16. 夜の支配者
「……だいじょうぶ?」
和希は気遣いながら声をかける。
新入生の少女ふたりは、まだだいぶしんどそうで、ふらついてはいたが、店の外まではなんとか歩けるという。
内通者の男子学生がふたりの荷物を持って先に立ち、警戒のために和希がしんがりで、そのまま店の入口へと向かっていく。
壁にかかれた営業時間から言えば、本来ならばもっと前に閉店時間を迎えている。
他の客がいないわけだ……と思いながら、階段を上がって入口まで到達し。
先導する男子学生が入口の観音開きのドアを開けると……
「!?」
鈍い音と共に男子学生の体が大きく後ろに揺れ……落ちてくる。
とっさに女子ふたりの体を、力を押さえて横に押し、和希は落ちてくる男子学生の軽い体を受け止めた。
――――――しまった。
腹を蹴られたのか、失神している。
ケガさせぬように素早く男子学生の体を階段の段に下ろしながら、和希は自分の身を一番前に出した。
この店の入り口は比較的大きい通りに面していたのだが、タクシーは比較的近くに止まっていた。しかし、和希たちの前を、4、5人の男子学生たちがふさぐ。
学生の誰かが助けを求めたのだろうか?
そういえば、前回のカラオケボックス襲撃の際に見たと思しき顔もある。
ということは、和希に恨みを持つということである。
一番近くの男が何も言わず殴りかかってきた。
「ぐぅ………」
とっさにカウンターで腹に入れた、跳び回転後ろ蹴りにくし刺しにされる形となって、男はうめいたまま腹を押さえてくずおれた。
気を失ったのではないが、とてもそのまま動くことはできない。
和希は、体は横向き重心は前後半々に、両腕を胴回りに垂らして構え、残りの面々の位置と距離を把握する。
自分の後ろにいる3人のことも考え、この場所からはそうは動けない。だから動かず倒す。
大ぶりのパンチで殴りかかってこようとした男を初動で回し蹴りで止め、さらに逆足を振りあげて脳天から……
かかとを、落とそうと、したが。
「やめ」
(!?)
鋭く飛んだ女の声に、反射的に和希は踵落とししようとした足を彼の頭上でピタリと止めた。
そしてそれでよかった。目の前の男は和希のミドル一発でもはや動けず、そのままうずくまるのだった。
「ねぇ、やめよ? もう、警察来るよ?」
先ほどの鋭い号令と同一人物と思われるのに、一転してかわいいしゃべりでなだめてくる女性の声。
<警察>という言葉に恐れをなしたか学生たちが逃げ出すのと同時に、和希は声のする方へを目を向けた。
「かーずくん」
思いのほか近くで、ひょこ、と、小さな顔をのぞかせたのは……見覚えのある、ショートカットの女性だった。
(……なんでここに?)
「仕事でこっちに出張あったから。それにしてもすごい偶然だね」
和希より10㎝ほど小さな細身の体、紅茶色のさらさらの髪、夜目にも光る、とにかくきめの細かい白い肌が目を引く彼女。
とりあえず、最後に組手してから2年振りぐらいになるのか。
戸惑いが頭の中をぐるぐるするなか、とりあえずポーカーフェイスの維持に和希は努めた。
「……ご無沙汰しています、覇華さん」
「元気でいた?」
「それは……すみません。連れを急ぎ、送らないといけなくて」
ぐずぐずしないと、店の野郎どもが回復してしまう。
「そう、わかった。じゃあまた明日ね」
「へ……? ああ、はい」
不穏な言葉を和希は聞き流し、階段の3人が、しんどそうながらも無事であるのを確認しほっとした。
男子学生も目を覚ましたようだ。ダメージは大きそうだが。
3人をタクシーへと促し、男子学生を前へ、和希は後部座席の一番最後に入った。
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