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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
四章 獅子と翼竜
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それぞれの思惑

 一面に広がる大平原。そこには多くの魔獣の死体が転がっていた。そして、その中で無傷で立つ人間が二人。

「ふぅ……。しっかし最近この大群も多いな」

「あぁ。ここらはブライアンが治める領地でもあるからな。奴なら所々に魔獣の大群を放っていてもおかしくはない」

「ブライアンか……」

「……国が心配か?」

 二人とも高めの身長をしており、一人は男らしく精悍な顔立ちをしており、もう一人は少し中性的な端整な顔立ちをしている。タイプこそ違えど、どちらも女性が放ってはおかないような男たちだ。

「……いいや。俺は国を捨てたんだ。今さら心配なんてしないさ」

「……別に心配するくらいいいとは思うが」

「本当にしてないぜ?滅びようが、生き残ろうが、今の俺にはどっちでもいいんだ。ホント変わるもんだな」

「そうか」

「ま、それにあいつらはしぶといだろうしな。心配する必要もなく元気でやってるんじゃねぇか?」

 気楽に能天気な言葉を放ち、豪快に笑う方は男らしい顔立ちをしているほうだ。対してもう一人の男は少し真面目な雰囲気があり、気品も兼ね備えている。だからといってどこかの貴族というわけではない。

「だろうな。聞けば反乱軍も正式に立ち上がり、ダーナ城とグランツ城を奪還したそうじゃないか」

「だがブライアンは帝都にいるんだろ?」

「あぁ。恐らくはあの男の性格なら、残りの軍を引き連れて出てくるだろう」

「当然だな」

「それに魔獣も加われば少しきついかもしれない。反乱軍が勝てると思うか?」

「そんなの俺が知るかよ」

 特に危機感を持った風にもない男に、もう一人は呆れたようなため息を吐く。こうも飄々とした人間とは馬が合わないものだが、これでも長年旅してきている。すでにそれにも慣れてしまった。

「ったく、お前はな……。仮にもお前は一応」

「なら反乱軍を心配しろって?」

 男の言葉を遮り、自嘲気味に口を開く。しかしその答えは、二人ともすでに分かりきっていた。

「お前も分かってるだろ。今の俺はあいつに剣を捧げた。昔の俺はもう死んだんだよ」

「……悪い」

「いや、構わないさ。だが、どちらにしろブライアン如きの相手に負けるようじゃ反乱軍はこの先勝利できないだろう」

「そうだな……」

「どうする?俺はどっちでも構わないぜ。暴れるのは好きだからな」

 判断を相棒に委ねる男は気楽にいた。剣を振るって戦いたいと思うが、好き好んでたった二人で帝国に喧嘩を吹っかけるわけにもいかない。

「……様子見だな。どうせしばらくはここらにいることになるだろうし」

「妥当だな。そうと決まれば、早速今日の宿を探そうぜ!こっちは連日野宿で参ってんだよ……」

「それは俺だって同じだ」

 剣を持つ二人の剣士は、魔獣の死体をものともせずに歩き出していく。その平原に照らす光は二人の髪をも照らしていた。

 一人は、透きとおるように綺麗な翠の色。そしてもう一人は、鮮やかで美しい金の色。







 暗い一つの室内。大きく丸い机を前に、八つの椅子がある。一つを中心にして、後の七つは均等に配置され、今現在そこの椅子に空席は一つもなかった。

「さて、この失態どうするつもりだ?」

 一人の男の発言と共に、他の全員が詰問された男の方を向く。全員の視線を真っ向から受けた男は、目の前にいる発言した一人の男の威圧に怯えながら、言い訳を必死にしていた。

「申し訳ありません……。しかし!あんな反乱軍、俺がいれば絶対に勝っていました!」

「だが、お前はヴィラーナ城へちょうど帰還していた。奴らとてそれを知ってのことだっただろう」

 別の男がその言葉に横槍を入れるように口を挟む。それに対し、責められている男は苦渋を露にしていた。

「反乱軍が現在主立って活動しているのはフューリア南の領地。ブライアン、お前はそこを陛下に任せられているのだ。それは分かっているな?」

「クォーツ!それくらいお前に言われなくたって分かってる!」

「だがお前がこっちにいる間、見事にダーナ城、グランツ城、共に有力な城は落とされている。当然そこにいたお前の将官も二人死んでいる」

「くっ……」

 言ってることが正しいだけに、ブライアンは何も返せない。腹立たしい思いをしながらも、我慢していた。

「ならばお前はこれからどうするのだ。父上はそうお前に聞いてるのだ」

「シュール様……」

 更に別の男であるシュールもが口を挟む。このシュールという男は若い者たちが占める大将軍の中でも一番若い。それもヴェルダ帝国の皇帝の息子だからでもあった。しかしその実力もかなり高い。決して親の七光りだけとは言えなかった。

「答えろ」

「……もちろんすぐにでも反乱軍の討伐に向かいます」

「ならば、すぐにでも軍を編成せよ。目障りな反乱軍とやらを即刻排除しろ」

「……畏まりました、陛下」

 皇帝が一言言葉を発するだけで、その場は緊張へと包まれる。そして皇帝は下らないその論議に、ブライアンの命令を残してすぐにでも立ち去っていく。その様子を残りの七人の大将軍たちが見送っていた。

「次の失敗は許されないぞ。分かってるな?」

「だからテメェに言われなくたって分かってるんだよ!陛下の信頼が厚いからっていい気になるんじゃねぇ!」

 皇帝がいなくなったことにより、ブライアンは言葉を乱す。この生意気なクォーツがブライアンは嫌いでならなかった。

「ブライアンの言う通りだ。お前は最近調子に乗りすぎてるだろ」

「シュール様……」

「まぁいい。これ以上話すこともないだろ。俺も退出させてもらう」

「……はい」

「だがクォーツの言う事も事実だ。ブライアン、二度目はないからな」

「分かっています……」

 そうしてシュールもその場を立ち去っていく。クォーツも複雑な気分になりながら、シュールに続いて部屋を後にする。

「ブライアン殿、残りの兵だけで平気ですか?良かったらこちらからも……」

「余計なことすんじゃねぇ!反乱軍なんて恐れることもない。残りの兵と魔獣がいれば十分だ」

 ブライアンも言い捨てて、同じように後を続いていった。残った者たちはそれぞれに顔を見合わせる。

「魔獣、か……」

ブライアンに協力を申し出た男は、魔獣を出すという言葉にいい顔はしなかった。そんな男に、優しく別の女性が声を掛ける。

「そんな顔しないの。今さらよ……」







 グランツ城を奪還した反乱軍は、数日後には少しの兵を残してダーナ城へと帰還していた。どちらも大きな城ではあるが、反乱軍は拠点をダーナ城と決めたからだ。

 現在は次の行動が決まるまで、休息の時期となっている。皆が思い思い過ごす中、サーネルは自室で二人の男と共に苦しい顔をしていた。その一人は反乱軍リーダーでもあるセインだ。

「ならばブライアン軍は動いてくるのだな?」

「はい。すでに帝都にて軍の編成を始めています」

「そうか。予想通りではあるが……」

「いかがいたしますか?」

 黒髪の一人の男の報告を聞いていたサーネルとセインは今後の対応を考えていた。いくらブライアンが大将軍の中で一番暗愚であったとしても、それでも七大将軍に上りつめた一人である。ダーナ城やグランツ城を攻めたのも、ブライアンがいないことが分かっていたからだ。

「……戦うしかないだろう」

「しかし我が軍は近隣から志願兵が集まってると言えど、二千には及びません。対して残りのブライアン軍は二千。二キスの報告によれば、援軍として魔獣が出てくることも間違いないでしょう」

「だが、どのみちブライアンとの戦いを避けることは出来ない。ここで俺たちが逃げれば、反乱軍を立ち上げた意味もなくなる」

「……厳しい戦いになります」

「分かっている。けれど奴を倒せれば、我らの士気も上がり、味方になってくれる者たちも増えるだろう」

 セインは迷いのない言葉を口にする。勝てるという自信ではなく、勝たなければならないという覚悟。サーネルもそれを聞いて満足そうに頷いた。

「分かりました。……ニキス」

「はっ!」

 終始黙ったままの黒髪の男が、名を呼ばれ口を開いた。

 ニキス=ネレーダ。反乱軍の密偵たちの中でも一番の有能な者であり、サーネルとセインが一番に信頼している密偵でもある。黒髪というヴェルダ帝国の生まれと分かるが、だからこそヴェルダ帝国の中では動きやすかった。ニキスのようにヴェルダ帝国の生まれでありながらも、反乱軍に力を貸す者は少なくはないのだ。

「引き続き、帝国軍の動きに注意を払え。何かあれば伝令を持って知らせてくれればいい」

「分かりました」

 命令を受けると、ニキスはすでにこの部屋から消えていた。いつもながらにその凄さにはセインとサーネルも驚かざるを得ない。

「それでは次の戦いはブライアン軍との決戦でよろしいですね」

「あぁ。兵たちにも今は十分な休息を取らせてくれ」

「もちろんです。後はジュール戦線から援軍を要請しようと思いますがよろしいですか?」

「そうだな……。ブライアンを倒した後はジュールを解放しにいく予定だ。問題ないだろう」

「それではすぐに手配をいたします」

「頼む」

「すでに向こうも進軍を始めるでしょう。こちらも前に出ますので、数日後にはここを発ちます。今すぐにでも兵たちにも伝えますので、セイン様はその間しっかりとお休みを取られますよう」

「分かってるさ」

 後はサーネルの小言が続くだろうと直感し、セインはそれを打ち切って部屋を出ることにした。ブライアンとの戦いは正直セインも辛い戦いになるだろうと思っている。しかし七大将軍の一人を倒せることは反乱軍にとっても帝国軍にとっても大きなことになるだろう。迷いはすでになく、その先だけをセインは見据えていた。


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