強襲・三人目の魔人
南の方、何かが燃える感覚がある……
「ふぅ、レイ君? どったんせい」
「ん、いやなんでも無い」
首筋を焼く妙な感覚。玖珂が急にこちらに振り返ったと同時に南の方から焼きつくような誰かの視線に振り返る。
当然、誰もいなかったのだが
「あれ? 当然??」
「……ホント、どったんせい?」
不思議そうにこちらを半眼で見てくる玖珂に、俺の方がその、どったんせい
が疑問だよと返したいが黙っておく。まぁ、当然に関してはもういいや、多分昨日のアレだろうし。
「ユミさん、口を挟むようでアレですが、どったんせいって……」
「ソウルが叫ぶ、疑問の言葉」
「そ、そうですか……」
疑問は一つ解決した。とてつもなくくだらないモノだったが。
意味も分からずイライラする事も多いけど、なんだかんだでこのくだらないやり取りもまた嫌いじゃない。そう、決め顔でどうしようもない事を言う玖珂と、それに呆れて言葉も無さそうなテレザを見てそう思う。
そう、玖珂がボケ、俺達が乗っかったり、突っ込んだり、この様なくだらない会話こそが日常となっている現在がたまらく愛おしい。
だからこそ、次の彼女の一言が考えさせられるのだ。
「この町が最後の皆の楽しい思い出になるかも知れないんですよね」
隠そうとしているように見えるのに、溢れだす。彼女の悲しそうな一言が、自身が異邦人である事を思い出させるきっかけっとなった。
俺と、玖珂、場合によってはエニグマも、皆チキュウに向かう事で暫定確定している。
忘れてたのか、見ないようにしてたのか、この中で唯一、テレザだけは違っていた。
彼女だけ唯一
「私だけ皆さんと離ればなれになるかもしれないですし、精一杯楽しんでいきましょう!」
それは、心に刻まれた聖痕。忘れないで欲しいから、孤独という砂漠を歩く為の道しるべが欲しいから。ここまでごねて一緒に店を回ろうとして、今もなお、わざわざ雰囲気が悪くなるかもしれないのに言葉を継ぐ。
「最後になんてならないよ」
ポツリとただそれだけ呟いた女は手を飛行機のように開き先を行く。
「ふ、そうだな。まだ何も決まってない」
玖珂の言葉は冷たいけれど、その言葉は励ましの言葉である事も気づいたから、ついつい口から空気が溢れ出る。それでもテレザは曖昧な顔で俺達を見ている事しかしないから。
軽く、背中を叩き後を押す
「ま、今はただ、先に行った玖珂を追いかけるぞ!」
「あっ、ハイ!」
ま、簡単には振り切れないし解決もすまい。ならば、今は楽しもうどのみち貴重な時間がすり減るなら、楽しい記憶だけで時間を埋めたいから。
こうして、俺達は駆ける。大切な一瞬一秒を無駄にしないために。
後の事を思えばここが転換期だったのだろう。だが、間違いなく良い選択をできたと思う。
何故なら、この結論があったからこそ、『彼』に出会えたのだからきっと悪くない事だったと思う。
ここで出会えなければ、きっと俺達の最後は、とても苦いモノになっていたはずだから。
「んで、なんで森の中にいるんだ?」
「本当になんででしょうね?」
玖珂を追いかけて街を出てしまった。何か無心に北西の方角に走って行き、目の前には森がある。メンドクサイが、入らない方が玖珂を追い切れずに、面倒な事になりそうで、追うしかない。
「何か違和感有るな。ここ」
「ねぇ、レイさん気づいてます?」
進行方向を塞ぐ草木を、風を切るが如き横切り、『草凪ぐ掃え』で刈り取りながらなんとか先行する玖珂の足取りに近づいて行く。
「何がだ?」
「この森、やけに明るくありません?」
一応、何とか気配を察知しているとはいえ、眼に影も見えないほど先行されていると色々煩わしくなる。その為か気づけなかった。幾らまだ日光が出ているとはいえ日がいり始めた黄昏時だというのに、まるで昼の如く明るいこの森に、そして
「そうだな。」
「俺からも一つある」
はい、そう小さく返答するテレザ、どうやら彼女も同じことを考えているようで、一応解答編といこうか。
「気配が濃くなっているよな?」
「獣、いえ魔物の気配とそして、街では常に浴びてたせいか鈍感になってましたね」
玖珂は多分、天眼を使って上手く回避しているのだろう。周囲に満ちる獣の気配と、街にあった圧倒的な
神気
これは一筋縄では行きそうにない。アイツは何故ここに来たのだろうか?
日は沈んできたというのに眩い森で、ひり付く様な生物の気配。まるで我らの神聖な場所に足を踏み入れたのだから容赦なく殺すとでも言うように周囲の獣はこちらを見て俺達の様子をうかがっている。
「三人で冒険したてを思い出すな。このシチュエーション」
「二つ思い出せて、どちらも迷惑かけた記憶しかないので刹那で忘却したいです」
言ってもられない午後六時くらい 円の状態で包囲されている俺達はお互いに背中を預合い、ただ静かに状況を観察する。木々が微かに揺れる事と、異臭それ以外に時折光る眼以外、決して自身がどこにいるかの情報を漏らさずこちらの攻撃は何時でも回避するように陣取っている。
「何でしょう、この獣たち、まるで軍隊のように
「統率されている? いや、一応野生の獣として普通か?」
俺達を狙う獣は組織だって行動しているようにも思え、何処か人の指示で動いているようにも見える。
とはいえ、知能が高ければ似たような行動をとる事も可能であり全ては推測にすぎないが。
にじりより、隙をうかがう獣、一向に草木の中に紛れこちらに姿、音さえ隠して行動する。こちらがそれが無くてもあちらの存在を把握しているのを野生の感か認識して圧をかけてくる。
五感の内最も感情に影響を与える嗅覚で此方に不快感と位置を曖昧に教える。最も外界へのストレス感情に鋭敏だが、最も表面的な知覚のし難い触覚を揺さぶる。
それなのに、最も情報量の多い視覚、聴覚に関しては余り情報を貰えていない。
本当に獣か?
一応野生動物にも見られる戦法ではあると思う。それでも、何処か統率がとられ過ぎている。
「テレザ、周囲に気配は?」
「いえ、何所にも……あのきづいてます? 強くいえ」
ああ、気づいてるよ。増えてる匂いの元が
何もない所から
「どうやら何者かに統率されていること確定」
「そして、時間が経つごとに敵が増える事も確定しましたね」
何所からか臭うこちらを食い殺さんとする殺気。あからさまに何もない空間からわき立つそれは、何の為かこちらに対して意図的に襲うように召喚されている。
「初めての陰謀系の追ってかね?」
「どうしますか。レイさん敵の正体や位地すら分かりませんけど、このままだと飲まれます」
何もかもが分からず、囲まれている事だけが分かるこの戦場。どうすれば切り抜けられる。
玖珂、あるいはエニグマに知らせる。
アウト
その隙に、俺達が食われる。
正攻法で正面突破
アウト
一体消し飛ばしてるうちに複数の獣に襲われる
テレザも俺も実戦レベルではないが空から逃げられる
アウト
敵の召喚士はきっと魔人。魔人は実戦レベルか否かの違いだけで例外なく飛行能力を有している。そうでなくても飛行できる生物のいない保証がない。
考えれば、考えるほど吐き出されるトライアル&エラー
変に隙を見せる事が出来ず、剣すら握る事が出来てない。なのに、
手がつべちゃい、ギトギトすんなぁ……
いるのが分かる、見ていることが分かる、こちらに敵意があるのが分かるのに
「っち」
心の中で焦りが生まれ舌を打つ、なのに、なのにそれらが薄い殺意さえ薄い、そのせいで距離感さえつかめず、意図的に数が増えている事だけ理解させられている。
「テレザ、一応焼き尽くせるか?」
「根本の問題として詠唱時間が足りません」
だよな。どうあがいても情報が絶対的に足りな過ぎるのに、こちらが不利になる情報のみが蓄積される。
動けば終わるのだという事のみが理解できるこの状況で、どう動けばいいと言うのだ。
あーもうめんどくせぇ
「すまん、先に謝っておくテレザ」
「友達じゃないですか、ついて行きますよ」
長時間の睨み合い、最早日は沈みかけ、それでも昼の如く、眩く、人の通る道がある程度のこの森で、周囲の草木に万遍なく獣がいると思われる。
例え居なくても、敵はきっと設置型の召喚士、ならば対抗策はいくら打ち立てても出てこない。
増えているであろう獣たちは、まるで増設される壁の如き錯覚を俺に与える。触れさえできない、不可視の大壁。
「くだらなぃ」
「っ、ですね!」
互いにこの困難を鼻で笑う。複雑に考えれば考えるほどジリ貧ならば、元より答えなんてないような物。ならばこのまま突破こそが一番ベターな回答で、どうせこのままではヤバいのだ。
「「無様でも」「無謀でも」」
無理でも、無茶でも突き進むしかないだろう!




