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あの日の憎しみ

早乙女華恋は豚山ビルを出て北に向かって歩いた。


『やれやれ。夏の夜はイカれポンチばかりだな。おや? あの男、怪しいな』と早乙女華恋は向こうからヨタヨタと歩いてくる男に気付いた。


身長170センチくらいの男が不安定な足元で歩いてきた。


「すみません、こんばんわ〜。どうしましたか?」と優しく早乙女華恋は不審な男に近付いて声を掛けた。


「バウッ」と不審な男は獣みたいな声で言うと後ずさりをした。


「お兄さん、こんな夜中に何処に行くの?」と早乙女華恋は怪しい男を壁際に追い込んで話した。


「いや、ちょっと夜風に当たろうかなって」


「変な物とかポケットにない?」


「ないですねー」


「じゃあお兄さんジャンプ」


「発売日は明後日ですよ」


「ナメんなおっさん。早くジャンプしろ!」


怪しい不審者のお兄さんはジャンプをするとカサカサという音がした。


「お兄さん、ポケッの中に何が入っているの?」


「バウッ」と不審者すぎるお兄さんは言うと後ろへ走って逃げた。


「待て! このクソ野郎!!」と早乙女華恋はブチ切れて不審者を追い掛けたら急に5階建ての豚山ビルの屋上から『オー牧場はみどり』を歌う蛇亀子の声が聞こえてきた。一瞬、早乙女華恋は上を見上げたが構わずに走った。


「警察だ!止まれ!」早乙女華恋は叫んだ。


「バウッ」と怪しい男は泡食った呼吸でむせながら走った。


「行くぞ!必殺技、疾風(はやて)のラン!」また出た。早乙女華恋の第二の必殺技、疾風のラン。実は早乙女華恋は陸上部で100メートル、5秒3という世界記録を大きく上回る驚異的な記録を高校2年生の時に打ち出していた。あまりの速さに陸上部の顧問は震えだして、他の陸上部の仲間からは悲鳴が上がるというパニック状態に包まれてしまった。しかも顧問から「あんたが怖い。お願いだから退部して」と無残な事を言われてしまう始末で強制的に退部をさせられてしまったのだった。顧問の名前は藤原茂夫。『あの野郎。いつかぶん殴る』という復讐を誓いながら早乙女華恋は学生生活を過ごしていたのだが、藤原茂夫は陸上部にある女子更衣室に忍び込んで盗撮をしていた疑いを掛けられて学校をクビになり教職免許も剥奪された。その後、藤原茂夫は37歳でAV男優としてデビューをしたのだが女王様にムチでしばかれる撮影のシーンの時に急性心筋梗塞を起こしてしまい、わずか14分間の撮影だけでAV男優を引退してしまった。背中には生涯に残るほどのムチの跡だけを3つも残して僅か4000円の手切れ金だけしか貰えずに業界を去った。


早乙女華恋は藤原茂夫の憎しみを思い出しながら走った。


「捕まえた! おい、ガキ! なぜ逃げた? ポケットの中身を見せろ!!」


「ハァハァハァ、バウッ。あんた、足、はえーな、バウッ」


「早く見せろや!!」


「バウッ」と怪しい男は言ってポケットの中に手を入れた。





つづく

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