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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
三章 紫電の盾
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奮い立つ決意

 ダーナ城の中にある一際大きな会議室。そこにはセインを中心とした反乱軍の幹部たちが集まっている。

 アイラだけは現在も療養中のため、席を外れていた。すでに怪我も治り、もう動けるほどまで回復していたのだが、ロウエンが部屋を出ることを許さなかったのだ。それに不平をもらしていたものの、今頃はこっそり外に出ているころなのだろう。アイラの性格からそれは分かりきったことでもあった。

「我々反乱軍はダーナ城をやっと取り返すことが出来ました。今後はここを拠点にさらに勢力を拡大していきます」

 本来多くの人員を収容できる部屋には、今いる人数だけではあまりにもスペースが大きかった。そんな中で反乱軍一の軍師であるサーネルの声が響き渡った。その声にセインたちは時折言葉を挟みながらも、耳をかたむける。

「まず我々はこのフューリア王国領土の南半分を制圧します」

「それはブライアン軍を倒すということだろう?今の兵力だけで出来るとは思えないが」

 サーネルの作戦にセインが口を出す。

 帝国軍の七大将軍には、アストーン大陸各地の七つに分けた領地がそれぞれ与えられている。そのフューリア王国南半分の領土を支配しているのがブライアンだった。そのために、この地域の人民たちが一番帝国の圧制に苦しんでいるのが現状だ。

「ブライアン軍の兵力は総勢で五千。うち千二百は先日の戦で破りました」

「それでもまだ残り三千八百だろう。この城にいる兵力はたったの六百だぞ」

「はい。ですが情報によれば、現在ブライアンは主力と共に帝国軍の本拠地へ戻っているそうです。つまりはこの辺りに残っているブライアン軍の兵力は千八百。うち八百はこの近くの北にあるメレゲン砦。千はグランツ城となります」

「つまりは一気に千八百を相手にすることはないということか……」

「そういうことです」

 そこでサーネルは一息をつく。ここからが反乱軍のこれからの作戦が言い渡されるのだ。セインたちも少し緊張した面持ちでサーネルを見守る。

「まず我々はこれから今の兵力でメレゲン砦を攻略します。その後現在フューリア北戦線で戦っているザイン率いる反乱軍千五百のうち、千と合流。これからはセイン様の居られるこの軍を主力としていきます」

「北戦線は重要な場所だ。千も退かせて大丈夫なのか?」

 現在反乱軍は部隊は五つに分かれている。フューリア王国を二分とした北戦線、フューリア王国の北西にあるジュール国境戦線、西のヴェルダ国境戦線、南のハノン国境戦線、そして今ダーナ城にいる本隊だ。

 その中でも特にフューリア北戦線とヴェルダ国境戦線は重要で、数も千以上は置いてある。それでも全然足りないくらいで、今や帝国軍の総数は三万をも越していた。二つの戦線も敵は倍以上の数である。

「その点ならこちらから攻め込まない限り大丈夫でしょう。それに今あそこの戦線は志願者も増え続けているとのことですし」

「それならいいんだ。続けてくれ」

「はい。ザインと合流した後は、そのままグランツ城を攻略するだけとなります。この作戦の問題としては、ブライアン軍の主力がいつ戻ってくるかにあります。恐らく後数週間は戻らないでしょうが、万が一のためにも迅速にフューリア南領土を制圧いたします」

 サーネルは作戦の説明を終え、ゆっくりと椅子に座り込む。各々がいろんな表情をしながらも、セインがその中で立つ。

「これからは帝国軍との争いも激化していくだろう。それに伴い味方の犠牲も増えていくはずだ。だが!それでも我々は立ち止まるわけにはいかないんだ!帝国を倒すまでは!」

 その言葉はその場にいる者たちを奮い立たせた。セインも覚悟を決めながら、決意する。

「では、メレゲン砦攻略は明後日とします。それまでにきちんと軍備を整えて置くように」

 その言葉が解散の合図となり、部屋の中にいた人物たちは出て行った。







 予想通りではあるが、アイラはダーナ城の廊下を歩き回っていた。

 アイラにしてみればあんな窮屈な場所にはいつまでもいられない。ロウエンが自分の心配をしてくれているのは分かっているために、なかなか反抗できずにいるのだ。時々ロウエンの自分への気持ちが重荷に感じてならなかった。

「いたいたっと……サラさん!」

 アイラが探していた人物を見つけ、その名前を大声で呼んだ。その人物は声を掛けられて、アイラの方を振り向く。それはサラーラにいた修道院のシスターだった。

 あの後彼女は悩んだ末に反乱軍に入ると決意し、そして自らの名をサラと名乗った。その返事をサーネルやセインは歓迎して喜んだ。

 この数日の間で、今やアイラの命の恩人としても、反乱軍一の回復魔術師としても有名で人気者になりつつある。訓練でわざと怪我をして、彼女に治療してもらう兵士もいるほどだ。ミーアですら自分より優れた回復魔術師を羨み、そして母親のように慕っている。彼女に敵意を抱く人間はここには誰もいなかった。

「もう歩いてもよろしいのですか?」

「はい。サラさんのおかげでもう大丈夫です」

「それは良かったですわ。けれど無理はなさらないでくださいね」

 本当にアイラのことを心配していることが分かる顔だった。それが伝わり、アイラも嬉しくなる。

「もうこの軍には慣れましたか?」

「えぇ。みなさん良くしてくれる方ばかりですわ」

「ふふっ。そうでしょうね、サラさん人気あるし」

「そうでしょうか?」

 どこか天然な節もあり、そこがまた彼女の人気を高まらせる要因の一つだった。

「それで、私に何か用があるのですか?」

「あ、はい……」

 アイラはサラを探していたことを思い出す。なかなか言い出せずに言葉を濁していたが、アイラは思い切って聞いた。

「サラさんは……もしかしてこの軍に知り合いがいたりとかしませんでしょうか……?」

「知り合い……ですか?」

「はい」

「そうですね。私がいたサラーラの町の方たちは知っていますわ。後はその近隣の町にいた方たちも結構知っていますよ。それがどうかしましたか?」

「えっと……それだけですか?」

「そうですけれど……」

 何処か不信に思ったのか、サラは疑問をぶつけるようにアイラを見てきた。その目は何もかも見透かすかのように感じられて、思わずアイラは思いっきり首を振って否定した。

「いえ!ただちょっと聞いてみたかっただけです!ほんと、特に意味はないので……失礼しました!」

 そのまま居心地が悪くなり、その場をやり過ごすように逃げ出す。そんなアイラをまた不思議そうに、けれど面白そうにサラは見つめていた。







「やぁっ!はぁっ!たぁっ!」

 汗をかきながら、ジェイクは必死に剣を振るっていた。特に何かをするでもなく、ただ前後や左右に素振りをしているだけだ。そんなことで強くなれるのか疑問だったが、それでもジェイクは黙って剣を振り続ける。

 あの後ロウエンに目を付けられたジェイクだが、アイラの必死な説得によりどうにかロウエンの怒りを静めることが出来た。それでも周りの兵士たちからは敬遠されがちのままで、部屋では居心地が悪いことに変わりはない。

 アレンに剣の稽古をつけてもらうこともあり、必然的に一日の大半をアレンやセレーヌと共に過ごしていた。唯一の救いともいえば、そこにアイラも来るということだろうか。

 アイラは変わらずにジェイクに接してくれて、ジェイクを責めることなど一度もなかった。むしろジェイクの置かれている状況に対して謝ってきたりもする。その態度こそが、さらにジェイクの立場を悪くしている原因でもあるけれど。

「よし。今日はここまでだな」

「え……もう終わりですか?」

 途中でアレンが口を挟み、その内容にジェイクは不満を表す。それが顔にありありと出ているのが、アレンにとっては分かりやすく面白くてたまらない。

「そうやってずっと体を動かしても疲れるだけだ。たまには休息も必要なんだよ」

 最近のジェイクの頑張りようはアレンが見ててもすごかった。誰がどう言おうと、アイラが怪我した責任をジェイクは感じており、力のなかった自分が嫌になったらしい。

 アレンに稽古をつけてもらわない時間でさえ、一人で訓練しているのだ。その頑張りをアレンは認めているが、やりすぎは体に余計な負担をかけるだけだった。注意を促して休息が必要なことも分からせる。

「分かりました……」

 落ち込んでるということが分かる顔で、ジェイクは近くに腰を下ろす。感情の起伏が激しいジェイクは見てて飽きない。

「あんたねぇ……強くなるって言っても、そうすぐに強くなれるわけないでしょ」

 見かねたセレーヌが助言するが、それでもジェイクは不満なようだった。

「それはそうですけど……」

「セレーヌの言う通りだ。焦らずにやれば、お前なら強くなれるさ」

「……はい」

 アレンの言うことで渋々といった感じで納得する。ジェイクの葛藤が分からないわけでもないが、今は放っておくしかなかった。時間が経てば、冷静になってくるだろう。アレンはそう思っていちいちジェイクに何かを言うことはなかった。

「さーてと、それじゃぁみんなで飲みに行きましょ!」

 話がまとまった頃に、いきなりセレーヌが言い出した。その提案に呆れながらも、一応アレンは反論しておく。

「何でそうなるんだよ……。こんな真昼間から飲むやつなんてお前だけだぞ」

「そんなの気にしない気にしない!ほらっ、早く行くわよ」

「えっ、えっ、ちょっと、セレーヌさん!」

 そう言ってセレーヌが連れて行こうとしたのはジェイクだった。それがセレーヌなりの気遣いだということはアレンには分かっていたが、それでもその方法に呆れないはずがない。そう思いながらも、放ってはおけずに結局一緒に行くことになってしまうのはなぜなのだろうか。自分に視線で助けを求めてくるジェイクに諦めろと目で返しながら、アレンも立ち上がってセレーヌの後についていった。


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