歴史区分 中世 そして 新時代
闇も近くなる黄昏に近い時間、赤い日光は黒革のスーツを照らす。白い雪の中でさえ存在を隠されず主張するこの本革の光沢に俺は大満足だ。
うん、ナルシスト臭いな。
「うわだっs」
まぁ、それは着てる服の来歴のせいでもあるだろう。これは結局異世界では、バイクや馬などの生物に乗るって行動する事が流行らなかった。その為、この服を再現してもちょっと暖かな奇天烈な服って認識しか持たれなかった代物である。
「浮いてるよn」
それは、造られた意味を見捨てら、表舞台からひっそりと消え去り、裏路地の見世物として死蔵された哀れな服。それがどうしても自分に重なったので、密かに買っていたのだ。
「かっこよく言ってもただニー」
異世界に身を埋めれば、俺もまた路地裏の店に死蔵されたも同じだ。そこでどれほど輝き、もてはやされても、それは元居た世界では生きれなかった落伍者に過ぎない。
本来あるべき世界から来たのではなく放逐されたSONICliner notesと俺。
もし、こいつを日の当たる場所で着こなせたなら、きっと俺も元の世界に戻り、輝く事が出来ると思うから、だから。
「つまり感傷で買いまひ、みぎゃぁああ!」
おおう、俺の手が後ろ、俺の耳近くに手を伸ばす、玖珂の顏にヒット。超! エキサイティング!!
先ほどからずっと耳元で鳴り響く声に反応して自分でも不思議なくらいの速さでベアクローを放ってやったわけだが。
「おーいいい加減遊んでないで行くぞー」
「わぁ、改めて見ますとレイさんの手って大きいんですねー。ユミさんの顔がすっぽり入っています」
「私の扱い、低所が安置になってしまった!」
自業自得だと思う。
雪も浅く積もる昼と夕方の境、この周囲の穏やかでノスタルジックなレンガや木で出来た和洋折衷な街並みと比してさえ、和服の奇妙な女と紅髪の長髪の男、金髪ロングスカートの女性は奇妙に目立っているだろう。
「最初はここの世界は文明レベルが中世かと思っていたが改めて歩いて見ると違うよなぁ」
魔法のせいかは知らないが何処か微妙に文明の利器がちらほらある。というかテレビとまでは行かないけれども映像投射機がある時点で中世とは言えないよなぁ
「別に、魔法の件が無くてもぶちゃけ時代区分は近世レベルで芸術も建築技術もしっかりしてるよ。 中世だと面白そうだったから少し残念!」
なんで人はこうも異世界に中世レベルを期待してしまうんだろう?
「確か、中世という歴史区分に憧れる理由は、程よく文明が発達していて法に自由度があり、生きてるだけで未知と遭遇できた。あるいは、文明開拓ができたもっとも人が楽しめた時代だから。そう書いてあった本なら見た事があります」
多分じゃなく間違いなくチキュウ人経由で伝わってる本だよね。俺達の先頭を歩きながら上を向き語るテレザ。なんでそんな本読んだのか解らんが意外と面白い仮説だった。
「住民のモラルが高ければ中世レベルの法が最も住みやすい塩梅ってのも聞いたことはあるね」
法は悪意を弾く半面、善意もまた弾き、そして自由もまた奪う。そして文明は楽しみや感動を育み影響を与える反面、影響により自身で考える事、自身で動く事の大切さを損ねてしまう。何よりも、時代の発展は未知の減少を意味する。
「生き者である以上、未知は怖がるものである反面、それを克服できた時の楽しさは一押しだものな」
雪に隠された地面を踏みしめ、眺め思う。隠されているが故に、春の芽吹きがより尊く思うのと一緒で。
「とはいえ歴史と共に埋もれてしまう物もありますけどね」
時が経つことで失ってしまう物も有るが、それ故に尊い物もあり、時代が進むことも大切な事である。
他愛も無いくだらない言葉から生まれた感傷に、否定ではなく肯定で、それでも時が進むことの尊さを伝える。何故、この言葉に仄かに温かみを覚えるのだろうか。
考古学者の観点から、自身の意見をテレザが伝えたからか?
「未知や他者に影響を与えられたからと言って『それは過去の全てを受け継ぐわけではない』ですよ?」
「そして、もし受け継いだからと言ってそれは劣化ではない。とか?」
二人して俺の顔を見ながら言葉を継いできやがった。
一人はニヤニヤしながら、もう一人は疑問を顔に浮かべながら、一人は自分が言っている事をきちんと理解して、もう一人は無自覚に。
言いたい事が抽象的で解り辛い。ただ、俺もまた言っていることが分かり辛い。
ただ、もし、俺の言葉を状況から考えるに、やっぱり
自分を知るものから離れていたいという願望は過去を拒絶し、誰からも未知でありたいという願望。
人はきっと、自身にとって、他者にとって、真っ新な物でありたいのだろう。
そして俺にとってその感情の起因となるそして基因となるものはきっと。
「くだらない会話のつもりだったんだけどね」
眼はどうやら御見通しらしい。俺の悩みも、原典も。
「何はともあれ、外に出る事は知るという事、ですよね。レイさん」
俺の事情なんて知らないはずなのに、師の言葉を使い、俺を奮起させる。
そうだな。外に出て、触れ合って、自身のあり方に触れてしまった。
だからまず此処に誓う。神や異世界の住人が集った混沌の地平でようやく自分の秩序を見つけたから。
これはようやく見つけた始まりの一歩。
だって、俺はきっとこの為に、アンタにここに呼ばれたんだ。いや、招かれたのだから。
決意を込めて空に掲げた手を握る。その中には空から時折降るちっぽけな雪の結晶が握りこまれていた。
淡く降る雪はきっと俺の存在のちっぽけさを表しているようにも思える。天から生れたちっぽけな水の結晶それでも数が揃えば天をも覆う雪という気候になれる。そうだ俺はこいつらと共に一度決めた事を成し遂げる。その過程で父さんが妨害をするというのなら、
過去を超えるよ。父さん。
ここから未来の物語は始めさせて貰う。




