第19話 偽りの憤怒
勝敗というのは戦う前に決しているというのはあまりにも有名な俗説であるが
思うにそれは間違いである。
応えは全ての事が既に定まっている、である
全てというのは文字通りの全てである。人間の呼吸から排泄に至るまで誕生から臨終までの一生、それら全てが定まっているのだ。
どうしてか、それは全て女神の導きの下、、、と現世の者は言うのだろう。
あの世界では既に、それらの者達が聖十字教会の者達がその教えを広め実践しているのであろう。
すでにそれほどの時間が過ぎた
既にそれほどの夢を見た
ならばこれは必然的、かつ合理的な推測と言えるだろう
『地上はすでに滅びた、大淫婦が降臨するまであと幾何である。』
予言の一説を思い出す
そしてこうも思い出す
これは預言書のごく一部に過ぎないのだと
命の書に名は刻まれた
預言は成った
人類の平和は果たされた
もう魔女にはなんの役目もない義務も責任も贖罪も
祈りも
なにもかも、なにもかもなくなった
なにもかもなくなったはずなのに、何故ここまで虚しいのか
「・・・・・・・」
少女が佇む
少女が笑う
少女が奔る
少女が死ぬ
それら全ては既に預言書に書かれた規定事項であり「計画」のごく一部に過ぎない、けれどどうしてこんなに胸が締め付けられるのか
「・・・・・・・・・・・」
勝敗というのは戦う前に既に決まっているというのは思うに間違いである
そんな言葉にしかし目を覚まさない
目を覚ませない
目蓋を開くのに何か、決定的な何かがある
「・・・・・・・・・・・・・・・」
少女が佇まない
少女が笑わない
少女が奔らない
少女が死なない
そんな世界が・・・・・
そうして私は目を覚ました
■
白い天井、それは不変である
というのは間違いではない
答えはもっとも汚されやすく穢れが目立ちやすいからこそ、である。
”もっとも”というのは文字通りの最もである。どの色にも染まり、どの色をも染めるその色こそが「最も」という言葉を使うに値するのだ
何故かそれは、単純明快
「我々が常に清潔に部屋を保っているからな、クリミナル・エフェソス。」
そうそうなのだ
そうだった
そう考えた、私は視線を横に向ける
黒い髪に黒い瞳の少女、「暴食」の魔女の代理、鈴
吸い込まれるような黒い瞳と髪を持つ少女は答えていた
瞳を見つめながら
くるりくるりと吸い込まれるような髪を手慰みに人差し指で弄びながら
「何しとんのじゃ。」
「暇つぶし。」
「・・・・はぁ~~~~~~~~~~。」
・・チリンと耳元の鈴が鳴る
耳元の髪を弄りながら何を考えているのかとは答えなかった、それ以上の事を察したのだ。
歯並びが気色悪いほど整っているその「鈴」はギリギリと唐突に歯ぎしりをしだした
隙間から赤覗くそれのその仕草が意味するのはただ一つ
「夜か、お主の「鈴」は相変わらず歯ぎしりがうるさいのう、もう少し静かに眠れんのかその「鈴」は、のう。蝕指鈴殿。」
「うるさいのはお前だ、昔の名など呼んで、一体なんのつもりだ「異端者」。」
「「偽の予言者」とよんで欲しいところじゃのお、魔女の代理殿、おっとお主に触れればわしなどは命がないのじゃったな。」
「・・・・・・・・」
笑う、カラカラと目の前の「魔王」を愚弄するように、嘲るように。
他の者には大したことが無いように思える出来事に気付き指摘したからではない、先の「言葉」に耳が痛んだから・・ではない。
笑えばこの者はおそらく・・・・・
「なんじゃ殴らんのか、前のお主には随分と酷い目に遭わされたもんじゃが、、、予感が外れたかの。」
「問題ない、今のお前に用はない。」
「ほう、言うではないか。」
しかし予想虚しくこの者への挑発は空回りとなった
ただ瞳を閉じつまらなげに答えられただけである、正直拍子抜けであった。
もう少し彼女の取り乱した姿が見れると思っていたのだが、気のせいだったのだろうか、あの予感は
・・出た拳のしまい所を探していれば思いつく。
「”口だけ”お主、シアはどうした、わしに用がないのならあの娘に用があるのではないのか、最も娘とはいっても年端いかぬ子どもらしくなり損ないなぞに成りおるかもしれぬからな。」
「情報が古いぞ、クリミナル、あれの正体についてまさか見当が付かないお前ではあるまいて、」
「それとなり損ないに成るものに年齢は関係ない。」という言葉を耳から耳に聞き流しつつ考え直す。
先の魔王の言葉、それは一体どういうことかと
まず第一に読み取れるのは少女の正体の誤認である。
初見にて魔女にしてもなり損ないにしても違和感のあると見抜いていたのだが
それだけではなく彼女の正体について思い当たらない伏が無いでもない
同時に思考を放棄していたことをいまさら後悔した
最初あった時根堀り葉堀り問い質しておけば無駄な思考をせず済んだというのに
けれどそんなことはどうでもいい、第二に読み取れることに比べれば
第二に読み取れること、それは
「シアは人間ではない、あるいは人間以上の存在だということか。」
「・・・・ん、ああ当然だろう。」
「魔女の血を飲んだのだからな。」という言葉をまたも無視する。
あの時のシアは熟練のウイッチでもないのに一晩中戦っていたかのように尋常ではない程魔力が枯渇していた。だというのに、この評価。
人間ではない何かである証明が既になされたような違和感である。
単純な肉体の特殊性でもない何かが。
魔力など殆ど取り込めず肉体の治癒などまたのまたであっただろうにも拘わらずだ。
三つ目の可能性は
「お主、何故、ここにおる。予言はどうした?」
「ああ、今事前準備をしている。」
予言との関連性である。
すでに「計画」は動いている、事前準備とは言えども始まっているのだ。
それも自身というマスターピースの一つを欠かしたままの状態でだ
これが意味するのは・・・・
「成程、シアにはわしと同等あるいはそれ以上の付加価値があるということだな。」
「・・・・・・」
予言との深い関連性、あるいは彼女こそが我々魔女が探し求めていた。
・・・予言の魔女の可能性すらある。しかし、しかしである
「お主、何故何も言わぬ、普段であれば『思い上がるな』の一言でも投げよこした筈じゃろう。」
「問題ない、既に計画は始まっている、お前がいなくとも、どれだけ増長していようとも何も、問題などない。」
「問題ない、問題ない、どこぞの司令じゃないんじゃから連呼せずともよいわ。しかし理解したぞ。」
「・・・・・・・」
突然の言葉に黙る少女に体を起こし私は言った。
「寝てもよいか。」
そう、不意に就寝の言葉をはっきりとしたウインクと共に。
「・・・・・・・・・」
その場を魔王の呼気と疑念、そして沈黙のみが支配した。
ただ一点鈴の音を除いて
■
「腕を引っ張るでな~い!」
「どうしたこの国随一の美人のお姫様抱っこだ。喜べ。」
思わずその言葉に、表情に、眉を顰める。
その無表情ながら親し気な顔に友を見るような顔に
少しだけのそれは心に大きな違和を齎した。
ついでに言うのであればこれが、これがお姫さま抱っこ・・・・だと
「こんなん、お姫さま抱っこでもなんでもない!!ただの釣り上げられた魚じゃ!!!」
そう正にそうだったのだ
少女がとった行動は幼女の言葉の通り、「漁で釣り上げられた魚を自慢気に、見せびらかすように、掴み上げる」だったのだ
漁師と魚のような力関係のようで、けれどその実、蟻と月の関係である。
当然蟻がクリミナであり、月が魔王である。
途方もない差があるのだ。
当代最強の魔女とこの私には
けれどその途轍もない差は今は少しばかり埋められている。
それに気づき、問いかける
「貴様、何故「結界」を解いている。」
「ああ、必要ないからな。」
クリミナの言葉に鈴は答える。
その時の顔はなんでもないような顔で、けれど何もない。
「わしを迎えに来たのはお主一人か。」
「ああ、所用でな。」
クリミナの言葉に鈴は答える。
その答えは淀みがあってでけれど流麗そのものだ。
「意外と話すの、何故じゃ。」
「答えられない。」
「何故、シアをそこまで重視する。「計画」に必要とはいえお主等にとってアイツは肉体が少し変わっているだけのただの人殺しの筈じゃろ。」
「答えられない。」
クリミナの言葉に鈴は答える。
その返された言葉に口を閉じる
脳裏に広がる先ほどの夢。
久方振りに見たあの光景を・・
思い出す。
けれどもこう答えた。
皮肉げに笑んで
心の中の何かに蓋をするように
◾️
「答えられない・・・か。
「結界」で全てを喰らうお主には理解できん事じゃろうがな。」
煩わし気に腕を掴まれ吊るされる幼女を意味もないように絶望した顔をした女を、しかして鈴は見ない
目に映していても意識しない、映せない
むしろ思い出していた、幼女との出会いを
あれは十年程前
最初の「案件」が丁度片付いたころであった。
その日の任務はいつもと同じ世界の滅亡とは退屈な程遠い任務であった
外勤からの帰り道に受けただけの大したことはない任務
けれどそれは魔王になったばかりの一人の少女に重大で重篤な痕を残した
端的に言おう、
殺していたのだ
自身と同じ肌、体、顔をした無性の存在を、
同じ者達の骸で気付きあげた山の上で
同じく性別を奪わされた者が
それがクリミナだった。
クリミナル・エフェソスだったのだ。
そして今目の前で腕を掴まれ宙ぶらりんとなっている幼女にも当然性別などありはしない
ただの親の顔を引っさげただけの「なり損ない」である、文字通りの意味での。
「クリミナル、貴様には色々と聞かねばならぬことがある、親のことといい兄弟の情報と言い、しかし今は時間がない。」
「・・・・・・・・・・・・」
無性別者は語らない
ただ黙して聞くのみである
「帰るぞ、俺達の家に。口先だけでは無くな。」
瞬刻世界が割れた
■
禍根鳥憂喜には秘密がある。
当然、誰にも言えない秘密である。
それは秘密がないということだ。
それは隠す必要が無く、語る必要もない。
彼女にとってそれはあくまで”言わないだけのこと”でしかないのだ。
けれど禍根鳥憂喜には秘密がある。
それは・・・・
「なり損ない、「計画」の果てに貴様は一体何を見出す。予言の末に一体何を掴む。」
そう計画の要、予言の魔女いついて深く知らないことである。
そもそもシアはこの世界とは無縁だった
腕の中で眠る赤紐の赤子と同じ、あるいはそれ以上にこの者はただの一般人であるのだ。
魔術はおろか魔法すら知らない、ただの普通の高校生
それが賢人会、含めた三つの最上位組織の判断である。
そこには当然世界最高戦力の魔女の代理も名を連ねている、しかし引っ掛からないことがないとは言えない。なにせ一番疑り深い国際議連が何も口を出さなかったことにある。
蟻の巣やハチの巣にさえ敵軍の基地があるのではと疑ってかかる彼らがこれを勘ぐらない訳がないのだ。
しかし一つだけ思い当たる伏がある。
一かしこき者のみ通るがよい
二さかしき者のみ勘ぐるがよい
・・という二つの条約、予言書の記載に抵触するのである。
当然であるが議連の者達も魔女の血を飲んだれっきとした魔女である。よってこれから逃れる術はない。
魔法使いであろうと、魔女の血を飲めば、受け入れ乗り越えれば必ず守なければならない「魔女」と魔女の「契約」、予言、それの記された二つの書物にはこう記されている。
契約を破りし者の末路はただ一つ、死のみである、、、と。
「・・・・・・・・」
禍根鳥はそれを思い返していた。
血と肉、骨の焼ける匂いを嗅ぎながら、ただ火の海を見つめて、
それは彼女の見たどの海よりもチンケで、だけれどどの海とも同じように貴ばなければいけないと理解出来るものだったからだ。でなければ・・・・・・
「『罰が当たる。』・・・・・か、私は何を柄にもないことを。」
禍根鳥は自身が”そういう人間”でないと自覚していた
悪党の言いなりになった時もあった
「偽の予言者」の好きにさせていた時期もあった
けれどどうしても・・・・・
「漏れ出してしまったんでしょ、そういうの俗に魂の叫びっていうらしいよ。優しいんだね」
「・・・・・・・」
そう平気な顔でいうなりなり損ないは手枷に力を入れる。
しかしそれは鎖を揺らすだけで粉にすることは出来なかった
精々が音を鳴らした程度である、じゃらりと、大空の下で、
空に繋がった鎖を粉々にする力は、もうそれ程の力は無かったのだ。
「貴方から貰った力、もう使い切っちゃたみたいだ。新しいのくれない?」
「・・・・・・」
閉口するしかない禍根鳥である
確かに禍根鳥はこのなり損ないに力を与えた、というよりも魔女の血を得ただけのこの少女を、あくまで多くの命を奪ったただの少女を、
何よりも他の誰よりも先になり損ない化させたのは禍根鳥であったのだ。
力を与えた目的はあくまで19号達との「計画」に沿う為だったがこれは実験的要素の強く賭けの要素も孕んでいた。故に疑似的なものにとどめたのだ。
なにせ失敗すれば彼女は「暴走」してしまうのだ。世界が滅びかねない、うっかりすれば。だからこそ一時的かつ限定的な力の譲渡だったのだが・・・・
見事に失敗し今に至るという訳だ
「・・・・・・・・」
「どうしたの禍根鳥さん、貴方が一体何を考えているのか分からないよ。」
修正の範囲内ではあるものの、これからはもう少し慎重に動くことを重視するべきであると自省する禍根鳥である。このままこのなり損ないが魔力が回復すれば「思考」すら読めるようになるかも知れないのだ、鉄は熱いうちに撃てである。
手は早めに打っておくべきなのだ。
「少女の考えを読めないのであればそれに越したことはない、なり損ない化とて解除される可能性があるからな。」
そう心にも無い心無い言葉を掛けながら禍根鳥は考える
予言書と預言書、何故どちらもボタンの掛け違いと結論の違い以外、同じなのか
殆ど示す未来が変わらないのか
それは必然・・・・・
「お前の存在故だろう、予言の魔女。」
「・・・・・・?私が何かのイレギュラーであると。」
「最も異例なのは鈴だ、蝕指鈴、ベルゼブブそしてお前とはある種、別の特異さだがな。」
「・・・・・・・・・・・・」
口をむにゃむにゃとしつつ目を瞑赤り眠る子の頭を撫でつけつつ燃える人々を血の海を、見つめる。
魔女達の血は沸騰を超え干上がり空間を赤く、赤くその色に歪めている。
しかし魔女の血はこの程度では消えない、
魔女の血は不滅である。
それが研究者としての禍根鳥の結論であった。様々な発見と発明、そして社会貢献を為し実績を積み上げて来た彼女であっても魔女の血だけは滅ぼせはしなかった。
魔女の祝福と呪い故に
故に禍根鳥はなり損ないの言葉にしばしの間を開け返答する
「思えばこの子もだな、何故契約を破っているのに死なない、血がつながっていないのか、あるいは・・・」
「魔女の血を受け継いでいないんでしょ、しかもお腹の子と女親まで死んで男親も命を絶たれた。これって、わかるよね。」
「・・・・・・・ああ」
赤紐の赤子は愛されてなどいなかった。
魔女の血には”その者の抱きうる最も強い欲望に反応する”性質がある。
魔女によって定められた律法であり魔女の魂の心髄でもあるそれが。
それを受け継がせるということは「魂」を受け継ぐことと同義である
即ち、魔女の血を受け継ぐことは所有者の信念の喪失のみならず、精神の喪失を意味するのだ。
井伊波恣意のやろうとしたこともまた同じであった。
それはリターン同様に多大なリスクを得るのだ。
しかし、分割するなら話は別である。
信念を与えれば信念が宿るように、魂の一部を与えればその魂の一部が宿るのだ。
つまり、切り分けさえすれば魂を失わず力の譲渡が可能である、ということだ
それを改善し改竄し、全てを与えずとも力の譲渡が可能となったのは鏡の国千年の歴史においてここ最近の話である。
百年の歴史はあるものの、あくまで民間伝承のようなもの、これを力の譲渡と気付いていたのはごく一部の名家と大罪七家でのみであった。
「ところで、なり損ない、トイレ行ったか。」
「え、何聞いてくんの、きしょい。」
「何貴様は未だ人間を残している、トイレ、行ったか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
禍根鳥にとってこの言葉はある程度の指標である
なり損ないでありながら生理現象が切り替わっているのか、否なのか
魔素に依存した肉体になっているのか否なのか
霊子を活動源と出来るのか否なのか
確認する必要があるのだ
つまりこの質問にも意味はあるのだ。
「普通に言って行ったよ、ここに来る途中で。・・・・・・・それが何、何なの?」
「そうか。」
明らかに引きながらの言葉に禍根鳥は通じない
まだ人間が残っているらしい、そう思っただけである。
「気にする必要はない、傲慢の嫡子が何か貴様に細工をしている可能性をしている可能性もあったからな。」
「ごめん、本当に無理。声低いからかも知れないけど、本当に無理。出来るだけ寄んないで」
「そうか。」
「大変だな」という言葉を飲み込んだ禍根鳥はとても賢いのだろう、女としても研究者としても、怪物としても。
もう既に赤子に意識を戻しあやしている程である、リズムよく揺らしながら、鼻歌を詠って
「人間的には正しくなかった貴方の言葉だけれど、けれど、わかることもある。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
なり損ないは笑う
喜色良さでもない、気色悪るさでもない、
ただ笑った。
・・禍根鳥の視線がなり損ないに引き寄せられる
「私は井伊波恣意を殺してない、それだけは事実なんだ。」
そんな虚しい、在りもしない現実を
信じながら
■
井伊波恣意は死んでいる。
それは既に変わらない事実である。
井伊波恣意は名家の生まれだった。
それも魔女の代理を排出するような名門、法外な力と莫大な権限を持ち源流により近い大罪の魔女の直系
大罪七家、名家中の名家に彼女は生まれた
彼女は善き者であった、心清きものだった。
友も多く、先生との仲も軒並み良好、親とも決して不仲では無かった。
しかし彼女は出て行った。
死別を経験したわけでもなく、葬儀を経験したわけでもなく、ただ出て行った。
人に合わせる事が疲れたわけでもない。人に心が読まれることが疲れることでもない。
前者はあり得ず、後者は心理防壁を用いれば問題はない。
ならばどうしてか、在ったのだ、夢が。
いつかこの国をでて、魔法とは縁の無い世界で生きるという夢が。
だからこそ彼女は手放した、地位も財産も、名誉も、何もかも全て。
けれど彼女は死んだ。
他ならない・・・・・・
「友の手によって。」
「・・・・・ん、どうしたの禍根鳥さん、何かあった。」
「いいや、何も。」
そうだ、何もありはしないのだ
これは分かっていたことなのだ
理解していたこと、なのだ
彼女を教え導く者として過ごした幼稚園児までの二年間、
小学の六年間、魔術と魔法を教えた八年間、彼女を放任し続けた十四年間。
彼女はそれを見ていた、それしか見えていなかった。
大人びているとか、現実的だとか、異端だとか、禍根鳥は感じなかった。
ただただ、気持ちがあっただけである。
共にあった者としての、教え導く者としての、「偽の予言者」を見逃し続けた者としての。
祝福の気持ちが
だがそれは奪われた、他ならない目の前のなり損ないによって多くの命と共に。
「シア、貴様に聞きたいことがある。」
「・・・・・・」
「貴様は、何故呪い子、井伊波恣意と友人であったと考えているのだ。」
故に問うた、彼女に
人殺しにしてなり損ないの親亡き子に、予言の魔女に
しかし、彼女はこう返した。
「確かに友達だとは最初思えなかった、けど彼女が命をとして私を救ってくれようとしたから、救ってくれたからそう思ったんだ。」
・・なり損ないの視界に、現れた。
赤が、真っ赤なその液体が、血液が
それは滴、として流れ、飛び散った。
大きな血塊として地面に痕を残したのだ、少女ならざる者になり損ないの足元に。
まるで赤いペンキを勢いよく溢したようなその惨状に、なり損ないは、シアは言葉が出ない。
「貴様ではあの者の友足り得ない。」
その言の葉と共になり損ないは深めた、
笑みを