居酒屋『夜這い』人質事件
居酒屋『夜這い』の前には喧騒と怒号と笑い声の野次馬だらけとパトカーの赤いランプが回っていた。
頭にネクタイを巻いたおっさんが地面に座って水たまりに映る自分に話し掛けたり、喧嘩を吹っかけたり、にらめっこをしたりして泣いていた。
化粧が剥がれた若い女が電柱に抱きついたまま泣きながら『怨みます』を歌っていた。
パンチパーマのおばさんは片手にビールを持ち目を閉じたまま微動せずに突っ立って西に向かって指を差していた。
月に向かって「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんご」と謝り続けてるおっさんがいた。
郵便ポストに向かって愛を語るおっさんもいた。皆、酒に飲まれて酔っぱらっていた。
パトカーがやって来た。
運転席から股草井サトシ刑事が降りてきた。彼は今日が28歳の誕生日である。
「あっ、股草井サトシ刑事。お疲れ様です」と警官が敬礼をしながら言った。
「ご苦労さん。で、どんな様子なんだ?」と股草井サトシ刑事は缶コーヒーを飲みながら聞いた。
「中でオッサンが若い女性店員を人質にして喚いています」と警察官は困り果てた顔で言った。
「オッサンの身元は?」
「活揚研二。47歳。無職」
「よし、メガホンよこせ」
「はい」
股草井サトシ刑事は赤いメガホンを受け取ると話し出した。
「おい! 47歳、無職の活揚研二! 無駄な抵抗は止めて出て来い!」
「うるさい! 晒すな!! ナメんなタコ!! お前の母ちゃんデベソ!!」と活揚研二は窓から顔を出して怒鳴った。
「助けてください!!」とアルバイトの女の子も窓から叫んだ。
「引っ込んでろ!! 殺すぞ!!」と活揚研二は言ってアルバイトの女の子の髪を引っ張って後ろに倒してしまった。
「人質に手を出すな!!」と股草井サトシ刑事は怒鳴った後にメガホンがハウリングした。
「要求は何だ?」と股草井サトシ刑事は続けて言った。
「金がねぇから支払えないんだわな!! 食い逃げだって、このアルバイトのネェちゃんに言われて捕まえられたから殴って人質にしたんだ。警察が代わりに金払えば許してやる!!」と活揚研二はむちゃくちゃなことを言ってきた。
「よし、代わりに警察が払うから、とりあえず人質を放せ。放せば払う」と股草井サトシ刑事は穏やかに優しく言った。
「気が変わった。この女を殺して俺も死ぬ」と活揚研二は叫んだ。
「ま、待て。早まるな。話を聞くから何でも言ってくれ」と股草井サトシ刑事は焦りからか声がかすれていた。非常にマズイ状況になってしまい、内心、混乱していて状況が分からなくなりかけていた。
「死んでやる!! 皆嫌いだ!!」と活揚研二は叫び続けた。
「待て! 君はまだ若い。頑張れば何とかる。生きろ!」と股草井サトシ刑事は必死に説得をした。急展開に苛立ちもあったが必死に自制させていた。
「気が変わった! 今から地球を滅ぼしてやる! 先ずは、ここにある熱々のおでんの汁を地面にぶっ掛けてやる! 地球を火傷させてやる!」と活揚研二は叫びながら熱々のおでんが入った容器を窓から出した。
「今から地球を破壊してやるぞ! くたばれ地球! 毎日、雨ばっかり降らせやがってよ! ナメんな地球!!」と活揚研二は叫んで熱々のおでんを地面にブチまいた。
股草井サトシ刑事は黙って見ていた。
「まだまだ熱々のおでんがあるぞ! 警察ども! 俺はな、独裁者になって地球を破壊してやる!! もう梅雨も台風も雨宿りも嫌いだ!!」と活揚研二は叫ぶと再び熱々のおでんが入った容器を地面にブチまけた。
「どうだ地球? 熱いか? 熱いだろう? ははは。ナメんな地球!! ははははは」と活揚研二は地面に向かってツバを吐いてメンチを切ると面白くも何ともないのに笑い続けた。
その時、ようやく早乙女華恋スーパーヒーローが小走りで現場に到着した。
つづく
おそらく酔ったおっさんが酒のせいでアホなことを言って世間に迷惑を掛けた事件であろうと思われるが、重大な事件であることにはかわらない。とりあえず、やっと我らのヒーロー、早乙女華恋スーパーヒーローが現れたからには一安心です。




