ママメロン
さらに白熱する人形劇であった。46歳のサトシは腰を屈めた。
「庵子ちゃん、庵子ちゃんは空を飛んでみたいくないかい?『もちのろん。翼があれば天高く舞い上がりたいわよねー!』よーし、庵子ちゃんの夢を叶えたる!『サ、サ、サトシくん、どういうことなのかしらね!? 不思議なことぬかして』実はね庵子ちゃん、僕はね、なんとビックリ、空を飛べるのでした!『はあぁ~っ!? あんた何言ってんの?』僕の祖先がね、プテラノドンなんだよ。DNAの突然変異でね、僕にだけ空を飛べる能力が発現したんだ。既に8歳の頃には飛べていた。『スゴーイ! ナウいね! めっちゃヤバくない?』あははは。照れるなぁ。じゃあ、庵子ちゃん、僕の手を握ってよ。『うんっ』」とサトシは言い終えると右手で庵子ちゃんの人形を高々と持ち上げて「ブーン、ブーン」と言いながら辺りをグルグルと走り回った。
早乙女華恋スーパーヒーローは涙を拭いて、静かに、その場を立ち去ろうとした。背を向けてゆっくりと歩くと、後ろからサトシの笑い声がした後に庵子ちゃんへプロポーズする声が聞こえてきた。
「『ごめんなちゃいっ! あたち、旦那います! 只今、妊娠3カ月のママメロンですっ!』」という庵子ちゃんを演じるサトシ声が深夜に響き渡った。続いてサトシの「いやん! 嘘だと言ってぇー!」という悲痛な叫びと泣き声が聞こえてきたのであった。
悲恋に終わった人形劇の結末を知った早乙女華恋スーパーヒーローは悲しそうに悔しそうに唇を噛んだ。
その時、無線が入った。
「早乙女!」
「先鋭部隊隊長の唐松アラシさん。どうしました?」
「居酒屋『夜這い』で客が暴れて女性1人を人質に立て籠もっているとの通報があった!! 大至急現場に行って犯人を殴れ!! 蹴り倒せ!! ぶちのめせ!! ギリギリのラインまでボコれ!!」と血の気の多いワイルドな男、唐松アラシは言った。
「ブラジャー!!」と五月女華恋は叫んで無線を切った。
また無線から声がした。
「早乙女、今、ブラック企業って言った?」と唐松アラシは言った。
「言ってません」
「じゃあ、何て言ったの?」
「わかりました。大至急、行きます。お仕事お疲れ様ですと言いました」
「ふーん。混線かな。じゃあ、頼むぞ!!」
「ブラジャー!!」と早乙女華恋は言って一方的に無線を切った。
つづく




