ピンチそして、それでも
身体能力が人を超越していると言っても流石にこれだけでは捌き切れない。体重差と言うモノも無視できない。人間の理屈からは外れた筋力等の身体能力を維持していても、体重だけは人の理のままである。
その為、今回のように風が吹きそこで踏み止まれるれる体勢でない時は吹き飛ぶか体勢を崩す。体重は日常生活を送る上ではいらない物だが、戦闘では重要な要素である事を痛感させられる。
一応、森の中なので踏ん張れば何とかなる地形ではあるのだが。
木々の多い地形は、飛行を抑制し、猪の突進の頻度も削減する。一応、こちらに有利に働いているようにも考えられるが、同時にこちらの逃げ場と
「当然、召喚も止んだわけではな・い・よー? ひゃははは」
また周囲から何かが召喚されている。そもそも、俺たち自身、森で戦うのが得てではないというのに多分あちらは森で戦うのが得意な獣で構成されている。
「これは結構きつそうだね」
「そうですね老体。其方の体力はもちそうですか?」
「ああ、まだまだ私は若い者には負けてないつもりだよ?」
確かに、身体に一切のブレが無く、防御に粗も無い。流して斬る。その姿に無駄がなくそれでいて型にはまった所のない流水の様な剣の構え。
これほど洗練はされてなかったがどこかで見たような剣技。
「ぐっ」
「隙を作らない」
老体を観察している隙に空と地からの波状攻撃を食らう。さっきからお行儀よく瞬間的な一対一が続くと思ったら嬲ってるだけかよ
「っく、了解、テレザ倒す事じゃなく怯ませるだけでいい。行けるか?」
「本当に怯ませるだけなら」
「私からも頼む」
凍れる大地
冷気がテレザを中心に拡散する。元々霜が張っていた大地は急速に冷え、地面が凍結し相手大半の動きが鈍る。上の鳥も冷気への耐性が無いモノは明らかに動きが鈍くなっている。術式途中でもこれなら!
「させるか! 行けレヴ」
さして焦ってないその声に不気味な物を感じる。しかし、妨害して来る以上これが突破口にもなるはずだ。
「守りきるさ!」
「当然私も力を貸そう」
瞬くリュウセイがテレザに降り注ぐ、横からは足場に不自由しながら獣の突進。確かに脅威ではあったけど最早物の数ではない。
一体、二体、動きが緩やかになればそれだけこちらの余力で動きが急加速する。敵の数が減ればそれだけ余裕が増えてくる。そしてまだまだ油断ならない状況が続けばそれでも精神は疲れて来るし、何より状況が明るくなればなるほど油断は出てくる。
「あれ?」
宵の闇にまぎれて天空高く落下する鳥、テレザの真上から落ちてくるそれに気付けなかった。
「しまっ!」
「御嬢さん!!」
つまり、これは約束された敗北。
「ハハハ、はーハハハ。さようならー、人間風情にしてはこの私を楽しませてくれたよー?」
取り戻せない過去。こうして俺達の戦いは終わりを告げる。
「げーむせっと 真打は遅れて登場する!」
当然、俺達の勝利でな
どうやら元々は先行、というか潜行していた玖珂がようやく敵の元に着いたみたいだ。統率の乱れた獣たちに対処する必要も無くなったので、余裕で縮地・縁で迎撃する。
直線で動くあれはどうしても複数の敵がいる場面では隙になりやすく、使うに使えなかったが指揮が無くなり統率が崩れたのならなんとでもなる。
「何故か私のトラップ仕掛けている場所にわざわざ標的が近づいてくると思ったらやっぱりお前かもう一人のチキュウ人!」
「まぁ、君が警戒しているせいでどうしても近寄れなかったけど最後の最後詰めを誤ったね。残心を忘れてはいけないよチミー? この世界にあるのかは知らんけど」
「ちみっこゆうな餓鬼がッ!!」
言うとらんがな。
「あはは、死に掛けた私達の命がー軽いなー」
「まぁ、御嬢さん命は拾ったのだからそれでいいだろう? しかし、チキュウ人か……」
それもそうだと俺もテレザも思いながら、愉快な話し合いをBGMに残党処理に明け暮れながら考える。
玖珂が途中で消えた理由は薄々わかってたが、つまり、ちょうど天眼でこちらで罠張ってる魔族が見えたので別行動取って一狩り行ってたって訳だ。
「腐っても魔族、しかもあちらの陣地形成済みという事もあって三対一、いやフルメンバーでもキツイと思い、私たちを囮に不意打ちする事に『勝手に』決めて行動したんでしょうね……」
「ははは、ソウダヨ!」
もう、そうなんだー。くははははははははは こ・ろ・す・よ?
サムズアップしている姿が想像できそうな愉快な笑いに、周囲に敵さえいなければ手を覆いたい。テレザもなんか微妙に怒りで小刻みに震えてるし。老体は頬を掻きながら半笑いしている。何か苦労人な気配だなこの人。
色々あったが取った策自体に不満は無い。のだが、一言いえよ。いや、一言いったら機能しなくなる作戦ではあるのだが。上手くいって良かったよ、うん。
しかし、上手く行き過ぎている気がする。油断してはいないのだがどうも旗色がこちらに傾きすぎているような?
「やー! 及びとあらば即、惨状ぅうお!」
「二体目!?」
「ローティス、私を笑いに来たの?」
空高くいる伝令用の鴉。それから漏れ聞く声から判断するに、愉快な調子を弾ませた男性が現れた様である。
「ローティス?」
老体がローティスの名前に反応する。ここで聞いておきたいとこでもあるが、余裕がない!
「テレザ、後ついて来ていただけるなら御老体、共に来て頂けないでしょうか!」
「レイさん、ユミさんの所ですね!」
「敵の増援なら当然だな良かろう。だが、何所に居るのか分かるのかい?」
何とか全員で玖珂の元に行く算段を付ける。行く事に関してなら、すでに手段は用意してある。
「レイスユニットアクセス!」
魔力が四肢に満ち、眼にも宿る。天眼や千里眼と言うほどでもないがこれならばきっと!
「いつもながら髪の毛ぶぁっと長髪になるの凄いですね」
「……何処に居るのかは分かるようだね」
確かにこの姿になるとロングになるのは俺自身も凄いと思うけど今はそんなこと言っている場合ではない。強化された感覚が耳に届けた御老体のぼそっと言った言葉。それはきっと、俺にも意味のある言葉だと思うけど今はそんな事思ってる場合でもない。
北西の方角に、強大な気配が二つと見知った気配が一つ、そして何かに繋がったままの大きな孔。いやな予感がする。特に、玖珂を囲む気配よりも今だ空き続けている空間に穿たれた孔の方に。
「あ、でもむしろ逆に利用できるか?」
「いきなりどうしましたか?」
空間の捻じれ、多分それをこちらから真の『縮地』と、アルヴァの本質から考えれば利用できる。
……ふー、この姿になると本当に自分の頭じゃないみたいに解決策が湧き出てくるな。
「!?」
何時の間にか隣にいたテレザが、驚愕の顏で俺の顔を見る。うん、自覚はあるよ今の俺は眼がとても素敵な事になってる自覚が。
眼が三角に眉間を歪ませたとても面白い顔になっている自覚があるが、そんなに驚かなくてもいい気がする。
ため息をつきたくなる気持ちを抑え、とっとと準備をする。本来なら問題はいっぱいある気がするのに、何故か大丈夫だと言う全能感に似た何かに包まれる。
特に、アルヴァの秘匿に関してはそれとは別に大丈夫な気さえしている。頭の中に混じるノイズに既知感を深く感じながら、俺はアルヴァを握りこみ、正眼に構える。
「いきなりどうしたんですか」
「この懐かしい感じはやはり、そういう事か? いや、まだありそうだな」
二者の感想は耳に入るが心の奥には届かない。今の俺は完全なる空。ただ、ただ、世界と接続するために集中する。
成功確率は低く無いが高くも無い。 五十%は下回ってるけど、四の五の言ってもいられない。
真の縮地は完全なる空間操作で、アルヴァの本質はそれ以上。いくら召喚術の使い過ぎで空間の歪みきったこの地と言えど、そう簡単に成し得る奇跡じゃないけれど、まぁ不可能でもないなら試すしかないよな。
深く深く世界とつながる。そして探る。もっとも歪んだ場所を。




