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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
五章 女神は誰のために
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気まずい関係

 カルディナ城。それはジュールにある唯一の城であり、そしてそこは森林に囲まれている。その城の執務室に帝国七大将軍の一人であり、今はこの城の主でもあるカーム=ジュライアがいた。カームは帝国の貴族ジュライア家の当主であり、槍の使い手で知れられている。

 机の上にある無数の書類は綺麗に片付けられ、その部屋の主の性格を表している。カームは窓から外を覗き、そこに広がる大森林を見下ろしていた。それを見るたびにカームの心は落ち着き、この国は自然に溢れているのだと再認識させられる。

 少し物思いに耽っていると、扉をノックする音と共に部屋の外から声が掛かった。

「カーム様、よろしいですか」

「……あぁ」

 短い返事をすると、その扉から二人の人物が入ってくる。

 一人はカームと同じくらいの若い男だ。そしてもう一人は対照的に年老いた男であった。

「ゼアンヌ砦の兵は全てテリアス砦へと移し終えました」

「そうか」

「本当にいいのか?移したといってもテリアス砦の兵は二千だぞ。反乱軍はそれよりも上なんだろ?確実に仕留めるならここからも兵を移したほうがいいんじゃないか?」

 年老いた男がカームに対し丁寧な言葉を使うと、若い男は砕けた口調でカームに話していた。

「……そうだな」

 男の言葉が正しいことはカームにも理解できた。本来ならばそうすべきなのだが、カルディナ城とテリアス砦は少し距離があるのだ。そう簡単に兵を移すことは出来なかった。

「フィロン」

 カームは思案しながらも若い男の名を呼ぶ。

「お前はテリアス砦の二千をまとめて反乱軍を迎撃しろ」

「分かった」

 その言葉にフィロンは頷く。そしてカームは次に年老いた男を見る。

「ウォーレン、お前はここの兵の千を率いて遊撃に当たれ」

「よろしいのですか?」

「これが限度だ」

「……かしこまりました」

 ウォーレンもカームに頭を下げて頷いた。

 このフィロンとウォーレンがカーム軍の将官であった。フィロンはカームと同じように貴族であり、昔からカームの良き友人として接してきていた。そしてウォーレンは元はジュライア家の執事であり、昔からカームに仕える立場であった。どちらもカームを尊敬しており、カームからしてもまた信頼の置ける部下なのだ。

「帝国から援軍は来るのか?」

「分からない。だがダークリアを使う気はないとは言ってある」

「そうか……」

「ダークリア……。なぜあんな物が存在するのか……」

 カームは黒い石を思い浮かべながらも、それを思うと憂鬱になっていた。帝国軍人でありながらも、ダークリアを使って魔獣を操ることを良しとしない人間も多いのだ。カームもその一人であり、やはり魔獣を操ることに関しては避けたかった。

「まぁお前が思いつめることはないさ」

「……分かっている」

 必要以上に気にしすぎる友人にフィロンは慰めるように言葉を掛けていた。







 中立国家ジュールの国境の目前に反乱軍は野営地を置いていた。目の前に国境があり、その奥にテリアス砦が遠くに見える。やっとジュール国境戦線の部隊と合流し、今すぐにでも攻め入ろうという雰囲気が漂う中、一つのテントで顔を合わせる人たちがいた。

「久しぶりだな、ボルス」

「ブライアン軍との戦は聞き及んでおります。以前より逞しくなられましたな、殿下」

「殿下は止めてくれ」

 セインと向かうのはジュール国境戦線の部隊を率いているボルス=メルヴィ。メルヴィ家の当主であり、グレイの父親である。

「父上、お元気そうで何よりです」

「グレイか……、お前の武勲も聞いている」

「……ありがとうございます」

 少しだけ気まずい想いがありながらも、グレイは父親と久しぶりの再会を果たした。そしてボルスの隣にいる青年も嬉しそうにグレイに話しかける。

「兄さん、お久しぶりです!」

「ナイル……お前は相変わらずだな」

 グレイの弟であるナイル=メルヴィ。彼もまた槍の使い手であり、グレイやボルスに及ばずとも、かなりの実力を兼ね備えている。グレイとは正反対に明るい性格をしており、それが常々周囲の人を和ませていた。

「……それで敵の情報はどうなっていますか?」

 対面を果たしたところで、サーネルがボルスに尋ねていた。

「思った通りゼアンヌ砦の兵はテリアス砦に移されています。すでに守りも固めているようです」

「そうですか。数ではこちらが上回っておりますが……」

「カルディナ城の二千の動きは掴めていません。当然援軍の可能性もあるでしょう」

 カーム軍の四千と正面から戦うのはあまりにも無謀だ。出来ることなら援軍が辿り着く前にテリアス砦を落としておきたいところだった。

「素早く落としておきたいところですね。二千だけならば真正面から戦ってもこちらに分があります。敵の指揮官は分かりますか?」

「恐らくカーム軍の将官、フィロンという男でしょう。まだ若いがその腕はなかなかです」

 その男にはサーネルも聞き覚えがあった。やはりブライアン軍の時のようにはいかず、少しだけ思案する。その間セインが一つだけ気になることがあり、それをボルスに確認した。

「カーム軍は魔獣を使わないとは本当か?」

「はい。帝国の大将軍ですが魔獣を使うことは良く思っていないようです。少なくともカーム軍が魔獣を操っていたとこは見たことがありません」

「そうか……」

 セインはヘイスから聞いていたダークリアという存在を思い浮かべる。見たことはないがそれで魔獣を操るのだという俄かには信じ難い話でもあった。もはやヴェルダ帝国は魔獣を味方する国として知られているために、そこに魔獣を良しとしないカームという男がいることを少しだけ残念に思う。

「とにかくあまり戦いを長引かせるわけにもいきません。全力で迅速に臨みましょう」

「……そうだな。兵の士気も高い。明日にでも進軍するよう伝えておけ」

 セインの命令がその部屋に響き渡り、サーネルたちはそれに無言で頷く。そしてすぐにそれぞれが動き出していた。

 セインも同じように明日に向けて準備をしようと自分のテントへと帰る。するとその途中でこちらへと向かってくる人物が見えた。

「アレン……」

 すれ違おうとするアレンを無視するわけにもいかず、セインはその名を呟いた。アレンもセインに気付き、真っ直ぐと視線を返す。

「どうも。軍議でしたか?」

「あぁ。明日には進軍する」

「そうですか。それでは今日はゆっくり休まないといけませんね」

 アレンは何を考えているか分からない顔をしており、セインに一礼するとその横を通り過ぎようとする。しかしその背中にセインは珍しくも声を掛けていた。

「アレン」

「……はい」

 振り向くアレン。その見透かすような瞳を見るのはセインにはなぜか耐えられなかった。

「……最近アイラやヘイスと仲が良いようだな」

「仲が良いのかは分かりませんが、少しは話しますね」

「そうか……」

 セインは一度口を閉じ、アレンを見る。何を言葉にしたらいいか分からなかったが、先日二人に聞いたことを思い出した。

「……そういえばお前はゾディアの生まれらしいな」

「……お二人に聞いたのですか?」

「そうだ」

 アレンもまたセインの意思を探るように見ていた。

「隠していて申し訳ありません」

「いや、それはいい。……兄上とも仲が良いそうだな」

 それがヴィズを指しているのだとアレンは簡単に気付く。

「そうですね……。それが何か問題でもありますか?」

「いや……」

 面と向かってそう言われてはセインは何も返せなかった。どうしてもアレンも前だといつもの姿を振舞うことできない。

「セイン様」

「……何だ」

「貴方はやはりゾディアが、聖騎士が嫌いなのですか?」

 この全てを見透かすような目だ。セインは隠す事も出来ず、アレンに向かって正直に答えていた。

「あぁ、嫌いだ」

「……そうですか。俺には貴方が何で全てを兄と比較するのか分かりませんが」

「……ッ!!」

「セイン様はセイン様でしょう」

「黙れ!お前に何が分かる!」

 セインは激昂してアレンに掴みかかった。それはアイラとヘイスにも言われた言葉であったが、今この時セインは正直な気持ちをアレンにぶつけていた。本当はあの時アイラとヘイスにも言ってやりたかった言葉。セインの本音だ。

「何も分かりませんよ。だけど一つ言うならば……貴方はあの男よりも遥かに王の資質を持ってると思っています」

「何……!!」

 自分が兄に劣っているなど自分が一番分かっているのだ。その言葉は兄と自分への二人に対しての侮辱だと思った。

「……セイン様、俺が前に言ったことを覚えていますか?」

「……覚えているさ。だが言ったはずだ。俺は自分の道を貫くと」

「構いません。憎しみは誰もが持っているものですから。貴方は貴方の道を貫くといい」

 アレンとセインは無言の視線を交わしていた。今互いに何を思っているのだろうか。

 そしてアレンはセインから離れ、去り際にまた言葉を残していった。

「貴方が本当に大切なものを見つけたとき、きっと貴方は誰もが認める王になる」


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