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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
五章 女神は誰のために
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生まれた地

 屋上へ足を踏み入れたヘイスとアイラは、予想通りアレンとセレーヌがそこにいたことに胸を撫で下ろした。二人はまだ自分たちに気付いていないようで、笑いながら楽しそうに話していた。そしてこれも予想通りにその手には酒瓶が持たれている。

「おい」

 ヘイスはイラつきながらも二人に声を掛けた。自分たちが必死に探していたというのに、ここで仲良く話していたからだ。

 二人はその声に振り返り、ヘイスとアイラを見るとそれぞれ驚きと嫌な顔をする。

「何であんたがここにいるのよ」

 それはセレーヌの言葉であり、当然ヘイスへと向けられている。あからさまに嫌な顔をされてはヘイスも嫌な気分になっていく。しかしそれを何とか落ち着かせ、真剣に二人を見つめ返して答える。

「お前たちを探してたんだ」

「……アイラも?」

「そうよ」

 二人の真剣な目に引き込まれそうになりながら、アレンとセレーヌは同じように真剣に向き合った。

「お前たちにはいろいろと聞きたいことがある。それが何なのか分かってるよな」

 確認するような言葉だったが、それには有無を言わせないような雰囲気を持ち合わせている。

 それはまさしく王族の貫禄でもあった。

「……このまま見逃してくれるかと期待してたんですけどね」

 諦めたようにアレンは呟き、セレーヌの前に出て二人と向きあう。

「んなわけねぇだろ」

 乱暴な言葉遣いは変わらなくとも、ヘイスは見逃す気もないようだ。

「……お前たち、なぜあの場にいた。あの言葉はどういう意味だ」

「そのままの意味よ。ブライアンは私たちの敵でもあった」

「それはつまり反乱軍の敵としてではないということか」

「ま、そういうことね。でも気にするほどじゃないでしょ。敵の敵は味方だっていうじゃない」

 セレーヌは面倒くさそうにヘイスの問いかけに答える。その様子が面白くないヘイスは自分でも分かるほどに苛立ちを募らせていた。

「セレーヌ、私たちは真剣に聞いているの」

 アイラにもセレーヌの態度が気に入らず、注意するように口を開く。それにはセレーヌも少しだけばつの悪そうな顔をした。

「……仇、ですよ」

 すると突然アレンが声を出し、ヘイスとアイラはアレンを見る。

「仇だと?」

「そうです。あの男が貴方たちの両親の仇のように、あいつは俺たちの大切な人の仇なのです」

「アレン……」

「だったら初めからそう言えばよかっただろ。何で言わなかった」

「言えなかったからです」

 アレンはヘイスの目を見てハッキリとそう答えた。

「どうして?」

 言ってくれればいいのに。それとも自分はそんなことまで話せるほど親しくはないのだろうか。アイラは信用されていないようで悲しくなりながらもアレンに聞いていた。

「前に俺が北の方の生まれだって言ったよな」

「覚えてるわ」

「あれ、嘘じゃないけど本当でもないんだ」

「……どういう意味だ?」

 ヘイスにはその言葉の意味が分からなかった。アイラも同じように分からず、アレンにその答えを求める。

「北の方の生まれってのは本当。だけどそれはフューリアじゃない」

「……それって……」

 それが何を指すのか、ヘイスとアイラはすぐに理解した。フューリアより北にある国など一つしかない。

 アレンは少しだけ悲しく笑いながらも頷く。

「俺たちはゾディアの生まれなんだ」

「……!!」

 アイラは身体に衝撃が走るのを感じた。ただ、それだけの事実だというのに。

「……なるほどな。そりゃ言えなかったわけだ」

 反乱軍といってもその多くはフューリア軍が占めている。そこにゾディアの生まれだと正直に言えば、やはり良くは思われないと分かっていたのだろう。ヘイスは内心では驚きながらも、頭では納得していた。

「これでいいでしょ。今この軍にはゾディアの聖騎士だっているんだから別に問題ないわよね」

「……分かったわ。だけどもうあんなことしないで。私たちは一緒に戦っているのよ」

 アイラは懇願するように二人を見る。何よりもあの時見たことない二人の顔を見て怖かったのだ。その気持ちが分かるからこそアレンとセレーヌも真剣に謝罪する。

「……悪かった」

「ごめんね、アイラ」

「分かってくれればいいわ。今は反乱軍として帝国と戦っているの。ゾディア聖王国の人間とフューリア王国の人間が争う理由はない。そうよね、兄さん」

「……そうだな。何より俺たちはあの戦いに出てもいないんだ」

 八年前、自分はまだ幼い子供だった。戦いに出る兄を羨ましそうに見つめるだけの子供だったのだ。

「ゾディアの聖騎士か……」

 ヘイスは自分の兄を思い浮かべながら複雑な気持ちを抱く。死んだと思っていたヴィズが聖騎士として現われたのだ。嬉しいはずなのに未だに気持ちの整理がつかず、ヘイスとアイラはまだ再会の言葉も交わしていなかった。

「やっぱり嫌ですか?」

 含めた言い方だったヘイスを気にしたのか、アレンはそれを聞いてみたくなった。

「……正直分かんねぇな。もともと聖騎士と知ってザガートを反乱軍に迎え入れたのは俺だしな。だけど……」

 そのことに後悔はなかった。ザガートは思っていた以上の男であり、そして反乱軍の力となっているのだ。けれどそこに兄の存在が絡んでくるとヘイスは何も言えなかった。

「話はしたのですか?」

 自分の心を読んだかのようなアレンの言葉にヘイスとアイラはハッとする。それは間違いなくヴィズのことを指しているのだろう。

「まだ何も……。会っても何て言ったらいいか分からないし……」

「兄さん……」

 珍しく弱気なヘイスの言葉にアイラは心配げに声を掛ける。しかしそのことに辛口に非難の声が上がる。

「ばっかじゃないの」

「何……!?」

 セレーヌの一言にヘイスは頭に血が上っていくのを感じた。けれど続くその言葉にそれはすぐさま消えていく。

「そんなのあんたらしくないんじゃないの?あんたはいつだって無鉄砲に突っ走ったほうが合ってるわよ。やりもしないでぐだぐだ考え込むあんたなんてホントに気味が悪いわ」

「セレーヌ……」

 その馬鹿にされているはずの言葉にいつものヘイスならば反撃していただろう。だがこの言葉が自分を元気付けてくれているのだとヘイスにも理解できた。何よりそれをセレーヌが言ってくれたということがただ嬉しかった。

 ヘイスは半ば呆けた目でセレーヌを見た。するとセレーヌの口からは驚くべきことが発せられる。

「ま、そんなとこまであの馬鹿に似てるんだからホントあんたたちってうざったいのよ。さっさとヴィズと話でもしたら?ちょうどそこで聞き耳立ててるみたいだし」

「えっ?」

 セレーヌはヘイスの奥にある扉のない入り口を見ていた。その言葉にまずアイラが驚き、振り返る。そしてヘイスも混乱しながらも振り返ると、そこには悪戯がバレた子供のような顔をしながらヴィズが顔だけを覗かせていた。

「ヴィズ兄……!」

 自分の名を呼ばれたヴィズは観念したようにそこから姿を現す。その両手には大きい酒樽を持ち、後ろからは同じ聖騎士であるジャックがついていた。

「悪い悪い。なんか入りづらい雰囲気だったからな」

 微塵も思っていないであろう謝罪の言葉を口にしながらも二人は近づいてくる。なぜここにヴィズがいるのか分からないヘイスとアイラはただ混乱しきっていた。

 そんな二人の存在を忘れたかのように、顔を輝かせながらセレーヌはヴィズが持つ酒樽に目を奪われる。

「いいじゃない!まさか酒樽持ってくるなんて思わなかったわ!」

「だろ?俺にかかればこんなの楽勝だぜ。どうせ酒瓶なんてお前には足りないだろ」

「ちゃんと分かってるじゃない。さ、よこして」

「何言ってんだ。俺も飲むんだよ」

「……まぁそんなにあるなら少しくらいは」

「相変わらず酒にはうるさい女だな。……どうせだ。久しぶりにやろうぜ」

「あら!私に勝てるとでも思ってるの?」

 セレーヌとヴィズは互いにに挑戦的な態度で臨んでいた。酒好きな二人がやろうとするのはお互いに潰すまでの飲み比べだ。今すぐにでもそれが始まろうとしていたが、そこにジャックが冷静な声を上げる。

「いい加減にしろ。二人が困ってるぞ」

 ジャックは横で固まっているヘイスとアイラを見る。二人は知り合いのように話すヴィズとセレーヌを見て声を上げることも出来なかった。

「あ?あぁ、そうだったな。お前ら何でここにいるんだ」

「あんた話聞いてたんじゃないの。私たちに用があったのよ」

「うっせーな。途中からだったんだからそんなの知らねぇよ」

 まるで犬猿の仲のように話す二人であったが、そこには確かに親しみが含まれていた。

「兄さん……」

 頭が混乱しきるアイラであったが、それを説明するかのように黙っていたアレンも口を開く。

「俺たちがゾディアの生まれだって言っただろう。ゾディアにいた時にこいつらに出会ったんだ」

 その言葉にアイラは納得しながらも、やはりどこか複雑だった。

「心外だな。俺とこいつを一括りにしないでほしい」

 ジャックはまるで迷惑だとばかりに嫌な顔をしていた。露骨に嫌な顔をされたヴィズも心外だとばかりに声を上げる。その様子は嫌だと口にしているのに、みんなが楽しそうだった。この前ザガートと話している時も思ったが、その雰囲気は確かに自分たちとはかけ離れているものだった。それを見て、アイラはやはりヴィズが遠くにいってしまったのだと再認識させられた。

「ヴィズ兄!」

 ヘイスも同じように見ていられなく叫んだ。その声にヴィズはしっかりと振り向いてヘイスとアイラを見る。

「……まぁ、なんつぅか……大きくなったよな」

 ヴィズは何て声を掛けたらいいかも分からず、ただ真っ先に思ったことを口にした。最後に別れた時はまだ小さな子供だったのだ。特にアイラなんてほとんど変わってしまっている。

「兄さん……」

 三人ともが何を口にしたらいいか分からないでいる。黙りながらも視線を交わし、逆に気まずいのがそれを見ているアレンたち三人だった。

「これはこれで面白いんだけど……」

「不謹慎だぞ」

 少しだけ楽しそうにするセレーヌであったが、アレンがそれを咎めた。セレーヌもそれを分かっていたので、ここで珍しく気を遣ってセレーヌらしいことを口にする。

「こういう時は酒よ!ちょうど酒樽もあることだし、飲みながら思ってることを吐き出すといいわ!」

「セレーヌ……」

 呆れながらもアレンはセレーヌを見る。もはやその考えなど顔を見ただけで分かっていた。セレーヌもそれを分かっているからこそアレンにしか聞こえない声で囁く。

「いいじゃない。私も早く飲みたいのよ」

「……だろうな」




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