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厳重注意

「なんですかぁ! 急に勝手に入ってきて! 深い夜にナンパですか? ナンパするメンズは嫌いですぅ!」と蛇亀子は嫌な顔をして言うと二、三歩後ろに下がった。


「飛び降りしそうな女性がいるとの報告があって駆け付けた。君か? 今から飛び降りするのか?」と早乙女華恋は敬礼をしながら言ったが顔は無表情だった。


「しませんよ!」


「了解」と早乙女華恋は言って扉を開けて帰ろうとした。


「ちょちょ、ちょっと、もう帰るんですか?」と蛇亀子は扉をさえぎって言った。


「帰りますね。失礼します」


「ちょっと悩みがありまして聞いてくれませんか?」


「忙しいので失礼します」


「少しだけ。2分2分」


「2分だけですよ」


「ワテ、恋人が欲しくて、毎晩、深夜に徘徊しています。たまたまこの豚山ビルの屋上に辿り着いたら星が綺麗なので、思わず泣いてしまったんです。昔を思い出してしまってね。ワテ、今は痩せたけど昔は140キロあったんです。子供の頃からミュータント、ミュータントってバカにされてばかりいたから、相撲をやろうと思いまして中学から大学まで女子の相撲部にいました。私は横綱でした。足腰の強い横綱でした。あまりにも強いために大関止まりだった雷電為右衛門のために頑張って横綱を目指したんです。『こんなに強いんなら両国国技館の土俵に上がって、うっちゃりできるんじゃね?』って周りから散々褒められて良い気分になってね。よし、相撲界のタブー、女人禁制を廃止してワテが女性初の力士、相撲取りになって男性上位社会の相撲協会をギャフンと言わせたる! と決意をしたんです。デカい胸をさらけ出す覚悟は既にできていました。まずは千代の富士だ。ターゲットは奴だな。必ず千代の富士を倒すと固く決意した矢先に千代の富士が、千代の富士が、現役を引退するという。私は悩みました。千代の富士が引退するなら私も引退しないと悪いかなと勝手に自分を追い詰めてしまったんです」と蛇亀子は涙ながらに乙女チックな振る舞いをして話した。


「2分です。失礼します」と早乙女華恋刑事は言って帰ろうとした。とにかく早く帰りたかった。


「帰さないわよ!! まだあるの、話はまだあるの!!」


「他をあたってください。失礼します」


「あと2分2分」


「あと2分ですよ!」


「私は相撲を辞めて、パティシエを目指し挫折し、指圧師を目指し挫折し、ホスト通いにハマり推しの涼介に夢中になって8000万円貢ぎましたがフラれてしまって。ある時には合同コンパの名目で参加したら1000万円の壺を買わされたりして。ピラティスをやろうとしたら機械を破壊させたし、ティラミスを食べ過ぎたら糖尿の恐れありと診断されてしまったしで、私は私に、いかんともしがたいことばかりしちゃって」


「2分です。では失礼します」


「帰さないわよ!! お兄さん、語ろう、朝まで語ろう?」


「失礼させて下さいよ!」


「そうだ! 相撲取ろう?」と蛇亀子は引き留めるには持って来いのアイデアだというような喜びに満ちた声で言った。


「夜中に嫌ですよ!! 失礼しますよ! おかしな真似はしないで早く家に帰りなさい!」と早乙女華恋はキツく叱った。


「いいからいいから、相撲とろう、相撲とろう」と蛇亀子は言って塩撒きの動作を真似始めた。力水、力紙と一連の流れの真似をすると自らの顔を殴り始めた。荒い息づきでフーフーしながら行ったり来たりした後にリズムを取りながら柏手をするという落ち着きの無さを披露した。


「お兄さん、相撲やろう」と蛇亀子は言った。


早乙女華恋は上着を脱いで軽くストレッチを始めた。





つづく



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