05-06.バッドエンドの真相
「お義姉様。少々二人でお話をさせて頂いても?」
「はい。承知致しました」
合図をするまでもなく、私とネル以外の全員が退室していった。
そういえばネルの付き人も一人同行していた筈だけど、昨晩といい、今といい、そんなあっさり側を離れてしまっていいものなのだろうか。仮にもお姫様なのに。
「お姉様♪ どうぞこちらへ♪」
あれ? なんか今、若干ニュアンス違くなかった? きのせい?
取り敢えず、ネルの指示通りに隣へ腰掛ける。
「お姉様~♪」
すぐに寄りかかってきた。すっかり甘えん坊だ。
「まったぎゅっとしてくださいまし♪」
気に入ったらしい。
ぎゅ~~~~~。
「きゃっきゃ♪」
ご機嫌ね。ついさっきまで泣いてたのに。
「お姉様♪」
「どうしたの?」
「責任。取ってくださいましね」
……?
「やっぱり罰はあるのかしら? できればお父様は巻き込まずに……」
「そうではありませんの!」
というと?
「お姉様。お慕い申し上げております」
……なんで?
「いや~。あはは~……嬉しいわ~」
「あら。誤魔化すおつもりですのね」
ばれてーら。
「……だってほら。私はピース殿下の婚約者ですし」
おすし……。
「お兄様との婚約は破棄して頂きますわ♪」
えぇ……。
「ですのでご心配には及びませんわ♪」
いやいやいや。
そりゃぁ元々私はそのつもりだったけれども。
「全てわたくしにお任せくださいませ♪」
そう。この行動力なのよ。ネルの一番厄介なところは。
「うふふ♪ わたくし存じておりますのよ♪」
何をだろう。
「お姉様の本命は別におりますものね♪」
……。
「失礼ながら調べさせていただきましたの♪」
……なにを?
「あまり安宿など使うものではありませんわね♪」
…………いつから?
「ご安心を♪ この情報はわたくしの胸にだけ秘めておきますわ♪ もちろん婚約破棄にも使いませんわ♪」
……いやでも……調べた人とか……知ってるんじゃ。
「わたくしの手の者はとても優秀ですの♪」
王子の婚約破棄を実現できる程に? まさか暗殺するとか言わないわよね? それは止めるわよ?
「気づいてまして? お姉様?」
え?
「姫様」
「なっ!?」
いつから!? いつから私たちの背後に!?
私が気付かなかった!? この私が!?
「もう下がって構いませんわ」
「御意」
消えた!?
……いや。今更驚く程のこともないか。ダーリャみたいなもんだし。……いや驚くわ。ダーリャが二人もいて堪るか。
「まさか……」
「はい。彼女もイグナイト家の者ですわ」
あっさり認めるのね……。
「取り潰されたと聞いて疑問を抱きませんでしたか? 暗部であれ、王家に仕える忠臣に変わりないのにと。そうは思いませんでしたか?」
……そりゃぁね。不自然さは感じていたけども。
「皆欲しかったのです。イグナイト家の力が。叡智が」
……。
「そうです。かの家は奸計を以って潰されたのですわ。親世代は一人残さず殺され、その叡智と子どもたちだけが散らばりました。元より虐待同然の教育を受けていた者たちです。心を解きほぐすのは簡単なことでした」
……。
「彼女もその内の一人ですわ」
「……まさか。ネルは」
「謀反を企てておりましたの。彼女と出会った幼き頃より。つい昨晩まで。ありもしない復讐心に囚われておりましたの」
……どうしてそんな考えに至ったのかはわからない。
繋がりはなんとなく想像出来なくもないけれど、まだ必要な情報が足りていない。
けれど理解は出来る。ネルの考えではなく、ゲームのストーリーについてだ。
ゲームのネーテルリアは簡単に魔王の力に取り込まれてしまう。それは彼女の心が弱いからだとばかり思っていた。
けど違う。逆なんだ。ネルはギリギリで耐え続けていた。
魔王の干渉を幼い頃から受け続け、いつ暴発するかもわからない状態で必死に戦い続けてきたんだ。
フローラとの関係は最後の引き金にすぎなかった。
「王国は魔王の手に落ちた」このメッセージを不思議に思うべきだった。
世界が滅びるでも、人類が滅びるでもない。落ちるのはフォルトマグナ王国だ。このメッセージはそのままの意味だったのだ。
それも将来的にそうなるというわけではなく、実際に選択肢を間違えた時点で魔王が国を手中に収めてしまうのだ。
これはおそらく、魔王が乗り移ったネーテルリアの手に落ちるという意味なのだろう。
彼女は本当に国家転覆を企てていたのだろう。その準備をギリギリまで進めていたのだろう。
やっぱり私にネルの想いはわからない。
ううん。実際にはそれ程のものなんて無かったのだろう。魔王の力が抜けた途端にその気を無くしたくらいだ。
ネルは最初から唆されていただけだ。強引に心の闇を育てられていただけだ。イグナイト家の事件だってその口実に過ぎなかったのだ。
「お姉様は仰ってくださいました。『もっと早く会いに行くべきだった』と」
聞こえていたのね……。
「お姉様は理解してくださいました」
いえ……それは……。
「今朝のわたくしは何かがスッポリと抜け落ちてしまっていたんですの。お姉様はそこに入り込んできたのですわ」
「……あれだけ魔力を吐き出したんだもの」
「ふふ♪ 意地悪言ってもダメですわ♪ もう逃がしませんもの♪」
……この子全部知った上で。
「私……好きな人がいるの」
「存じておりますわ♪」
「……付き合ってるの」
「それも存じておりますわ♪」
「……」
「♪」
「……手放さないわよ?」
「承知の上ですわ♪ 側室くらい受け入れますわ♪」
「……貴女はもっと嫉妬深いと思っていたわ」
「ひどいですわ。どなたかと勘違いされておりますのね」
……。
「お姉様。何も心配要りませんわ。わたくしに全てお任せくださいまし。伊達に謀反など企んではおりませんわ。この国でわたくしに出来ぬことなど、そうはございませんのよ」
「……わ~い……心強い味方が増えたわね~」
「お姉様はもう少し腹芸を覚えるべきかと存じますわ」
「……私だってこれでも」
「うふふ♪ どうかそちらもご心配無く♪ わたくしが手取り足取り導いて差し上げますわ♪」
……なんだか勝てる気がしないわね。




