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異世界フラグが立ちました  作者: ちょむ
第四章 久しぶりに会った人って何かが変わったように見える。
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金色の涙

 誰かの声が、聞こえる。大好きな、聞き慣れた声が。


 誰かの声は、震えていた。まるで今にも泣いてしまいそうな、消えてしまいそうな声で。


 私は、手をのばす。ぎゅう、と握られた手。冷たい、手。


 フワリと笑って、眼を開けた。


「大丈夫だよ、トキワちゃ……。え、ちょ、誰?」


「主!生きていたか!」


 目の前にいたのは、金色の眼をした美しい青年でございました。


 どっから出てきた、お前。


****


「主っ主っ!こいつはどうする!?なぁ、殺して良いか!?」


「ちょっと待てお前、誰だお前」


 さて、頭を抱えたくなるような感じ…まさに今の状況は、そんな感じである。


 誰か教えてくれ。何から考えれば良いのだろうか。凄く困っている。例えば、ここはどこだ、とか(王宮の中っぽいけれども)こいつは誰だ、とか、私を殺そうとした隊長殿が何故ぐったりしているのか、とか…。


 よし分かった。とりあえず整理することにしようか。まず、長くて美しい、銀色の髪を揺らし、こちらを嬉しげに見つめる、この青年は誰だ?マントのようなものを羽織ってるが…これはどこ所属のマントだろう。少なくとも魔術団では無いだろう。だってもし団員であったなら、団長を殺すとか軽々しく言わない。


「トキワだ!主!トキワだってば!」


 そう言って飛び跳ねる青年。ははっ、馬鹿じゃないの、こいつ。私は、はあ?と眉間にシワを寄せて首をかしげた。だって、トキワちゃんはもっと可愛いわんころだ。それは誰もが知る事実。こんなかっこいい青年なわけがない。…だろ?


「トキワだ!主のトキワ!トキワの主!主はトキワ!…あれ?」


「本当に、トキワちゃんなの?」


「ロンのもちだ!当たり前田厚子!」


 このアホさ加減、馬鹿さ加減…。間違いない。完全にトキワちゃんだ。シワをといて、目を見開いた。神妙な顔で頷くこの青年、確かにトキワちゃんのような気もしないでもない。


 だが何故、トキワちゃんは人型になっているのだろう。…いや、あいつ人型じゃないぞ。だってアレなに?頭に生えているアレは何?モフモフしたそれは、



「耳っ!?」


「そうだ、主。よく分かったな。これは耳、だ」


「止めろその顔腹立つ」


 おおっと、出ました安定のウザドヤ顔。人型だから余計腹立つ。これでこいつがトキワちゃんであることが確定したわけなのであるが。


 それにしても耳か。可愛いな。尻尾とかあるのだろうか。あるなら見たい。激しく萌える。いや燃える。


 頭の上にハテナを浮かべるトキワちゃんの後ろに回り込むと、マントに隠れていて分からなかった。何このマント邪魔。思わず舌打ちをしてしまったのは仕方がないことだと思います。あれ?作文?


「で?どうしたのこれ」


 

 耳をくい、と引っ張る。トキワちゃんは恥ずかしそうに頬をかくと、にっこり笑った。


「主を助けなければと思ったのだ。小さきものの姿では助けることは困難であったし、かと言って目立つわけにもいかぬと思って…」


「トキワちゃん…!」



 何ていい子なのだろうか。思わずぎゅっと、トキワちゃんの耳を握りしめてしまった。ぷぎゃ、と不思議な声がトキワちゃんから聞こえたが、知らんぷりで抱き付いた。


 ああもうトキワちゃん最高。やっぱりトキワちゃんはトキワちゃんだ。阿呆の子だと思っていたけれども、やる時はやるのだなぁ。流石精霊王。よっ、日本一。…違うか。


 でもね、トキワさん。君、どうしてそんなにかっこいいのかな。


「主っ!惚れたか?我に惚れたか!?ルイスとの練習の成果だ!」


「はいはい、惚れた惚れた」


 …ルイスあの野郎。ルイスとトキワちゃんがコソコソしていたから、何かをやっているのだなとは思っていたけれど。こんなことをやっていたなんて思わなかった。猛烈な勢いで何かを書き殴るルイスに、真剣な目でそれを覗き込んでいたトキワちゃん。そんな光景に疑問を感じないわけがなかったのに。新術を開発していたってわけね。


 ああ、久保井 光。一生の不覚。


 で、だ。


「もしかしてトキワちゃんが…団長さんを()っちゃった感じ?」


「まだやってないぞ!我慢した!」


 視線を動かすと、ぐったり倒れている団長さん。そろりそろりと近づいて顔を覗き込んだ。


 「うひゃ…」


 思わず声が漏れる。団長さんの美しい顔が、真っ青だったのだ。そう、今にも死んでしまいそうな程に。


 医術師の血が騒ぎ、治そうと手を翳す。確かに団長さんに私は殺されそうになったわけだけれど、見殺しにすることなんてできない。

 それは所詮自己満足なだけなんだろうと思うけれど、やっぱり、後味が悪いのは嫌だから。


 ぐっと手を開き、魔力を集める。しかし、その手をトキワちゃんが掴んだ。


「主、」


 はっとして振り返ると、フワリと香るお日様の香り。全身を包み込む温かな温度に、ひゅっと息を呑んだ。


「ちょ、トキワちゃ、」


「やめてくれ」


 私を抱き締めたトキワちゃんの声は、震えていた。そんな弱気なトキワちゃんに驚いて、口を噤む私。


 トキワちゃんは腕の力を強め、すん、と鼻をすする。え?と顔を上げると、ポタリ、と私の頬にあったかい雫が降った。


「やめてくれ、主。我はもう嫌だ。失うのは嫌だ。ひとりぽっちになるのも嫌なのだ。だから、」


「トキワちゃん…」


 嫌だ、嫌だ。そう繰り返し、泣きじゃくるトキワちゃん。金色の瞳から、大粒の涙が私に落ちる。まさか泣くとは思ってもみなかった私は、ただトキワちゃんが泣いているのを見上げるだけで。


「…主の命令は絶対だ。それくらい分かる。だが、主を傷つけるものは何があっても許せぬ…!」


 瞬間、トキワちゃんの瞳がギラリと鋭く光った。まずい、と気付いた時にはもう遅い。トキワちゃんはブワリと風を巻き上げて、本来の大きな狼の姿で団長さんを見下ろしていた。


『起きろ、人間め』


 風が舞い、団長さんの体が浮き上がる。トキワちゃんはギラギラと瞳を光らせながら唸った。


 その威厳に私の足は震え、ガクリと力が抜ける。へたり込んだ私を一瞥したトキワちゃんは、呻いた団長さんを睨めつけた。


「…精、霊」


 息も絶え絶えに、団長さんが呟く。ざわりとトキワちゃんの魔力が動いた。


 見つめ合う、団長さんとトキワちゃん。私は情けないことに何も出来ず、一介の人間ごときが、精霊王に太刀打ちなんてできないことをひしひしと感じていた。俯いて歯を食いしばる。ギリ…と歯が音を立てた。


 ああ、団長さんはおそらくトキワちゃんに殺されてしまうだろう。八つ裂きにされてしまうのかも知れない。


 俯いていた顔を上げる。瞬間、トキワちゃんが後退った。まるで、団長さんに驚いているような…。



『な…人間…お前、』


 そんなトキワちゃんに、団長さんは力なく微笑んだ。私はいまいち状況が掴めずに彼らを見る。…見たところで分かるわけがないのだけど。


「…この血にかけて嘘は申しません。御安心、下さい」


 トキワちゃんが、何も分からない私を見る。団長さんも、私を見る。


 風が、止んだ。

…汗(;^ω^)

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