01-06.未来の変化
今日からフローラも魔力修行を開始する。
「頑張ってね、フローラ。本当に辛いのは最初だけだから」
「それってつまり~♪ ベルベル様もぉ~♪」
「もって何よ!? 一緒にしないでよ!! 別に気持ち良くなんてなってないわよ!!」
「またまた~♪」
こいつぅ~……。
ダーリャには困ったものだわ。この調子で大丈夫かしら?
「ベティ様、本当に行っちゃうの?」
最近少し距離が近づいてきたフローラ。
これから訪れる地獄も知らずに、不思議そうな視線で私を見つめている。
私は未だフローラに魔力修行の詳細を話したことはない。修行をする日の夜はわざわざ別室で寝てもらっている。今でも週に三回の修行しか許されていないので、残りの四日間は一緒に寝ているのにだ。
「ええ。フローラもその方が良いと思うわ」
泣き叫んで上から下から色々垂れ流すことになるもの。そんな姿は見せたくないだろうし、私だって見たくない。それで興奮出来るダーリャみたいな変態とは違うのだ。
「フローラはいつでもベティ様と一緒がいいのに」
「今後は一緒よ。けど今日だけは……あと数日だけは一人で臨んでほしいの。聞き分けてくれるわね」
「うん……ベティ様がそういうなら……」
そうよね。フローラはいつだって私の指示を聞いてくれるものね。
「頑張って。心の底から応援しているわ」
「はい! 期待に応えます!」
「その意気よ♪」
「あ~。ごほん。そろそろよろしいでしょうか?」
フローラの手を放し、その手を今度はダーリャに預けた。
「任せたわ。ダーリャのことも信頼してるから。私の親友を悲しませるようなことだけはしないでね」
「めっちゃ疑ってるじゃないですかぁ!?」
「冗談よ。いってらっしゃい。二人とも」
「「はい! いってきます!!」」
二人は修行部屋の中へと入っていった。
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自室に戻り、一人でベッドに倒れ込んだ。
考えるのはフローラのことだ。
数日後のフローラは今まで通りのフローラなのだろうか。
地獄の修行で心を壊されてしまうのではないだろうか。
やっぱり側で見守っていてあげるべきだったのだろうか。
最初の修行がいつまで掛かるかはわからない。コツを掴むまではあの拷問部屋から出してもらえないからだ。
これからフローラは魔力を消費し続ける。例え枯渇しても、体力が尽きても、最高級の回復薬を惜しげもなく使って修行を続けることになる。
私の時は何日程だったのだろうか。実は記憶が曖昧だ。あまりの恐怖にその後数日寝込んでしまったのもある。
暫くはまともにダーリャの顔を見ることも出来なかった。フローラもきっとそうなるのだろう。もしかしたらずっとそのままなんてことにも……。
……そもそも本当に必要なのだろうか。
フローラは聖女だ。将来女神から直接力を貰うのだ。
別に今の時点で魔力量を増やしておくことに意味は無いのではなかろうか。
私は何か間違えているのかもしれない。
……今からでも修行の中断を申し出るべきかしら。
いやでも……。
……相手は魔王だ。力があるに越したことはない。聖女の力と莫大な魔力。これらが合わさればより確実に勝利出来るだろう。
ここはゲームとは違う。学園が共学だったり、入学の時期がズレていたり。他にも沢山変化はある。中には私が起こしてしまった変化もだ。
お父様は闇落ちしないし、シフォン子爵家はフローラを拾わない。
ベルベティアの魔力量がゲーム本編とは比べ物にならない程に成長しているのも大きな変化だ。
主人公であるフローラの成長が異なるものであった場合、本当にゲーム通りに物語は進行していくのだろうか。
コンコン。
ノックの音に思考が中断される。
「はい。どうぞ」
「うむ」
え? お父様?
私はベッドから飛び起きて、扉へ近づき、出迎える。
「すまぬな。寝ていたか」
「いえ。これからです」
「そうか」
お父様は頷いて、部屋のソファに腰掛けた。
「ベル。掛けなさい」
正面を指し示す。
「はい。お父様」
何か話があるようだ。
わざわざ部屋に来るだなんて珍しい。
しかもダーリャたちが居ない時にだなんて。
まさかダーリャの秘密でも教えてくれるのだろうか?
「……実はだな。ベル」
お父様にしては歯切れが悪い。
お父様は口数こそ少ないものの、平時はハッキリと言葉を口にされる方だ。まるでお母様を亡くして塞ぎ込んでいた頃に戻ってしまったかのようだ。
「……陛下より婚約話を賜った」
「お父様のですか?」
つまり新しいお母様!?
「そんなわけがなかろう」
あかん。地雷踏んだっぽい。
お父様、今でもお母様のことが大好きだものね。
「し、失礼しました。そうですよね。婚約とおっしゃられましたもの」
「うむ」
つまりは私の婚約者だ。これもゲームでは描写されなかった内容だ。
「陛下からとおっしゃいますと、相手は王子殿下のどなたかで?」
「第一王子殿下だ」
えぇ……。
「当然この話は断れん」
「デスヨネ……」
「勉学に使う時間も増やさねばならん」
「もしや……」
「ベルが魔術の修行に励んでいることは知っている。しかしその時間は減らさねばならん。……すまぬな」
「い、いえ。ありがとうございます。お父様」
マズい……とってもマズいことになった……。
まさか乙女ゲー的な悪役令嬢まで兼ねることになるなんて……。
王子との婚約……それは困る……。正直めっちゃ困る。
「やはり乗り気ではないか」
あかん。見抜かれた。
「い、いえ。ただ恐れ多いものだと。そう思った次第でして……」
「そうだな」
お父様も少し戸惑っているみたい。
それだけ急な話だったのだろう。うちは一応侯爵家だけど、特別王家と縁が深いわけじゃない。加えて私はまだお披露目前の箱入りだ。もちろん王家の誰かと会ったこともない。
何を理由に気に入られたのかがわからない。家柄や年齢だけなら他にもっと適した者たちがいる筈だ。
これはお父様が闇堕ちしなかったことによって発生した新たな分岐点なのだろうか。
この二年、お父様が真っ当に頑張った結果、王家に気に入られたのだろうか。
闇堕ちしていたゲーム本編ではあり得なかった流れかもだけど、お父様は元々優秀なのだ。優秀だからこそ娘と共に魔王復活なんて大事件を起こしてみせたのだ。
お父様を救ったことで、私は歴史を変えたしっぺ返しをくらっているのかもしれない。今後も必ずこういうシワ寄せが生じるのかもしれない。
考えるべきことが多すぎる。今すぐダーリャが欲しい。こういう時あの子の頭脳はとっても頼りになるのだ。
「ベル。寝なさい」
私の思考を中断させるようにお父様が促した。
「はい。お父様。おやすみなさいませ」
「うむ。おやすみ。ベル」
私は退室するお父様を見送って、素直にベッドへ潜り込んだ。




