75. 怪我人
「本山の聴取は?」
「まぁ、始まりはしたけど、まだまだこれからかな。
詳しく言えないけど、状態が不安定で、証言が支離滅裂だから。
最初思っていたより遥かにたくさんの人間が関わっているし、丁寧に全貌を暴くためにも、これから何日もかけて聞き出さないといけないかなー」
「でも、これから私の取り調べが必要ですよね。もう移動しますか?」
「え、いやいや縫合後ですよ? カズくん。軽傷じゃないですよ? その足。麻酔まだかかってるでしょ?」
「時間がネックというなら、やめますが……。私の取り調べは、少しでも早い方が良いのでは?」
性犯罪者狩りのことだけではない。今日一日で決して少なくない人数を暴行した。
警察としてはぜひとも和希の取り調べを早く進めたいに違いない。
それに和希も、早く知りたい。自分が何をしたのか。知ったうえで覚悟を決めてしまいたい。
「人は死んでいないよ」
和希の知りたいことを見透かしたのか、覇華がさらりと重要なことを言う。
「そうですか。重体は?」
「重傷者は少々」
「なら良かった」
橋で蹴り落とした面々はかろうじて皆生きていたということか。
川底はコンクリート固めだが、橋の高さがそこまで高くなかったのが幸いしたのか。
彼らが生きていて良かった、と思っているのではない。
殺人犯にはならずに済んでよかった。
もっと言えば、うちの道場から殺人犯を出さずに済んでよかった。
刑罰を受ける覚悟はとうに決めていたはずだ。あとは、警察に自分の身をゆだねよう。
「だったら、お言葉に甘えて今日は眠らせていただきます。今井くんももう今日は疲れたでしょうし、帰っ…」
「俺はいます」
後輩は断固とした口調で言った。「三条さんが起きるまで、ついています」
そうか。いてくれるのは心強いが、頼むから寝ようか。
「そうだね。病室に案内するよ。その前に」覇華は、すっと綺麗な手を出した。
「持ってきてくれてるかな?」
「慧眼すぎるとちょっと腹が立ちますね」
和希は嘆息して、服の下のサラシの下に差し込んだUSBをひっぱりだし、首にかけていた紐を外した。
そのUSBを、覇華の手のひらに置く。
「私が調べた限りの、日本全国の性犯罪者のリストです。
ただ、あくまでも素人一人に調べられる範囲ですし、裏付けのないものも多数あります」
「ありがとう。カズくん一人で調べたんだ?」
「ええ。私一人で」
そっか、と覇華が少し微笑む。
『一人で』というのが嘘だと、察しているようにも感じる。
胸に走る緊張を悟られないように、和希は覇華の顔をまじまじと見つめ返した。
「もう遅いもんね。カズくんと今井くん、同じ部屋でベッドを用意してもらっているから、移動しよう?
朝までは、あたしがついてるから。安心して眠って」
◇◇◇




