05-08.似た者主従
ダーリャは優秀だ。極めて優秀だ。
この世で出来ないことなんてほぼ存在しないとすら言い切れるだろう。
しかしそんなダーリャにも弱点はある。それはもちろん私だ。ダーリャの主である私なのだ。
ダーリャ一人なら、どんな荒波をも乗り越えてみせるだろう。しかしダーリャの船には常に私が乗っている。ダーリャは私の指示通りにしか舵を切れない。そういう制約がある。
ダーリャ自身がどれだけ望んでも、私の望まぬ方向に舵を切ることだけは決して出来ないのだ。
たとえダーリャ自身が負けなしだとしても、私が戦わないと決めればダーリャの不戦敗は決まってしまうのだ。
ダーリャはそれが悔しくて堪らないのだ。
なにより私の裏切りが信じられないのだ。
だからこの子は泣いているのだ。
「ダーリャ」
フララからダーリャを引き取って、優しく包み込むように抱きしめる。
「ダーリャ」
何かを語る必要なんてない。今更私たちが語り尽くしていない言葉なんてありはしない。
「ダーリャ」
ただ静かに名前を囁き続ける。呼びかけ続ける。彼女が自分から顔を上げてくれるのを待って声をかける。
「ダーリャ」
正直私は嬉しかった。泣いて悲しむダーリャが可愛らしくて堪らなかった。泣いて悔しがるダーリャが堪らなく愛おしかった。
「ダーリャ」
私とダーリャは似た者同士なのだろう。愛しい相手の涙を見て悦べるなんて、ありふれた性癖とは呼べぬものなのだろう。今この瞬間にも、無理やり顎を持ち上げて口づけて、涙を舐め取ってしまいたいなんて、そんなことを考えている私は主失格なのだろう。
「ダーリャ♪」
ダーリャを初めて本気で泣かせてしまった。巫山戯半分で涙を見せることはあれど、ここまで追い詰めたのは本当に初めてだ。それが何故だか誇らしい。つくづく私たち主従は歪んでいる。私たち以上に似合いの主従なんていないだろう。
「ダーリャ」
今すごく動き出したい。このままダーリャを押し倒して、全身を擦り合わせてしまいたい。この子に私の臭いを染み込ませたい。泣いているダーリャを蹂躙したい。
「ダーリャ」
もちろんそんなことはしない。妄想だけだ。
優しく優しく抱きしめて、静かに丁寧に囁くだけだ。
それ以上はしないとも。私は優しい主だもの。
だから。
「ダーリャ」
戻ってきなさい。私に仕返しするために。
そろそろいつも通りの元気いっぱいなダーリャにも会いたいわ。泣くのは少しだけにしておきなさい。でないと我慢できなくなってしまうもの。
「ダーリャ」
私を優しい主のままでいさせて頂戴。
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「……ベルベル様」
「おはよう。ダーリャ」
ふふ♪ 泣き疲れて眠ってしまうなんて、まるで子どもみたいよね♪ とっくに成人してるのに♪
「気分はどう? スッキリした?」
「……ジメジメします」
そりゃあれだけ泣けばね。
たっぷり涙と鼻水が染み込んだままずっと抱き合って、挙句ベッドに運んでしまったし。しっけしけのムッレムレよ。
「お風呂入る?」
「いいわね、フララ。ダーリャも来なさい」
「……はい。ベルベル様」
そんなわけで、三人仲良く深夜の風呂場へ繰り出した。
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「「「はぁ~~~」」」
身体を洗い、三人揃って湯船に浸かる。
これまで幾度となく繰り返してきた日常だ。
けれど少しだけ懐かしい。リリィたちが加わってもうすぐ一年だ。十年近く三人だけだったのに、この一年ですっかりリリィとキリエとメルメルも、いるのが当然になっていた。
なんならサツキさんも結構遠慮なくお風呂入りに来るし。あの人、侯爵家を高級スパか何かと勘違いしてないかしら。
いずれはネルが居るのも当たり前になるのかしら。
ならない筈がない。日常なんて簡単に変わるものだ。
「八人は多すぎるかしら」
「……もう一人増やすご予定が?」
え? 何言ってるの?
「ハーレムの話じゃないよ、ダーちゃん」
ああ。
「そうよ。魔王討伐パーティーのメンバーの話よ」
だから私自身も含むのよ。
私、ダーリャ、フララ、メルメル、リリィ、キリエ、サツキさん、ネルの八人よ。
あ、でも。ネルの従者である彼女も含むかしら? その辺まだ確認してなかったわね。戦力としてもきっと優秀よね。
「やっぱもう一人増えるかも」
「ガジガジガジガジガジガジ!!!」
痛いわ、ダーリャ。私の腕を噛まないで。
「それいいね。フララはこっち。がぶり」
ちょっと。なんでフララまで齧りつくのよ。
「まさか全身に歯型付けるつもり?」
なにその拷問。普通キスマークとかでしょ。
「顔は勘弁してあげます。ガジガジ」
「けど首筋くらいは付けておかないとだね。がぶり」
いっつ!? 今本気で噛んだわね!?
「もう上がりましょう。私もお腹空いたわ。私たち、夕食食べてないものね。夜食でも作ってもらいましょう」
痛みを堪えて優しく語りかける。
「「どうぞ」」
二人揃って腕を差し出してきた。
私にも齧れと? 空腹は満たせないわよ? カニバルの?
「……せめてさっさと終わらせて」
「ガジガジガジガジ」
「がぶがぶがぶがぶ」
全身隈無く齧り尽くされた頃には、とっくにお湯も冷めていた。「……へっくち!」




