ったとは言わん何故逆らった!!」

砕けた杖は黄金の光と化して動揺してクリミナの周りをただ、漂っていた。

まるで「力」を行使していたあの時のように

まるで主の元へと還ることを拒否するように、()()()()()()()()()()


動揺は無かった、

あったのはただ驚きだけであったのだ。


けれどそれ故に

その言葉にシアはこう答えた。

クリミナとバフォメット(プネウマ)の前で。




「模倣だよ、私の基礎能力にして特性。」

不用心に慈悲深く微笑みながら意味あり気にしっかりとシアは口にしたのだ。

けれどそれでは納得しかねるクリミナである。



「・・・あり得ん、お前の今の魔力では到底不可能な筈、予言の魔女(フェイラー)の力も今はあの時から続く魔力の枯渇によって制限を受けている筈じゃ。」


「魔素の合成による魔力の出入りとて「拘束」の前では今、表面上動ける状態でさえ制限を受ける、解除の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


「ならば‥答えは一つ。」




「お主、わしの力を模倣し「拘束」を解除したな。」

し~と唇の前で人差し指を置きながら悪戯気に少女(シア)は、予言の魔女(フェイラー)







笑んだ。

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