01-01.悪役令嬢はほっとけない
転生に気づいたのは五歳の誕生日だ。
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「お嬢様!? お嬢様!?」
めい……ど……。
……何故……メイド……幼女? ここは……医務室?
私……トラックに跳ねられて……。
……ここ病院じゃないの?
「お嬢様! ベルベティア様ぁ!!」
ベルベティア……聞き覚えが……ある……。
「うっ!」
「お嬢様!!」
……頭が痛い……割れるように……痛い。
「ゆらさ……ない……で……」
「はっ!? 申し訳ございません!! お嬢様!!」
「こえ……おおき……ダリ……」
ダリ? ……ダリヤ……ダーリャ……私の側付き……。
……思い出してきた。
ここは……アルレティア侯爵家。
ベルベティア・フォン・アルレティアの生まれた家。
私のよく知る百合ゲーの悪役令嬢。その実家。
そして私はベルベティア。悪役令嬢本人……。
そっか。前世の私は死んじゃったんだ。
あれが所謂転生トラック。私をこの世界に導いてくれた。
けど……。
なんで……。
よりによって……。
悪役令嬢!! なのよ~~~~~~!!!!
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異世界転生。私もそれには憧れていた。憧れ続けていた。
悪役令嬢も良しとしよう。悪くない。最近はそういうのも流行りだ。ばっちぐーだ。
けど。しかし。だとしても。
『ベルベティア・フォン・アルレティア』は困る。困ってしまう。困るに決まってる。
彼女は大罪人だ。そうなる宿命を背負わされている。
それも、そんじゃそこらの悪役令嬢とはわけが違う。というか言葉の意味が違う。ガチで人類の敵なのだ。本当の意味での悪役だ。なにせ人類を裏切って魔王を蘇らせてしまうのだから。
しかし宿命から逃げるわけにはいかない。彼女が魔王を蘇らせなければこの世界の人々が困ることになる。
私が困るか。皆が困るか。そんなの選ぶまでもない。
私は魔王を復活させなければならない。その先にしか世界平和は訪れない。それがこの世界における私の宿命だ。
「……お嬢様? ……お加減如何ですか?」
なんでこのメイドちゃんは怯えているのかしら。
名前はダーリャ。歳は九つ。ちっちゃ可愛い。ポニーテールも似合ってる♪
「ありがとう、ダーリャ」
彼女から差し出されたコップを受け取った。
私の手も小さい。そっか。私今五歳か。しかも今日が誕生日。うんうん。ベルベティアとしての記憶もバッチリね。
私は転んで頭を打った。それがキッカケで前世の記憶を思い出したのだ。
「はわわ~!?」
あ~……そういう……。
「これまでごめんなさい、ダーリャ。きっと皆に意地悪ばかりしていたから罰が当たったのね。心を入れ替えます」
「ち、違います!! お嬢様は!」
「母が亡くなったから。私はそれからずっと貴女たちに当たり続けてきたわ。この一年ずっとよ。よく我慢してくれたわね。ダーリャ。ありがとう。見捨てないでいてくれて」
「ちがうのですぅ~~~!!」
わんわんと泣き出してしまった。私にしがみついて。
「お嬢様は~! 全然我儘なんかじゃないんです~!!」
「そうね。我ながら賢い方だとは思っているわ」
「そうですよ~! 普通はもっとぉ~!」
やらかしたかしら? 五歳児っぽくなかったわね。今のやり取り。
「よしよし。良い子よ、ダーリャ」
「良い子はお嬢様の方ですぅ~~~!!」
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誕生日はベッドの上で過ぎていった。
父は一度も現れなかった。
母が亡くなってから段々と疎遠になっていった。
一年前だ。このアルレティア侯爵家が淀み始めたのは。
母は明るい人だった。
母が居た頃は皆が明るかった。笑い合っていた。
ベルベティアが荒れ始めたのは父がケアを怠ったからだ。彼が娘から目を背けたからだ。
ゲームの通りに進めるならこのまま放っておくべきだ。
妻を失ったアルフレート・フォン・アルレティア侯爵は、その悲しみをキッカケに道を踏み外していく。
ただの貴族令嬢にすぎないベルベティアが魔王復活なんて大それた成果に行き着いたのは、彼の協力あってのものだ。
私がゲームの歴史通りに魔王を蘇らせるのならば、彼の闇堕ちは必要不可欠だ。
……しかし。……今ならまだ。
彼を立ち直らせることだって出来るだろう。
彼を救えるのは娘である私だけだ。
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「お父様♪」
「……」
「お父様♪ お父様♪」
「……」
「お父様お父様お父様♪♪」
「……」
「無視はないでしょ!!」
「っ!?」
「今日は娘の誕生日よ!! 何か言う事はないの!?」
「……う、うむ」
「お父様!!」
「お、おめでとう。ベル」
「はい♪ ありがとうございます♪ お父様♪」
「う、うむ……」
なんだ。意外とチョロいじゃん。
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私は積極的に話しかけていった。
父だけじゃない。私が意地悪して遠ざけたメイドたち。空気に当てられて沈み込んでいた従者たち。
皆に笑いかけて、謝って、仲直りを申し出た。
次第に侯爵邸は変わっていった。
私は亡き母のようだと褒められた。
中には私の奮闘に涙する者もいた。
父が一番謝ってくれた。笑顔を浮かべるようになった。
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「本当にこれで良かったのかしら」
「なんの話ですか? お嬢様?」
「ナイショ」
話しても信じて貰えないだろうし。
「え~♪ ダーリャにだけ教えてくださいよ~♪」
気安いわね。この幼女メイド。ほっぺツンツンするのはおやめなさい。私はともかく、メイド長にでも見られたらまた叱られるわよ。
「ちゃんと秘密にしますからぁ~♪ 二人だけの~ひ・み・つ♪ です♪ きゃっ♪ 言っちゃった♪」
なんか……視線が……。
……そうだ。ここ百合ゲーの世界だった。
いやだからって……こちとら五歳児ぞ?
ダーリャは九歳だけど……だとしてもよ?
……いや。きっと気の所為だ。ダーリャもよくわかっていないのだろう。その筈だ。
「笑わない?」
「笑いません! 驚きもしません!!」
「驚いたら一週間側付き外すからね」
「そんなぁ!?」
「じゃあ言うよ」
「待ってください!!」
よし。諦めてくれたわね。
「すぅ~~~~はぁ~~~~よし!! はい! 心の準備が出来ました!!」
そうきたか。
ならば遠慮なく。ダーリャが協力者になってくれるなら心強いし。
「ダーリャ。私はね。魔王を復活させたいの」
「……?」
コテンと首をかしげた。可愛い。
「魔王。復活」
「???」
「え? もしかしてダーリャ、魔王を知らないの?」
「知っていますが? それが?」
「だから復活させたいんだってば」
「……え?」
ほら信じない。
「復活。させたいの」
「……またまた~♪」
「あ、今笑った」
「ちがっ!? ズルいです! お嬢様!! そういうことだったんですね!?」
「今驚いた」
「違いますぅ~! 驚いてません! 怒ってるんです!」
笑いも驚きもしないとはなんだったのか。
「私は本気よ。本気で魔王を復活させたいの」
「尚の事です! 冗談でもそんな事言っちゃいけません!」
なんか段々腹立ってきたわね。
「もうすぐね。この国に聖女が現れるの。聖女に魔王を倒させないといけないの。そうしないとこの国は滅んでしまうの。いまからだいたい十五年後よ。その年に倒さないと、永遠に魔王を倒せなくなってしまうの」
「なんですかそれ!? お告げですか!?」
「うん。そう。神様に頼まれたの。魔王を復活させて、聖女と世界のために死んでくれって」
「っ!? 行きましょう!! お嬢様!!」
突然形相を変えて立ち上がり、私の手を引っ張り出した。
「行く? 何処へ?」
「旦那様の所へです! 神託を伝えに行くのです!」
「待ってダーリャ。そんな事をしたら私は本当に死んでしまうわ」
今の話をそのまま真に受けられても困る。魔王復活を目指すからって、ゲームの通りに死んでしまうつもりは無いんだもの。
「させないためです! 神託があったのなら教会が気付かない筈はありません! 必ず神託の内容を聞きに訪れます! お嬢様はまだ知らないかもしれませんがそういう仕組があるのです! 旦那様に相談しましょう!」
あうち……。
「ダーリャ! 待って! ダーリャ! ごめんなさい! 嘘なの! 神託なんてなかったの! ダーリャを驚かせようと思って!」
「お嬢様が嘘をついていないことくらいわかります!!」
「嘘つき~! さっき信じてくれなかったくせに~!」
「いいから来てくださいお嬢様!」
「ダメだってばぁ~!」




