05-02.最凶のヒロイン
「最近リリィがモテモテなの」
新学期が始まって早々。リリィは毎日のようにヒロインズたちから追いかけ回されていた。
まるで一年の遅れを取り戻すかのように、次から次へと詰め込まれるイベントの数々。
ツンデレ委員長ちゃんに突っかかられたと思えば、クールな黒髪ちゃんが割って入り、ほわほわお嬢様が漁夫の利を得たかと思えば、小悪魔後輩ちゃんが横から掻っ攫っていく。
毎度毎度、まるでピタゴラスイッチのようにリリィの姿が消えてしまうのだ。
そうして暫くすると、疲弊したリリィが帰って来る。毎日そんなことの繰り返しだ。可哀想に。本来ならフララがこなす筈だったものなのに。
「貴女なら一喝すれば終わりでしょ?」
「そんな甘い話じゃないのよ。サツキさん」
「……ああ。あの子ね」
そう。『天啓のフォルトマグナ』には、私ですら太刀打ち出来ない最強のヒロインが存在する。
その名は……。
「ネーテルリア・ベルマギア・フォン・フォルトマグナ」
つまりはピース殿下の妹君だ。王女様だ。お姫様だ。
侯爵家の私では、その行動を諌めるのも難しい。
しかもこのお姫様、ちょっとしたことですぐに闇堕ちしてしまうのだ。一見そうは見えないのに、とても嫉妬深く、心の弱い、そのくせ行動力のある、極めて厄介な存在なのだ。
「なんで放っておいたのよ」
「触らぬ神に祟りなしって言うでしょ」
そもそも彼女は隠しヒロインだ。そして真ヒロインでもある。パッケージどころか一周目にすら登場すらしない、極めて特殊なヒロイン様なのだ。
二周目以降は度々姿を表すようになり、全ヒロインを攻略した後の最後の周回において、満を持してヒロインレースに名乗りを上げるのだ。
最終ルートは彼女のルートでもあるのだけど、半分ハーレムルートじみた部分もある。一応ネーテルリア以外と恋仲になることはない。しかし全員仲が良い。友達以上恋人未満くらいには。しかも序盤から。
主人公フローラは、まるで前周回までの知識があるかのように、適切に各ヒロインたちを攻略していくのだ。
(一作目時点での)最高のハッピーエンドには、各ヒロインの力も必要不可欠だ。物語を冗長にしないためにも、そういう流れになるのは必然であったのだろう。
そんなわけで、中盤はちょっとした選択肢を間違えるだけでもバットエンドに直結する。ネーテルリアがフローラに惚れると、他のヒロインたちとの距離感に嫉妬しだすからだ。
フローラを手に入れたいと願ったネーテルリアは、魔王の力に魅入られていく。彼女が完全に闇堕ちすると「王国は魔王の手に落ちた」の一文だけで物語が終わってしまうのだ。
そう。ネーテルリアの闇堕ちエンドは、戦いの機会さえ与えられない。ADVパート……文章を読み、選択肢を選ぶタイプのゲーム画面……だけで物語が終わってしまうのだ。
「ある意味魔王より厄介よね」
「さすがにこっちでそんなことにならないでしょ? ちゃんと段階踏むでしょ?」
「運命が決まってしまうのかも。避けようのない運命が」
「無いとも言い切れないのよね……」
なんて即死トラップ……。
「魔王よりも厄介なヒロインの顔色を伺いつつ、世界も救わねばならない。両方やらなくっちゃあならないってのが主人公のつらいところよね」
「覚悟はできてる? 私は出来てないわ」
「そんなリーダーでは困るわ」
「そもそも私悪役令嬢だし。主人公でも幹部でもないし」
「そういうネタは覚えてるのね。あと主人公なんだってば。ファンディスクのベルベティア編ではね」
「サツキさんだって忘れてたくせに」
正直、絡んでくるとは思っていなかった。正確には、こちらから手を出さなきゃ問題ないのだと思っていた。
「ファンディスクではどうなの?」
「ベルベティア視点だと特に接点は無いわね」
「登場しないわけではないのね」
「ええ。たしかね」
そこはハッキリ思い出してほしい。ほんとマジで。
「それでどうするの? このままだとマズいんじゃない?」
そうよねぇ~。正直、リリィの手に負えるタイプではないのよねぇ~。
「ベティが巻き取ったら?」
「え? 私が攻略するってこと?」
「そう。逆に落としてしまえばいいんじゃないかしら」
「無茶言わないで。私には既に恋人がいるし、ピース殿下の婚約者でもあるのよ」
そういえば、婚約の件もどうにかしなくちゃだわ。待っていても婚約破棄イベントは起きるのかもだけど。ファンディスク版ではベルベティアもフローラと付き合うわけだし。
「だったらフララに頼む?」
ネーテルリアの籠絡を?
「それは……どうなのかしら……」
フララは素直過ぎると思うのだけど……。
「フララには難しいと思うわよ。あの子、腹芸出来る方でもないし」
なら提案しないでよ。サツキさんたら意地悪ね。
「どうせなら最良を話し合いましょう」
目指すべき場所をハッキリと定めましょう。
「ネーテルリアのリリィへの興味を失わせればいいのね」
「そう。そもそもリリィは私のよ。他の誰にもあげないわ」
まったく。今更現れてリリィを付け狙うなんて。ヒロインズ共々お仕置きしてあげなくちゃだわ。
「時間がないわ。グズグズしてると恋に変わるわよ」
そうなればバッドエンド一直線だ。今のリリィにネーテルリアルートは乗り越えられない。
今の内に、注目の聖女様に興味と憧れを抱くだけのネーテルリアをどうにかしないといけない。
「覚悟を決めなさい、ベティ。貴女が動くしかないわ」
結局そこに持ってきたかったのね。サツキさんは。
「サツキさん? ちょっと面白がってない?」
「大丈夫! 私は数多のゲームを攻略してきたもの! 必ず貴女をハッピーエンドに導いてみせるわ!!」
「ちょっとぉ!? 遊びじゃないのよ!? 世界の命運懸かってるのよぉ!?」
「ベティこそわかってないわね♪ 私が何度世界を救ったと思っているのよ♪」
「知らないわよ!? ゲームの話でしょ!?」
「大丈夫♪ 大丈夫だから♪」
なんなの!? なんで急に乗り気になったの!?
「ベティは全員幸せにするんでしょ? 最高のハッピーエンドを作り上げるのでしょう?」
「それは命を救うって意味よ! ハーレム作って誰も彼も迎え入れるって意味ではないのよ!!」
「今更じゃない。ハーレムはもう作っちゃったんだし」
「まだダーリャとフララだけよ!」
「恋人はでしょ。メル先だって愛人でしょ。なんなら『まだ』って言ってるし。ハーレム作るつもりはあるんでしょ」
「ネーテルリアに手を出したらハーレムが崩壊するんだってばぁ!」
「作り上げましょう! 真のハーレムルートを!」
「そうじゃないのぉ! 私が欲しいのはそういうんじゃないのぉ!」
「悪役令嬢のくせにみみっちいわね」
「なんですって!?」
「ベティ! 貴女はベルベティアよ! ベルベティア・フォン・アルレティアよ! 貴女になら出来るわ! 唯一悪役と主人公の両方を務めた貴女になら! 貴女がやるべきことなのよ!!」
ガシッと手を握りながら、力強い眼差しで覗き込んできた。
私は思わずたじろいでしまう。
「やってくれるわね! ベティ!」
「いやでも……」
「ベティ! 貴女が守るのよ! 世界とハーレムを!」
「それ……は……」
「約束したでしょ! 私に見せて頂戴! 最高の続編を! 最高のハッピーエンドを!」
「わ、わかったわよ……」
「よし♪ 話は決まりよ♪ 早速作戦を立てましょう♪」
……もう。




