02-03.サバイバル生活:二日目・現状把握
サバイバル生活、二日目。
私たちは再び森の中へと踏み込んだ。
目的は魔物の討伐……もとい、食料と寝床の確保。
今日は落ち着いている。ガムシャラに突っ走るつもりはない。何より隣にフララが居てくれることが心強い。
フララは既にある程度の周辺情報を仕入れていた。
ここは海にポツンと浮かぶ島で、周囲には大陸の影も形も見当たらない。
人が住んでいる様子もなく、島の殆どが森で占められており、野生の動植物が憚ることなく楽園を築き上げている。
「目的は何かしら」
「う~ん……。生き残ることかなぁ……」
「だとするなら何日? 例えば一週間助けを借りることなく生き延びれば合格なのかしら? 途中で失敗した場合は? そこからまた一週間やり直しなのかしら?」
「ダーちゃんのことだから~」
「何度でもやり直させるわよね」
「だね~」
つまりクリア条件が期間の経過によるものではないとするなら、その条件を満たすまで何日だって帰れない。そういうことにもなるのだろう。
「もう一つ目標を追加しましょう」
「ゴールを探すんだね♪」
「ええそうよ。ダーリャは必ず手がかりを残しているわ」
無茶は言うけど、無理は言わない。それがダーリャだ。
「みつけだそ~♪」
「頼りにしてるわ、フララ」
「任せて♪ ベティ様♪」
本当に頼りになる相棒ね♪ 心強いわ♪
島の外周は既にフララが調査してくれた。何かあったのなら見逃す筈はない。つまり森の中に何かが隠されている。
私たちのようにランダムに放置された何かか、或いは森の中心にダーリャが拵えたトロフィーでも置かれているのか。
ダーリャのことだから素直に配置しているとは限らない。かといって、わかりやすい派手さを軽視するとも思えない。
ただ一つ言えるのは、ゴールまでの道のりが決して生易しいものではないということだ。
平気で命を奪うような罠だって仕掛けられていることだろう。どうせ自分が助けられるからと、相当な無茶でもやらかすだろう。
逆に言えば、私が命を投げ出すような真似をすれば間違いなく姿を表すのだ。ただしそれには、本当の覚悟を持たねばならない。私の命が失われるギリギリスレスレのタイミングでしか、ダーリャが姿を表すことはない。
昨日の断崖絶壁ダイブの時だってそうだ。私は本当にギリギリだった。あと一瞬遅ければ即死していた。けれどフララが間に合った。だからダーリャは手を出さなかった。
あの子の見極めは完璧だ。チキンレースで勝つのは不可能だ。本当にあの子を呼びたいのなら、心の底から死を受け入れる覚悟が必要だ。
「あ♪ 早速はっけ~ん♪」
「手がかりを?」
「ううん♪ 魔物だよ~♪」
「倒して」
「はい♪ ベティ様♪」
フララは即座に飛び出した。
「ボァ!?」
隠れてこちらの様子を伺っていたらしき猪が、いきなり突っ込んできた小さな少女に驚きを示す。
「せいっ!」
「ボギャッ!?」
いつの間に仕込んでいたのか、指で弾いた小石を猪の目に命中させ、隙を作ってから懐に飛び込み、至近距離からの石槍で腹下から突き上げた。
「ボ……」
ボアが叫びを上げる直前、もう一本の石槍が地面から生えて、顎下から脳天を貫いた。
「ブイ♪」
「ありがとう、フララ」
これで朝食にありつけるわね。
たった今フララが使ったのは、所謂【ストーンランス】と呼ばれる魔術だ。地面から円錐状の石柱を生やして対象を貫く魔術だ。
私とフララはダーリャのスパルタ教育で最初から無詠唱魔術を習得している。だからあまり魔術名や呪文に造詣が深いわけではない。もちろん私はゲーム知識としてなら魔術名とエフェクトも把握してるけどね。それでもこの世界本来のストーンランスと同じとは限らない。その辺の一般的なレベルって見たことが無いのよね。今度誰かに見せてもらえないかしら。勘違い英雄になって世間を騒がせても面倒だし。ダーリャは基準にならないし。
フララは二発のストーンランスでボアの命を刈り取った。一撃目は腹に。二撃目は頭に。
ボアは地上から生えた二本の岩柱に縫い付けられている。
二本の柱はボアを持ち上げて尚、びくともしていない。
見事な手際だ。戦い慣れている。私とは違って、既に実戦経験も豊富なのだろう。勉強になる。
「ベティ様、平気なんだね」
「なにが?」
「血を見るの。フララ最初は怖かったから」
ああ。そっか。
「そうね。自分でも不思議だわ」
フララに任せきりだったからかしら。そんなに衝撃も感じていないみたい。
「砂浜に戻りましょう」
「いいの?」
「ええ。お腹が空いたわ。今日はこれを解体して食料と敷物を確保するわよ。そのやり方も聞いているのでしょう? 私にも教えて頂戴。どうせならしっかり学んでおきたいの」
「はい! ベティ様!」
しかしどうしたものかしら。この巨体を持っていくのは一苦労だ。細かく切り分けて何往復もするしかなさそうだ。
だからって森の中で解体作業をするのはリスクが高すぎるわよね。魔物たちがどこから寄ってくるかもわからないんだし。切断も手短にやらないと……。
「そいや♪」
なんて考えていたら、フララが巨大な水球を作ってボアの巨体を包みこんだ。
そのまま水球の下半分を凍らせて、何の重さも感じさせずに歩き出した。
浮いた水氷球がその後をついていく。シュールな光景だ。
「なにそれ。どうやってるの?」
「え? これ? う~んと~……」
確かに魔術は滞空させることが可能だ。手元から放つ前の水球を少しの間浮かせ続けることは難しいことじゃない。
加えて、走りながら魔術を構築することだって出来ないことじゃない。こちらは少々難しいけれど、理屈の上では理解も出来る。
フララは完成直前の魔術、手元から解き放たれていないそれにボアを乗せて運んでいる。見たまんまに解釈するならそういう話になる。
理屈ではわかるのだ。理屈では。
別に巨大な水球を作り上げたって、その重量を自身が感じることはない。でなきゃ簡単な魔術でも自分自身が押し潰されてしまうだろう。
大の大人を吹き飛ばすにはそれなり以上の水量が必要だ。子供はそれを支えきれずに自滅するしかなくなってしまう。それではあべこべだ。大人と子供でも勝負にならないなら、人間が巨大な竜やゴーレムなんかに太刀打ちする手段が無くなってしまう。魔術を使うには筋肉が必須になるだろう。
構築途中の魔術に、ボアのような重い物を乗せた時にどうなるのかなんてのは、考えたこともなかった。答えは見ての通りだ。フララに荷重が掛かっている様子はない。
「わかった?」
「だいたいわかったわ」
そういうことにしておきましょう。気になるけど。後は実際に自分で経験しながら実験していくことにしましょう。そうでなければ納得出来ないだろうし。
前世の物理法則なんて信奉し続けても意味はない。ここは異世界だ。魔力なんて不思議パワーまで存在しているのだ。今更驚くようなことじゃない。よし。納得した。
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海岸に場所を移し、地水火風の魔術を総動員して、巨大なボアの解体作業を進めていった。
結局お肉にありつけたのは、夕日が差し込む頃だった。
「「いただきま~す!!!」」
そこからは無心で頬張り続けた。
二人して一言もなく、空腹の腹を満たし続けた。
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「まったく。これでは落第ですね。一緒に寝てしまうだなんて」
満腹になってひっくり返った二人の少女。
今日も可愛い寝顔だ。毎日見ているけど見飽きない。
「焚き火も切らしてしまっては凍え死んでしまいます。まだまだ夜は冷えますから」
薪を焚べながら、二人の寝顔を見守り続ける。
「血に飢えた獣たちが狙っているというのに。呑気なものです」
魔力を放出するだけで、こちらの様子を伺っていた獣たちは一目散に逃げていく。
二人の少女を見守りながら、二日目の夜も過ぎていった。




