03-01.入学直前のイレギュラー
「リリアーナ・シフォン?」
「はい。つい先日シフォン子爵に拾われた平民の少女です。不確定情報ではありますが、どうも神託と関係しているようでして。教会も何やら慌ただしく動いています」
ダーリャが珍しく真面目な報告を上げてきた。
もう直学園に入学するというこのタイミングだ。緊急性の高い案件であるのは確かだ。
「私知らないわ。『天啓のフォルトマグナ』にフローラの姉妹は居なかった筈よ」
そもそも、子に恵まれなかった子爵が孤児院から拾い上げたのがゲーム本編のフローラだ。
私がフローラを横取りしたことで、子爵は別の少女を後継者として拾い上げたのだろう。
そこまではわからなくもない。むしろ想定して然るべきだった。慌てるようなことでもない筈だった。
しかし神託まで関わっているとなると気にもなる。
まさかとは思うけど、聖女の役割までそのリリアーナ嬢に譲られてしまったのだろうか。それは困る。大いに困る。魔王を倒すには聖女の力が必要だ。フララにそれが宿ると思ったから虐待同然の教育で力を付けさせたのだ。全てが無駄になるだなんて今更言われても困ってしまう。
「フララに妹が出来たの?」
「あなたはシフォン家の子じゃないでしょ」
「あ、そうだった」
呑気ね~。
「わかってるの? フララ。私たちピンチよ。最悪聖女の力無しで魔王討伐までやらなくちゃなんないのよ」
「任せて♪」
本当に倒せてしまいそうだ。今のフララなら。
「ダーリャ。リリアーナと教会と王家の動きを調べなさい。ただし派閥の者を使って間接的によ」
「はい。ベルベル様」
ダーリャなら分かっているでしょうけれど、もしこれが仮に女神の積極的な介入によって為されたことであるなら、私たちは警戒されている可能性が高い。
最悪は悪役令嬢ベルベティアの一味として、一緒くたに扱われるだろう。
もちろんそれ自体は事実だけど、女神が私たちをあくまで悪役として扱うと言うなら呑気に構えてもいられない。
女神が世界の敵だと言い張れば、私たちがどれだけ善行を積み重ねても黒になってしまう。ここはそういう世界だ。神託は絶対だ。
今の時点で下手に刺激するべきじゃない。さりとて黙して待ってもいられない。ならば間接的にでも情報を集めるしかない。今できるのはそれくらいだ。
「あと少しだったのに。あと少しでフララが聖女に選ばれる筈だったのに」
「まだそうならないと決まったわけでもないんでしょ?」
「……ええそうね。そうよね」
神託の具体的なタイミングまでは知らないし。そろそろだとは思っていたけど、今回教会が動いている理由が聖女の指名によるものだとまでは決まっていない。
このタイミングで養子を迎えた子爵の目的は、学園に娘を通わせて私やピース殿下に近づけさせることかしら。わざわざ殿下の入学に合わせて拾ったのだからそういうことよね。子爵家が届くとは到底思えないけれど、宝くじ感覚で放り込んでおくことくらいは出来るわけだし。
だとするなら待っていても向こうから声を掛けてくれるかもしれないわね。仲間に加える……というか、聖女の魔王討伐パーティーに加わる道もあるのかもしれない。
それとも女神は私たちを排除しようとするかしら。不確定要素の大きいイレギュラーな駒は盤上から取り除こうとするかしら。
そもそも女神が私をこの世界に転生させたわけではないのかしら?
ダメね。気になることが多すぎるわ。それも答えを得るのが難しい問題ばかり。
女神と話す方法も探しておくべきだったわね。いずれ神託を告げに向こうから接触してくるものと思っていたから、備えを怠ってしまった。反省しよう。
「ねえねえ。あのさ」
「なに? フララ。遠慮せず言ってみなさい」
「うん。フララの代わりがリリアーナちゃん? ならさ。ベティの代わりもいるのかな?」
「……あり得るわね」
そうよね。私を盤面から排除するなら必要よね。
しかし心当たりがない。魔王復活に手が届きそうな家柄で、尚且つ心に闇を抱えた者でなければ、この世界の悪役令嬢は務まらないだろう。
しかもその闇とは世界を滅ぼす程の強大なものだ。ゲーム本編のベルベティアだって、最初からそこまで堕ちていたわけでもない。
今から二年後、二年生の冬の終わり頃に魔王は復活する。それまでに誰かの闇を育てて破滅へと向かわせる。
女神はそんな悪辣な策を仕込んでいるのだろうか。
「フララも気をつけなさい。女神が味方とは限らないわ」
「らじゃ♪」
私もお父様の様子には気を配っておこう。今のところ異変は感じないけど、まだXデーまで二年もあるのだから。
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「報告します」
ダーリャが派閥の子たちから情報を集めてきてくれた。
ピース殿下の側付きたちも含む私たちのグループは、表面上、第一王子派閥に属する勢力として扱われている。
しかしてその実態は、単なる私のお友達グループだ。
だからってそんな風に公言してしまうと様々な問題も引き寄せるのは目に見えている。国家転覆を目論んでいるだなんて疑われるのも面倒だ。
そんなわけで、普段から「派閥の者」とか、「派閥の子たち」と呼んでいる。備えあれば憂いなしだ。
とはいったものの、この派閥の子たちはピース殿下の側近に限るわけでもない。中には教会勢力に属する子までもが含まれている。
「正式にリリアーナ・シフォンが聖女と認定されました。神託は既に下っています」
芳しくないわね。
「これ以外に神託は下されておりません。ひとまずベルベル様が女神から敵視されている線は薄いかと」
「そうね。この状況で口出ししてこないのなら強制的に排除される可能性は低そうね」
現状は敵とすら思われていないのだろう。たぶんそれが正解だ。
「しかしお役目から外れ続ければ」
「動くかしら。女神にとっては私たちなんて一言で排除出来る程度の障害だものね。今は泳がせておいて、都合が悪くなれば消すんでも構わないわよね」
「おそらくは」
神託一つで村八分に出来るのだ。しかも自分から魔王を蘇らせようとしてくれている。わざわざ誰かを駒に仕立て上げてまで悪役令嬢を他に用立てる必要もない。女神はそう判断したと見るべきかしらね。
てことはよ。
つまり私は虐めなくちゃならないのかしら。
新たな主人公に抜擢された「リリアーナ・シフォン」を。




