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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
四章 獅子と翼竜
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魔術師としての意味

「キャハハハッ!愚かな人形さんね。私たちに勝てるとでも思ってるの?」

「思ってるさ。何なら手加減でもしてやろうか?」

「……生意気な人形さんね!」

 挑発するヴィズの言葉に、少女たちは一気に素早く動き出した。地面を蹴り、真っ直ぐに向かってくる一人の少女。キャシーなのかキャリーなのか分からないけれど、拳を突き出してくる少女に先ほどと同じように剣で防ぐ。どんなカラクリがあるのか分からなかったが、剣が当たろうともその拳に傷がつかないことはすでに理解していた。

 その拳は少女とは思えない力で、ヴィズの力に対等に渡り合っている。ヴィズはすぐに剣で弾き、体勢を崩す少女に容赦なく剣を振った。しかし少女は軽やかにそれを避け、ヴィズの懐に潜り込んで蹴りを入れようとする。

「おっと!」

 危なげではあるが、その前にまたしても剣でその蹴りを受け止めた。やはりその足には何の傷も出来ず、鉄のような感触を味わう。その有り得ないことを一瞬考え込んでいると、別の方向から殺気を感じて振り向いた。しかしその時にはすでにもう一人の少女の拳が迫ろうとしている。急いで避けようとするヴィズであったが、先ほど蹴りをいれてきたもう一人がヴィズを逃がさないようにその身体を掴んでいた。

「私たちは二人で一人よ!」

「……なるほどな。けど忘れんなよ。俺たちだって一人じゃないんだぜ?」

「……!?」

 その言葉に何かを察した二人は、顔を変えて一つの場所を見る。そこには翡翠の髪を靡かせたジャックが剣を振り下ろす姿があった。それと同時に感じる、こちらに向かう風に似た音。危険を察した二人は、急いでヴィズのそばから飛びのく。それを確認するとヴィズもまた、横へと跳んで避けた。

 鋭い音が響いた後、三人がいなくなった地面には薄らと、けれど確実に裂け目が見えた。

「おいっ……俺まで危なかったじゃねぇか!」

 ヴィズは立ち上がり、ジャックを見ながら悪態をつく。そんなヴィズをジャックは冷淡にも見える言葉を返す。

「あれくらい避けれるようじゃなきゃ困るな」

「……そうかよ」

 相変わらずな相棒の態度に呆れながらも、ヴィズは諦めたように嘆息して逃げた二人の少女に視線を向ける。そんな二人は不意打ちを喰らったことに悔しげな表情を浮かべていた。

「むかつく!!」

「そうね!あんな攻撃反則よ!」

 憤慨しているキャシーとキャリーは更に怒りを募らせ、今度はジャックへと標的を変えた。互いがジャックを挟みながら走り出す。それと同時にヴィズもまたジャックの近くへと走り出した。キャシーとキャリーの拳がジャックを狙う中、ジャックはそのうちの一人に向き剣で受け止めようとする。がら空きになる背中であったが、そこへヴィズがやってきてジャックと背中合わせに剣でもう一人の攻撃を受け止めた。

「あんたらが連携を自慢するように、俺たちも連携は得意なんだよ」

 またしても攻撃を止められた二人は、怒りにも似た悔しそうな形相でヴィズとジャックを睨んでいた。一旦後ろへ引き下がりながらも、真っ直ぐとそれぞれの敵を見る。

「許さない……」

「あんたたち、私たちを馬鹿にしたでしょ!」

「人形風情が……」

「人形如きが……」

「許さない!」

 途端鋭い殺気を包む少女たちに、二人は警戒を強める。

「なぁ、ジャック」

「……あぁ」

 注意を払いながらも、ヴィズは何かを確信したようにジャックに尋ねる。同じことを考えていたジャックもヴィズの言いたいことが分かり頷いた。

「恐らくこいつらが例の人形だろう」

「少なくとも様子を見る限りじゃ、成功体でもないんだろ。失敗作はどこか欠陥があるっていうしな……」

 少女たちがどこか毀れていることなど一目瞭然だ。噂に聞いていた彼女たちの存在を初めて目の当たりにし、やるせない気持ちを抱く。

「マリオネット、か……」

 ヴィズがそう呟くと、キャシーとキャリーはその言葉に過剰に反応した。

「違う!私たちはマリオネットなんかじゃ、人形なんかじゃない!!」

「そうよ!人形は貴方たち!私たちは、失敗作なんかじゃない!棄てられてなんていない!!」

 必死に言葉を紡ぐ二人に、ヴィズとジャックは哀れみの視線を浮かべた。けれど二人にとってそれが逆に神経を尖らせる。

「止めて……そんな眼で私たちを見ないで!!」

「もう許さない!私たちを人形という貴方たち……絶対に許さない!」

「……生き残らなきゃ……みんな死んで、もう私たちしかいない……!だから、絶対に生き残るのよ!」

「証明してみせる!私たちは人形なんかじゃない!!」

 キャシーとキャリーは震えていた顔を上げて、ヴィズとジャックを睨みながら走り出す。決意を帯びたその表情に気圧されそうにもなるが、二人はしっかりとそれを受け止めた。

 全ては哀れな少女たちを救うために。







「張り裂ける大地、全てを飲み込むべく出でろ!」

 ロウエンの立つ地面が急に隆起し、その尖った大地がロウエンを襲うべく勢いよく伸びる。同じ地の魔術に翻弄されながらも、ロウエンは後ろへと大きく飛び退いて次々と攻撃を避けていた。

「いつまで逃げ続ける気ですか。いい加減に観念したらどうです!」

「……くっ!」

 認めたくはないが、ドランの魔力はロウエンと同等ほどに高かった。しかも同じ地の魔術を得意とすることにより、どんな攻撃に弱いのかも分かりきっている。

「しつこい奴だな……」

「それはこちらのセリフです!」

 なかなかロウエンに命中しないことにドランも焦れ、さらに魔力を強めていった。それにより隆起する大地が更に大きくなり、じわじわとロウエンの逃げ場を失わせていく。

「……ッ!」

 逃げ場のないロウエンはついにその魔術が身体へと掠めた。一瞬膝をつくロウエンに、ドランは笑みを深くし更に追撃を放つ。ロウエンはそれを眼にし、避けることを止めて反射的に防御の魔術を唱えた。

「鋼の壁よ、我が前へ現れろ!」

 一突きで心臓を貫きそうな大地は、その壁に防がれ粉々に砕け散る。しかし攻撃はそれだけでなく、次々の同じようなものが壁へと突っ込んでいった。ほとんどが砕け散っていくが、次第にその壁にもヒビが現れる。少しの時間稼ぎにしかならないことが分かり、ロウエンはすぐにそこから移動を始めた。しかしそれを予想していたかのように、ドランが先回りするようにロウエンの前に現れる。

「逃がすと思っているのですか?」

「なっ!?」

 ついさっきまで離れていたと思っていた相手が急に目の前に現れれば誰だって驚くだろう。ロウエンも例に漏れず、その存在に眼を瞬かせる。

「これで終わりです!」

 ドランは再び剣を取り出し、ロウエンにそれを振り下ろそうとする。それと同時に後ろからも鋼の壁を貫いた魔術がロウエンを狙っていた。

 ロウエンはすぐに懐から短剣を取り出し、何とかドランの剣を受け止めた。その後すぐに身体をずらし、それと同時に背後からドランの魔術がロウエンを襲う。

「……つぅッ!!」

 激痛に顔をゆがめるロウエン。しかし止めを刺そうとするドランを見て、それを抑えながら何とかドランに向かって至近距離から魔術を放つ。

「集いし欠片の礫!」

「ぐっ!」

 まさかここで反撃が来るとは思わず、ドランはその魔術を避け切れなかった。威力は小さかったが、ドランに傷を与え後ろへと下がらせるには十分だ。その間にロウエンも後ろへと下がり、何とか戦う姿勢へと持ち込む。すでに先ほどの魔術は消え、ドランだけに注意を放った。

「本当にしぶといですね……」

「……悪かったな」

 次の行動を伺うロウエンに対し、ドランは集中して魔力を集め始めた。

「我が命令に従いし精霊たちよ、今ここへと集え……」

「……!?この魔術は……」

 地の上級魔術。絶大な威力を誇る魔術であることが、ロウエンにも瞬時に分かった。それへと対抗するためにロウエンもまた強力な防御の魔術を展開させる。

「世界を覆う命の育み。芽吹き、花開かせ、咲き誇れ。我の願いを聞き入れ、大いなるその加護をここに!」

「汝ら我の庇護の下、力を昂らせ、一つへと。終焉なる大地を恵み、加護へと以って放つ。さぁ……我に従え……彼の敵を滅ぼせ!!」

 大きな光ある地の結界が完成すると同時に、ドランもまた魔術を完成させた。唸りにも似た音を響かせ、その魔術はロウエンの結界へと衝突する。互いの力は拮抗し、いつ片方の魔術が消えてもおかしくはなかった。自分の魔術を強めるため、ドランは魔力を強く注入させる。

「いきなさい!我が僕たち!」

「……くっ!」

 力が強まる魔術に結界が破れそうになるが、ロウエンは自分の勝ちを確信していた。

「お前……そんな精霊を無理矢理従えるような魔術で本気で勝てるとでも思ってるのか?」

「何をいきなり……。勝てるに決まってるでしょう。精霊とは人間に従うもの!人間に使われてこそ初めてその存在に意味ができるのです!」

「……最悪だな。それでもお前魔術師かよ。精霊がいるからこそ、俺たち魔術師は力を持てるんだ。お前みたいなやつに精霊は力を貸さない!」

 ロウエンの怒りを含んだ叫びが精霊たちに伝わったかのように、大きな音と共にドランの魔術は消えていく。その事実にドランは驚き、そして怒りの声をあげた。

「なっ……ふざけるな!なぜ消える!?」

「そんなことも分からないなんてな……。もう一度生まれ変わって魔術の勉強でもしてろよ」

 信じられないというドランに、冷静に言葉を紡ぐロウエン。その手には大きな魔力が集い始めていた。

「いいか?魔術はこうやるんだよ……」

「私を馬鹿にするな!!何ならもう一度見せてやる!」

 ドランは再び集中し自分のもとに魔力を集めようとする。そして詠唱を開始させようとした時、その魔力はいきなり弾け散っていった。

「何!?」

「……ホント分かってないな。さっきから上級魔術を使いすぎなんだよ。魔力だって無限じゃないんだ。あれだけ使ってりゃなくなるのも当たり前だろ」

「ば、馬鹿な……!」

 何度も同じことを試そうとするドランであったが、その度に魔力は少しずつ失われていった。慌てふためくドランを哀れみの眼で見つめ、ロウエンは詠唱を開始して魔術を完成させていく。

「我に力を貸す精霊たちよ、今ここへと集いたまえ。汝ら我が願いの下、力を昂りし、一つとなれ。終焉を導く大地の加護を、恵みと共に解放しよう。どうか願う……我に力を!」

「や、止めろ!!」

 防御の魔術を唱える魔力も残されていなかったドランは、その身体を無防備に晒す。逃げる暇も考えもなく、ただ頭で魔術が近づいてくるのを理解するだけ。

「うぐぁぁぁ―――!!!」

 最期の断末魔が聞こえ、ドランはその場に崩れ落ちるように倒れていった。


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