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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
二章 ダーナ城奪還
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サラーラのシスター

 数時間たち、辺りは暗くなり始めていた。

 すでに反乱軍はみんなダーナ城へと移っている。アイラも慎重にダーナ城の一室に移した。

 今は少しでも耐えるために、ミーアや他の回復魔術師が交代で常に治療している。それはあくまで少しでも持つためであり、いっこうに回復する気配はなかった

。血も傷ついた時ほどではなくなったが、この数時間少しずつ確実に流れている。それでもまだ死んでいないのは奇跡ともいえることだ。つまりはもういつ死んでもおかしくない状態である。

 セインは反乱軍リーダーとして、今はサーネルと共にいろいろ仕事に追われている。ヘイスも少し大きな傷を負ったようだが、治療してすぐに治ったようだ。完治とはいわないが、今も動き回っている。そしてロウエンはあれからずっとアイラの傍にいた。出来ることは何もないので、ただ傍にいるだけである。

「まだ来ないのか……」

 ロウエンは先ほどから何度目かの呟きを残す。近くにいたミーアには、ロウエンの焦りようが手にとるように分かる。

 恐らくは自分やセインよりも一番に心配しているのだろう。だがアイラを心配しているのはみんな同じだった。アイラが重傷を負って死にそうになっていることはまだ一般兵たちにはあまり知られていない。

「ロウエン!」

 セインが扉を開けて勢いよく入ってきた。

「セイン、どうした?」

「サラーラの町からシスターが来た!」

「……!今どこにいる!?」

「今こちらへ向かっている。すぐに来るはずだ」

「そうか」

 ロウエンはやっと来たのかと安堵した。そのシスターがアイラを治せるかどうかは分からない。数時間前よりもアイラの容態はさらにひどくなっているのである。

 恐らく治せなかったら、仕方がないことなのに理不尽に攻めてしまうだろうとロウエンは自覚していた。

 その時サーネルに連れられ、シスターらしき人物が入ってきた。後ろにはヘイスとグレイもいる。

 ロウエンはシスターを一目見る。長い髪をしていて、その色は淡く綺麗な蒼だった。一目みた誰もが彼女のことを綺麗な人だと言うだろう。ロウエンもそう思った。

「あなたがシスターか。アイラを見てくれ」

「はい」

 声も凛としていて印象的だ。シスターは横になっているアイラに近づく。

「これは……!!」

「治せるか?」

「……分かりません。この状態で生きていることのほうが不思議です。……ですが、やれるだけのことはやりましょう」

 やはり生きていることが奇跡だったのだ。誰もがその言葉に半ば絶望しかけていた。

 シスターが杖をかざし、魔力を込めているのが分かる。その魔力の高さはかなりのものだった。自分も魔術師だから分かる。下手をすれば自分の魔力より上なのかもしれないと思った。それは同じ魔術師でもあるミーアやサーネルにも知れた。

「癒しの力、我がもとへと集え。かの巨大な癒しを我は願う。精霊ユニコーンよ、この穢れなき少女を死から救うためにも、どうかその力を……!」

 その詠唱を聞いて、ロウエンやミーアは驚愕を隠せない。シスターは上位の精霊であるユニコーンと契約しているのだ。


 精霊にもいろいろな種類があり、目に見えずに世界中に溢れているような下位精霊もいれば、個々の存在を持ち、確たる意思も持っている中位や上位の精霊だ。

 その中位以上の精霊からは個々に名前もついていた。さらに上位にいくほど存在する数は少なくっている。

 普通の魔術は下位の精霊に力を乞うことで発動する。下位の精霊といっても自分の魔力が高ければ、普通に上位魔術を放つことができる。

 対して中位以上の精霊に力を乞うことは、契約することをみなす。契約を持ちかけても、精霊は認めた者しか受け取らない。それ故、契約するような魔術師はなかなか現れることはなかった。中位の精霊と契約するだけでもすごいことである。


 隣でシスターの魔術を見ていたミーアは圧倒されていた。

 自分の力が周囲にいる大人よりも優れていることは理解していた。

 最初にシスターを見たときに、その魔力の高さが自分を上回っていることはすぐに分かった。だが、これほどとまでは思わなかった。上位の精霊と契約できる魔術師などそうそういるものではない。

 この時ばかりは、同じ回復魔術師としてここにいる誰よりも素直にシスターのすごさを理解した。

「アイラは……」

 癒しの力をアイラに翳してから、何時間とも感じられるような時間が経った。実際には数分という時間であったけれど、心なしかアイラの顔色は少し良くなった気がする。血もよくみれば完璧に止まっていた。

「私に出来ることはやりました」

 シスターが振り返り、みんなに向かう。

「アイラは助かったのか?」

「それはまだ分かりません。血は止まりましたが、出血の量が多すぎたのでしょう」

「それじゃぁ!」

「今夜を乗り越えることができれば、あとは回復に向かうはずです。ですが、今夜中に息を引き取る可能性もあります。五割といったところでしょうか……」

「……そうか」

 ロウエンはうな垂れるが、すぐに気持ちを取り戻す。今夜を乗り越えることが出来ればいいのだ。

「それでは、私はこれで」

 シスターが部屋を出ようとする。

「わざわざここまで来てくれて済まない、シスター」

「いえ。そんなことはありません」

「もう外も暗くなりました。今日はここでお泊まりになってください」

 女性を一人町に帰すわけにもいかず、サーネルがシスターをこの城に泊まっていくように誘った。シスターもその厚意に甘えることにする。

「それでは、そうさせていただきます」

「グレイ、彼女に部屋を一室あててくれ」

「はい」

 グレイに連れられ、シスターは部屋を出て行った。これ以上ここですることもなく、まだ仕事もあるためみんな次々と心配しながらも部屋を出て行った。

 残ったのはロウエン一人である。このまま朝までここにいるのだろう。みんなそれを分かっていても何も言わなかった。

「アイラ。どうか無事でいてくれ」







 アイラが死にそうになっていることはアレンから聞いた。容態を見たいとは思ったが、セレーヌの立場ではそれも叶わないことである。

 仕方がないのでぶらぶらと城内を彷徨っていた。

 ダーナ城はフューリア王国でも王都にあるファレス城の次に大きい城である。反乱軍数千くらいなら簡単に収容できる。現在ダーナ城にいるのはおよそ六百ほどだ。ダーナ城を攻めた五百に義勇兵の二百が加わった。しかし戦で百の兵が死んだ。

 メレゲン砦から二百の援軍と、近隣の町から二百の義勇軍はサーネルにとっても、誰にとっても予想外な出来事だった。サーネルは一人絶対にないと思っていたメレゲン砦の援軍が来たことで、自分を責めている。

 兵も六百になれば部屋の割り当ても大人数になっていく。個室を貰えるのは幹部くらいなものだろう。その下くらいが二人部屋くらいだろうか。アレンとセレーヌもそれぞれ大部屋に移っている。

 アレンは周りの者たちとは積極的ではないが、関わってはいた。問題はセレーヌだ。その性格から少し同性から敬遠されがちだった。女性の兵たちをまとめているのが、リラだということもあるのだろう。

 リラはセレーヌを嫌っているようなので、他の女性たちもセレーヌと近づこうとは思わない。セレーヌはそのことを特に気にしているわけではないが、部屋に居場所がないのは事実だった。できるだけ部屋にいないようにしている。

 アレンと話をしていようかとも思ったが、アレンはジェイクと一緒だった。

 どうやらジェイクが原因でアイラは重傷を負ったらしい。それをアレンが慰めているのだ。昔からアレンを知っているセレーヌとしては、アレンはジェイクを気にかけている理由もセレーヌにはなんとなく分かっていた。

 邪魔をするわけにもいかず、今夜はアレンといるのは止めたのだが、反乱軍の中にセレーヌが話すのはアレンを除けばアイラくらいだろう。今夜は久しぶりに一人だった。

 セレーヌが城を歩き始め、十分ほどでいい場所を見つけた。最上階である。

 扉を開ければ、屋根もなく、辺り一面を見渡せる。周りを見張る所なのだろうか。誰もいないことをいいことにセレーヌは進んでいく。

 夜風が涼しくて、気持ちよかった。壁に手を置いて立ちながら、外を見渡す。それは心地よく、今ここに酒があれば、なおさら良いだろうなと思った。

 そのまま時間が大分経った後、誰かがここに近づいてくる音がする。

「セレーヌ……」

 ヘイスだった。ヘイスとはダーナ城の戦の前に話した以来、一度も喋っていない。話す機会もなかった。

 セレーヌはヘイスを見ると、その姿はあちこち怪我をしていた。兵たちの噂によれば、敵の師団長と戦い、かなりの傷を負ったそうだ。だからといって特に心配などしていなかった。こんなとこにいるのだから、それほどの傷でもなかったのだろう。

「……」

 話すこともないのでセレーヌはなにも発しなかった。それに焦れたのか、ヘイスがセレーヌに近づいてくる。

「おい、聞こえてんだろ」

「……何?」

「お前、リラの言ったこと気にしてるのか?」

「……?」

「身分が違うとか、俺に関わらないとか……」

 その時のヘイスの顔はいつもの様に自信が溢れている顔ではなく、どこか情けなかった。思わず笑ってしまうほどだ。

「何言ってんのよ。私がそんなことを気にするとでも思ってるの?」

「それは……」

 言われて見れば、そんなことを気にするような人間ではない。少なくとも今まで見てきた彼女を見れば。

「別にあんたと話すことなんて何にもないでしょう?」

「それはそうだけどな……」

 ヘイスにとってみれば、何処か物足りなさがあった。

 サルバスタにいた時にしょっちゅう会っては口喧嘩をしていたのだ。それに少し慣れてしまったのかもしれない。自分だけがそう思っていたことに、ヘイスは悔しさと、そして寂しさを覚えていた。

 今ではセレーヌのことを自分がどう思っているのか分からなかった。好きではない。嫌いだと思っていた。だけど嫌いではない。考える度に分からなくなってくる。結論として出したのは、今までにいないタイプの女だからということだった。

「そう言えば……」

 黙っていたセレーヌが急に口を開いたので、あわててヘイスは思考を中断した。

「何だ?」

「アイラはどうなったの?」

「あぁ……。ここの近くにあるサラーラの町からシスターが来てくれて、治療してくれた。今夜を乗り越えることが出来れば無事らしい」

「そう……今夜か」

 アイラとセレーヌが仲が良いこともヘイスにはあまり理解出来なかった。ダーナ城の南で野営するときもテントが一緒だったらしい。リラが愚痴をこぼしていたのを覚えている。

「さてと。あんたとこのままいても気分悪くなるだけだし、私は帰るわ」

「んだと!」

 セレーヌは怒号を上げたヘイスを振り返らずに、去っていった。

「おい!」

 再び呼びかけても戻ってくる気配はもうない。どうしてだか自分が馬鹿みたいに思えてきた。一人毒づいている。

 ただ思い出すのは、セレーヌの横顔だった。ここへ来て、セレーヌに声を掛ける前にセレーヌの横顔を見た。その姿は淋しげで、今にも消えてしまいそうな儚いものだった。

 そう思った時、声をかけていたのだ。自分でもすごい驚いていた。もう一度あの横顔を思い出すと、どこか胸が痛んだ気がした。


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