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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
四章 獅子と翼竜
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両親の誇り

 サルサ大平原でのブライアン軍と反乱軍との戦い。それはもはや勝敗の分かりきった戦いとなりつつあった。

 すでにブライアン軍の多くは地に伏していた。かろうじて戦線を保ってるのも無限に沸きつつある魔獣のおかげである。後はもはやヘイスとアイラの勝利を待ち望むだけだった。

「もう終わりね……」

「あぁ、どう見ても反乱軍の勝ちだろう」

 戦場の隅で冷静に分析する二人。すでにそこは戦闘からは程遠い場所でもあった。

「行くの?」

「そうだな……どっちでもいいと言えばどっちでもいいんだけどな」

「けど行くんでしょ?」

 結局相手の出す答えは分かりきっていた。確認するように尋ね、相手はそれに苦笑する。

「ま、そうだな」

「何か問題でも?」

 どこか渋っているような相手が珍しく、気になって聞いてみた。

「ちょっとな。ただ……あいつと対峙したら、絶対に俺はあいつを殺すだろう。それってさ、やっぱり憎しみからなのか?もしそうだったら俺も人のこと全然言えないだろ」

 いつになく迷う姿に、呆れながらため息を吐く。どう言っていいかよく分からなかったが、けれど励ますように言葉をかけた。

「いいんじゃないの?あんたが言いたかったのはさ、憎しみだけで人を殺すようじゃダメだってこと。戦う理由に他の大事なこともなきゃいけないってことよ。それが分かってるなら、そこに多少の憎しみはあってもいいじゃない。要はちゃんと自分が戦う理由を理解してるかってことよ」

「……」

「あんたも分かってるでしょ?どうせ憎しみの連鎖なんて断ち切れるわけがないのよ……。人間という存在は、どこまでも愚かな存在なんだから」

「そう、かもな……」

 そう言われて少しだけ吹っ切れた。確かにその言葉は正しかったのだ。

「行きましょ、アレン。あんたはあいつと対峙する必要があるわ」

「あぁ……ありがとな、セレーヌ」

 そして二人はひっそりと、他の兵士から見つからないようにその戦場を後にしていた。







 そこでは三人の戦闘が長い間続いていた。ヘイスとアイラ、そしてブライアン。誰もが一歩も引かない状態で、激しい戦いが繰り広げられている。

 ブライアンが捨て身のように二人へと突進する。けれどその身体は硬く、そこらの兵士の攻撃も受け付けはしなかった。ヘイスは斬り込んでくるブライアンを剣で受け止め、その間にアイラが横から攻撃をする。しかしそれを予想していたブライアンは、すぐに一歩退いてその攻撃を避けた。そしてそのままアイラへと斧を振って反撃する。その攻撃をアイラは剣で防御するものの、力が勝てずに後ろへと飛ばされて倒れこんだ。すぐに態勢を整えようとするが、ブライアンは追い討ちをかけるようにアイラに向かった。

「アイラ!」

 ヘイスがアイラの名を叫ぶが、そこからではすでに間に合う距離ではない。

「終わりだ!」

 ブライアンが目前に迫り斧を振り下ろそうとしていたため、アイラは反射的に剣を思いっきり振った。斧と剣が音を響かせてぶつかり合う。しかしブライアンの斧が簡単にアイラの剣に勝つが、ぶつかり合ったために狙いがそれてアイラのギリギリ横の地面へと当たった。すぐに次の攻撃に移ろうとするブライアンだが、その隙を狙ってアイラは倒れたままの状態からブライアンの身体を蹴り、その反動と共に立ち上がって態勢を整える。それでもブライアンはアイラを追おうとしたが、その身体から何かが落ちるのを見てすぐにその行動を止めた。

「……ッ!?」

 ブライアンはすぐに方向を変えて、落ちたものを拾いにいった。そのいきなりの行動にヘイスとアイラは怪しんで落ちたものを見る。

「それは……?」

 アイラの蹴りによって落ちたのは黒光った玉だった。気味が悪いだけで一見何の価値もなさそうに見えるが、しかしブライアンはそれを大事そうに手に取る。

「今のは……」

 ヘイスはその黒光る玉に見覚えがあった。思わず呟き、そしてそれをどこで見たのかを思い出す。

「そうだ……。確かそれで魔獣を操ってるんだ!」

「何ですって!?」

 魔獣を操れるものが存在することに驚くアイラ。それと同時にブライアンもヘイスがそれを知っていたことに驚いていた。

「何でお前がそれを知ってやがる!?」

「……お前の部下が教えてくれたんだよ」

「ビレイスか……あの役立たずめ!」

 ヘイスの答えを聞いて、ブライアンは忌々しそうに舌打ちをする。しかしすぐに開き直ったように、その玉を上へと掲げた。

「まぁいい……そこまで知ってるなら教えてやる。この玉はダークリアだ。お前の言葉の通り、魔獣を操ることができるのさ!」

「ダークリアだと……それで今まで魔獣の大群も操っていたのか!?」

「そうさ。これがある限り魔獣すら俺様に従う!」

 まるで自分がこの世界の支配者であるかのように振舞うブライアン。そんなブライアンにアイラとヘイスはもう我慢がならなかった。

「アイラ、あれを壊すぞ!」

「えぇ。分かってるわ」

 ダークリアの存在。それは確かに脅威で驚くべきものであったが、ある意味安心することもできた。これで帝国が魔獣を従えさせていることに説明がつくのだ。ダークリアなど使わずに本当に魔獣を操ることができたのなら、それこそ真の脅威ともいえた。

 ヘイスとアイラはブライアンの持つダークリアを狙う。しかしブライアンは今度こそ落とさぬように懐へと大切にしまい、斧を持って二人に立ち向かった。

「させるものか!次こそ血祭りにあげてやる!」

 ブライアンもまた走り、斧を豪快に振るった。一振りするとそれをアイラとヘイスは避け、横から挟み撃ちするように動く。アイラがそのまま攻撃を仕掛け、ブライアンはそれを避ける。するとすぐさまヘイスは避けたブライアンを狙った。

「くっ……!」

 筋肉の塊のような身体にヘイスの剣は直撃する。ブライアンは痛みにより声をあげるが、その身体には思ったほどの傷はできていなかった。

「ホントに硬い身体だな……」

「そうね……」

 先行きが少し不安になりながらも、二人は再びブライアンに攻撃していく。ブライアンもすぐさまそれに応戦し、二つの剣と一つの斧の戦いが続いた。主にブライアンが防戦になっているが、それでも隙を見ては反撃する。その強烈な一撃を喰らえばひとたまりもないので、その度にアイラとヘイスは何とかして避けていた。

 長々と続く攻防。それに焦れて先に動いたのはブライアンだった。瞬時に気合をいれ、それにより二人は一瞬怯んでしまう。しかしすぐに気を取り持ち、ブライアンに向かった。ブライアンはその気合と共に斧を横へと勢いよく振る。

「きゃぁっ!?」

「ぐっ!」

 直接斧に当たりはしなかったが、その攻撃から出た風圧は二人を攻撃するには十分だった。後ろへと吹き飛ばされるアイラとヘイス。それを今度こそ仕留めようとブライアンは狙いを定めて攻撃する。

「いい加減にくたばりやがれ!」

 近くにいた方のヘイスの前まで走り、斧を上から振り下ろそうとした。ヘイスは瞬時に剣を自分の身体とブライアンの斧の間にやってこさせ防御する。そのおかげで直撃こそ免れたものの、ヘイスの身体には大きな一撃が入った。

「がぁぁっ!?」

 内臓が押しつぶされたような感覚と共に、ヘイスは大きく血を吐いていた。そのまま倒れこむヘイスの身体をブライアンは思いっ切り蹴り飛ばす。

「兄さん!?」

 吹き飛んだヘイスのもとにアイラはすぐに駆け寄った。まだ命はある。ヘイスはすぐに立ち上がることは出来なかったが、手を地面につけて顔をブライアンに向けた。それはこんな状態になっても決して諦めようとしない顔だった。その顔を見たブライアンは、激しい怒りをみせる。

「何だその顔は……!そんな状態でまだ俺に歯向かう気か!!」

「当たり前だ……!」

 ヘイスはアイラの肩を借りて、ようやく立ち上がった。その様がブライアンはまるであの時のことを見ているような錯覚に陥りそうになる。

「どこまでお前らは似ているというんだ!!本当に忌々しい!!」

「何……?」

 その時のヘイスとアイラは、五年前のフューリア王と王妃の姿と重なっていた。

「お前らの親もそうだった。ボロボロな姿になり、敵わないと知っても俺様に立ち向かう。素直に命乞いでもすれば助けてやったものを、あの馬鹿な奴らは自ら死を選んだ。本当に馬鹿な奴らだったさ!」

「あんたなんかが父と母を侮辱しないで!」

「ハッ!お前らはどうだ。今ここで命乞いをするんなら、命だけは助けてやってもいいぞ。所詮お前らじゃ俺様には勝てやしない」

 怒りと共に高圧にブライアンは二人を見下した。けれどその言葉にヘイスもまた怒りを燃やす。

「命乞いだと……?ふざけんなよ。誰がてめぇなんかにそんなことするかよ!俺たちはてめぇを倒す。いい気になってられんのも今のうちだ!」

 ヘイスはようやく一人で立ち、剣を構えてブライアンに向かう。それに並ぶようにアイラもまた隣で剣を構えた。

「ふざけるな!その馬鹿さも親譲りか!あいつらもそんな反抗的な顔をして結局は俺様の前にくたばった!親の道を辿りたいというなら辿らせてやるよ!!」

 ヘイスとアイラは性格こそ違えど、顔は両親にそっくりだった。それがブライアンにはどうしようもなく苛立たしい原因である。

「親父とお袋は最期までその誇りを捨てなかった……」

「そうね。本当に立派な人たちだった」

「だから、今度は俺たちがその誇りを引き継いだ」

 ヘイスとアイラは真剣な表情でブライアンから眼を離さずに頷きあった。

「行くぞ!」

 二人は傷つきながらも、諦めずにブライアンに向かった。その行動に怒りを燃やしながらも、ブライアンは今度こそ確実に命を奪うため対峙する。すでにヘイスとアイラには小細工をかける余裕もなかった。正面からただブライアンの命を狙うのみだ。

「ハァァァッッ!!」

 雄叫びのような掛け声を上げながら、一直線に走ってブライアンに攻撃するヘイスとアイラ。ブライアンはその攻撃を防ぐように斧を振った。前に出ていたヘイスの剣とブライアンの斧が激しくぶつかり合う。拮抗する二人の力。片方が一歩でも引けば、すぐにでもその命を奪おうとしていた。けれどそんな二人の間にアイラが止めとばかりに躍り出る。

「これで終わりに!!」

 アイラはヘイスの後ろから大きく跳躍し、ヘイスの肩を使ってさらにまた跳躍した。当然目的はその先にあるブライアンであり、アイラは回転しながらも大きく弧を描いて今までで一番力をこめた一撃をブライアンの肩へと叩き込む。手応えはあった。けれどそれが終わりではなく、アイラの攻撃によってよろけたブライアンに、ヘイスもまたその身体へと剣を突き刺した。

「ぐぁぁッ……!!」

 大きく吐血するブライアン。ヘイスは剣を引き抜き、様子を見るように後ろへと下がった。アイラもまた同じように後ろへと下がる。

「馬鹿…な……こんな馬鹿なことが……!!」

 ブライアンの身体からの出血が激しかった。倒れこみそうになる身体を必死に抑え込み、何とか意識を保とうとさせる。それと同時にこの状況が信じられずにいた。

「終わりだな、ブライアン。お前の負けだ」

「ふざけるな!!この俺様が負けただと!?俺様は負けるはずがない!!」

 ブライアンは逆転した形勢を認めようとはしなかった。惨めなブライアンを一瞥し、ヘイスとアイラは止めを刺そうとゆっくりとブライアンに近づいていく。

「父さん……母さん……」

 ブライアンの最期を前に、亡くなった両親を想う二人。しかしその油断をブライアンは見逃しはしなかった。

「俺様がこんなとこで死ぬはずがない……。俺様はこの世界で一番なんだぞ!!それを……こんなとこで死んでたまるか!!」

 ブライアンはありったけの想いを込めて叫ぶと共に、懐からダークリアを取り出して頭上へと掲げた。それを見たヘイスとアイラはハッとしてそれに注意を向ける。

「何をする気だ!」

「魔獣よ、現れろ!!」

 ブライアンの声が響くと同時に、ヘイスとアイラの周囲には闇が立ち込めた。

「これは……嘘でしょ!?」

 その闇から現れたのは数体の魔獣だった。その魔獣は出現すると、すぐにヘイスとアイラを囲む。

「まさか魔獣を召喚することもできるのか!?」

 ヘイスはその事実に驚きを隠せずにいた。魔獣は二人を逃がさないように隙なく囲み、それはまるでブライアンを守っているようでもあった。するとブライアンもまた動きを見せる。それをヘイスは見逃しはしなかったが、魔獣に囲まれたここからでは止める術がなかった。

「待て!逃げる気か!?」

 叫んだ時にはすでにブライアンは先ほどまで乗っていた自分の馬へと乗り込んでいた。そのままヘイスの方を見やり、勝ち誇った顔で声を上げる。

「やはりお前らじゃ俺に勝てやしない!大人しくお前らはここで魔獣の餌にでもなっているんだな!……そいつらを殺せ!!」

 その言葉が発せられると、魔獣はブライアンに従うようにヘイスとアイラに襲い掛かった。

「待て!!ブライアン!!」

 魔獣に襲われながらも、ヘイスは見えなくなるまでブライアンの姿を見ていた。致命傷まで負わせておきながら、ここで逃がすなんてあってはならないのだ。馬で遠くまで駆けるブライアンの背中を睨みながら、ヘイスはすぐに追いかけようとする。しかしそのためにはここにいる魔獣を殲滅しなければならなかった。

「アイラ、こいつらを片付けてすぐにブライアンを追うぞ!」

「分かってるわ!」

 すでに魔獣と戦っているアイラを見ながら、ヘイスもまた焦りながらすぐに目の前の魔獣の殲滅にあたった。

 その当人であるブライアンは馬に寄りかかりながらも、必死に駆け抜けていた。目的などなく、ただ逃げるために馬を走らせていく。しかしその身体はもはや傷つきすぎていて、激しく休息を訴えていた。走り続けているとやがてサルサ大平原を抜けて森林に辿り着く。そこの入り口まで馬を走らせると、急に馬が地面へと倒れこんだ。どうやら酷使したためにもう動けなくなっていたようだった。

「ちっ!役立たずが……」

 ここで立ち止まるわけにもいかず、愚痴りながらもブライアンは森林の中へと入っていった。しかしもはや身体が限界に達しようとしている。追っ手を気にしながらも、どこか休める場所を探そうとした。

すると数分歩いただけで、少し開けた場所へと辿り着く。そこには泉があり、まさに休憩するための場所ともいえた。ブライアンはまず疲れを癒そうとその泉へと駆け寄り、安全であることを確かめて顔を近づけて泉の水を無心に飲み始める。しかしそんなブライアンに、後ろから大人びた声が掛かった。

「無様な有様だな、ブライアン」

 誰もいるはずないと思っていた場所に、突然声がかかったことに慌てて振り返る。そしてブライアンはそこにいた人物を見て驚愕の表情を浮かべた。


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