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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
五章 女神は誰のために
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それでも世界は動き続ける

 ヴィラーナ城にある一室。そこには緊急に召集された大将軍たちが集められていた。皇帝と七大将軍が座ることを許される八つの席。しかし今はそこには二つの空席があった。一つはヴェルダ帝国皇帝の席である。そしてもう一つは二度と埋まることのないブライアンの席だった。

「これは一大事な問題です」

 ブライアン以外の六人の大将軍が向かい合って座る。当然集められた理由は、ブライアンの戦死という報せのためであった。

「確かに問題だな。たかが反乱軍如きにやられるなど、所詮はそれだけの男だったということか……」

 クォーツの深刻な発言に対し、シュールは怒りを滲ませる口調で答えた。そこにはブライアンへの悼みなど微塵も感じられない。

「シュール様、ブライアンは我々の仲間です。いくらなんでもそのような発言は……」

「仲間だと?反乱軍を抑えることも出来ない無能をなぜ仲間と呼ばなければならない。我々帝国軍に負けは許されないのだ。それにあんな男、もともと大将軍にいるべきではなかったのだ」

 シュールは反乱軍にやられたブライアンをむしろ帝国の恥のように扱った。その発言に対し、他の大将軍たちはあまりいい顔をしようとはしない。

「シュール様……」

 クォーツがシュールを咎めるように口を開くが、シュールはブライアンのことをすでに過去のことにしてこれからについてを話す。

「そんなことよりも反乱軍をこのままにしておくわけにもいくまい。なぜあんな少ない人数を相手に倒せないのだ。各領地の現状はどうなっている?」

 現在反乱軍はセイン率いる本隊を中心にいくつかに展開している。しかしその展開している反乱軍には優秀な指揮官もついており、そう簡単に帝国軍にやられてはいなかった。

「ジュール国境戦線はおよそ千の反乱軍と交戦中でしたが、あのブライアン軍との戦で四百が援軍として本隊と合流したようです」

 その報告をしたのは中立国家ジュールを領地として与えられている大将軍カームという男だった。そしてそれに続き、女性ながらもハノン王国を領地に持つ大将軍エルハも報告をする。

「私のとこは七百ほどが展開中です。ただその反乱軍とは別に最近怪しい動きも見られます」

「怪しい動き……?」

「はい。規模はとても小さいのですが、恐らくはその戦い方からなどハノン軍の残党かと思われます」

「あの国は戦わずして落ちたからな。考えてもおかしくはない話か……。まぁ規模が少ないというならばお前に任せる」

「はい」

 シュールの命を受け、エルハはそれに頷きを返した。

「それでお前のとこはどうなんだ、クォーツ」

「……現在反乱軍の砦に展開してるのは五百かと」

「五百だと?そんな少数の軍をなぜ倒せない!?」

「倒すも何も彼らは監視をするだけで向こうから動く気配は感じられません。放っておいても何の害もないでしょう」

「それでも反乱軍は倒すべきだろう。お前の軍なら被害を出すこともなく蹴散らせるはずだ。すぐにでも軍を動かせ」

 シュールは怒りを滲ませながらクォーツに命令する。しかしクォーツは冷静にそれを受け止めて反論した。

「お言葉ですがシュール様、陛下より賜った領地はそこを任された大将軍が全て一任すること。いくらシュール様とてその命令は聞けません」

「何だと!?」

 一触即発しそうな二人であったが、その間を割くように別の大将軍が口を開く。

「下らない口論なら後にしてくれない?私はとっとと帰りたいの。さっさとこれからのことについて決めてくれないかしら」

「シャラ……」

 相手がシュールであろうと強気に発言するのはシャラという名の女性。彼女に与えられている領地はゾディア聖王国であり、彼女自身が謎を纏う人物だった。シュールもその無礼だけはなぜか咎めようとはしない。

「だから今それについて話しているのだろう!今の問題は反乱軍をすぐにでも殲滅することだ!」

 それでもシュールの怒りは収まることなく、全員にすぐにでも反乱軍を倒すことを命令する。その命令に困惑するクォーツたちであったが、それを助けるように今まで発言をしなかった最後の大将軍が口を開く。

「ならばシュール様こそ早くヴェルダ国境戦線の反乱軍を倒したらいかがですか?あそこに展開してる反乱軍は二千。シュール様の率いる一万以上の軍を以ってすれば簡単なことかと思いますが」

「何!?」

「それとも倒せないわけでもあるのですか?あぁ……そういえばそこの反乱軍を率いてる指揮官は確か……」

「ニース!」

 その発言にさらに怒りを燃やすシュールは、すでにクォーツからニースへと怒りの対象を移していた。これ以上シュールを刺激しないよう、エルハがニースの名前を呼んで咎める。

「調子に乗るなよ、ニース。貴様こそ名ばかりの大将軍だということを忘れるな。俺に向かってよくそんな口を聞けたものだな」

「……」

 シュールはニースに向かって脅すように口を開くが、当の本人は涼しい顔をしてそれを受け止めていた。シュールがここまでニースに怒りを向けるのにもわけがある。

「なぜ貴様のようなヴェルダ帝国の人間でない者が大将軍になれるというかが疑問だな」

「シュール様!……今はそのようなこと関係ないでしょう」

 ニースを蔑むような発言をするシュールに対し、エルハがニースを庇うようにシュールを非難した。しかしシュールの言葉は事実であり、ニースはヴェルダ帝国の生まれではないのだ。

「しかし私を大将軍に推薦して下さったのは他ならぬ貴方の父上です」

「貴様……!!」

 素直に引き下がらないニースに対し、シュールの怒りも頂点に達しようとしていた。それが爆発しそうになるのが分かり、すぐにクォーツが口を挟む。

「止めろ、ニース!……シュール様も落ち着いてください」

「……」

「……馬鹿馬鹿しい!これ以上付き合ってられるか!とにかく反乱軍の殲滅は絶対だ!いいな!?」

 クォーツに止められたシュールは何とか爆発するのを堪え、それだけを言い残して席を立ってしまう。その行動にやっとクォーツも安心し、カームやエルハもホッと胸を撫で下ろした。

「言いすぎだ、ニース」

「……申し訳ありません」

「いや……だが助かった」

 ニースが口を挟まなければもっとややこしくなっていたかもしれないために、確かにクォーツはニースに感謝していた。シュールがいなくなったことでやっと話も進めやすくなり、クォーツは反乱軍についてを話し合う。

「今のところ各地に展開する反乱軍は問題ないだろう。それぞれが対処してくれ。……問題はブライアン軍を破った本隊だ。本格的に軍として形を成してきた。これからも恐らく我々に対して攻めて来るだろう」

 軍といってもまだ多くて二千程度だろう。帝国軍の全軍の数を考えれば殲滅するのは簡単だ。しかしそれでも各地に展開する軍が全て集まれば五千を越す。それでもまだ帝国軍には敵わないが、もはや見過ごせる数ではないのだ。

「ならば次はジュールへと来るでしょうね」

「カーム……」

「現在反乱軍が展開するのはフューリア王国の南。ジュールを狙うにはちょうどいい場所ともいえるでしょう。それにジュール国境戦線から四百が本隊と合流しました。残りの六百ともすぐに合流する手筈のはずです」

 冷静に状況を見つめ、カームは至極当然な答えを導き出す。その答えにはクォーツもまた同意することであった。

「分かってるならば私からは何も言うことはない」

「……はい。攻めてくるのならば撃退するまでです」

 カームは自分自身に誓うような言葉だった。今まで少数の反乱軍を相手にしてきたが、本隊が来るというならば自分たちも全軍を出すだろうことも予想できた。戦うことは好きなカームであったが、戦争という行為は嫌いである。しかしそれでも戦わずにはいられないのだ。

「それでは私も先に失礼します。戦の準備もありますので」

「あぁ……。私たちも解散だ」

 クォーツのその言葉を合図に、残りの大将軍たちもそれぞれが席を立った。その思うとこもそれぞれ違うのだろう。余裕を持った顔をする者、緊張した面持ちをする者、何を考えているのか分からない者、それぞれが違った顔をしていた。







 中立国家ジュールの中にある一つの町。その町の外れの方に一つの家があった。

 そこの家主は二人の兄妹。親を六年前の戦争で失くしたジュールの民である。当時はまだ幼い兄妹であったが、身寄りもなかった彼らは町の外れにある小さな家に追いやられたのだ。しかし今では兄が懸命に働き続けたおかげで、貧しいながらも暮らすには十分であった。

「ただいま、クオ」

 家の扉が開かれ、そこから兄であるリュウが顔を出すと、クオは顔に嬉しさをありありと浮かべた。

「おかえり、お兄ちゃん!」

 リュウが家の中に入ると、そこからは良い匂いが漂ってくる。クオが料理をしていたとこだったのだろう。クオは料理の続きを再開するように台所に走っていき、リュウは仕事の疲れを癒すように椅子へと座った。すると奥の部屋の扉が開き、そこから一人の美しい女性が現れる。

「おかえりなさい、リュウさん」

「あ……ただいま帰りました……」

 いくら経ってもこの挨拶に慣れることがリュウには出来なかった。

「お兄ちゃんったらいつまでそんな他人行儀なの?もうお姉ちゃんもこの家の立派な一員だよ」

「わ、分かってるよ……」

 リュウはクオにそう言われるが、きっといくら慣れるにはまだまだ時間が掛かるだろうと分かっていた。女性はクオの料理を手伝うように台所へと行き、その後姿をリュウは黙って見つめる。綺麗な茶の色の髪と瞳を持ち、その背丈は女性にしては高く、リュウよりも少し高いだろう。そんな彼女は理由もあり、現在この家で世話になっていた。滅多に外へ出ることはなく、ほとんど家でクオの手伝いをしているようなものだ。しかし彼女の存在こそが、暗かった二人の家を明るくさせたのだ。そのことにリュウは大きな感謝をしていた。

「そろそろご飯が出来ますよ。先に着替えてきますか?」

「あ、あぁ……そうするよ」

 仕事から直接帰ってきたために、服は汗で少し濡れていた。そんなとこに気づける配慮も彼女の美点だ。リュウは着替えるために自分の部屋へと入っていく。後ろではクオと彼女が仲良さそうに笑っていた。その声を聞きながらも、リュウは自分のためにもクオのためにも、いつまでもこの幸せが続けばいいと思った。


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