05-09.二度目の夏休み
二度目の夏休みがやってきた。
「ベル。わかっているな」
「はい。お父様。ネーテルリア殿下の護衛任務。必ずやこの大役を全うし、無事に戻ってまいります」
「そうではない。そこは疑っておらん」
「……戦闘行為はダーリャたちに任せます」
「それでよい。殿下のお側で心の安寧に務めることもまた、立派なお役目と心得よ」
「はい。お父様。それでは行ってまいります」
----------------------
夏休みを利用し、ネーテルリア殿下は王国各地の査察に赴いた。
もちろんこれは口実だ。私たちの武者修行こそが目的だ。
とはいえ口先だけのお為ごかしというわけではない。各地の魔物たちが活性化しているのも事実だ。魔王の復活はもう間近まで迫っている。凶暴化した魔物たちを討伐して回ることで、人々の為になるのは間違いない。ゲームイベント的な理由で、直接的に人を助ける場面も少なくはないし。そうでなくとも、手が届くなら片っ端から救って回るつもりだ。
とにかくそんなわけで、私たちは大手を振って王都を抜け出した。去年の夏休みとは違い、正式な公務としての出陣だ。
「ありがとう、ネル。お陰で助かったわ」
今年も家出するなんてわけにもいかなかったし。
昨年の夏休み終わりは大変だった。お父様の怒りようといったらもう……思い出したくないわね……。
「うふふ♪ これも王女としての務めですわ♪」
ネルは相変わらず私の隣に……いや、この場合は私がネルの隣に座っていると言うべきかしら。
今は馬車の中だ。それも王女様の馬車とパッと見でわかる豪奢な馬車だ。私はネルの隣に座って、道中の話し相手を務めている。表向きはそういうことになっている。
同行者はいつものメンバーだ。
私、ダーリャ、フララ、メルメル、リリィ、キリエ、サツキさん、ネル、そしてネルの片腕、ヴィクトリアさんだ。
合計九人。それも女性だけ。
豪奢な馬車と、もう一台の荷物や支援物資を積んだ馬車。
旅の道連れはたったこれだけだ。王女様の旅にしては軽装過ぎる。軍隊どころか騎士団すらも同行していない。
御者は、それぞれヴィクトリアさんとダーリャが務めている。フララとキリエとサツキさんも経験があるそうだ。二ヶ月程の旅の間、ずっとダーリャたちにばかり任せておくわけにもいかないので、私も後でやり方を習っておくとしよう。
「よく陛下はお認めになられたわね」
「むしろお兄様の方が食い下がっておられましたわ♪」
ピース殿下かぁ……。まだ婚約破棄もしてないもんなぁ。
そうでなくとも、殿下は結構過保護というか。私がリリィを引き取ろうとした時も反対してたし。
「ご心配なく♪ 委細このネルめにお任せを♪」
私の腕を抱いてスリスリしながら甘えるお姫様。
私ったら何様のつもりなのだろう。なんて、今更ながらに自問してしまう。
婚約者の王太子殿下を裏切って。その妹君であるお姫様を顎で使い、あろうことか侍らせて。
魔王討伐にかこつけて好き放題やりすぎじゃないかしら。
「お姉様ったら。また益体もないことを考えてらっしゃいますのね」
指先で私の太腿に文字を書きながら、拗ねたように呟く妹ちゃん。
「もっとわたくしとお話してくださいませんの?」
会話に集中出来ていないと見透かされている。というかネルったら、私のことはだいたい何でもお見通しなのだ。いったいいつから探っていたんだか。
「ネルは魔王を復活させる方法って知ってる?」
「はい♪ もちろんですわ♪」
なんで知ってるのさ。聞いといてなんだけど。
……いや、おかしくはないのか。
ゲームのネルだって魔王を復活させたんだし。
「やっぱり生贄が必要なのかしら?」
ゲームにおいては必要だった。ベルベティアはピース殿下を。リリアーナは自分自身を。それぞれ生贄に捧げたのだ。
「必要ありませんわ」
あらま。
「この身に降ろせば良いのですわ」
「なんですって?」
「ご安心を♪ 自身を贄とするわけではございませんわ♪」
「何言ってるのよ! 危険な真似だってさせないわよ!?」
「きゃっ♪」
思わず手を掴んで迫ってしまった。
「う~~~♪」
目をつむるな。唇を突き出すな。迫り返してくるな。
「真面目な話よ、ネル」
「うにゃ」
ネルの頬を摘んで少しだけ押し返す。
「少々誤解を与えてしまったようですのね」
誤解ってなにさ。
「降ろすのは魔王ではなく女神様ですわ♪」
……え?




