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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
四章 獅子と翼竜
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相見える両者

「アイラ!急ぐぞ!すでに始まっている!」

「分かってるわ!」

 分かれた四百の別働隊は、ようやくサルサ大平原へと辿り着いた。遠くから立ち上る煙や、ここまで響く戦いの音。紛れもなく、すでに戦いは始まっていた。

「ヘイス様、アイラ」

「あぁ。一気に行くぞ!」

「えぇ!」

 ヘイスたちは急いで馬を走らせた。現在の状況がどうなっているかも分からず、焦りがみんなの中に表れる。ブライアン軍の最後尾まで辿り着くのには時間もかからないだろう。

「見えた!」

 明らかにやる気の見れない帝国軍。ここまで反乱軍がやってくることがないだろうと過信しているのがわかった。しかし近づいてくる地響きと掛け声に、すでに奇襲が目前ということで反乱軍の存在に気づく。

「は……反乱軍だ!!」

「馬鹿な!!奇襲だと!?」

 慌てふためく帝国兵たち。武器を手に取り応戦しようとする者もいれば、逃げ出そうとする者も見えた。

「ブライアンはどこだ!!」

 ヘイスとアイラは先頭を駆け抜け、雑魚に用はないとばかりに敵将を目指して走る。陣形が崩される帝国軍の中を、雪崩れ込むように反乱軍四百が突入した。

「ヘイス様!あそこを!」

 ロウエンが指した場所には、巨体を持つ人物が見えた。それが一目でブライアンだと分かる。周囲には屈強な兵がブライアンを護るように構えていた。その中でブライアンも突然の奇襲に驚きを隠せない。

「これは一体どういうことだ!?」

「この戦場で奇襲とは……!」

「ドラン!なぜ奴らの接近に気づかなかった!」

「申し訳ありません!……奴らはブライアン様を狙っています。どうか後ろへ退避なさってください」

「……ふんっ!どうせ少ない数だ!絶対に食い止めろ、ドラン!」

「仰せのままに」

 ブライアンはヘイスたち反乱軍を眼にすると、逃げるように後ろへ下がっていく。それを知ったヘイスたちも追いかけようと進路を変えた。しかしそこへブライアンを逃がすように、護衛の兵たちは進路を塞いでくる。

「ちっ!鬱陶しい!」

 塞いでくる敵を斬りながら、満足に進めないことに苛立つヘイス。

「雑魚は無視して構いません。ヘイス様はブライアンを!」

「だが、こうも鬱陶しくちゃな」

「他の兵に任せてください。ここは素早くブライアンの首を落とさなければ意味がなりません。百の兵と共にここを抜けてください!」

「行かせるとお思いですか?」

「兄さん!」

 すぐにでも走らせようとしたヘイスだったが、その前に気品を備えた男が立ち塞がり攻撃を仕掛ける。

「奇襲とは随分と姑息な真似を使ってくれますね」

「お前たちに言われたくはないな」

「……そうですか。まぁいいでしょう。とりあえず貴方をこの先に進ませるわけにはいきません」

 戦闘態勢に入る男であったが、それと同時にロウエンが男に向かって魔術を放った。

「絶壁なる地を守護せし精霊よ。貫きの刃を以って、強固なる大地をここへ呼べ!」

 それにより男の足元の地面が足を覆うようにして膨れ上がっていく。男は身動きが取れないでいきなりのことにうろついた。そこへロウエンがヘイスに向かって叫ぶ。

「今のうちに先へ!」

「ロウエン!」

 ヘイスを先へ行かせようと、ロウエンは男を足止めしていた。ヘイスはそれを見て一瞬悩みながらも、ブライアンを追って先を走る。

「私も行くわ!」

 ヘイスに続きアイラも男の横を駆け抜ける。そんなアイラを見て、ロウエンはその名を呼んだ。

「アイラ!」

「……ロウエン」

 ロウエンの声に一度止まり、アイラは後ろを振り返る。視線が交錯する二人は、一瞬の間だが周りから音が消えたように感じた。

「……気をつけろよ」

「……!ありがとう、ロウエン!」

 それだけを残し、アイラは颯爽とヘイスを追った。今までにない笑顔だったような気がする。そんなことを思いながらロウエンも再び目の前の男に向かった。

「っく!行かせるものか!」

「それはこっちのセリフだ!」

 男は目の前のロウエンを無視し、先へ向かう反乱軍を追おうと動き出す。そこへまたしてもロウエンは魔術を使いそれを防いだ。

「絶壁よ、今ここへ!」

 詠唱を省略し、すぐにでもロウエンは男を止めようとする。男がロウエンに背を向け反転しかけた時には、その目の前の地面が勢いよく上がった。

「何!?」

 男の目の前には頑丈な岩の壁が出来ていた。いきなり現れたその壁に驚き、男は目を瞬かせる。すぐにその壁を壊そうとするも、男の剣では傷一つつけられなかった。

「砕けし地の刃」

 目前の壁と戦う男へ、ロウエンは逃がさないように魔術を仕掛ける。男は怒りを秘めながらも、諦めてロウエンと対峙した。

「……許しませんよ」

「許してほしいなんて思っていないな」

「私を誰だと思っている。私はブライアン軍将官、ドラン」

「……」

「私を引き止めたこと、後悔させてあげましょう!」







 レツァ村へ急ぐ反乱軍の二百は、四人を先頭に無我夢中で駆けていた。

「……兄上、感じていますか?」

「あぁ……。だんだん大きくなっている」

 ロッドとマーブルはレツァ村へ近づくたびに、胸騒ぎが大きくなっていた。心が張り裂けそうに不安になっていく中、もうすぐにでも目的地へ辿り着く。

「ジェイス!何だか様子がおかしいわ!」

「分かってる!これはいったい……」

 急ぐ反乱軍。しかしどこか様子がおかしいことに気づき始めた。注意を凝らしながらも進む四人だが、そこで始めてその異変に気づく。

「なっ!?」

「魔獣が死んでる……!」

 そこにあったのは魔獣の大群の残骸であった。どうみてもそれは何百もの数がある。恐らくはこの魔獣たちが先ほど感じたものなのだろう。しかしそれを退治するためにやってきたはずなのに、それらはすでに死んでいた。

 疑問に思う四人であったが、とりあえずはレツァ村へ急ぐことを決める。この魔獣たちはレツァ村の方へ続いていたからだ。

 考えても始まらない。そう思ってひたすら駆ける四人。しかしその途中で、魔獣の死体はピタリと止まっていた。そしてその近くへ佇む二人の人間。彼らを眼にした時、四人は我が眼を疑った。

「まさか……」

「ジャック……?」

「ば、馬鹿な……ありえるはずがない……!」

「嘘……ヴィズ…様……?」

 思わず馬を止め、驚愕の表情で二人を見つめる。何事かと後ろへ続く反乱軍たちも、同じようにそこへ止まった。

「……」

 二人は四人へと視線を返し、冷静な眼で見つめ返す。四人は何を言っていいかも分からなかった。誰も喋らない、そんな静けさがこの場を包む。

 しかしそんな静けさを嫌う人物が、焦れたように言葉を発した。

「遅かったな。もう魔獣はいないぜ」

 座り込む金髪の男。

「嘘……嘘よ……」

 マーブルは幽霊を見るかのように、その男から眼が離せなかった。誰が見ても分かるように混乱している。

「落ち着け、マーブル!」

「でも兄上!」

 宥めるロッドとて、混乱しているのだ。いるはずもない男が、目の前に現れれば誰だってそうなるだろう。

 そんな二人に対して金髪の男は呑気に肩を竦めて相棒に視線を移した。しかし翡翠色の髪を持つその相棒は、無表情にジェイスとリナを見ている。

「まさか……ジャックなの……?」

 リナはその存在を確かめるように翠髪の男を見た。心の中にあるジャックが、長年の時を経て育った姿。そうなのではないかと、一目でリナは感じていた。何年経っても色褪せない姿が心にあったからだ。

 そしてそれは同じようにジェイスも感じていたのだ。

「ジャック……なのか?」

 それは確かめるような言葉だった。そして一時も男から眼を離しはしない。

「知り合いか?」

 金髪の男が尋ねるが、翠髪の男は首を横に振った。

「……いや。知らないな」

「なっ!?嘘をつけ!お前はジャックだろ!?」

「私たちのこと忘れたの!?私、リナよ!ねぇ、ジャック!」

 二人は翠髪の男をジャックなのだと信じきっていた。リナは懇願の眼で男に訴える。

「……」

「もういい、リナ」

「ジェイス……」

「俺には分かる。こいつはジャックだ」

 肯定しようとしない男に対し、ジェイスは痺れを切らしていた。もはや返事などいらない。

「よくよく考えれば、俺たちを前に素直にジャックだと言えるわけがない。そうだろ、ジャック?」

「……」

「まさかこんなとこで会うとは思わなかった。けれど、ちょうどいいかもしれないな……」

 そこで一旦口を閉じたジェイスは、突然鋭い眼をして剣を取り走り出す。

「や、止めて、ジェイス!!」

 リナの制止の声が聞こえてもそれを無視し、ジェイスはジャックだけを狙い走る。反乱軍の幹部まで上り詰めた実力。それも全てこの時のために鍛えたものだった。

「覚悟しろ、ジャック!父さんと母さんと先輩の仇!俺がお前を殺してやる!!」

 素早く鋭い攻撃。翠髪の男を狙いその攻撃が振り下ろされようとしていた。しかし男はそれを軽く一瞥して、ジェイスの剣が振り下ろされるより早く自身の剣を抜いて防ぐ。

「……!?」

 決まると思っていた攻撃が防がれ、ジェイスは驚きに眼を見張る。

「……弱いな。所詮はこの程度か。そんなんじゃ俺を殺すことは出来ないぞ、ジェイス」

「……ッ!!やはり、ジャックか!」

 ジェイスは再び男を殺すために動こうとした。しかしそれをリナが必死に止める。

「ジェイス!お願いだから止めて!」

「なぜ止める!リナだってこいつを恨んでるだろ!」

「わ、私は……」

 リナに止められたジェイスは苛立ちを隠せない。リナも何と言っていいか分からなかった。

「……」

「貴方は……本当にジャックなの?」

「……あぁ」

 翡翠の髪を持つ男は、ついに自分がジャックだと肯定した。その答えにリナは複雑な顔を浮かべる。

「お前も俺を恨むか?」

「……!……嘘よ……あれは嘘なんだよね!?貴方が兄さんを殺したなんて嘘でしょ!?」

「リナ!まだそれを言うのか!?あいつは父さんも母さんも殺したんだ!嘘なわけない!」

「そうだな。ジェイスの言う通りだ。お前もあの時見たんだろ。俺が殺したのを……」

「……!?嘘……嘘だと言って……お願いよ!嘘だと言って!ジャック!!」

 信じられない言葉を聞いて、リナは錯乱しかけていた。そんなリナのもとにジェイスはすぐに駆けつける。

 二人の様子を見ていたジャックへ、相棒の男が近づいてきた。

「何だよ、お前もわけありか?」

「……今頃か。何もお前だけじゃないんだよ。俺も、みんなもそうだ」

「ふーん……。そんなもんか……」

「それでお前はどうするんだ?」

 ジャックは今度はロッドとマーブルの方へ視線を向けた。つられて金髪の男も見れば、向こうもこちらを見ていたようで視線が交わる。

 どうしたものかと、男は居心地の悪そうな顔をした。するとロッドが驚愕や困惑の表情をありありと浮かべながらも、ゆっくりと男に向かって口を開く。

「……ヴィズ、なのか?」

「……そうだと言ったら?」

 確認するようにその名前を呼んだロッド。しかしヴィズはふざけたように答えた。ロッドはさらに驚きを隠せない。

 死んだはずの親友。あれから八年もの歳月は、当時の姿よりも大きくさせていた。しかし八年前の面影を強く残し、何よりその美しい金色の髪が全てを物語っている。

「何で……お前は死んだはずじゃ……!」

「死体を確認したのか?」

「……!?」

「そう驚いた顔するなって」

 目の前の人間がヴィズなのだとロッドにはすでに分かっていた。しかし分かるのと受け入れるのは別だ。ずっと死んでいたと思っていたはずの人間が、生きていたと知ったらすぐに信じられるはずもない。

「本当に……本当にヴィズ様なのですか!?生きておいでだったのですか!?」

 マーブルは涙を流しながら叫ぶような口調だった。予想はしていたけれど、取り乱す二人の様子を見たヴィズはさすがに胸が少し痛んだ。けれどすでに自分は八年前と違う。その想いだけは変わらなかった。

「……」

「何で、何で今まで何も連絡をよこさなかった!?お前が死んだと聞かされていた俺たちが、どれほどの想いでいたと思ってる!!ヴィズ……何で……!」

 ロッドはようやくその存在を受け入れ始め、生きていたことへの喜びと、今まで連絡もなかったことへの怒りが相反する。しかしそんな二人に発したヴィズの言葉に、二人は再び困惑した顔になる。

「……死んださ」

「え……?」

「……確かに俺はヴィズだ。けどな、お前たちの知るヴィズは八年前に死んだ」

「な、何を言ってる……」

「そのままの意味だ。八年前のフューリアとゾディアの戦いで、第一王子だったヴィズ=レリック=フューリアは死んだ」

 その意味を瞬時に理解できない二人。ロッドはわけもわからず、ヴィズへ怒鳴り散らした。

「ならばお前は何なんだ!?ヴィズじゃないとでも言うのか!?」

「……ヴィズであってヴィズではない。……お前たちの知るヴィズはもういないんだよ」

「何を……こんな時に冗談を仰らないでください!」

「そうだぞ、ヴィズ!悪ふざけがすぎる!」

 二人はこれもヴィズの冗談だと思った。いや、思いたかった。しかしその真剣な眼を見れば、答えは分かりきっていた。

「悪いな……ロッド、マーブル」

「ヴィ…ズ……」

 それがヴィズからの答えだった。しかしそれで素直にそれを受け入れるロッドではない。そんなこと親友だったヴィズにも分かっていた。

「ふざけるな!そんなの納得できるわけがないだろ!!」

「……ふぅ。お前はそういう奴だったな」

 けれど納得してもらうしかなかった。誰に何を言われようと、ヴィズ=レリック=フューリアは死んだのだ。それだけは紛れもない事実。本当にロッドとマーブルには申し訳ないと思っている。だからこそヴィズは今の自分の立場を正直に明かそうとした。

 しかしその時、近くのサルサ大平原より大勢の雄叫びが聞こえ、煙も立ち昇り始めた。

「まずい……!奇襲がすでに始まったか!」

 ここにきてようやくロッドは本来の目的を思い出した。思いがけないことがあったためにそれすらも忘れてしまっていたのだ。しかし今ここでヴィズを置いていけるはずもない。迫る時間に焦りながら悩んでいると、ヴィズから思いがけない言葉を聞いた。

「手伝ってやろうか?」

「何……?」

「ブライアン軍との戦いだろ」

「そう、だが……」

「お前に会ったんだ。どうせ口止めしたって他の奴らに言うんだろ。なら隠れてたって意味はないからな」

 ロッドはいきなりのことで戸惑うが、これは好都合なことでもあった。今ここでヴィズを置いていけば、絶対に逃げられるだろう。

「ヴィズ……」

「少なくともそこらの兵よりは役に立つと思うけどな。なぁ?」

「……仕方ないな」

 相棒のジャックにも尋ねれば、ため息を吐きながらも頷いてくれた。ロッドはここで時間を取るわけもいかないので、ヴィズの言葉をすぐに受け入れる。連れてきた反乱軍二百にもすぐに進軍を促した。落ち着いてきたジェイスとリナにもすぐにそれを伝える。

「今は任務の方が最優先だ。……何があるのかは分からないが後にしろ」

「……はい」

 ジェイスも軍人であるからそれが分かっていた。どうやらジャックも来るようなので、素直にそれに頷く。

「急ぐぞ!」

 すでにヴィズとジャックは馬に乗り準備も終えていた。ロッドたちが先頭になりながら、サルサ大平原に急ぐために馬を駆けだす。その顔は終始複雑な表情を浮かべていた。


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