幕間 the dark side of society
良い木の香りが満ちるほの暗い船内、風情のいいランプの灯が部屋を照らす。
その部屋の奥には広がる羽のような焔に逆剣十字の紋章が壁に描かれている。
逆剣十字は天への反逆を示す絶対意思。それを支える炎翼は、空へ挑む剣十字の象徴たるものを支える焔の担い手の象徴。それ以上に、逆十字は魔族を、炎は人の文明の象徴である。
故に、この壁に描かれた紋章こそが、この部屋の住人にとって存在因子ともいえる物である。
「ああ、来いレイ。ただし、お前が来るころには全ての嘆きは取り払わられる。そうお前と相対する理由も意味も無くなっているんだよ」
少年は一人船の中に造った自室で、偉そうにロッキングチェアに腰掛けながら右手で本を捲りながら、左手で頬杖を突いていた。
しかしある時、不意に意思を感じ取り、北の方角に語りかける。
両の眼は紅の魔力が籠り、世界さえも熔かしながら過去・未来・現在を見通しているようだった。
否
事実、自身に都合の悪い過去未来現在を熔かしながら見続けているのかもしれない。何故なら、彼の瞳もまた『天眼』間違いなく、この世を瞳に治める力があるのだから。
家族の強い意志に惹かれ、その微かな決意の波動に嬉しい物と、悲しい物を感じ取る。挑まれる事への父としての嬉しさと、敗けられる者かッという少年としての対抗心。混ざり合った四つは、複雑にけれども単純に混ざり合う。
その不可思議な感覚に少年は戸惑いを感じるけれども、それでも胸に手を押え、勝手に動き出す口を自身の制御下に戻しながら、一つだけ確かに分かっていることを、口ずさむ。
「く、ひゃ」
「ふふふ」
悪くない
「悪くないぞォオオオオオ!!!」
そう、きっとこれは喚起だ! 今やっている事が成功し、未来の自分の息子に会えたなら、きっとその時は!!
少年の中で燃えあがる何かは、きっと他者がいれば本当に火事が発生したかのような熱気にさらされるだろう。故に、この無粋もまたある意味天の慈雨だったのかもしれない。
「へ・い・かー」
ノックもせずに扉をあけて、その人影は少年にダイブする。人影の正体は、少年よりも小さな姿の年長組、その名はナフィル。
「ナフィルさ……か、何しに、いや、聞くまでも無いか」
「はい、陛下。『例の計画』の先鋒は、このナフェに行かせてはくれませんか?」
飛びついてきた少女(実年齢は違う)を抱きとめ、耳元で囁かれるその言葉に、頷いた。
「ああ、いいぞ行ってこい」
「ふふ、御意!」
そして、少年はその言葉に口角が上げ、謳う。手を掲げ空ではなく、天へと手を伸ばす。それはきっと摂理への挑戦。何故ならナフェと呼ばれていた少女を抱きとめている手とは逆の手、そこには……
「それでは始め様、『真なる神掃』を!!」
ゼリウスが持って来たボロボロな金色の本が握られていたから。




