04-10.ハピエン至上主義
「この流れを仕組んだのは誰かしら」
間違いなく女神様ではない。女神様はハピエン至上主義な苦労人なのだと想像がつく。幾度もやり直しを続けているのは間違いなく女神様だ。そういう意味では私たちも盤上の駒に過ぎない筈だ。悪い意味ではなく立ち位置としての話だ。
つまり私たちの中に黒幕はいない。もっと超常の存在だ。
「魔王ではありませんか? 女神が軽く屠ることの叶わぬ相手です。即ち女神に拮抗し得る力を持っているのです」
封印されている筈の魔王が暗躍しているのかしら。力は今も漏れ出していて、人の心の闇に付け込んで唆すのかしら。そうやってリリアーナはより深く追い詰められたのかしら。
「ありがちな話ね」
既に魔物たちの増加と凶暴化は始まっている。間違いなく魔王の力は影響を及ぼし始めている。
これはそう。ある意味王道とも言える流れだ。封印から漏れ出した何かが封印を解けと唆すなんて。
「この手の事件を解決するには、誰かが囮になるのが定石よね」
「意図的に魔王の興味を引いて自ら使徒になるのね」
そうそう。「お前は誘い込まれたんだ!」ってやつ。最後に魔王が「なんだと~!」って悔しそうに消えていくやつ。
ただそういうのって、仲間にも悟らせないものなのよね。敵を騙すには先ず味方からっていうかさ。皆も承知の上だと魔王も気付いちゃうしさ。
「興味深い話です」
「絶対ダメだからね、ダーリャ。自分がその囮を引き受けようだなんて決して考えてはダメよ」
「ですがベルベル様。もし仮に犠牲者の一人でも出してしまえば、女神がその結果を嫌がって全てひっくり返してしまうのですよね? 私たちにとっては必要な犠牲だったと納得の上であったとしてもです」
「だから要らぬ心配だとでも?」
「はい。そして同時に、女神を安易に味方と捉えるのは危険かと」
それは……そうだけど……。
「仮に魔王以外の仕掛け人がいるとすればどうでしょう」
ダーリャがあからさまに話を切り替えた。
「魔王以外の仕掛け人……」
「女神はゲームのプレイヤーに過ぎないわけですよね? 何もかもが思い通りになるゲームマスターではなく」
……そっか。女神様はリセットボタンを押してるだけだ。タイトルに戻って新しくゲームを始めているだけだ。新しく登場人物を追加することくらいは出来ても、運命を直接的に弄れるわけじゃない。
「真の黒幕はこの世界を作った別の何か……」
この世界を作った創造主。私たちの世界にゲームを販売している誰かと同じなのかしら?
「女神がゲームにしたんじゃない? 自分の世界をどうやってもハッピーエンドに出来なかったから、別の世界で考察を広げてもらうために。それで何か気付きを得た子をこっちに転生させたのかもしれないわ」
そういうパターンもあるか……。
「黒幕は運命そのものだとでも?」
「そういうどうにもならない仕組みを打ち破るために女神が奮闘しているのかも」
「だとしたら何故? 人は死ぬものよ? 別に魔王の脅威に限らなくたって、毎日何処かで誰かが亡くなっているわ」
「魔王の暗躍が問題なんじゃない? 例えば一年間で世界の半分の人口が死滅するなら、それは見過ごせない犠牲なんじゃない?」
……なるほど。誰か一人でも死なせないためっていうのは勘違いなのかもしれないわね。多少の犠牲は女神様も許容しているのかも。問題は規模の方なのかも。
「或いは魔王の事件も通過点に過ぎないのかも。その先のもっと大きな脅威を迎え撃つには、犠牲を抑えないといけないのかも」
「流石にそこまで考え始めるとキリがないわ」
「そうね。脱線してしまうわね」
フォルトマグナ王国の国力を落としすぎるのも問題なのかもって観点は重要だと思うけどね。そういうマクロな視点も持つべきなのよね。真実を探るためには。
「魔王の復活と討伐。これはセットで考えるべきね」
「敢えて復活を遅れさせるのは如何でしょう」
「そうね。そうすれば暗躍は始まらない筈よね」
もちろん上手くいけばの話だけど。
望み薄ね。やっぱ運命の強制力は働きそうな気もするし。
「或いは一度解いた上で掛け直し、一年後に改めての開封と討伐を試みるのです」
「復活と討伐だけが重要ならそれで上手くいきそうね」
「暗躍も運命づけられているなら意味がありませんか」
結局はそこなのよね。
「運命で決まっているのはどこかしら? 魔王の暗躍? 人類の犠牲? どうやったら世界を騙せると思う? 魔王かその意志を継ぐ者が一年間自由に過ごせればそれでいいの? 人類が一定数減ることは既に決まっている未来なの? そこも切り分けていけば何か糸口が掴めるかもしれないわね」
問題は私たちに許されるのが、この一周だけだということだ。例え女神が世界をリセットしてやりなおしても、その時に私たちの記憶までもが引き継がれるわけじゃない。
私たちには運命の内容を精査する方法が存在しない。だから何か考え方が間違っている気がする。結局は持てる手札で勝負するしかないんだもの。無い物ねだりを続けても意味はない。程々のとこで結論を出すしかないのだ。私たちは。
「女神と接触する方法を考えましょう。取り敢えず教会に掛け合って、神像の前で祈りでも捧げさせてもらいましょう」
「そうね。それが一番手っ取り早いわね。何か知っているとしたら女神だけだものね」
今日の結論としてはこんなところかしら。
もちろん思考を止めるつもりはないけど、試せることは何でも試していかないとだわ。これで答えが得られるなら万々歳だもの。
「聖女の教育を急ぎましょう。聖女本人が力をつければ、女神と接触出来る可能性も上がるかもしれないわ」
「夏休みのやることは決まったね♪」
そうね、フララ。貴女の力も頼りにしているわ。私の精神安定剤としてもね。
「教会通いと夏合宿ですね♪」
頼むわよ、ダーリャ。リリィだけでなく、皆の教育も任せたわ。
「勤勉な夏休みですね♪ 蕁麻疹が出そうです♪」
それってトラウマ? メルメルだって相当な努力家でしょうに。ダーリャのシゴキがよっぽど怖いのかしら?
「ボク……頑張る。頑張るよ。使命のこととかよくわかんないけど……だから……ベルベル様のために! 頑張る!」
あら♪ うふふ♪ ありがとう、リリィ♪ 光栄だわ♪
「リリィ……そうだね。わたしもです! ベルベル様!」
キリエもありがとう♪ 期待しているわ♪
「あら……? これって私も魔王討伐パーティーに加わる感じなのかしら? こちとらしがない服屋のオバちゃんよ? モブキャラよ? 場違いじゃないかしら?」
サツキさんは今更何を言ってるのよ。だいたい年齢だってダーリャとはそう変わらないじゃない。オバちゃんだなんてやめてちょうだい。まだまだイケてるわよ♪ 貴重な大人枠としても活躍してくださいな♪
「今後も定期的に会議を開きましょう。残り約一年半。それまで出来ることを精一杯やりましょう。魔王の暗躍が避けられないのなら、一年間全力で世界中の人々を守りましょう」
脳筋的かもしれないけど、そんな解決方法だってなくもない。私たちが強くなって魔物たちを殲滅し続ければ、一人でも多くの人々を救えるかもしれない。そうすれば女神様の求める合格ラインに届くかもしれない。
まだ絶望するには早すぎる。
悩んで足を止めるのも論外だ。
私たちに出来ることは幾らでもある。
まだ足りないというなら力を増やそう。
私たちだけで成せないというなら仲間を増やそう。
あと一年半。そしてその後の一年間。たったそれだけ。残り二年半を戦い抜けば長年頭を悩ませていた問題が片付くのだ。ゴールはもうすぐ。ここから全力疾走で駆け抜けよう。
「やるわよ!! みんな!!!」
「「「「「「はい!!」」」」」」
大丈夫。皆と一緒なら必ずやり遂げられる。
掴み取りましょう! 最高のハッピーエンドを!!




