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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
五章 女神は誰のために
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積もる話

 ダーナ城では先日までブライアン軍との勝利でお祭り騒ぎであったが、今はそれとは打って変わって緊張した空気が城内に流れている。それもこれから中立国家ジュールを解放しに進軍するという伝達があったからだ。数日以内には進軍を開始するとのことで、反乱軍の兵士たちは次なる戦に向けて準備を怠らなかった。

 会議室ではいつものようにセインとサーネルを中心に反乱軍の幹部たちが集まっている。もちろんその話の内容も中立国家ジュールについてだ。

「先日のブライアン軍との戦は見事なものだった。ギリギリな戦いだったが、見事に我々反乱軍の勝利に収まった。だがいつまでも浮かれているわけにもいかない。ブライアン軍の数は多いとはいえ、あそこは帝国の七つの軍の中でも一番弱い軍だったといえよう。本当の厳しい戦いはこれからだ。全員が気を引き締めていけ!」

 セインの言葉は全員の耳へと入った。これからが本当の戦いでもあるのだ。もはや後に戻ることなど出来やしない。

「それではこれからのことについて説明しましょう」

 少しの間を置いてから、サーネルが前に進んで口を開く。

「ブライアン軍の領地でもあったフューリアの南領地を解放した我々の次の目的は中立国家ジュールの領地の解放です。本来ならばこのまま北領地も解放したいとこですが、あそこを守るのはクォーツ軍。今の我々では勝つのも難しいでしょう」

「ジュール……」

 感慨深く呟くのはジュール国境戦線から援軍として来たジェイスだった。ジェイスは祖国であるジュールを救おうとずっとジュール国境戦線で戦っていたのだ。それ故に今回の戦いにもいっそう気が引き締まった。

「ジュールを領地として与えられているのは大将軍であるカーム=ジュライアの軍。ブライアンとは正反対の生真面目な人間あり、圧政を強いないことからもジュールの民から少しは慕われているようです。敵ながら評価に値する人物でもあるでしょう。そのためにカーム軍も手強いはずです」

「確かカーム軍は四千だったか……。俺たち反乱軍はジュール国境戦線の部隊と合流しても二千五百ほど」

「はい。未だに我々が劣勢なのは明らかです。それに四千といっても帝国にはまだ魔獣という存在がいます」

「だがそれでも……」

「……勝たなければなりません」

 全員が決意したような表情でその言葉に頷いた。

「敵の軍が展開している場所は三つ。まずはカームが居るカルディナ城。ここにはカーム軍の半数二千がいます。後の二つはフューリア王国とヴェルダ帝国に近い位置に建っているテリアス砦とゼアンヌ砦。ここにはカーム軍の将官二人がそれぞれ配置に付き、兵はテリアス砦に千五百、ゼアンヌ砦に五百です。テリアス砦の千五百はジュール国境戦線の反乱軍に対してでしょう」

「つまりその三つの要所を落とさなければならないということか……」

「いいえ。落とすのは二つ。テリアス砦とカルディナ城です」

「ならばゼアンヌ砦は?」

「恐らくゼアンヌ砦の五百は最初からテリアス砦かカルディナ城の部隊と合流するはずです。いくらなんでも五百の兵をそのまま配置したままにすることはないでしょう。そうなれば帝国軍のいないゼアンヌ砦を落とすのは時間の無駄でもあります」

 サーネルの言葉にはいつも説得力があり、セインもその言葉に納得した。

「どのみちテリアス砦を攻めるにせよ、カルディナ城を攻めるにせよ、苦戦は必至。戦争では何が起こるか分かりません。突然の状況の変化にも対応できる指揮官こそがこの先多く必要になってくるでしょう。私はその対応力をここにいる皆にはあると思っています。数では帝国軍に劣りますが、優秀な指揮官の数は反乱軍が優っているはずです」

「……サーネルの言う通りだ。それについては俺も自信がある。その自覚を持ってそれぞれ兵を率いてくれ」

「はい!」

「……それでは更に具体的な作戦はボルス殿と合流してからにしましょう。現地に行ってから敵軍について分かることもあるでしょうし」

「ならば解散しよう。進軍は四日後だ。それまでに準備を整えろよ」

 その言葉に集まっていた者たちはそれぞれ退室していく。すぐにその場に残った者はセインとサーネルだけになった。

「どうした、サーネル?お前もやることがいっぱいあるだろう」

 サーネルが部屋を退室しないことにセインは僅かに疑問に思うが、すぐに自分に話があるのだと分かった。

「一つだけお聞きしたいことがございます」

「何だ?」

「……ヴィズ様のことについてです」

「……」

 その名前を聞くと、セインの胸中は乱れ始めてしまう。どうにも兄が絡むと冷静にはいられなかった。

「あの方をどう扱うおつもりですか?あの言葉が本当なのだとしたら……。すでに一般の兵たちはヴィズ様のことを知っていますよ」

「……俺なんかより兄上のが反乱軍のリーダーとして適任なのは分かっている」

「セイン様!?」

「もちろんそうはしないさ。あの兄上がゾディアの聖騎士として入ると断言したんだ……」

「ゾディアの聖騎士……正直忌々しいものですな……」

 サーネルは苦しそうな顔をして呟く。今となってはそのゾディアの聖騎士が反乱軍の中に三人もいるのだ。

「言うな、サーネル……。何にしても兵たちに動揺を与えることだけは避けたい。兄上にも部隊を率いてもらい、表向きは聖騎士だということは伏せてもらうしかない。さすがに兄上も承知してくれた」

「……分かりました」

「それに……あんな真実を知るのは俺たちだけで十分だろう……」

 祖国を裏切ったという真実。それを知った民や兵はどう思うのだろうか。それすらセインには想像することも出来なかった。







 ダーナ城にある兵士のために用意された広い食堂。もちろんその中に全ての兵が収まるはずもなく、時間によって交互に食事をすることになっている。今の時間は食事の時間ではなく、その広い食堂に人はほとんどいなかった。食事を作る料理人などは、昼の後片付けと夜の食事作りで慌しく動いている。その中で食堂の隅に三人は隠れるように座っていた。

「それにしてもまさかあんたがここにいるとはな」

 ヴィズが陽気に酒を飲みながら話す。まだ夜でもないのに彼らの机にはそれぞれ酒が置かれていた。一番ヴィズがそれを手にしているようで、隣に座るジャックはほとんど手につけていない。向かいに座るザガートも普段なら手にしないだろうが、今日は特別とばかりに少しだけ口にしていた。

「いつからここにいるのですか?」

 ザガートに向かい、砕けた口調で話すヴィズに対して丁寧に敬語で話すのはジャックだ。これは何も聖騎士の上下関係などを表しているわけでなく、ただ単に性格の問題だろう。

「最近だ。ここ何年もずっとルベルクの町にいてな、そこが魔獣に襲われたのをきっかけに反乱軍に入ることになったのだ」

「そうですか……しかし無事で何よりです」

 六年間聖騎士たちは互いに連絡を取らずに生きてきた。簡単にやられるわけもないことは分かっていたが、こうして無事な姿を確認できただけでも嬉しいことなのだ。

「お前たちは六年も何をしていたのだ?」

「特に何もしてねぇよ。ただずっといろんなとこ歩き回ってただけだ」

「そうか……。こんな馬鹿と一緒でさぞ苦労しただろうな、ジャック」

 ザガートは冗談でもなく、本気でジャックを労わっていた。そのことにヴィズはありありと怒りを募らせる。反論して言葉を荒げるが、それも最後まで口にすることは出来なかった。

「だからどういう意味だって言うん……」

「はい。確かに一人の方が楽だったでしょうね」

「って……おい、ジャック!」

「ハハハッ!そうだろうよ!」

 ジャックの言葉にザガートは愉快に笑い、ヴィズはジャックにまで苛立つ。しかしすぐに後に続いたジャックの言葉で機嫌も直る。

「ですが良かったとは思いますよ。苦労はしましたが、学ぶことも多かったですから」

「ほぅ……」

「何だ、ちゃんと分かってるじゃねぇか!」

 途端に少し嬉しそうにするヴィズだったが、それを僅かに哀れむようにザガートは見ていた。

「全く……お前こそジャックと共にいて学ぶことが多かっただろうに……」

「ぁん?そうかぁ……?」

「……ふぅ。苦労するな、ジャックよ」

 ザガートはもう一度同じことを口にすると、今度はジャックも苦笑するしかなかった。

「だがそれにしても六年で仲も良くなったようだの」

 ザガートは少しだけ六年前のことを思い出していた。当時の彼らは仲が良かったとはお世辞にも言えないだろう。

「……止めてください、ザガート殿」

 ジャックはその言葉に真剣に嫌がる様子を見せていた。しかしそれでも内心ではそのことに否定はしなかった。

「そりゃ六年も一緒にいたからな。仲も良くなるだろ」

「一緒にか……」

 ザガートはそこでふと黙り、最初に会ってから疑問に思っていたことを聞いた。

「お前たち、この六年二人だけだったのか?あいつはどうした?」

 それを耳にしたヴィズとジャックは僅かに顔を変化させる。それは決していい方にではなかった。

「それは……」

「……あいつは崖から落ちた」

 言いよどむジャックであったが、その代わりにヴィズがはっきりとそう告げた。そのことに一番辛い想いをしてるのはヴィズなのにだ。

「……そうか」

 ザガートもそれを聞いて今はそれだけしか言えなかった。そのまま三人の間に沈黙が訪れるが、すぐにヴィズがまた口を開く。

「俺たちはずっとあいつを探してたんだ。あいつのことだから絶対どこかで無事にいるはずだからな」

「……私もそう思う。だが、それならば反乱軍に入ってよかったのか?」

「……あぁ。六年、いろんなとこを探し回ったが見つからなかった。だったらこのまま探すよりは反乱軍にいた方がいいだろう。あいつも状況を理解したら反乱軍に来るかもしれない」

「そうか……」

「それに……あんなの見せられたらもう抜けるわけにはいかないだろ」

 ヴィズは反乱軍に入った初日に見たことを思い出した。だからこそザガートも反乱軍にいるのだという確信も持てたのだ。

「全くだな」

 ザガートは暗い雰囲気を払うように笑った。そして時間を確認するとすぐに席を立とうとする。

「どこか行かれるのですか?」

「あぁ。ちょっと稽古にな」

「確かあんたの自警団だったか?」

「そんなとこだ。お前たちも来るか?」

「いや、遠慮しとくよ」

「もう少しこの城を見て回りたいので」

 軽い誘いもやんわりと断られ、ザガートは仕方なく一人で訓練場に向かった。残された二人もいつまでもここにいるわけにもいかず一緒に席を立つ。ヴィズは相当飲んだはずなのに酔ってる雰囲気は微塵も感じられなかった。ヴィズもまたかなりの酒豪なのであろう。


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