01-02.メイド少女は忠義者
ダーリャをどうにかこうにか説き伏せた。
二人だけの秘密だからと必死に懇願しても立ち止まってくれず、私はやむなく駄々を捏ねて泣き叫んだ。
私の泣き声を聞いて即座に集まってくる侍従たち。
神託の件を言いふらすわけにもいかず、必死に言い訳を続けるダーリャ。その隙に逃げ出す私。
気付いて追いかけるダーリャ。私たちを纏めて追ってくる侍従たち。
私はダーリャを物陰に引っ張り込んで、恩着せがましく道理を説いた。
「女神様は誰にも内緒でと言ったのよ! お父様にだって言っちゃダメなの! わかったわね!!」
「で、ですが!!」
「貴女は私の従者よ! 専属よ! 誰より私を信じずどうするの!! これから十五年! 私のために生きなさい! 私を死なせないためにダーリャが尽力なさい! 誰にも言わずによ! 代わりに私も貴女を守るわ! わかったわね!!」
「っ!! はい!! この身に代えても! 必ずや!!」
よし。だいぶ重いものを押し付けてしまった気もするけれど、一先ず納得はしてもらえたようだ。
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「状況を整理しましょう」
「はい! ベルベル様!」
ベルベ……ま、まあいいわ。
気を取り直して。
ここは『天啓のフォルトマグナ』の世界だ。
フォルトマグナは私が前世で好きだった百合ゲーだ。
『神より齎されし大いなる宿命』なんて大仰な名前のゲームなだけあって、この世界では神託がとても重大な意味を持つ。
主人公である『聖女』も、女神から神託を賜ったことで、魔王を倒す宿命を背負わされるのだ。
それから一応は成人向けゲームなので、登場人物は全員十八歳以上だ。つまり聖女や悪役令嬢が学園に入学するのも十八歳になってからだ。
「え? 違いますよ?」
なんですと!?
「学園……高等部の入学は十五歳です。十八歳は卒業時の年齢です」
あ~……いや、まあ……そうなるよね~……。
でないと二十歳超えてミニスカ制服着るはめになるし……。
そういう問題じゃない? まあいいや。
「良かったわね。刑期が三年短くなったわよ」
「刑期? ダーリャは何の罪を犯したのですか?」
笑って驚いた罪かしら?
結局信じてくれたからノーカンにしてあげるわ。寛大なご主人様に感謝することね♪
「冗談よ。ともかく魔王を倒すまでの共犯関係よ。それが過ぎたら解放してあげるわ」
「解放? ……えぇ!? もしかしてダーリャ捨てられちゃうんですかぁ!? 用が済んだらポイですかぁ!?」
「だってほら。私は魔王を復活させるのよ。きっとこの国には居られないわ」
「だからなんですかぁ!? どこへでもお供します!! ダーリャは最初からそのつもりです!!」
あらま。
「素晴らしい忠誠心ね。ちょっと感動したわ」
九歳児のチビッコメイドが中々言うじゃない。
「忠誠心なんかじゃありません! 愛です! LOVEです!」
手でハートマークを作って押し付けてくるポニテメイド。
「ねえ、ダーリャ。主に懸想する従者は失格だと思うの」
「『けそう』ってなんですか?」
「恋心を向けることよ」
「はぇ~。ベルベル様は難しい言葉をご存知なのですね」
あなたも九歳児にしてはやるじゃない。侯爵家のメイドともなればしっかりと教育されているものなのね。
「話が脱線してきたわ」
「聖女が神託を受け取って魔王を倒すというお話でしたね」
よしよし。ちゃんと話の本筋は理解しているわね。
「続けましょう」
「はい!」
あらすじとしてはそんなところだ。詳しい話は追々ね。
問題は私こと『ベルベティア・フォン・アルレティア』についてだ。
彼女は文字通りの意味での悪役令嬢だ。
別に王子様と婚約者なわけでもない。というかこのゲームの舞台となる学園に男子は登場しない。何故なら百合ゲーだからだ。登場人物は全員女の子の女子校だ。
「そんな学園あったかなぁ~……ちなみになんという名前の学園ですか?」
「王立……」
「あ、共学です」
なん……だと……。
「王立は一つしかありませんから。間違いありません」
……いやいやいやいや。
百歩譲ってよ? 年齢は仕方ないにしてもよ?
え? マジで言ってんの? 共学? 男子もいるの?
ゲーム世界と全然違うじゃない……。
いやでも現実的に考えたらあり得ないのかしら……。
う~ん……変ねぇ……。
まさか、今から十年くらいしたら突然女子校になるってわけでもあるまいし……。
だ、ダメだ……この件も後回しだ。考えても意味無いし。
違いがあるということだけ留意しよう。
「話を進めましょう」
「ベルベル様は王立学園において悪の華として咲き誇られるのですね♪」
あれ? 話聞いてなかった?
突然おバカになったわね。というか夢見る乙女みたいに恍惚としちゃってるわ。
「とにかくね。私は二年生の誕生日に魔王を復活させて中退するの」
実際には失踪だけどね。指名手配もされちゃうし、作中で明言されたわけでもないけど、中退は確実だ。
「勿体ないですね。ベルベル様は冬の終わりが誕生日なので残り一年で卒業じゃないですか」
そこ?
「それから一年は魔王の片腕として暗躍するの」
「よかった。魔王を復活させるのにベルベル様が我が身を生贄にするとかって話ではないんですね」
本当に賢いわね、この子。なんだかんだちゃんと付いてきてくれてるのよね。そもそも信じてすらもえらないと思っていたのに。
「私たちは二年目の時点で魔王を倒します」
「可能なのですか?」
「十年以上あるしなんとかならないかしら」
「やりましょう!」
前向きで結構。
「魔王を倒すには聖女の力が必要よ」
「聖女を探して今のうちから育てるのですね」
「そう。まさにそれよ。今ならまだ平民だから拾い上げるのも難しくはないわ」
たしか今頃は王都の孤児院にいる筈だ。孤児院の名前はわからないけれど、スチルで見た風景を探せばなんとかなるだろう。きっとたぶん。
「ざっくり状況と方針はそんなところね。質問は?」
「はい!」
元気いっぱい手を上げてくれました。
「どうぞ、ダーリャ」
「今の話って結局神託じゃないんですか?」
「違うわ。前世の記憶よ。正確にはその中で見た創作物よ」
「つまり合法◯リ!?」
「……まさか貴女まで転生者だとか言わないでしょうね」
「え? 前世の記憶なんてありませんよ?」
……本当かしら?
「それでですね。神託でないなら、尚の事旦那様に伝えて協力を仰ぐべきかと。十数年後と言わず、今すぐ封印を解いて打ち倒せば問題は片付きますよね?」
「そう簡単に信じてもらえる筈ないじゃない」
「信頼を勝ち取る方法はいくらでもあるかと」
……そりゃあ、学園内に隠された特別な装備アイテムだとかは把握しているけれど。
「それこそ神託のフリをすればいいのです」
「神託を下されたことそのものは教会が察してしまうのでしょう?」
「教会の不手際と主張しましょう」
「敵を増やす選択肢は無しよ」
「そこまでの話ではありません。誰にだって失敗はあり得ることです。ダーリャも先日十個めの壺を割ったばかりです」
貴女はもう少し反省なさい。
「とにかくですね。十年もコツコツ準備をするより、手っ取り早く動く方法もあるということです」
主張は尤もね。
「けど言ったでしょ。魔王を倒すには聖女の力が必要よ」
「聖女は国に育ててもらいましょう。魔王復活も国に任せるのです。討伐がいつになるにせよ、それでお嬢様はお役目から解放されるのです」
そうきたかぁ……。
私はこの子を舐めていたようね。
「ありがとう、ダーリャ。なら先ずは貴女に相談させてもらうことにするわ。もう少し細かく話し合いましょう」
まだまだ伝えてないことだっていっぱいあるし。なんなら魔王の体力値だとか弱点だとか、諸々具体的なことまで知ってるし。
「はい♪ どんどん知ってること吐いちゃってください♪ ダーリャに全てお任せを♪」
「けど本当に良いの? 私が侯爵家を出奔すれば、ダーリャと結ばれる未来だってあるかもしれないのよ?」
ここ百合ゲー世界だし。ダーリャが私にホの字なのはもうわかったし。
「はっ!? その手がありましたか!?」
冗談よ。冗談。……冗談だからね?




