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入団試験


 その日、王都は朝から慌ただしい空気に包まれていた。


 今日は王国騎士団の入団試験が行われているのである。王都の外れにある広大な訓練場には、各地から集まった若者たちがずらりと並び、熱気に満ちあふれている。


 私は訓練場を見渡せる丘の上の大木の枝に腰掛け、のんびりとその光景を眺めていた。


「アルトくん……いましたね」


 遠目からでも黒髪に金色の瞳はよく目立つ。彼は今、最終試験の会場へと向かっているところだった。


 最終試験は実力のある上級騎士との模擬戦。それが今日のメインイベントであり、合格者は明日にでも正式に騎士団へ配属される手はずになっている。


(この世界の主人公なら、ここで何かしでかすんでしょうね)


 試験開始の合図が響く。


 第一試合に呼ばれたのはどうやらアルトのようだ。対戦相手は筋骨隆々とした歴戦の騎士である。


「では、始め!」


 試験官の声と同時にアルトは地面を蹴った。その動きはこの世界の平均からすればかなり速い部類だ。


(おお……やるじゃないですか)


 しかし、相手は騎士団の精鋭だ。アルトの連撃はことごとく受け止められ、逆に重い一撃がアルトの剣を吹き飛ばした。


「うわっ!」


 アルトの体が地面に転がる。


 しかし彼はすぐに立ち上がり再び剣を取りに走る。そして、何度叩きのめされても立ち上がって食らいつく。


(しぶといですね……)


 観客席からも感嘆の声が漏れる。


 アルトが動きを変えた。大振りを繰り返す騎士の懐に飛び込むと、低い姿勢のまま足元を斬りつけ、続けて肩へと剣を滑らせる。


「なにっ!?」


 騎士が初めて体勢を崩した。その隙を逃さず、アルトは剣を敵の喉元へ突きつけた。


「そこまで!勝者、アルト・レイヴン!!」


 歓声が会場を揺らす。


「お見事ですね……」


 シルヴィアは木の上で静かに拍手を送った。


 翌日、シルヴィアは王城の廊下で偶然アルトと出くわした。


「あ、あの時の!」


 アルトがぱっと笑顔になる。


「おかげさまで無事、騎士団に入ることができました!」


「おめでとうございます。噂は聞いていましたよ。連続で勝ち進んだとか」


「ふへへ、まあ、運が良かっただけですよ」


 少年は照れたように頭をかく。よく見ると、頬には擦り傷の痕があり腕には包帯が巻かれている。それでも、その表情は晴れやかだった。


「配属先はどこに?」


「それが……第五騎士団なんですよ! あの、団長ってシルヴィアさんなんですよね!?」


「そうですよ。では、今日から私の部下ですね」


「よ、よろしくお願いします!」


「ええ、よろしくお願いします」


(というか、主人公が第五騎士団に配属された?)


 シルヴィアは内心首を傾げる。原作読者ではないから知らないが、きっとこれはレオンハルトが裏で手を引いているのだろう。あの王様は、なぜか私を何かと構いたがる節がある。


「どうかしましたか、団長?」


「いえ、なんでもないです」


 アルトの配属から数日後、シルヴィアは遠くから彼を見守る日々を送っていた。


 朝の訓練では彼は他の新入りと一緒に並び、素振りに励む。その姿は誰よりも汗をかき、誰よりも声を上げていた。


「すごいですね、アルトは」


「ほんと、あいつは化け物だよ」


「俺らとは次元が違うって感じするわ」


 周囲の若者たちは口々に彼を称える。いつの間にか彼は新入りたちのリーダー格になりつつあるらしい。


 主人公の物語が、今この場所で動き始めたのだった。



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