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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
四章 獅子と翼竜
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兄妹の絆

 進軍を明日に控え、反乱軍の幹部は一つの部屋へと集まっていた。リーダーセイン、軍師サーネル、フューリア王国の貴族を主とする幹部たち、そして兵を率いる将軍。

「いよいよブライアン軍との決戦は明日になりました。魔獣を擁する向こうと戦うには、総力戦だけでは厳しいものがあるでしょう。これより具体的な作戦についてお話します」

 サーネルの言葉に、皆は緊張した面持ちで頷く。部屋を一度見渡し、サーネルも再び口を開いた。

「作戦と言えどもただ一つ、奇襲をかけるのみ」

「……」

「恐らくブライアンの性格ならば、安全を確保し後方にて戦況を見守っているでしょう。そこを別働隊が一気に奇襲をかけ、ブライアンを倒します。所詮はブライアン軍。指揮官が倒れれば、戦う気力はなくなるはず」

「ブライアンならそれなりの護衛を置いてるんじゃないのか?奇襲をかけるにも、少ない数じゃ返り討ちにあうだけだ」

「だからこそ、少数精鋭で一気にブライアンだけの首を狙うのです」

 難しいことなど、サーネルとて百も承知だった。しかし真っ向からの総力戦だけでは、いかにこちらに優秀な兵が多かろうと数に負けてしまうかもしれない。

「決戦の舞台はサルサ大平原。果てなく見渡せる戦場は、敵軍もしっかりと確認できます。だからこそ相手は奇襲が来るとも思っていないはず」

「……それで具体的には?」

「明日、あらかじめ精鋭の騎兵二百を本隊とは別に進軍させ、明後日にはジュール戦線の援軍騎兵四百と合流させます。その後六百は大きく遠回りをし、ブライアン軍の後方からその機動力を以って素早くブライアンの首を落とすのです」

「なるほど……」

「問題はその六百の指揮官。援軍を率いてくる者はジェイスとリナだとすでに連絡を受けています。この二人も申し分ない実力ですが、もっと大きな指揮官を投入する必要があります」

「俺がやろう」

 自ら進み出たのはセインだ。ブライアンには大きな思いがあった。この手で決着をつけられるならば、どんなにいいことだろうか。

 しかしサーネルは即座に首を横に振った。

「なりません。反乱軍を率いるセイン様には本隊にいなくてはならないのです。セイン様が自ら別働隊を率いれば、奇襲がばれる可能性が高くなります」

「……だが!」

「お気持ちは理解しています。しかし貴方は反乱軍のリーダーなのです」

 悔しい思いが強く残った。しかしそう言われては、セインも諦めるしかない。

「それと苦戦が強いられる本隊には、ザイン殿と……ザガート殿にも居てもらわねばなりません」

 サーネルはどこか気まずそうな顔をしながらザガートの名を出す。それはグランツ城での戦いを眼にし、はっきりとその力を認めたからだった。

「分かりました」

「……同じく」

「当然私も本隊で指揮をするため無理となります。残る者から選出することになるでしょう」

 サーネルは周囲の者たちを見渡す。戦う強さと、人を率いる能力。どちらも申し分ない実力を持つ者たちばかりでもある。

「……俺がやる」

「……私がやるわ」

 それは奇しくも同時に出た言葉だった。遺伝子がそうさせるのか分からない。しかし確固たる意志のもと、ヘイスとアイラはそれを発言した。

「しかし貴方がたは……」

「本隊にいるのは兄貴だけで十分なんだろ?」

「なら私たちが別働隊に行っても大丈夫だと思うけれど」

「アイラ!危険だと分かってるのか!?」

 反論するのはロウエンだ。敵の本陣へ突入するのだからかなりの危険を伴うだろう。その危険なことをこの二人に任せていいはずがない。けれど、この二人だからこそ任せられる。サーネルは一人矛盾した考えに悩まされる。しかしそれを後押ししたのは、他ならぬセインだった。

「いいだろう。サーネル、二人に任せてやってくれ」

「兄貴……」

「兄さん……」

 皆が思い思いでセインの顔を見る。

「よろしいのですか?」

「あぁ。確かに危険かもしれないが……俺も二人になら安心して任せられる」

「ありがとう、兄さん!」

 セインの許しにアイラは喜びを露にしていた。それに反するように、ロウエンは納得のいかない顔をする。

「本当にいいのか、セイン」

「……お前が止めたい気持ちは分かる」

「だったら……」

「いい加減にしないか、ロウエン!」

 渋るロウエンを一喝したのは父親でもあるサーネルだった。

「父上……」

「それは私情で言ってるのか?」

「違います!……これは危険が多すぎる。アイラとヘイス様は反乱軍にとって、絶対に失ってはならないはずです。もし万が一のことがあれば……」

「ならばお前も一緒に行けばいいだろう」

「え……」

 思いがけない父の言葉に、ロウエンは一瞬呆ける。そんなロウエンを無視して、さっさとサーネルは話を進めていた。

「よろしいですね?ロウエンはこれでも私の子。軍師としての才能も少なからずあります。この先帝国軍との戦いも深まる中、このように部隊を分けることも多くなるでしょう。そのような時のために、今からロウエンを軍師として育てていこうと思っているのですが」

「それは親としての言葉か?」

「いいえ。軍師としての提案です」

 もともとサーネルはこのような時に親子の関係などを持ち出す人間ではない。それがセインにも分かっていたからこそ、悩むこともなく頷いた。

「いいだろう。ロウエンに軍師の才能があるならば丁度いい。やれるか?」

「あ、あぁ!」

「ならば決まりですね。別働隊の指揮官はヘイス様とアイラ様、軍師をロウエンにいたしましょう」

 これでサーネルが決めたいことも終わり、軍議が終わりに向かおうとしていた。サーネルがそれを伝えようとすると、その直前でロッドが口を開く。

「……その別働隊、私とマーブルも同行してよろしいでしょうか」

「……どうかしたのか?」

「いえ……ただ何人か我々の中からもご一緒した方がよろしいのではないかと思いましたので」

 急な言葉にセインは訝しげに思った。しかし反対する理由もないし、口論をしたいとも思わないので、サーネルに眼で確認してからそれに了承をする。

「分かった。二人を別働隊として編成しよう」

「ありがとうございます」

「……それでは今日はこれで終わりにします。各自明日に備え、しっかりと休養を取りますように」

 その言葉により、散らばるように皆が部屋を後にしていった。







「しかし兄貴が簡単に頷いてくれるとは思わなかったな」

「私も少し驚いたわ」

 セインの自室に兄妹三人が揃っていた。

「……そうだな。自分でも少し驚いてる」

「兄さん……」

「……ブライアン軍は、五年前俺たちの国を攻めた帝国軍の一つだ。そして……」

 セインたちの両親の、直接の仇だった。二人を殺したのは間違いなくブライアンなのだ。

「出来れば俺の手で決着をつけたいが、そうもいかなみたいだからな」

 セインは悔しそうに唇を噛んだ。けれどそれはセインだけでなく、ヘイスもアイラも似たような気持ちを持っていた。

「なら俺たちがそれを果たしてやるよ」

「あぁ……。だけど無茶はするなよ。お前たちが死んでは意味がないんだ」

「当たり前だろ。そんな簡単に死ぬほど弱くないって」

「そうよ。私だってちゃんと戦えるし……それに約束したじゃない。私たち三人、もう誰も失わないって」

 仲の良かった家族。けれど、彼らは兄と両親を失ってしまった。だからこそもう誰も失いたくなどないのだ。いつ死んでもおかしくない戦争の真っ只中にいようとも、必ず生き抜くと約束した。

「そうだな……。だがアイラはともかく、ヘイスが心配なんだよ」

「ふふっ」

「何だよそりゃ。俺の方が全然強いからな」

 その言葉に思わず笑うアイラと突っかかるヘイス。けれど本当にセインはヘイスのことを心配していた。

「お前が強いのは知ってるよ。……だから心配なんだろ。お前は兄上に似すぎている……」

「兄貴……」

 似ているからこそ、その最期まで似たようになるのではないかと心配なのだ。勝気な性格は時として危険を孕む。遅いと思った時には、逃れることの出来ない渦にいたりするのだ。

「……大丈夫よ。ヘイス兄さんは殺したって死なないような人だもん」

「んだよ、それ。それを言うなら、ヴィズ兄だってそうだったろうがよ」

「確かにな」

 ヘイスの言葉に苦笑するセイン。

「……兄上が死んだこと、今でも時々信じられないんだ。本当はどっかで生きてるんじゃないかって……。おかしいよな」

 見たわけでないが、八年前の状況を聞く限り有り得るはずがない。それなのにそんなことを思う自分がおかしいとセインは思うが、アイラはやんわりとそれを否定した。

「ううん。私もそう思う」

「俺もだ」

「私がヴィズ兄さんと最後に会ったのはまだ小さかったから、ホント言うと少し覚えてなかったりするんだ。一番覚えてるのは、笑顔とおっきな手。あの手で頭をくしゃくしゃされたりするの好きだったな……。時々夢の中に出てきてそうされると、ホントは隠れてどっかにいるんじゃないかとか思ったりするの」

「俺はヴィズ兄に剣とかいろいろ教えてもらったな。親父やおふくろには怒られるようなことが多かったけど、すごい楽しかった……」

「兄上はみんなに愛されていた。国から、民から、城の者から。なのに……」

 過去を振り返る三人。セインはそれだけで、気分が落ち込んでくる。

「言っとくけどな、兄貴。ヴィズ兄と兄貴は違うからな。もし変なこと考えてたりしたら怒るぜ」

「ヘイス……」

「そうよ。ヴィズ兄さんはヴィズ兄さん。セイン兄さんはセイン兄さん。だれもセイン兄さんにヴィズ兄さんを求めてなんていないわ」

「アイラ……」

 自分の馬鹿な考えが二人に見抜かれていたようで、セインは思わず苦笑してしまう。本当は何度だって思ってきた。死んだのが兄ではなく自分だったならばどれほど良かったことかと。国中に悲しみが訪れることもなく、ヴェルダ帝国だって撃退できたのではないかと思ってさえしまう。

「兄貴が人一倍ヴィズ兄のことを気にしてるのは知ってるけどさ……そろそろ自分がどれほど愛されてるかも考えてみたらいいんじゃねぇの」

「ヴィズ兄さんもみんなに愛されていたけど、セイン兄さんだって愛されてるのよ。いつまでも変なこと考えてないでよね」

「ヘイス、アイラ……ありがとう」

 少しだけ心が軽くなったような気がする。セインは二人の存在に感謝し、また兄にも感謝した。いつか完全に過去に出来る日が来るかもしれない。そう思うことが出来るようになっただけで十分だった。


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