04-18.最強の姉
黒き稲妻が、氷の洞窟を駆け巡る。
私とメルメルの合わせ技だ。必中必殺。これまで幾多の魔物たちを屠ってきた大技だ。洞窟全体を氷漬けにし、敵の足を止め、強大な雷が内部の全てを焼き尽くす。
「「やったか!?」」
もうもうと立ち込める水蒸気。雷の熱で溶かされた氷が、一瞬のうちに白い靄へと代わり、洞窟内を埋め尽くす。
「ぬるい」
「「なっ!?」」
ぬるりと影が現れた。
「きゃふんっ!?」
今のはメルメル!? くっ!! ダーリャはどこに!?
「ここまでです」
気付くと後ろから肩に手を置かれていた。
「ま、参りました……」
「なんですか今の愚かな技は」
ひどい……。二人で頑張ったのに……。
「雷魔術の良き点は、その速さです。だというのになんですか。氷で足を奪おうなどと。何処に攻撃するつもりなのか先に伝えているようなものではありませんか」
いや……あの……洞窟全体を……埋め尽くして……あれ全体攻撃なんですけど……。ダーリャさんはどのように避けたのでしょうか……。
「そもそも氷は雷を通しません。純水であれば尚の事です」
えぇ……なんでダーリャが知ってるの……この世界まだ電気通ってないのに……まさか調べたの? 実験して? 私のために? 雷魔術の活用方法を見つけようとしてくれたの?
「結果、無駄に自分たちの視界だけを塞いで隙を晒したわけです」
なんでダーリャは見えてるの……。
「現状で貴女たちが組む意味はありません。ご理解いただけましたか?」
もしかして私がメルメルと出ていったことを怒っていらっしゃるのでしょうか?
「おや。これはこれは」
「きゅぅ~~~……」
むごい……。
気を失った妹の左手薬指から指輪を抜き取るなんて……。
しかもそれを自分の指に嵌め直すなんて……。
「ふむ。なるほど」
何かに納得したかと思いきや、今度は自分の指からも外して、私の左手薬指に嵌め直した。
「この指輪はベルベル様が持つべきものかと」
あ、はい……そうします……。
「愚妹。起きなさい。いつまで寝ているのですか。皆と合流しますよ」
ゲシゲシと妹の頭を蹴りつける容赦の無い姉。
やっぱり怒ってる……先に相談しておくべきだった……。
「ダーリャ……あの……」
「しかたありませんね」
目覚めないメルメルを担ぎ上げるダーリャ。
「なにか?」
「……いえ。行きましょう」
皆の前で謝ろう。勝手をしたことは。
「こちらへ」
「え? 外じゃなくて?」
何故かダーリャは洞窟の奥へと向かっていく。
皆がこの先にいるの? なんで?
そもそも私たちだって奥から来たのよ?
いつの間に?
「詳しくはまた後ほど」
あ、はい……。
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「「ごめんなさい!!」」
目覚めたメルメルと二人で頭を下げる。
皆は本当に洞窟の奥で待っていた。それも私たちの知らない通路の先で。虱潰しに探索した筈だったのに、実は見落としがあったらしい。そんなことってあり得るかしら? もしかしてここも隠し部屋?
「ベティのバカ」
いけない。今はこっちに集中しないと。
「ごめんなさい、フララ」
「なんで言わなかったの?」
「伝えてしまったら、皆もお父様たちに嘘を付くことになるもの」
「釣り合ってないよ」
「……そうね。浅はかだったわ」
皆の心配だって軽んじていいものではなかったのにね。勝手に天秤にかけて。勝手に選択して。浅慮としか言いようがないわよね。本当にごめんなさい。
「本当に反省してよね」
「はい。もう二度と黙って居なくなったりしません」
「だそうだけど。ダーちゃんも怒りを鎮めてくれるかな? 正直おっかないの。ダーちゃんずっと怒ってるんだもん」
フララが私を盾にするように、背後へと回り込んだ。
「ベルベル様」
「はい」
「ご無事で何よりです」
「……うん。ご心配をお掛けしました」
「二度目は許しません」
「約束するわ」
「黙っていなくなった件についてはここまでです」
まだあるのね……。
「愚妹に指輪を贈った件についてご説明を」
全部見てたんでしょ……。
「先にハッキリと伝えておきます」
やばい……キレてる……。
「浮気は許しません」
「異議あり!!」
私を盾にしたフララが力強く声を上げた。
「フララは認めましょう。他はダメです」
「異議なし!!」
おいこら。
コソコソと私の後ろから抜け出し、大回りでダーリャの背後につくフララ。なんて姑息なコウモリムーブ。これが元主人公の姿とは……。
「あっ!? 指輪が!?」
メルメルったら今気づいたの? まあついさっき貰ったばかりだもんね。直後に気絶した上に、頭ゲシゲシされてたもんね。記憶くらい飛ぶわよね。
「なんでご主人様が!?」
「このダーリャが戦利品として回収し、改めてベルベル様へ贈らせていただきました」
「略奪愛!?」
「奪おうとしたのは貴女の方でしょう! この泥棒猫!!」
そして始まる二回戦。
「ぐべ……」
潰れたカエルのような呻きと共に、再びメルメルが地に伏した。一瞬だった。
「身の程を弁えなさい。愚妹」
「まだ……ぁ……!」
あ、今度は気絶してなかった。
「私は……勝つ……勝ちます……勝って……お姉ちゃんも……手に入れるんです……!!」
おぉ。立った。
ついでに初心も思い出してしまった。折角ここ数日は私のことだけを見るようになっていたのに。コイツも大概ね。
「ダーリャさん! そこまでよ! メル先の体力は残り一よ! これ以上は死んでしまうわ!」
ステータス画面を開いたサツキさんが間に入る。
「ヒール!!」
慌てて呪文を叫ぶリリィ。
どうやら聖女の力を使えるようになったらしい。
メルメルの身体を眩い光が包みこんだ。
「これでまた躾けられますね」
パキポキと指を鳴らすダーリャ。容赦ねぇ……。
「上等!!」
やる気満々なメルメル。命知らずにも程がある……。
「馬鹿言ってんじゃないわよ! ここをどこだと思ってるのよ!」
再び間に割って入るサツキさん。
私もね。ずっと気になってはいたのよ。そういう空気じゃなかったから後回しにしていたけども。
なんか天井が鼓動するみたいに動いているんですもの。しかも中心部だけちょっと黄色いし。どこかで見たことのある黄色さだ。
あれは何? でっかい卵? 蛹? あそこから何か出てくるの? もう孵る寸前じゃない? 騒いでていいの? もしかして出てきた直後に倒す感じ?
……もしかしなくても……魔王?




