打開策
―タチバナ サツキ―
まったくさっきから何さお母さんってば。
あっちばっか構っちゃって。
まぁ最初にちょっと言いすぎたことに対してのフォローなんだろうけど。
それにしてもなんでまた「もう一回戦ってみよっか」なんて言ったんだろう。
まさかこの子が自信を持てるようわたしにやられろってこと?
・・・いやお母さんに限ってそれはないか。
きっと何か考えがあるんじゃないかな。
それよりわたしが地味に気になっていることがある。
お母さんが「なんでもきいてあげる」って言った時にあれだけ食いついていたということは何かきいてほしいことがあるということ。
それはいったいなんだろう・・・。
ま・・・まさか・・・。
「僕のお母さんになってください!」
「約束だもんね・・・。うん、わかった・・・。サツキごめんね。バイバイ」
「お母さあああああああああああああん!」
いやいやそんな馬鹿な。
さすがにそんなことは・・・。
考え事をしていると5メートルほど離れた場所で対面しているマモルが話しかけてきた。
「さっきから様子が変だけどどうかしたの?」
「んあ!?なに!?」
「え・・・なんで今僕睨まれたの・・・?」
いきなり話しかけられたもんだから思いっきり睨みつけてしまっていた。
「二人ともがんばれー!」
少し離れたところで手を振りながらお母さんがにこやかに声援を送ってくれた。
こっちの気も知らないでのんきなもんだ。
「準備はいいー!?」
おっとそんなこと考えてる場合じゃなかった。
わたしだって以前のように何もしないまま負けるつもりなんてない。
かといって何か打開策を思いついたわけでもない。
どうしたものか・・・。
わたしはお母さんのように感知できるわけではないので姿を消させるとどうしようもない。
何かヒントがないものか・・・さっきのお母さんとマモルのやり取りを思い出してみよう。
『流れ弾に当たって死ぬ可能性だってある』
いっそ四方八方に水無月を投げまくってみるか?
いやいや360度どこにいるかもわからないのに一回一回投げて戻してを繰り返していたらきりがないし、そもそも仮に当たってしまったら当たり所によっては取り返しのつかないことになりかねない。
『眼鏡外してた方がかっこいいね』
いや今関係ないよねこれ。
なんでこんなの思い出してしまったんだろう。
『足音とかで場所がばれちゃう』
前に戦った時も一応音には気を配っていたけど何も聞こえなかった。
その時は気が動転して気づかなかっただけということも考えられるけど、さっきお母さんが戦っている時も聞こえてきたのはお母さんが立てた音だけ。
『すごくゆっくり移動してた』
いくら移動する速度が遅くても居場所が分からないんじゃ意味がない。
そして肝心の居場所を特定する手段がわたしにはない。
やっぱりこれ詰んでいるんじゃ。
一瞬でも姿が見えたら話は別なんだろうけど。
「よーし。じゃあ試合――」
開始の合図の直前、何も策を思いつくことなくどうしようか考えていたわたしは少し離れている場所にいる相手を見た。
見た。
見た・・・?
見・・・
あ、そうか!
「開始!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
合図とともに全力で相手に向かってダッシュした。
わたしが相手の姿をとらえている瞬間は試合開始前後しかない。
もしこのまま何もしなければ次に姿を拝むのはわたしにナイフが突きつけられ敗北が決したとき。
距離を詰めたときにはすでにマモルの姿は完全に見えなくなっていた。
でも相手は音をたてないようにゆっくりと移動する必要がある為、まだ「そこ」にいる。
少し移動している可能性があったのでできるだけ足を伸ばし攻撃範囲を広げるようにして、目に見えない相手に向かって右足で蹴りを入れた。
「あたれええええ!」
どうだ!
すると右足に鈍い衝撃が・・・これは・・・!
「ぶうううううううう!」
決まった!
やった勝った!
なんて浮かれていたのだけど・・・
「ちょ、ちょっとサツキ!」
「・・・あ」
腹にまともに蹴りを受けたマモルは数メートル派手に吹き飛んだ。
あの・・・
その・・・
えっとね・・・
やりすぎました・・・。
「だ、大丈夫・・・?あぁダメだ完全にのびちゃってる・・・」
お母さんが近寄ってしゃがみこんで安否を確認していたのだけどどうやらダメみたいです。
「ご、ごめん。開始の直前にあの方法に気づいて無我夢中だったから加減ができなくて・・・」
「謝るならお母さんじゃなくてこの子にね。それにしてもどうしよう・・・頭を強く打ったわけでもないからそのうち目も覚めると思うけど・・・外傷もないし・・・」
大の字で白目をむいて倒れている目の前の男の子はピクリとも動いていない。
ここまでくるとさすがに申し訳なくなってくる。
謝るのは目が覚めてからだけど、なにかこう・・・目が覚めたとき一発で元気にしてあげられるようなことってないかな・・・。
うーむ・・・
「ねえお母さん、ちょっとお願いがあるんだけど」
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「ん・・・・んん・・・」
マモルが目を覚ましたのは意外にも早く、あれから10分後のことだった。
「あぁ目が覚めた。やりすぎてごめんね」
「大丈夫?痛いところはない?」
わたしたちは二人してマモルの顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫・・・です・・・」
みるみるうちにマモルの顔は赤くなっていった。
その理由としてはお母さんの顔がすぐ近くにあったから。
なぜわたしより身長の高いお母さんの顔がそんなに近くにあるのかというと、マモルの頭がお母さんの膝に乗っかっていたからだ。
「うわお!?」
それに気づいた瞬間、それまでのまったりとした挙動からは想像もつかないような俊敏な動きで飛び上がっていた。
「うわぁびっくりした!い、いきなりそんな動いて大丈夫?」
「大丈夫です!何の問題もありませんゆえ!!」
のけぞるんじゃないかって言うほど姿勢の良さで叫んでいた。
言動がすでに大丈夫じゃないような気がするけど本人が大丈夫って言っているのできっと大丈夫なんだろう。
「えっとねマモル君・・・君がうちに来た時、話もろくに訊かず勝手なことを言ってごめんなさい」
マモルが目を覚ましたら謝ると決めていたのか、お母さんはそう切り出していた。
「いえ、えーと・・・あなたが言っていたことも正しかったので・・・僕の方こそすみませんでした」
わたしに対しても頭を下げていた。
お母さんとの決闘で負けたらわたしに謝るっていう約束を守ってのことか。
わたし自身はそこまで気にしていなかったのだけど。
「それでも私の気が済まないし・・・。あ、そうだ」
何か思いついた様子だった。
なぜだろう・・・なんか嫌な予感がする・・・。
「お詫びに君のいうこと何でも聞いてあげるよ」
満面の笑みでとんでもないことを言い出した。
「だめえええええええええええ!だめったらだめ!」
「うぇあうぇあ!ちょ、ちょっとサツキなにするのやめて!」
わたしはお母さんの両肩を掴んで力いっぱい揺らした。
そのせいでお母さんの頭は髪を揺らせながらガクンガクンと前後に振れてしまっている。
「な、なんでも・・・?」
わたしの心配なんて知る由もなくその魅力的な提案に心を奪われているようだった。
い、いったい何を要求してくるんだこの人は・・・!
「じゃあ・・・!」
そんなこんなで一応わたしのリベンジは達成された。
それにしても何でも聞いてくれるっていうのに対して「メールアドレス教えてください!」って言っていたのには驚いた。
わざわざわたしにお母さんのことを訊いてきて、何でも聞いてあげるって言ってるのに要求がそれって積極的なのか奥手なのかわからないね。
そしてお母さんが話した昔話にでてきた落ちこぼれの子供ってもしかして・・・




