01-07.侯爵家の立ち位置
王子とのお茶会が決まった。
なんとびっくり一週間後だ。短すぎる。
こちとら正式なお茶会の経験もまだなのに。
ダーリャとフローラは魔力修行の第一段階として、拷問部屋……もとい、修行部屋に立て籠もっている。二人の助力は期待出来ない。
私は頼りになる側付きたちと離れ、他のメイドたちにお茶会のマナーを詰め込んでもらった。
「もっと厳しくしなさい!」
「は、はい! お嬢様!」
生温い。ダーリャのやり方とはまるで違う。
一週間で仕上げなきゃいけないとわかっているのかしら?
「相手は第一王子殿下よ。くれぐれも無礼の無いように!」
「「「はい!!」」」
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アルレティア侯爵王都邸はあっちこっちひっくり返したように騒がしくなった。
王族がお越しになられるのはいつぶりだろうか。少なくともここ数十年では初めてのことだ。
アルレティア侯爵家は領主貴族だ。大半は王都で暮らしているけれど、一年に何度かは領地内の各地を回ったりもしているらしい。
らしいというのは、私が行ったことはないからだ。私は文字通りの箱入りだ。生まれてこのかた、この侯爵家王都邸から一歩も外に出たことはない。許されるのは敷地内の庭だけだ。
侯爵家の話はともかくとして。今重要なのは、これまで中立を貫いてきたアルレティア侯爵家に王族が立ち入るのが、前代未聞な大事であるということだ。
私はここ数日の詰め込み教育で知ったことだけど、我が家はそれなり以上に大きな存在だった。
代々対魔物における国防の任を仰せつかってきたからだ。それ故、下手に王子の派閥に付いてしまえば国が乱れる要因になりかねないとして、中立を保ってきた。
大貴族であるアルレティア侯爵家がそのような立場で在り続けたのは、偏にかつての王家自身がそうお命じになられたからだ。
しかし今代の陛下は異なる考えを示した。それこそが私と第一王子の婚約だ。
もしかしたら魔王の復活について、既に何かしらの予言を授けられているのかもしれない。
お父様も何か聞いているのかもしれない。
けれどそれを聞き出すのは難しい。私は自分の話をしていない。お父様には魔王復活の話は伝えていないのだ。
私が魔王に関する話を気にし始めると、諸々の事情も話さねばならなくなる。きっと王家はギリギリまで公表することはないだろう。ダメ元で王子殿下に探りを入れてみるべきかしら。知らされているとは限らないけど。
そうこうしているうちにお茶会の日がやってきた。
「仕上がってますね♪ ベルベル様♪」
「なんでツヤツヤしてるのよ。変態」
唐突に現れたわね。ナイス過ぎるタイミングで。
「フローラは?」
「ぐっすりです♪ 後で添い寝してきますね♪」
「やめたげなさいよ。今は顔も見たくないでしょうに」
「いえいえ♪ フララは中々のものですよ♪」
凄いわね。私だったら目覚めた瞬間に絶叫するわよ。あの地獄の直後の寝覚めが、にっくきダーリャの顔のドアップだったら。
シュッシュ!
「あのベルベル様? 何故拳を突き出すのです? 折角のお召し物がシワになりますよ?」
こっちにボクシングの文化は無いのかしら。シュッシュ!
「ばっちこい♪」
腕を広げて満面の笑みで受け入れようとするダーリャ。
「冗談よ。ご苦労さま」
シャドーボクシングで近づくふりをしながら、直前で私も腕を広げてダーリャに抱きついた。
「はぎゅぅ!?」
そうよ。ハグよ。驚きすぎじゃないかしら?
「一週間は長かったわ。もう。私をこんなに放置して。ダメな子ね」
「はわわ!? ベルベル様ぁ~!?」
なによ。普段なら喜んで手をワキワキさせるでしょうに。
「頼りにしているわ。ダーリャ」
「はいぃ~~!!」
ガシッと抱きついてきたダーリャの腕から、するりと抜ける。
「えぇ!? ここでお預けですかぁ!?」
「もう直王子が来るわ。シワになったら困るでしょ」
「くっ!! やりますね!! 少し見ない間にここまで成長されるとは!!」
何がよ。
「はっ!? ダメですよ! ベルベル様!! 幼気な王子相手にそんな!!」
何を想像したのよ。
「ダーリャと将来を誓い合ったではありませんかぁ!!」
事実無根よ。
「あれ? 僕振られちゃったかな?」
……え?
「やあ♪ はじめまして♪ ベルベティア・フォン・アルレティア嬢♪ 僕はピース♪ 本当の名前は長いからピース殿下でいいよ♪ あ、でも。もう呼ぶ機会もないかな? まさか来て早々に不倫現場を目撃するとは思わなかったよ♪」
「大変失礼いたしました。王子殿下。今のはメイドの悪ふざけにございます。即刻クビに致しますので何卒ご容赦を」
「ベルベル様ぁ!?」
おいこら。
「あはは♪ 冗談だよ♪ 君もそうでしょ♪ ベルベル♪」
気さくな王子様ね……。
「はい。重ねてお詫び申し上げます」
「いいって♪ 改めてよろしくね♪ ベルベル♪」
ベルベルやめい。




