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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
二章 ダーナ城奪還
24/71

運命の流れは緩やかに

 暖かな太陽が陽を照らす。

 ゆっくりと目を覚まし辺りを見回すが、今の状況が判断出来なかった。近くで眠っている人物がいる。

「ロウエン?」

 アイラはなぜロウエンがそばにいるのか理解できないでいた。とりあえず起きようと体を起こすが、体中が悲鳴を上げ、起きれなかった。

「……ッ!?」

 やっとアイラは自分に何が起こったのか思い出す。ジェイクを庇って敵に斬られたのだ。意識を閉じる時に、自分を呼ぶ声がいくつか聞こえた気がした。

 とりあえず、眠っているロウエンを起こすことにする。

「ロウエン、起きてよ」

「ん……んん…」

「ロウエン!」

「……アイ…ラ……?……アイラ!!」

 いきなりロウエンが立ち上がる。その反動で体が少し痛んだ。ロウエンもそれに気づいたようだった。

「わ、悪い!」

「大丈夫よ」

 ロウエンは目の前にいるアイラを見て、一瞬夢かと思った。だが、現実であることがすぐに分かる。

「良かった……!助からないかと思った……」

「私、そんなに気を失ってた?」

「あぁ。もう日が変わっている。出血がひどくて、みんな諦めかけていたんだ……」

「そう……。ありがとう、ロウエン。心配してくれて」

「あ、あぁ……」

 ロウエンは正面から礼を言われて照れる。それを隠すため、みんなを呼んでくると言って部屋を出ていった。一人残ったアイラは少し考え事をする。

 まさか死ぬほどの傷を負うとは思っていなかった。ただジェイクを庇っただけである。少しの傷ができるだけかと思った。

 しかし一日近くも気を失い、ロウエンは諦めかけたとも言っていた。余程の重傷だったのだろう。だけど生きていた。生きていることにアイラは誰というわけでもないが、感謝する。

 ロウエンが心配してくれていたのはすごい分かった。やることもあるのだろうに、ずっと部屋にいてくれたようだ。二人の兄やミーアも心配してくれただろうと思う。もちろんグレイや他の部下たちも。

(アレンとセレーヌは……心配してくれたかしら…)

 意識を失う時に呼ばれた声に、アレンも入っていた気がする。気がするだけで、実際はどうだか分からない。けれど、入ってほしいと思っていた。

「アイラ!」

 セインとヘイスが先頭に部屋へ入ってきた。ロウエンが呼んできたようだ。ロウエンもミーアもグレイもサーネルもいる。

「兄さん……心配かけてごめんなさい」

 家族は兄妹三人になってしまったのだ。これ以上減るのは耐えられなかった。表には出さなかったが、二人ともロウエンに負けないくらいに心配していたのだ。

「お前が無事でよかった」

「心配かけるなよな」

 その言葉を聞いて、自然と涙が出てきた。照れ笑いをして、他の人たちを見ると、一人見たことのない人物がいた。

(綺麗な人……)

「その方は?」

「あぁ。サラーラの町からここまで来てもらったシスターだ。お前の傷を治してくれた」

「え?治してくれたのはミーアじゃないの?」

 ずっとミーアだとアイラは思っていた。今いる反乱軍の中で一番の回復魔術師はミーアだからだ。

「私じゃないわ。私はアイラ様を治すことが出来なかった……この方がアイラ様を治してくださったの」

「そう……。ありがとうございます」

「いえ。無事にいてくれて私もホッとしました。ただ……」

「何かあるのですか?」

 言いにくそうにシスターがしていたので、アイラは自分から聞いてみた。

「腹部への傷はかなり深かったのです。出血は止めはしましたが、傷までは完全に治せませんでした」

「……」

「恐らく消えない痕として残ってしまうでしょう。まだ若い少女だというのに……」

「馬鹿な!」

 ロウエンが叫んだ。アイラはそれを静かに聞いていた。そんなことなど戦いに身を投じたときにとうに覚悟しているのだ。驚くことでもない。

「私は気にしません」

「けれど女の子なのです」

「戦いに身を投じた時に女であることは捨てました」

「たとえそれでも、アイラ様はまだ女の子なのですよ」

 これが他の人だったら何か反論していたのだろう。なぜだかこのシスターには言い返そうとは思わなかった。

「はい……」

 シスターは微笑んだ。その顔もすごい綺麗だとアイラは思った。

「ともかくありがとう、シスター。貴女のおかげでアイラは無事ですんだのだ」

 セインも礼を言った。ここにいる誰もがシスターには感謝しているのだ。

「それでは、私は町へ帰りましょう。アイラ様の無事も確認しましたし」

「お待ちください、シスター」

 帰ろうとしたシスターを止めたのはサーネルだった。

「貴女の癒しの魔術は見事でした。私はこれまで生きてきた中で貴女ほどの者を見たことはないでしょう。是非ともその力を……反乱軍に貸してほしい」

 サーネルの言葉にシスターは驚きを隠せない。しかしセインはその言葉を予想していた。サーネルが言わなければ自分も言ったことだろうと思っていた。

「それはいい考えだ!シスター、どうかその力を貸してください!」

 ロウエンもサーネルの考えに同調する。

「しかし……」

 シスターはいきなりのことに戸惑った。全く予想していなかったことではない。ただ、早すぎたのだ。

「お願いします!」

「私は……」

 シスターが何か言おうとした時、部屋の扉が開かれた。

「アイラ、助かったってのは本当!?」

 扉を開けたのはセレーヌだった。

「セレーヌ!」

 アイラとヘイスが共に口に出した。いきなりの乱入に部屋にいたみんなが驚いていた。

「何をしに来たのだ!」

 入ってきたセレーヌをサーネルが怒鳴る。サーネルはセレーヌのことは知らないのだ。

「馬鹿!何でお前はそうやって行くんだよ」

 呆れたようなアレンの声が聞こえた。アイラが扉の先を見やるとアレンの姿が見えた。その後ろにはジェイクの姿もあった。

「何言ってんのよ。アイラの様子を見に行こうって言ったのアレンじゃない」

「だからって入り方ってものがあるだろ……」

「別にいいじゃないのよ」

「はぁ……」

 二人の様子は相変わらずだった。見ていたら笑いがこみ上げてくる。

「ふふっ」

「アイラ様?」

 サーネルが不審そうにアイラを見ていた。

「何でもないわ」

 もう一度扉の方を見るとジェイクと目があった。

「あ……」

 ジェイクは俯く。それを見て初めてジェイクの気持ちを察した。

 自分を心配するロウエンやセインがジェイクを責めないはずがない。恐らく辛い思いをしたのではないだろうか。そう思っていたら、ロウエンがジェイクに怒鳴り始めた。

「お前!どの顔をしてアイラの前に現れた!お前のせいでアイラは死にそうになり、一生消えない傷まで残ることになったんだぞ!!」

「あ、俺は……」

 ジェイクは今にも襲い掛かりそうなロウエンを見て、怯えるように俯き続ける。

「やめて、ロウエン!私が勝手にしたことよ。彼は悪くないわ」

「アイラ、何を……!?」

「とりえあえずそこまでにしろ、ロウエン」

 サーネルがロウエンを止める。そしてセレーヌやアレンの方を見やった。

「アイラ様と知り合いのようだが、今は忙しいのだ。とっとと部屋から出て行きなさい」

「あ、すみません。今すぐ出て行きますので……」

 アレンはセレーヌを連れて急いで部屋を出ようとした。その時初めて二人は部屋の隅にいた人物に気がつく。

 その瞬間アイラは二人の顔が驚いていたように見えたが、すぐに二人の表情は元に戻っていた。周りを見ても誰も顔を変えていないことから、気づいていないようだった。

 それほど一瞬の間だったのだ。







 アレンとセレーヌとジェイクはアイラの部屋を出たあと、目的もなく歩いた。すると、庭のようなところへ出る。

 そこは広く、美しい花などが咲いていた。多くの人が憩いの場として使っているのだろう。兵の姿も何人か見えた。

 三人はそこの端の方に座る。

「アレンさん……俺、どうしたらいいですか?」

 アイラが重傷を負ったことは一般兵の間では秘密にしていたが、ロウエンがアイラの部屋に付きっ切りでいたりしたことからすでに噂になっていた。

 そして兵の中にアイラがジェイクを庇った瞬間を見た者も何人かいたのだ。彼らの話したことが、尾ひれをつけ噂として飛び交っている。

 その内容は簡潔に言えば、ジェイクのせいでアイラが死に瀕しているというものである。そのおかげでジェイクは城のどこにも居場所がなかった。同部屋の者たちからも、知らない人からも非難されているのだ。

 それほどアイラの存在は大きいということでもある。

「シャキッとしなさいよ!男でしょ」

 セレーヌが励ますように言う。だがそう簡単に回避できる問題でもなかった。

「俺……もっと強くなりたい……」

「……」

 ジェイクは今度のことが余程堪えたようだ。

 昨日はずっとアレンが付いていたおかげで、大分元気が出るようになった。アイラが目覚めたという噂を聞いて、少しだけ心も軽くなったのだろう。だが、真実を確かめに言った時に、ロウエンに言われた言葉が頭を離れなかった。

「……アレンさん、俺に剣を教えてください」

 ジェイクの眼は真剣で、そして本気だった。

「俺が言ったことを忘れたわけじゃないだろうな」

「忘れてません。ずっと……考えました。そして、決心したんです」

「いいのか?この先反乱軍として居続けても、フューリア軍としてはいれなくなるかもしれない」

「分かってます。それでも俺は!……それに、もう俺はフューリアの軍として居続けることは出来ないでしょうから」

 ジェイクは悲しげに、だが笑って言った。

「ジェイク……」

 ジェイクの気持ちはアレンにも理解できた。

 それでも心のどこかでいけないと叫んでいる。そんなアレンを後ろから押したのはセレーヌだった。

「いいじゃない、アレン。ジェイクが決めたことよ」

「……そうだな。ジェイク、後悔してもしらないからな」

「はい!お願いします、アレンさん」

 アレンは少しだけ悩むが、これからのジェイクのためにも剣を教えることを決心する。

 けれど自分と関わることで、この先もっと辛いことが起きるかもしれない。いろいろな不安を抱えながらも、自分も後悔しないようにやろうと決めたのだった。




 それは、本当の意味でアレンとジェイクが出会った日となる。

 アレンという存在に出会ったことにより、ジェイクの運命もまた大きく変わっていこうとしていた――

二章終了

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