火災
ある晩のことだった。王都の西側で火災が起こったという報告が入ったのは。
私は夜勤担当ではなかったものの、王都の混乱に付き合う形で現場に向かった。
すると、燃える建物の前で呆然と立ち尽くす人々の輪の中にアルトを見つけた。
普段は明るい表情の彼だが、今は唇を噛み締め厳しい顔つきをしている。
「アルトくん!」
「あ、団長……」
「どうしたのですか?」
「あそこに……アリアが!」
視線の先にはまだ半分残っている三階建ての商店があった。煙が立ち込め窓からは黒い影が見える。
「わかりました。私が行きましょう」
「団長……でも危険です」
「大丈夫ですよ。私を誰だと思っているんですか? 」
「だけど……」
「貴方はここにいて下さい。万が一のために救助用のロープを用意しておいてもらえますか?」
「はい!」
建物の中に入ると熱気が肌を刺した。煤で汚れた壁を伝いながら慎重に階段を上がる。
(……いた)
廊下の隅で蹲るようにしている少女。栗色の長い髪に白いワンピースを着ている。
「アリアちゃん」
「……誰?」
怯えた目で見上げる少女に優しく微笑。
「私は第五騎士団の団長。アルトくんの上司です。兄さんが下で待っていますよ」
安心させるように語りかけながら彼女を抱き上げる。アリアは抵抗せず大人しくなった。
「行きましょうか」
火の粉が舞う廊下を走り抜け窓際へと辿り着く。窓枠に足を掛けると外では既にロープが準備されていた。
「シルヴィア様! アリア! 大丈夫でしたか!?」
下からアルトの声が響く。シルヴィアは少女を抱えたまま軽々とロープに飛びつき降下を始めた。
地上に無事着陸すると同時に人々から大きな拍手が沸き起こる。
「アリア……! 無事で良かった……!」
弟は泣きそうな顔で妹を強く抱きしめた。その光景を横目に見つつシルヴィアは静かに息を吐く。
この兄妹が困難を乗り越えていく様を見守ること。それがこれから先の自分の役目なのだという予感が彼女の中にはあった。
(さて……物語が動き出してきた気配がします。これから面白くなっていきますね)




