37. 本山、追尾
◇◇◇
――――数時間後、京都市中京区のコインパーキングにて。
数人の男たちが、黒いワゴン車の周囲にいた。
「あの女、乗り捨てていったのか……」
後部スライドドアを開けて、一人の男が呟く。
夜目にも、ほかの者より背が高く、体格が良いように見える。
「一人男がくっついていたって言いますけど、一体何者ですかね?」
「彼氏か何かか?
だったら撮影の時には引きはがさないとな」
その会話の様子も、小型カメラで撮影している者がいる。
最終的にこの映像も何かの形で入れ込む予定なのか……
彼と他の者は、ドアの中に入り、中が荒らされていることを確認する。
「ああっ……」
車の床に散らばる砕けたケースやディスクを見て、悲鳴を上げる者がいた。
「これ…ミサナちゃんのDVD、全部壊されてますよ……。
資料としてギリギリ残ってた、最後の1セットだったのに……」
「なんだ?
データは全部残ってるだろ?」
「いや、ですけど……」
「今回のと合わせて、また注文とって焼けばいい。
8年前とは“顧客”もだいぶ入れ替わってるんだ。
こどものは特に“表”の世界じゃどうあがいても手に入らないから、どんだけ金を払っても欲しがる奴はいくらでもいる」
そう言いながら、中心の男は、車のなかのものがほかに壊されていないかチェックをする。
「まぁ、ここ数年で、“表”でエロへの規制がどんどん厳しくなってるのも地味に効いてますよねぇ…」
別の男が、運転席を確認しながら雑談を始めた。
「おかげさまで行政が、満足できない連中を“表”から“こっち側”へと流れやすくしてくれて。
エロ本がどんどん潰れて、ダウンロードも全盛はとうに通り越して淘汰が始まってるようなこのご時世、郵送のDVDに札ビラ何枚でもはたいてくれるんですから……」
「そうだな。
女向けじゃ満足できなくてこっちに来るしかない女の客も意外といるしな」
「行政も市民運動家やらも、自分の見えるところは滅菌してないと気が済まないですからねぇ。
“こっち側”は調べにも来ないくせに」
――――――“表”がそんな状態なんだから、“こっち側”にとってはチャンスだ。
そのような共通認識が、彼らにはあるようだった。
「で? やられたカメラは? 大丈夫だったのか?」
「いや、レンズは完全にもう無理ですね……。
カメラ本体の方も、修理に出さないと無理そうです。
予備のカメラでとるしかないかと」
「そりゃデカイな……。
で、こっちで雇った人員は?」
「今日は3人負傷してリタイアですね……。
どうも、この間痛い目を見たせいか、学生バイトはみんな逃げだしましたね。
で、残っているのはやっぱり……」
そんな会話をしていると。
「すみませーん、遅くなりましたー」
………新たに、仲間たちがこの場に着いたようだ。
別の車が新たに道路に留まっている。
「ミサナちゃんが乗ってた車って、これですか?」
「ああ、それは……」
新たに駆けつけた男たちは、主に30代から40代と思われる。
バイトという空気感ではないが、かといって普段からこのような仕事をしている様子でもない。
むしろ、普段は別の仕事をしている者たちが、エキストラとして参加しているような……。
「―――あ、おい」
一人の30代の男が、ワゴン車の運転席の方に回ってドアを開けた。
「勝手に開けるなよ、オイ…」
「……ここにミサナちゃん、座ったんですか……?」
その男は制止を聞かず、運転席のシート座面に顔を擦りつける。
「そうかー。
大人になったんだなぁ、運転までできるなんて……。
9歳の頃から顔がもう完成していて衝撃だったのに、どんどん綺麗になって……」
「あ、さっき俺見たけど、今も面影あるよ」
「ほ、ほんと!?」
「そうそう、年齢がようやく顔に追いついた感。美人、やっぱ」
「うわ、見たかった……」
まるで普通に、アイドルのファン同士のように語り合う。
彼らは、かつてファルス本山が、極秘裏にマニアの間だけで流通する商品として手掛けた児童ポルノ映像作品の愛好者であった。
中でも、ファルス本山が最も力を入れた<中島ミサナ>という少女のシリーズ作品を愛し、8年前の彼の逮捕によってそれが終わってしまったことを嘆いていた。
……逮捕時、警察から顧客リストは見つからぬよう死守した本山から、今回、『大人になった<中島ミサナ>を撮るのに協力を』と連絡され集まったのだ。
「さて………」
中心となっている男―――ファルス本山は、スタッフの一人に小型デジカメを差し出すよう求めた。
デジカメには、三条和希と共に逃げる男―――メガネの少年が映っている。
少なくとも、本山が調べた三条和希の関係者の中に、このような男はいない。
「コイツは、一体何者なんだ……?」
◇◇◇




