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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
五章 女神は誰のために
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確執

 医務室の中では戦いが終わった後も慌しく回復魔術師たちが動いていた。ブライアン軍との戦いで重傷を負った者たちは未だに完治はしていないのだ。そんな彼らを治療したり、軽症を負った兵士たちを治したりと忙しかった。

「サラさん、少しは休んでください。後は私たちでも出来ますから」

 ミーアが休む間もなく働くサラを気遣って声を掛ける。しかしサラは気持ちだけを有り難く受け取り、決してその働きをやめることはなかった。必死に兵士を看続けるそんな姿にミーアは尊敬の念を抱くが、同時に少しだけ不安な気持ちにもなる。戦いが終わってからこの数日、サラが休んでいる姿を見たことがないのだ。

「私は大丈夫です。ミーアさんこそ身体を休めてください」

「けどサラさん!ずっと魔術を使い続けてるじゃないですか。いくらなんでも魔力が尽きてしまいますよ!」

 魔力だって限界がある。人それぞれに個人差はあるけれど、無限に魔力を持つ者など絶対にいないのだ。

「私の魔力はまだ大丈夫です。それに次の進軍までもう時間もないのでしょう。もう少しで全員の治療も終わりますし……」

 そのサラの言葉はミーアを驚かせるには十分なことだった。確かにサラは人よりも魔力が優れている。自分よりも遥かに優れているだろう。しかしこの数日サラは朝から夜までずっと治療をしているのだ。寝てる時間など僅かなものだろう。ミーアでさえ一日中治療をし続ければ魔力が尽きてもおかしくはなかった。それで僅かな時間休んだとしても、完全に回復はしないのは分かりきったことだ。それなのにサラは未だに魔力が尽きないという。

「後少しで終わるというなら、尚更私たちが後はやりますから」

「ミーアさん……ありがとうございます。けれど最後までやりたいのです」

 そう口にしながらサラは自身の首に掛けられているペンダントを手に取った。それは少し古ぼけていて、けれどなぜかサラにとても似合っているものだとミーアは感じていた。

「それって……」

「……これは私の宝物です。暖かくて、これを手にするとどんな疲れも吹き飛んでしまうくらいに」

「サラさん……」

「頑張りましょう、ミーアさん」

 その固い意志にミーアはもう何も言えなかった。けれど出来ることならサラの助けになりたい。そう思ってミーアは今自分に出来ることを精一杯やろうとした。それは一刻も早く治療を終えるために、ミーアも全力で兵士の傷を癒すことだ。

「分かりました。それなら私もまだ休むわけにはいきません。早く治療を終わらせましょう」

 ミーアはサラに笑いかけると、疲れの色が少しだけ滲み出ていたサラの顔も途端に元気になった。きっとミーアの笑顔にはそんな力があるのだろう。頭の隅でそんなことを思いながら、サラはすぐにまた治療を再開して専念しだした。







「やっと見つけた……こんなとこにいたのか」

「……」

 人気のない場所で静かに本を読んでいたジャックに声がかかる。しかしジャックはその声の主を一瞥するだけで、何も返さずに読書を続けた。その行動に声の主であるジェイスは苛立ちを募らせ、ジャックに怒鳴りかかる。

「ジャック!」

 それは今にも剣を抜いて攻撃しそうな迫力だった。その迫力に何を感じたのかは分からないが、ジャックはかろうじて一言だけジェイスに向かって返す。

「……大声を出さなくても聞こえてる」

「何!?」

 当然のようにその言葉にジェイスはさらに苛立ちを募らせた。けれどジャックは静かに読みかけの本を閉じ、真っ直ぐにジェイスの眼を見る。

「何の用だ。出来れば手短に済ませてほしいが」

「……ッ!?決まってるだろ!」

 ジェイスはいいようにペースを乱され、少し落ち着けるように口を閉じた。自分がなぜここにいるのかも、何の用があるのかもジャックが分からないはずがないのだ。それなのにジャックが自分から触れようとはしないことが、ジェイスをさらに怒らせる原因でもある。

「……これが最後だ……」

「……」

「あんたは本当に……」

 ジェイスはその先を口にすることがなかなか出来なかった。その答えを一度聞いている以上、それを口にした後のジャックの答えをもう一度聞くことが、本当は怖かった。

 今では認めたくもないが、確かに昔は兄であるジャックを慕っていたし尊敬もしていた。そして同じくらいにリナの兄でもあるジェイスの先輩も、自分の両親も好きだった。だからこそあの瞬間を見た時は必要以上に頭が混乱し、ただ呆然とジャックが逃げていくのを見ていることしか出来なかったのだ。それでも時間が経って冷静になれば、大好きな三人を失った事実と、一番に慕った兄の裏切りが現実に残されたのだった。その時のジェイスの心は穴が開いたように空虚になり、それを満たすにはジャックを憎むしかなかったのだ。

「……何度も言わせるな。お前もあの時見たんだろう?俺が三人を殺したとこを」

「……ッ!?」

 けれどジェイスの想いを知らないジャックは無情にもハッキリともう一度事実を述べるだけだった。皮肉にもその言葉がジェイスの心にあった僅かな迷いをなくす。

「……そうか……だったら俺は……!」

 ジェイスはやっと覚悟を決め、目の前にいるジャックを兄ではなく、ただの仇として認識した。そして腰に差してあった剣をゆっくりと、しかし確実にジャックに向かって抜く。その行動にジャックは驚くこともなく、淡々と見つめているだけだった。

「俺が今ここでお前を殺す!剣を抜け!ジャック!!」

 ジェイスは叫びながらジャックが剣を抜くのを待つ。ただ不意をついて殺しては意味がない。あの時から、いや、それよりも前の子供の時からジャックを目標に剣を振ってきたのだ。例え仇だとしても、正々堂々とジャックを倒したかった。

「……あの時に実力の差は見せたはずだ」

 ジャックはレツァ村の前で再会した時に一度ジェイスの剣を受けている。ジャックの言葉がその時のことを指しているのだとすぐにジェイスにも分かった。けれどあの時は頭が混乱していたのだ。少なくとも今の方がもっと鋭い一撃を振るえる自信がジェイスにはある。

「やってみなくちゃ分からないだろ!」

「……」

 自分の言葉を聞き入れる様子もないジェイスに、ジャックは諦めて自身も剣を抜いた。そこには余裕の姿があり、それがジェイスの勘にも障る。

「ずっと……この日のために剣を振ってきたんだ……。……甘く見るなよ!!」

 そしてジェイスはジャックに向かって走り、鋭い一撃を叩き込む。その攻撃には迷いのない殺意も感じ、ジャックはジェイスがそれほどに本気であることが分かった。けれどジャックも素直に殺されるわけにもいかず、的確にジェイスの攻撃を受け止める。それにジェイスは驚くことなく、そのまま何度も素早い攻撃を繰り出した。しかしそのどれもが簡単に受け流されていく。その度に必死に剣を振るジェイスだったが、反してジャックは顔色一つ変えずにいた。その様子が凄い悔しく、ジェイスは大声を上げながら強烈な一撃を放つ。

「ハアアアァァッッ!」

 けれどその攻撃がジャックに届くことはなく、むしろジャックによって剣が弾かれ空へと舞った。その瞬間にジェイスは地面へと膝を付き、悔しさを感じて項垂れる。その首には冷やりとした感触と共にジャックの剣が宛がわれた。

「……確かにお前は強くなった。だがそれでも俺に勝つことは出来ない」

「くッ……!」

 ジェイスは顔を上げてジャックを鋭く睨む。その視線には憎悪の感情がありありと浮かんでいた。けれどジャックはそれに怯むことなく、少しの間視線を交わしてからゆっくりと剣を引いて収めた。その行動に驚きを示したのは他でもないジェイスだ。

「なぜ剣を引く!?そのまま俺を殺せばいいだろう!!」

「俺にはお前を殺す理由がない。お前には俺を殺す理由がある。……それだけだ」

「ふざけるな!!だったらお前には父さんたちを殺した理由があるって言うのか!!」

「……さぁな。お前には関係ない話だ」

「……ッ!!」

 理不尽なジャックの言葉にジェイスは怒りも頂点へと達しようとしていた。けれどここで負けた以上、今はもう一度剣を握ることは出来なかった。ただ悔しさだけがジェイスの心へと残る。

「俺を殺したいと思うならまた来ればいい。いつだって相手になってやる」

 ジャックはそれ以上言葉にすることもなく、ジェイスに背を向けて歩き出した。その背中は確かにジェイスが追い続けてきた背中なのだ。その背中がこんなにも近くにあるはずなのに、今はただ遠くへと感じることしか出来なかった。

「絶対に……諦めない……!三人の仇は俺が取る……!!」


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