02-04.サバイバル生活:三日目・想定外
サバイバル生活、三日目。
なんだか今朝は調子が良い。
昨晩いっぱい食べたからかしら?
「今日も張り切っていきましょう」
「えいえいお~♪」
フララと並んで歩き出す。
本当は手でも繋ぎたいところだけど、これは私の修行だからと遠慮した。フララはあくまで補助役だ。甘えてばかりもいられない。今日は私が魔物を討つとしよう。
「大丈夫?」
「ええもちろん。けど索敵は任せたわ」
「任せて♪ 得意なの♪」
フララも今や立派な魔術師だ。聖女としての力に目覚めているわけでもないけれど、既に王宮魔術師にだって引けを取らない実力者だ。……と、ダーリャが随分前に言っていた。
それから何年か経っている。今の実力はどれ程のものなのだろうか。平均的な実力を知るのも大切だけど、上限を知っておくことも大切だ。フララの評価がわかれば、私の指標にもなるだろう。
「あれ?」
森に入った直後、首を傾げて立ち止まるフララ。
「どうしたの?」
「なんかね。いないの」
「魔物が?」
「うん。皆逃げちゃったみたい」
あらま。
「なんでかしら」
昨日のボア退治で? そこまで派手な騒ぎは起こしてないわよ?
それともフララの潜在魔力でも感じ取ったのかしら。
「今日は奥まで進んでみましょう。魔物が居ない理由も何かわかるかもしれないわ」
「だね♪ れっつご~♪」
フララは元気良く歩みを再開した。
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随分奥深くまで来た気がする。
流石にここらは魔物たちもいるようだ。
けれど問題が一つある。魔物たちが集まりすぎている。私の初戦としてはあまり望ましくない環境だ。
「代わろっか?」
「危なくなったらお願いね」
「はい♪ ベティ様♪」
今日最初の獲物は角の生えた兎だ。
名前はそのまんま「ホーンラビット」。コツさえ掴めば子供でも狩れる魔物だ。ダーリャから聞いたことがある。
とはいえ今回は追いかけ回すわけにもいかない。罠を準備してあるわけでもない。遠距離から一撃で仕留める必要がある。周囲を騒がさせることなく方を付ける必要がある。
「すぅ~~~~~はぁ~~~~~~……」
「がんばれ♪ がんばれ♪ ベティ様ぁ~♪」
「ひゃんっ!?」
ちょっとぉ!?
何を思ったのか、突然耳元で囁きかけてきたフララ。
しかもなんだかやたらと艶っぽかった。
驚きとこそばゆさで飛び上がった私は、茂みを大きく動かしてしまった。
当然ダダっと逃げ出す兎たち。
兎たちの暴走は狼たちに伝播し、猪、鹿、熊と、森の魔物たちに次々と伝わっていく。
森が途端に騒がしくなった。何か最近よほど怖いことでもあったのか、一斉に鳥たちは飛び立ち、地上の魔物たちは怯えて散っていった。
「いなくなっちゃった……あたっ!?」
呑気な声音に腹が立ち、フララの頬を摘み上げる。
「いひゃいよ~」
両手で摘んでグニグニとこね回す。
「なんてことしてくれたのよ~!?」
「ごめんなひゃ~い~……」
「もう! なんでもかんでもダーリャの真似すれば良いわけじゃないのよ!?」
「ひゃ~い~!」
もうもうもう!! 困ったちゃんめぇ~!!
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「むむむ。少々困りました。これでは修行になりませんね。昨晩は脅かし過ぎてしまったようです」
想定外の事態です。まさかこのようなことになるとは。
「はっ! そうです! 逃げられないようにしてあげればよいのです♪ 流石ダーリャ♪ 冴えてます♪」
しかしどうしたものでしょう。昨晩とは反対側で魔力放出を行えば手っ取り早いでしょうか。
いえ。どうせならもっと効率良く。
例えば島を壁で囲うとか。そう。確か東方に伝わる呪法には蠱毒と呼ばれるものがありましたね♪ あれを参考にしてみるのも良いでしょう♪
今更この島の魔物程度に遅れを取る二人ではありません♪ それに時間もありませんしね♪ 背中を押してあげましょう♪
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「なによ……これ……」
一旦探索を切り上げ、砂浜に戻ろうとした私たち。
しかしその行手を巨大な土壁が遮っていた。
「大変大変!? これずっと続いてるよ! たぶん島の反対側まで!!」
「なんですって!?」
フララが試しにストーンランスを放ってみるも、土壁には傷一つ付かなかった。
今も魔力が通っているのだ。人間業じゃない。けどもちろんこんなことをしでかす奴なんて一人しか知らない。絶対アイツしかいない。魔物の仕業だってあり得ない。
「ダーリャぁーーー!! 出てきなさい!!!」
呼んだ程度で来る奴じゃないとわかっている。それでも声を荒らげずにはいられない。
「ふざけんじゃないわよ!! あんた何考えてんのよ!?」
いくらダーリャがサディスト大魔神だからって、これは流石にやりすぎだ。
「ベティ様ぁ……」
「探しなさい! ダーリャを捕まえて解かせるわよ!」
「知ってるでしょ~……ダーちゃんは~……」
「何しろってのよ!? まさか全ての魔物を狩り尽くせとでも!?」
「う~んと……それの何がいけないの?」
「……え?」
「だってベティ様、魔王を倒すんでしょ? 魔物がこれ以上生まれないようにするために」
「……そう……ね」
「この島には人間が居ないから、人間に迷惑を掛ける魔物は居ないかもしれないけど、どのみち魔王を倒したら全部死んじゃうんでしょ?」
「それは……ええ……その筈よ……」
「魔物は普通の動物さんたちとは違うんだよ。ベティ様」
「……ええ。わかってるわ」
魔物は魔力を喰らう。だから人間だって餌にする。先程のホーンラビットだってそうだ。兎だからって人参だけ食べて生きていけるわけじゃない。他の魔物たちや魔力を持つ動植物を喰らって生きている。この島に人間が居ないから食べたことがないだけで、人里の近くに居たら人だって襲うのだ。
「この島の魔物たちは人を食べてないから食べられるけど、外の魔物たちは違うんだよ。ただ殺すためだけに殺すの。素材を使ったりはするけど、お肉は食べないの。食べる分だけ殺すなんて考え方は必要ないの。わかるよね?」
「……わかってる。わかってるってば」
「そっか。ならよかった。たぶんダーちゃんが言いたいのはそういうことだと思うから」
……私たちはここで殺戮を行うのね。魔物を全て狩らなきゃ出してもらえないのね。
……そんなのまるで蠱毒みたいだ。生きるために殺す。食べるためじゃなくて邪魔だから殺す。殺し尽くす。そして自分だけが生き残る。
私にそんな覚悟はない。魔王を殺すことの意味を私は理解しきれていなかったのかもしれない。
だからってこんなやり方……。
……後で絶対はっ倒す。覚えてなさい。ダーリャ。




