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天意無法なる魔獣の群勢

 焦りから握りこんだ拳。一指、二指と(魔力)を込めていく。後ろでは紅銀の魔力光が漏れていく、ケモノは一向に動かない。


 ツゴウガイイ。


 それが何処までも不気味であり、首筋がピリピリ痛むけど。


  「行けるか?」


 その言葉に後ろの頭が、少しだけ俺の頭から離れる。


  「エスコートして頂けませんか? マイネ、リッター」


 返答は少しばかりの冗談を織り交ぜて、華の如く笑みをむけられている気がした。


 ああ、だから


 身体は最速、最大の未来へ進む為の形


  「残念ながら、騎士ではないがついて来い。蛇の道を!」


  「では、貴方なりの方法で歩む同胞の能力(ちから)(チェイン)


 こちらに寄り添う様に寄りかかる。多分、この行動はきっと何らかの魔術。


  四肢に力は満ちる。雷光が緑光を放ち纏う。


 動かぬ獣たちは決して錯覚でも、こちらに興味が無い訳でもないだろう。


 手を前にただ万物を食らう。雷さえも捉えられるものでさえ、この一撃には


まるであざ笑うかのごとく、何もしてこない獣たち。


 そうやって舐めくさってろよ


 抗えず、歩む足さえ力を失せる(亡くす)のだから!!


 「雷!、切!!・地喰!!!」


 言葉を乗せる。力を乗せる。


 ただ、前へ


 風景は一瞬で無数の線へと変わり、俺の翔ける姿は閃へと変わる。


 周囲の遮蔽物を抉り取り進む。風さえも俺に届かず奔り抜ける。流石にレイスユニット、血の覚醒も済ませていないから雷速には至れないし、音速にも届いていないけれども、それでも十分、速度は出ている。


 木々さえもスポンジのようになぎ倒し、多分召喚されていたであろう獣も一撃のもと殴りかき消す。十分、威力も出ている。


 散らばる残骸には目もくれず、追ってくる影も踏破して、先に先にと逸る心をアクセルに、俺は全てを置き去りに走り抜ける。


 いや、走り抜けてしまった。追いつけないのは事実でも、それは決して無力化されたわけでも、こちらに危害を加えられなくなった訳でもないのに。


 それなのに


 後ろの脅威から目を反らしてしまった。


 それも全ては俺の慢心の故に起こった事。


 蹴散らす力と未知の恐怖。


 散らばる敵、すぐ倒せる敵に安堵が起り、不安が消える。


 追い抜き、届かぬ敵に、達成感が湧きと警戒心が掻き消える。


 全ては情報抑制から起った悲劇であり、要は俺は最初っから嵌められていたという事なのだろう。


 それでも俺の油断が招いた事で、


 元々、この悪手を取らざる得ないような状況に陥れていた辺り、底意地が悪くもある。


  後ろから迫る影はこちらに圧倒的に追いつかない。疾走すれば届かない。前の敵も粉みじん、壁ではなく豆腐か何か、スピードは落ちるが大したものではない。


 であれば何処が隙だったのか。


  「レイさん!? 前方左右に召喚陣が!」


  「追い込まれたとかではなく、ある程度の様々な所に配置もしてあるのか!?」


 人事尽して天命を待つ。とでも言いたげに設置してあるそれは本当に煩わしい事この上ない。


 「起動します。避けて!」


 「避けたいのはやまやまだがな!!」


 後ろからも遅いとはいえ、黒い細い犬が襲い掛かってくる。少しでも避けたら襲い掛かられる!!


 静止している時とは違った状況で囲まれ追いつめられる。前には召喚起動陣の群れ、後方には獣


 万事窮すか!


  「これで終わり~やっぱ作戦てのは頭を無駄に使うよりはどんな状態でも引っかかるものの方がベターだよねー」


 まるで、こちらをあざ笑うかのように響く少女の声、きっとこの言葉こそ刺客の言葉だったのだろう。


  「ま、所詮借り物の能力、所詮子供なんてものは、さして経験を積んでいなければ親の残滓に過ぎないさ。さよーならー」


 これにて命を失うそんな時に、アルヴァを通して、何がしかの共鳴が……これは、早朝にも感じた強い気配の!


  「久しぶりに故郷に帰ったと思ったら一体何が起こってるんだ?」


 急に現れたその老人は、淡い翡翠色の髪を棚引かせ、本当に驚いたかのように周囲を見渡し、こちらに目を向け、何がしかの感情のこもった瞳を向ける。


  魔方陣からわき立つ獣を引き裂いて現れたのは、六十代位の男性。それはまるでおとぎ話の『勇者』の様だった。


  「貴様はぁあああああああ!!!」


 鋭い怒気が森全体を覆う、この世界そのものさえ引き裂くが如き、その殺意。眼は灼眼に輝き、世界を燃やすかのように蠢く。消えろ死ね、口に出さずとも伝わる必滅の意思がその老人に注がれる。


  「魔族に恨まれるのはこれで何度目だろうか……」


 老人は何処か、自分の中に省みる事がるのだろうか、その言葉には自嘲の念が含まれている。


  「何度目も無い! 死んで償え!!」


  「まだ死ぬわけにはいかない。それに死んだらアイツ顔向けできない。そんな安易な償いアイツらは求めてなんかない!!」


 どうやら二人は因縁があるらしい。謎の声が放つ怒号。それそのものさえ、威力を持っている。だが、それ以上に恐ろしいのは、襲い掛かる獣の波。

 高さ二メートルにも及ぶそれは、一部の被りも無く確実に老人に迫りくる。完璧に統率され、まさに数の暴力と呼ぶに相応しい。


  「うるさい、関係ない。冥府へ逝け! 陛下の本体と先代の所で永劫に侘び続けろォオ!!」


 純粋な数で勝り、それが一個の生物と見まごうばかりに統率されている。人は本来獣よりも戦闘能力は低い、銃を持ってさえ、同体格の獣と戦えば敗北の可能性すら運の関与が無くてもあるのだ。


 流石に同体格ばかりとはいかないが、複数匹で押しつぶされればそうもいかない。だというのにまるでを紙を斬るように切り捨てる姿も圧巻なら、それにひるまず召喚と統率をする相手もまた圧巻。何より。


  「流石に、こっちの手も緩めてない!!」


  「詠唱の、隙も、ありませんね」


 こちらの攻撃も休まず続き、未だ覚醒も起動も出来ない。改めてこのような状況に追い込まれると、実感してしまう。今までは、敵の方がこちらに合わせてくれていた事実を……


  「敵はあの時より弱くて、俺達は強くなってるのに!!」


 相性というのもあるのかもしれない。作戦勝ちというのもあるのかもしれない。それでも、それでも。


 こいつらは間違いなくバルバロスよりも少なく弱いのに。


 自身の無力さに嘆きを感じる。強くありたいと切に願う。それでも届かない届けない。都合の良い覚醒が出来なければ、実力で倒せる相手にも苦戦する事実。絶対的に届かない訳でもないというのに。


  「そちらは大丈夫かね?」


  「ハッはい大丈夫……です」


  「こ、ち……らも大丈夫です」


  「良かった。すまない、ぼ。私の後ろを頼む」


 優しげに投げかけられる言葉、どうやら悪い人ではないらしい。互いに背を預け、テレザにはその中央にいてもらう。


  「テレザ、俺達の真ん中で呪文詠唱!」


  「! 分かりました」


  「後衛か援護頼む!!」


 焼き焦がせ炎の道よ 私たちの絶望さえも!


 経過した時間はほんの数秒、詠唱短縮の呪文で完成した炎の道は、地上を這う黒き影を一掃する。ただ、足の速いモノ、空を飛ぶ鳥類、元々耐久の優れているモノ、炎熱耐性のあるものには効かなかったようだが。


   「ほう、素晴らしいな。君達は」


 それでも、ほんの数秒でこうまで状況が変わるのか。そう思わずにいられない。


 敵の波の規模は少なくなり、こちらも状況を整える余裕が出てくる。けれども


  「そこまで余裕が出て来るってものでもないね」


  「う、できたの結局は雑魚チラシだけですね……」


  「それでも十分、次出来るか?」


 夜空に紛れた闇色の鳥が空から滑空したり、有角の猪がこちらに突進してくる。


 一つ一つも十分強力な魔獣の群れ、流石に脇を固める雑兵の魔獣は先ほどの炎で皆消し飛んだが故に、隙も出来たが人が入れる隙間ではない。そして隙間分相手のスピードが上がった気がする。


  「吹き、グッ」


  「御嬢さん、大丈夫か」


 ッち、突進力が上がって、体重の軽い、防具の着けていないテレザでは直ぐ体勢を崩す。


 猪の突進力は暴風と呼ぶに相応しい。荒れ狂うそのスピードは自動車の最高速を上回り、列車のそれに近いように感じる。


 そして上には飛行機をやや下回る程度の速度ではあるがそれでも十分早い闇色の鳥群。


  「暴風よ、遍k


  グモォオオオ!!  ギョォオ! ギョォオ


   っまた!」


 突進の威力は剣に乗る。筋力で何とか防げても、足に力を入れ身体を固定しなければ、微妙に浮く身体。突進の余波でふく風も無視できず、後ろのテレザも詠唱のタイミングも崩す。


  「獣自体の攻撃は防げても!!」


  「確かにわが群は、欠けたる所はできたけど君たちの攻撃は絶望的にと・ど・か・な・いよー」


 嘲笑が森に木霊する。陽気な少女の声、何所から聞こえるかわかれば戦況は一気に逆転する為、何所にいるのか確認している訳だが、上空の鳥から聞こえてる気がする。


 流石に、そこまで愚かではないか。


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