双子の少女
「見えたぞ!」
レツァ村へと向かっていた別働隊がようやくサルサ大平原に辿り着いた。すでに戦場は激化しており、奇襲が成功したとはいえ数の差があれば時間も経つと形勢は逆転していく。反乱軍も少し苦戦を強いられているようだった。
「急ぎましょう!」
止まらずに走り続けるロッドたち。もちろんその近くにはヴィズとジャックが同じように走っていた。
戦場に辿り着くと、新たな部隊に動揺する帝国軍と、援軍の到着に歓喜する反乱軍。ブライアンにはすでにヘイスたちが行っていると判断し、ロッドたちはすぐにでも帝国軍の殲滅にかかった。
やはり奇襲は成功したようで、地面に転がる死体はほとんどが敵のものばかりである。しかし一部の場所には味方の兵の死体が固まっているところがあった。
「何だこれは……!」
その死体たちはほとんどが異常ともいえる死に方をしていた。剣などで斬られた様子は全くなく、その代わりとでもいうように、首が折れていたり、腕や足が有り得ないように曲がっていたり、腹が潰されていたりと残虐な死に方をしていた。それを眼にしたマーブルやリナは、思わず視線を逸らし吐き気さえ込み上げてくる。
「これはまた恐ろしいな……」
その惨状に何があったのかと疑いたくなる中、彼らの耳に甲高い笑い声が聞こえてくる。
「キャハハハハハ!ねぇ、キャリー。また新しいお人形さんたちが来たわ」
「そうね、キャシー。けれど何だかこのお人形さんたち、反抗的な眼をしているわ」
その声に振り向くロッドたち。しかしその声の主の姿を見て、驚きに眼を見張る。
まだ幼い明らかな少女たち。ブロンドの髪を靡かせ、可愛らしく、それでいて残忍な笑顔を浮かべていた。姿かたちはそっくりで、同じ人間が二人いるかのようだ。そして何よりもその二人が立つ足元には、先ほどの異常な死体が多くあった。中には帝国軍の兵士の姿さえある。
「お前たちは……」
その姿を眼にした時、ロッドとマーブルはグランツ城で戦った相手を思い出した。まさかという思いで、マーブルはその少女たちに尋ねる。
「ここに倒れている兵士たち、貴女たちの仕業なの……?」
「そうよ。脆いお人形よね。簡単に壊れてしまうの」
「もっと骨のあるお人形を探していたけど……貴方たちなら大丈夫かしら?」
可愛い笑顔で残忍な言葉を放つ少女たちは、誰から見ても明らかに異常だ。ジェイスとリナは信じられないという思いであったが、ロッドとマーブルは不本意であるがそれを受け入れられた。
「馬鹿な!こんな小さな子供にそんなこと出来るはずがない!」
「信じられないわ……」
「けれど、恐らく事実だわ」
「あぁ。似たような子供に俺たちも出会った」
出来ることならそうであって欲しくないが、二人は彼女たちに戦った相手と似たような雰囲気を感じていた。それに対して二人の少女はその言葉に敏感に反応する。
「似たような子供……?」
「そう……。やっぱり彼らも死んでしまったのね」
少女たちは途端に何かを察し、沈みかけた表情を見せる。しかしその後にはすぐに残忍な笑顔に戻っていた。
「キャシー」
「分かってるわ。それなら、尚更私たちは生きなければならない」
「そうよ。そしてそのためには……」
「邪魔者は排除」
鋭くロッドたちに視線を向ける。射抜かれるような眼光に一瞬動き出せずにいた。
「誰から遊んであげようかな」
「少しは耐久性のあるお人形がいいけれど……」
観察するように少女たちはそれぞれの顔を見た。警戒するロッドたちであったが、その前にヴィズが躍り出る。
「ヴィズ……?」
「ま、戦うならやっぱ強い相手じゃないとな。どうやらブライアンは取られてるようだし、あんたたちでいいさ」
「あら……格好いいお人形さんだわ」
「貴方が私たちと遊んでくれるの?」
「俺じゃ不満か?」
少女たちはヴィズに視線を定める。するとすぐに極上の笑顔を浮かべ、大きく頷いた。
「ううん!私も貴方と遊びたいわ!」
「そりゃありがたいな」
「止めろ、ヴィズ!その子供たちは危険だ!」
一度同じような子供と戦ったことがあるからこそ、その危険性が分かっていた。ここでまたヴィズを失うようなことが絶対にあってはならない。必死で止めるロッドであったが、ヴィズはそれを受け入れるわけもなかった。
「悪いが、あいつらの相手は俺だ。お前たちはとっとと別の場所に行けよ」
「ヴィズ様!」
「お前は分かってないから言えるんだ!もしここでお前がやられたら……」
「分かってないのはお前らだ」
未だに自分をフューリア王国の第一王子だと思っている二人に、ヴィズは無情にも告げる。
「言ったはずだ。お前らが知るヴィズは死んだ。そんな心配なんて迷惑でしかない」
「ヴィ…ズ……」
本当に死んでしまったというのか。ロッドはまたしても頭が混乱しそうになっていた。
「お喋りはそこまでにしてくれない?」
「そうよそうよ!貴方が遊ぶのは私たちでしょ!」
「悪かった。今から遊んでやるよ」
ヴィズは剣を抜いて、少女たちの前に立つ。
「ヴィズ様!」
「……ロッド殿、我々も加勢いたしましょう」
「あ、あぁ……」
もはや退く気がないヴィズに、ジェイスは加勢しようとロッドを促す。半ば放心気味であったが、ロッドも立ち直り剣を抜こうとした。
「なぁに?貴方たち邪魔する気?」
「そうみたいよ、キャリー」
「ふーん。だったら邪魔者は先に排除しちゃうわね。いいよね、キャシー?」
「もちろんよ。やっちゃいましょう」
そして同時に走り出すキャシーとキャリー。全てが同じで、まるで分身をしているかのようだ。二人のうち一人がまずヴィズへと突っ込んできた。何も武器を持たない少女に剣を前にするが、少女の腕は鉄で出来ているのかと思うほどにその腕で剣を防ぐ。さすがのヴィズもこれには驚きを隠せない。
「まじかよ……」
二人が拮抗する中、もう一人の少女であるキャリーがキャシーの肩を踏み台にし、ヴィズの頭上を飛び越えてその後ろにいるロッドたちに向かった。そのまま素早く近場にいたリナを目標とする。
「……!!」
「リナ!」
リナの前に瞬時に辿り着き、屈みこんでその身体へと強烈な拳を叩き込もうとした。キャリーの拳とリナの身体が触れる直前、その間に一振りの剣が割り込む。弾かれるキャリーの拳。攻撃が失敗したキャリーはすぐに後ろへと下がった。
「へぇ……貴方も格好いいわね」
「……」
邪魔をされたことに怒りは感じないのか、冷静にキャリーは分析していた。
「ジャック……」
リナは呆然とジャックを見つめる。助けられたことを理解しつつも、助けてくれたジャックに嬉しさと困惑があった。しかしそれ以上にジェイスは同じように困惑している。
「くっ……」
ジャックがリナを助けたことに、もどかしい気持ちになるジェイス。
「あ、ありがとう……ジャック」
「……邪魔だ。お前たちは下がれ」
ようやく礼を口にするリナであったが、ジャックはそれを無視して冷たい声音で口を開く。それに真っ先に反応したのはジェイスだ。
「どういうつもりだ!リナを助けて……それで罪滅ぼしのつもりか!?」
「……」
「止めて、ジェイス!そういうこと言わないで!」
もはやジャックに恨みしか持たないジェイスは、その行動全てに裏があるとさえ思ってしまう。
「……リナだって分かってるだろ!?リナの兄さんは、こいつが殺したんだぞ!!あんなに仲良かった兄妹だったのに……リナはこいつが憎くないのか!?」
「そ、そんなの私には分からない……」
「リナ……」
「でも……貴方こそどうしてそんなにジャックを憎むの!貴方とジャックだって、仲の良かった兄弟じゃない!!」
「リナ!!」
ジェイスの怒りの形相にハッとするリナ。あの日から何度も二人が兄弟だと口にするなといわれてきた。両親と大事な先輩を殺されたジェイスは、それを殺したジャックを激しく恨んでいるのだ。そんな人間と血が繋がっていること自体嫌でたまらなかった。
「悪いが、くだらない話はよそでやってくれ」
「ジャック!」
「くだらないだと……!?」
その言葉にも怒りを更に深めるジェイスだった。
「そうよ!そんなどうでもいいこと他でやってくれない!?私たちの遊びを邪魔するなんて……お人形はお人形らしく黙ってればいいのに!」
「まぁまぁ、落ち着いて。見てよ、もう一人の格好いいお人形さんも一緒に遊んでくれるみたいよ」
ジャックが剣を抜いてヴィズの隣に立つ。どこか無表情に見えるが、それがあまり気の進まない顔をしていることは、最近になってヴィズにも分かってきた。しかしここで剣を収める気は当然ない。
「ジャック!!」
「……別にお前たちが俺を恨もうがどうでもいい」
「ふざけるな!お前は絶対に俺が殺してやる!」
「……やれるもんならな。だが俺はまだ死ぬわけにはいかない」
「ジャック!!父さんと母さんを殺しておいて、よくもそんながことが言えるな!俺にはお前の事情なんてどうでもいいんだ!」
「もう止めて、ジェイス!」
今にも殺しにかかりそうなジェイスを、リナは必死に止める。ジェイスもリナのおかげで落ち着きを少しずつ取り戻していった。
「ねぇ、キャシー。やっぱりうるさいお人形さんたちから黙らせよっか?」
「うーん。そっちの方がいいかもしれないわ」
一度は後ろへと下がった二人だったが、またしても二人同時に動き出す。狙いはヴィズとジャックの後ろにいる四人だった。それを防ごうとするヴィズとジャックであったが、同じ姿で動く二人に翻弄される。
「キャハハハッ!私たち双子には誰も敵わないわ!」
「キャシーとキャリー。さぁ、どっちがどっちだと思う?」
二人はヴィズとジャックの横を抜けて、それぞれ後ろの四人に狙いを定める。尋常ではない力を持つ拳を受ければ、確実に死が待っていると言ってもよかった。避けようとするロッドたちであったが、それよりも先にキャシーとキャリーが辿り着く。しかしそれよりも先に、その間にヴィズとジャックが立ち塞がった。
「ヴィズ!」
「ジャック!」
またしても攻撃を防がれたが、二人の少女は依然とその笑みを崩すことはなかった。
「だから邪魔だって言ったんだよ」
「……」
情もない言葉を告げるヴィズに、興味すらないように敵に視線をやるジャック。そんな二人をロッドたちは困惑した顔で見ていた。
「キャシー、邪魔が入って後ろのお人形さんたち壊せないわ」
「そうね。けどいいんじゃないかしら?格好いいお人形さんたちの方が丈夫そうよ」
二人はヴィズとジャックに視線を向け、興味深そうに頷いていた。
「改めて自己紹介!私はキャシー=ミラーナ」
「私はキャリー=ミラーナ!」
「一応ブライアン軍の師団長なんてやってるけどー」
「そんなものどうでもいいよね、キャハハハッ」
ヴィズとジャックはそんな二人を見て、同じように互いに頷く。
「それじゃこっちも自己紹介しないとな」
「ホント?お人形さんにもやっぱ名前ないとね!」
「俺はヴィズ。こっちが……」
「ジャックだ」
これから戦う者同士だというのに挨拶をするヴィズに呆れながらも、ジャックは自分の名を答える。それが戦闘の合図かというように、四人は目つきを鋭くし攻撃の構えを見せていた。




